シーマ・ガラハウに成り代わった女   作:筆先文十郎

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クレア、ケリィ・レズナーに興味を覚える

「上手くいったみたいだな」

「ええ。拍子(ひょうし)()けするくらいにね」

 オサリバンとの会談を終え宿泊しているホテルの一室に戻ったクレアを、可もなく不可もない海兵隊らしくない顔つきの男、ドラント・ヒイラーが出迎える。

 シーマ艦隊二番艦ギラメルの艦長を務めるヒイラーだったが、オサリバンとの交渉をしくじれば全てが水の泡になりかねないということで相談役として同行していた。

 クレアが身に着けているイヤリングは通信機になっており、何かあればヒイラーに伝わるようになっていた。しかし交渉は上手く運んだため不必要だった。

「さてと!」

 クレアはサングラスを机に置くと、スーツを無造作に脱ぎ去り下着姿になる。

 男の自分の前で真珠を思わせる白い肌と起伏に乏しい幼児体型を(あら)わにするクレアにヒイラーは小さくため息をついた。

(こいつには(つつし)みとか恥じらいとかという感情はないのか?)

 クレアとは士官学校時代を過ごしたが、一度たりとも異性としても性の対象としても見たことがなかったヒイラーにとって、クレアの気にしなすぎる行動は『重要な場面で出るんじゃないだろうか?』という不安材料でしかなかった。

(そんな重要な場面でボロを出さないことを祈るだけだな……)

 自分の不安が杞憂であることを祈りつつ、ヒイラーは再び小さくため息をつくとクレアが留守の間に入ってきた情報を伝える。

「ところで月で諜報工作をしているザケルフから面白い情報が入ったぞ」

「面白い情報?」

 ジュース♪ ジュース♪ とニコニコと冷蔵庫の取手に手をかけたクレアは手を離してヒイラーの方へ振り返る。

「元宇宙攻撃軍のケリィ・レズナーという片腕の男が試作MAと共に月に潜伏していると」

「MA……か」

「星の屑作戦を成就させるため、シーマ艦隊のために戦力増強は必須。片腕のパイロットってところはひっかかるが──」

 会ってみる価値があるかどうかは判断しかねるが、どうだ? と言おうとしたヒイラーの言葉を

「ザケルフに繋げろ。今すぐにでも会いに行く」

 白く可愛らしい犬を擬人化させたような声ではない、クレアのシーマ・ガラハウの声色が(さえぎ)った。

「……いいのか? そんな怪しい奴。わざわざお前が会いに行かなくても」

 無造作に脱ぎ捨てたスーツを拾い、シワを伸ばしながらクレアは口を開く。

「そのケリィ・レズナーという男が取るに足らない男なら、ザケルフが情報を持ってくるはずがないでしょう?」

 付着した(ほこり)を取り除き、クレアはスーツの袖を通す。

「でも片腕だぞ?」

「それならその試作MAを奪うまでのこと」

 スーツをビシッと決め、ふふっと笑うクレアにヒイラーは寒気を覚えた。中学生と見間違うほど幼い体つきと重なるように、地獄のような一年戦争を生き抜いた上に孤立無援の中で三年以上も部下を養い続けた女傑(じょけつ)、シーマ・ガラハウの姿が重なったからだ。

「わかった。すぐに伝える」

 ヒイラーはすぐにケリィ・レズナーと接点を持つザケルフに『クレア(シーマ中佐)

 接触を求めている』ことを通達。昼過ぎに会う約束を取り付ける。

 机に置いていたサングラスをかけ、クレアは護衛にクルト中尉を引き連れ、ケリィ・レズナーと会うためホテルを後にした。

 

 

 




クレアって真面目と子どもモードの差がものすごく激しいなぁ、と思う作者がいます。
そしてクレアとヒイラーってどっちも独身で終わりそう(クレアは独身で生涯を終えますけど)

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