シーマ・ガラハウに成り代わった女   作:筆先文十郎

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カラマ・ポイント。
この出来事がシーマ達の運命を決定付け、ガトーがシーマに不信感を抱くようになる……文字通りこれから起こる全てのポイントとなった場所です。


シーマ・ガラハウに成り代わった女~カラマ・ポイント~

 宇宙世紀0080 1月。

 地球連邦政府とジオン共和国の間に終戦協定が結ばれた2週間後。月とサイド3の間に位置するカラマ・ポイントにて逃亡するジオン艦隊の群れがあった。

 

 

 サイド3での決戦も行わず何が終戦だ!!我々はまだ十分な戦力を温存している!!

 甘い!!連邦の力を冷静に判断できんようでは、やる前から結果は見えている!!

 今はマハラジャ・カーンの元へ糾合すべきでは?

 臆したか!!そのような考えだから連邦なんぞに負けたのだ!!

 ……

 

 

 ある者は戦闘続行を訴え、ある者は再起を図ろうと自制を求め、またある者はそんな彼らを横目で見てどう動くべきかと考えていた。

 彼らには選択する権利があった。だがシーマ艦隊は違っていた。

 

 

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 リリー・マルレーン ブリッジ

「なぜであります!?なぜ我々海兵隊にはアクシズへの脱出の権利がないのでありますか!?」

 モニターの向こうにいるシーマの上司に当たる小太りの男、アサクラは命令を不服とするシーマに声を上げる。

『お前の艦隊は軍律を逸脱しすぎた!!我が栄光のジオンを汚した罪は重い!!』

「えッ!?」

 予想外の言葉に、シーマは言葉を失う。

『とにかく迷惑だ!自分たちの始末ぐらい自分たちでつけたらどうだ?』

「待ってください大佐、アサクラ大佐!!」

 もうお前とこれ以上話すことなどないと言わんばかりに一方的に通信が切れる。

「クッ……!!」

 怒りで体を小刻みに震わせるシーマに対し、傍で控えていたクレアは

 

「…………」

 

 怒りを通り越し呆れかえった。本国の命令に従った自分たちがジオンの面汚しなら、その命令を自分たちに下したジオン公国は邪悪そのものではないか、と。

「……ッ!!」

 シーマが出口へと飛び出す。

「シーマ様──」

 クレアと同じように控えていたコッセルの言葉を塞ぐように

「直に談判してくるだけだ!お前等は一切手を出すんじゃないよ!!」

 言い放つとシーマは部屋を飛び出した。

 

 お前等は一切手を出すんじゃないよ!!

 

 この言葉に一瞬、躊躇するクレアだったが

「クッ……!」

 と歯を食い縛りシーマの後を追った。

 

 

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「逸脱だと!? アタシらは催眠ガスだと聞かされてコロニーにあれを……あれがG3ガスだったなんてこれっぽっちも聞いちゃいなかったんだ!!」

『何をしようとしている、中佐!』

『止まれ!』

 アサクラの乗るムサイに向かって機体を走らせるシーマのゲルググMに異変を感じ取った複数のMSが、シーマに向かって機体を走らせる。

「この手で毒ガスを……あの時コロニーの河から見えた阿鼻叫喚……気が付きゃ大量虐殺を強いられちまってたのさ」

 今でも忘れることの出来ない、昨日のことの様に思い出せる惨劇にシーマは自身の震える手を見ながら呟く。

『中佐殿!』

『何を考えているのです!?』

「その後も……軍の汚れ仕事を散々やらされたってのに……その結果がコレかいっ!!」

『中佐……グワァッ!?』

『何を考えて……グフェッ!?』

「すべて軍が……キサマが命じたことだろうが!!……アサクラァ!!」

 止めようとしたMSを振り払いアサクラのムサイに突っ込むシーマ。

「死ねぇ!……アサクラァァァッ!!」

 その時、ゲルググMの進行を塞ぐ形でリック・ドムがムサイを守るように割り込んだ。ただのパイロットでは持ち得ない、堂々とした威圧感にシーマは機体を止めて尋ねる。

「……誰だい、あんたは?」

『私はアナベル・ガトー大尉であります』

「ガトー?あぁ……デラーズ閣下のエースパイロットか。『ソロモンの悪夢』と呼ばれる男がグラナダの海兵に何のご用だい?」

『早まってはなりません、中佐殿!軍人としての節度を保っていただきたい!』

「……ふん。そんなお説教、聞いてないし……」

『はあ!?何を仰られているのです、中佐殿』

「軍律を逸脱させられた私たちは、居場所なんか残っていないんでね……」

『そんなことはありません!』

 

 生き恥を晒してでも生きていれば必ずや栄光を掴む時が来る。

 

 そうデラーズに諭されたガトーは心の底から訴えかける。

『中佐!我々は再起を期し、来たるべき時に備えるのです!大義を生き抜くのです!!』

 怒る気持ちを抑えて説得を試みるガトー。だが軍に裏切られた失望感の中にいるシーマに理解できるものではなかった。

「知らねえし、そんなこと……好きにすれば?」

 その一言に、ついにガトーは抑えていた感情を爆発させた。

『それが軍人だろうがあぁぁぁっ!!』

「育ちが違うんだよおぉぉぉっ!!」

 

 もう話すことなどない。

 

 そう言わんばかりに両者は武器を抜き、刃を交えた。

 

 

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(……が、ガトーォォォォォォォッッッ!!)

