シーマ・ガラハウに成り代わった女   作:筆先文十郎

38 / 45
フォン・ブラウンの戦士とシーマに成り代わった女

 コウ・ウラキを離れさせたケリィ・レズナーはシーマ艦隊の三人を倉庫に案内していた。

「シーマ様。そこは段差になっていますのでお気をつけください」

「ありがとう、ザケルフ」

 小太りな男の言葉にシーマ艦隊を率いる女傑、シーマ・ガラハウは礼を言う。

「ほう、これが例の!」

 手すりに手を置いたシーマが眼前の機体に感嘆の声を漏らす。

「これは上物だ。まさかこんなものが眠っていたとはね」

 浅黒い(いか)つい男のクルトがニヤリと笑う。

「MA06VAL(ヴァル)WALO(ヴァロ)。グラナダ(こう)(しょう)にて製造された未完成の試作機」

 シーマ艦隊の情報工作員、デキフサ・ザケルフが補足するように呟く。

「ところで。これは動くんですかい?」

 挑発するように尋ねるクルトの問いに、ケリィは気にする様子もなく淡々と答える。

「機体は九分九厘完成している。片腕でも動かせるようにコックピット周辺も改修済みだ」

「ふ~ん、なるほどね」

「ッ!?」

 考えるよりも先に、ケリィの身体はとっさにシーマの方へ振り向き身構えた。なぜ自分がそうしたかわからなかった。しかし戦士としての本能がいち早く危機に反応した。そしてそれは正解だったことを悟る。なぜならば

「ではこの機体はありがたく頂戴するよ。シーマ艦隊のためにね」

 いつの間にか左手に銃を握ったシーマが見下すような笑みで銃口を向けていたからだ。シーマの予想外の行動にケリィだけでなく、シーマの後ろに立つクルトとザケルフも目を大きく見開いたまま固まっていた。

「何のつもりだッ!?」

 目をカッと開き、怒声を上げるケリィに、クルトとザケルフは無意識に後ずさる。そんな怒声に怯むことなくシーマは続ける。

「私の目的は最初からヴァル・ヴァロ(この機体)だったのさ。パイロットとして終わった片腕のアンタを戦力に数えていない。だからここで死んでもらおう、って寸法さ」

「……なん、だとッ!!」

 

 パイロットとして終わった。

 

 ケリィ・レズナーという男の全てを否定したシーマの言葉にケリィは激昂した。

「俺はまだ終わっちゃいない!!」

 倉庫が震えるのではないかと思うほど怒鳴る。しかし今すぐにでも飛びかかりそうな衝動を抑えて、その場に踏みとどまり、ケリィはシーマを睨み付けた。

 

 不用意に動けばシーマ(この女)殺さ(やら)れる。

 

 パイロットとしてのカンが目の前の女から漂うオーラを感じ取り、怒りに燃える肉体を制止させた。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 倉庫内が無音に包まれる。永遠にも思えた無音を打ち破ったのは

「……ふふふ、ふははははははっっっ!!」

 無邪気な子どものように笑うシーマの笑い声だった。シーマはケリィに向けていた銃を隠していたホルダーへ戻す。

「どういうつもりだ?」

 シーマから殺気が消えたことに戸惑いつつも、ケリィは怒りの炎を瞳に宿したまま尋ねる。

「ふふっ、ごめんなさい」

 後ろに立つ男二人が怯むほど強烈な視線に動じることなくシーマは答える。

「正直に言うと。実は大尉を殺してヴァル・ヴァロ(こいつ)だけいただこうと考えていた。でも大尉のさっきの覇気を見てやめた。シーマ艦隊で大尉に勝てるのは私かシーマ様だけだと確信したから」

 

「「ッ!?」」

 

 シーマの発言にクルトとザケルフが体をビクッ! と震わせ、固まる。

「……」

 無言で自分を見るケリィにシーマは続ける。

「私達は明日出航する。その時に大尉とヴァル・ヴァロを出迎える。期待してるわよ」

 そう言うとシーマの名前を騙った赤い髪の女は部下を引き連れ倉庫を後にした。

「明日までに……か」

 一人になった倉庫で、ケリィは焦燥の顔で未だ動かない愛機に視線を移した。




次回はヒイラーがザケルフ達の報告を聞いてブチキレる話を投稿する予定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。