シーマ・ガラハウに成り代わった女   作:筆先文十郎

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今回も柊竜真氏に書いてもらいました。


赤い乱入者

 月 

 フォン・ブラウン市から遠く離れた何もない月面で、2機のMSが模擬仕様のビームライフルを持って模擬戦闘を行っていた。

『どうした? 逃げてばかりかよ!? それとも1号機(GP01)はその程度なのか? それともこのGP04(ガーベラ)の方が性能が上だと認めているのか!?』

 元ジオン軍MAパイロット、ケリィ・レズナーとともにヴァル・ヴァロを修理した青年は愛機のガンダム試作1号機Fb(フルバーニアン)に乗り、攻撃を回避しながら対戦相手の機体を注視する。

「ガンダム試作4号機。強襲・白兵戦に特化した1号機と類似点が多かったために軍の開発予算から外れ、アナハイムによって再設計・開発された機体か……さすがはガンダム。いい機体だ」

(動きが段違いだ。スラスターの出力も申し分ない、何よりターンが早い)

 対戦相手であるアナハイムのテストパイロットの(あざけ)りを聞き流し、青年はアナハイムのシステムエンジニア、ニナ・パープルトンから聞いた情報通りだと感嘆の声を漏らしつつも、必要最低限の動きで相手の攻撃を回避していく。

 反撃の動きも見せず、攻撃が当たるか当たらないかのギリギリで回避する1号機の動きに、テストパイロットへの侮蔑の色を濃くさせる。

『まさか模擬戦でビビッているワケじゃないだろ、連邦のパイロットさんよ! お互い高機動型汎用MSとしての性能差ってやつに白黒つけようぜ!』

 一向に反撃せずにただ避けている1号機に、『自分の方が実力が上だ!』と青年を見下すパイロットは気がついていなかった。青年が反撃らしい反撃をしないのは自分に恐れを抱いているからでも性能差に手が出ないのではなく、自分と4号機を冷静に分析することを優先したからということに。

 それが証明される事実が起きる。

 クルッと回転するように避けたと同時にいつの間にか構えられたライフルから模擬弾が放たれた。回避と攻撃を同時に行ったような、予備動作すら感じさせない1号機のライフルは4号機の肩をかすめた。

『……!? チッ!!』

 破れかぶれの攻撃をもらってしまったとテストパイロットは距離を取る。

(やっぱり戦場とは違う……ピリピリと張りつめた空気もない)

 警戒して距離を置く4号機を、遠くで騒ぐ少年を見守る大人のような気持ちで見る。

 連邦軍の教本にも載るジオンのエースパイロットであるアナベル・ガトーを始め、キンバライト基地での攻防戦……そして青年は知らない、シーマ・ガラハウに成り代わったエースパイロットのクレア・バートンとの戦いが戦士としての技量を大きく成長させた。機体の搭乗時間こそテストパイロットの方が断然上であるものの、今の青年にとってテストパイロットは脅威と感じていなかった。

 アナベル・ガトーやクレア・バートンなどの強敵と上司であるサウス・バニングなどベテランパイロットを間近で見た青年にとって、テストパイロットの動きは読みやすく、無駄な動きが多すぎた。

『クソッ! またチョロチョロと逃げ回りやがって!』

 再び開始した攻撃を、いともたやすく回避するテストパイロットの苛立ちが耳に入る。

「……いくか」

 相手の力量、機体の性能やクセ……それらを把握した青年は軽く息をして呼吸を整えると、振り向きざまに4号機に向けて引き金を引いた。

『なッ!? ……!!』

 あと少し機体の動きが遅ければコックピットに直撃だったテストパイロットは目を大きく見開く。何かを言おうとするが猛攻かつ正確な狙撃に冷や汗を流しながら避けるのに手一杯の状態に陥った。わずかに出来た猛攻の合間に反撃をするものの怒りと焦りで精度は格段に落ち、力量やクセを見抜いた青年にとって避けることは造作もなかった。

(……今だ!)

 青年は機体を急上昇させ振り返る。

『なんだと!?』

 青年の突然の行動にパイロットは驚愕する。その心の空白は致命的だった。

 青年のビームライフルがコックピット付近に命中する。

 本当のビームライフルならば撃墜は免れなかったかもしれなかった直撃に苛立ちビームライフルを構えるパイロットに、青年も再び照準を向ける。

 その時だった。

『コウ、大変よ。急いで撤収して!!』

 1号機と2号機の設計を担当した金髪の女性、ニナ・パープルトンの焦る顔がモニターに映る。

「ニナ」

 青年が「どうしたんだ?」と尋ねる前に女性は説明する。

『赤いMAが向かっているの!! だから急いで!!』

「赤いMA……ッ!?」

 その言葉を聞いた瞬間、信じられないと大きく目を開く青年。

「ま、まさか……」

(いや、違う……違うはずだ。そんな事は……)

 脳裏に浮かび続ける赤いMA を首を振って否定する。

 しかし、それは1号機と4号機が間に走った月の大地をえぐるビームによって打ち切られた。

「……ッ!?」

『な、なんだッ!?』

 1号機と4号機の上空を高速で巨大な何かが通り過ぎる。

 青年は全神経を集中してそれを見る。

「そ、そんな!!」

青年はがく然とする。

 それは先日まで隻腕の男、ケリィ・レズナーとともに修復をしたMA、ヴァル・ヴァロだった。

 

 




長い間投稿できず申し訳ございませんでした。理由はとてつもなく下らないものです。
また自分の苦手な戦闘シーンが入るので間隔が空くかもしれません。

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