 二人の会話を離れた所で聞いていたクレアは怒りで頭が真っ白になった。意に沿わぬ命令もジオンのため皆が幸せに暮らせる世界を作るため。そう言い聞かせて自分達は手を染めてきた。そこまでした自分達にジオンは報いるどころか戦犯の汚名を被せた。そのジオンのために働けと言わんばかりの台詞だった。

「クソが!……ッ!!」

 怒りに任せてクレアはゲルググMを走らせ、体当たりをした。

 

『なっ!?』

 

 ぶつけられた機体のパイロット、シーマ・ガラハウが信じらないとばかりに大きく目を見開く。

『どういうつもりだい、クレア!?』

 機体を立て直したシーマにクレアは言い放つ。

中佐(・・)、これ以上軍規にはみ出した行動をするのはお()めください」

『!?』

 クレアの言葉にシーマは開いた口が塞がらなかった。そんなシーマにクレアは続ける。

「その凶刃をまだガトー大尉に向けるのでしたら……私は実力で中佐(・・)をお()め致します」

 そう言ってクレアは刀を抜いて刃をシーマに向けた。

『クレア……ッ!!』

 ポツリと言い残し、シーマはリリー・マルレーンへと機体を走らせた。それを確認してクレアはガトーの乗るリック・ドムに向き直す。

「ガトー大尉。私はリリー・マルレーン所属、クレア・バートン中尉であります。大尉、この度の中佐(・・)の無礼、申し訳ございません」

『いや、こちらに怪我はない。気にしなくていい』

「ハッ!ありがとうございます、では」

 そう言うとクレアはガトーに背を向けてリリー・マルレーンへと機体を走らせた。

 

「何も知らないクソガキめ!この恨み、いつか必ず!!」

 

 そう呟いた顔は憎悪が激しく刻まれていた。

 

 

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 リリー・マルレーン ブリッジ

「このバカがぁぁぁッ!!」

 クレアが戻るや否やシーマはクレアの頬に平手打ちを加える。

 左右の頬を激しくひっぱたく音がブリッジ内に木霊する。

「……」

 クレアは顔を(かば)うことも避けることもせずシーマのを平手打ちを受け続ける。鬼気迫るシーマの顔に周囲は止めることが出来なかった。

「クレア!!なぜあのようなことをした!?返答次第じゃお前でも容赦しないよ!!」

 頬が赤く染まり、口内に血が流れながらもクレアは自分の考えを述べる。

「もしシーマ様がアナベル・ガトー(あのクソガキ)を斬り、アサクラ(あの豚野郎)を殺してしまったら……シーマ様は処刑されていました」

「構うものか!あいつらを殺せるならば……私は死んだってかまわない!!」

 

 私は死んだってかまわない

 

 その言葉を聞いた瞬間、平手打ちをされた時は瞳に涙を溜めることもなかったクレアが滝のように涙を流した。

「……シーマ様が、シーマ様がお亡くなりになられたら……我々は……私は、どうやって生きていけば良いのですか?」

 その言葉にシーマは気づく。そしてブリッジにいる部下たちの顔を見る。その表情は今にも親に見捨てられ不安に駆られる子供のような表情をしていた。

「あ……」

 シーマは気づかされる。自分がいなければ部下達が進むべき道を見失うことを。そして自分を止めてくれた部下の真意を理解せず、怒りに任せて殴打した自分を恥じた。

「クレア」

 シーマは胸の高さ位しかない部下を優しく抱きしめた。

 それに安堵したのか、クレアは子供のように声をあげて泣き始めた。

「シーマ様。もうこんな艦隊なんて知らねぇ!……逮捕されたって構わねぇ!……戻りましょう。俺たちの故郷、マハルへ!!」

 コッセルの鼻水混じりの言葉に、部下達が涙を流し……嗚咽(おえつ)する。

「ふっ、そうだね」

 クレアを抱きしめたまま、シーマは命令を下した。

「各艦に信号!単縦陣形を組み離脱する!……目標は、マハル!!」

 こうしてシーマ艦隊はサイド3にあるコロニー、マハルへと舵を切った。

 しかしこの時、シーマ達は誰一人知らなかった。

 

 自分達の故郷であるコロニー、マハルがすでにジオン公国の最終兵器であるソーラ・レイになっていたことを。

 

 

 

 

 

 

 




もしガトーがシーマの立場を理解していれば、とつい思ってしまいます。

あとガトーの階級が一部少佐になってました。お詫び申し上げます。


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