シーマ・ガラハウに成り代わった女   作:筆先文十郎

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シーマ・ガラハウに成り代わった女~家に帰る者~

 俺の名前はデフキサ・ザケルフ。コードネームはダークエンジェル。

 現在ナドレ・ヴァーチェという偽名でフォン・ブラウン市に潜伏するアクシズのスパイであり、元シーマ艦隊所属の諜報工作員だ。まぁ、シーマ様と直接会うのは年に一回あるかないかの下っぱだったけどな。

 デラーズ紛争が終わりに差し掛かる時。多数の連邦軍に包囲される中、俺はアクシズ艦隊と合流を目指す残存艦隊に回された。

 諜報工作員の俺に戦う術はなかったからそれも当然だ。しかし『戦えなくてもシーマ艦隊の一員として死にたい』と直訴した連中と同じように残存艦隊に回されることを拒んだ。

 だがコッセル大尉の

 

 シーマ様は強くもあり弱くもある。俺達が生きていると知ればそれを拠り所に逞しく生きてくださるだろうが、もし全員死ねば『自分は部下を犠牲にして生きてしまった』と悔やみ苦しまれる。だからこそ、誰かはシーマ様のために生きなければならない。

 これは副長命令だ。シーマ様のために……生きろ(・・・)!

 

 という言葉で俺は涙を飲んで生きることを決めた。

 その後はクレア中尉やコッセル大尉達の文字通り必死の活躍により、デラーズやガトー達のデラーズ・フリートとともにアクシズ合流に成功。その後は諜報工作員の経歴を買われて『フォン・ブラウン市に潜入せよ』という命令を承ったわけだ。

 そこで俺が何をしているかと言うと主に連邦軍の士官や将校を相手にした高級キャバクラの店長を務めている。ちなみに店の名前は『Dark Ennjeru』。俺のコードネームだ。

 なぜキャバクラなのか。それは酒と女が集まる所に情報が集まるからだ。無論ここで働く従業員もキャバクラ嬢も俺と同じ諜報工作員だ。

 男っていうのはバカな生き物だ。女の気を引こうと自分を大きく見せたがる。だから『自分はこんな凄いことをしているんだぞ』と本来口外してはならない重要機密をポロリと漏らしてくれるわけだ。酒も入っているからなおのこと口は軽くなる。

 女の方も

 

 えぇ!ミーアよくわからないですけどスゴいことされているんですねぇ!

 わぁスゴい!ほかにはどんなことをされているんです!?ジゼルしりたいです!

 へぇ~!そのあたりのことローラにおしえてもらえないですか?

 

 などといかにも話しても問題なさそうなバカ可愛い女だから安心してベラベラ喋ってくれる。もちろんそれは演技だけどな。

 そうして店で得た情報をアクシズに報告するというわけだ。もちろん裏はとってある。

 店の経営だけでなく情報漏洩など気にしないといけないことが山のようにあって決して楽な仕事じゃないが、それでもうまくやっている。

 

 ある日。俺は空いた時間が出来たのでシーマ様のそっくりさん(・・・・・・)が店主を務めているという店を訪ねることにした。存在自体はだいぶ前から知っていたが、店と本業(・・)が忙しいこともあり行くことが出来なかった。

(『リリー・マルレーン』かぁ。なんかリリー・マルレーン(我が家)に帰ってきた感じだな)

 店の看板を見ながら俺はそんなバカバカしいことを考えてしまう。

 ドアノブに手をかける。

 

 カランカランッ

 

 目があった瞬間、シーマ様が挨拶をした。

「ん?あぁ、お帰り」

「え?」

「あ、いや……いらっしゃい。好きな席に座ってくれ」

 間違えて『お帰り』と言ったのが恥ずかしかったのか、シーマ様は少し頬を赤らめて店の奥へと下がった。俺は近くの席に腰を下ろす。

 机に置いてあるメニューを広げる。どれも家で作ろうと思えば作れそうなものばかりであったが、温かみのあるこの店で食べるから家では味わえない雰囲気を醸し出し、どれも美味しそうに見えた。

「注文は決まったかい?」

「じゃあオムライスお願いします」

 水を持ってきたシーマ様に注文を言う。

「あいよ、ショーン!オムライス入ったよ、さっさと作っておしまい!」

「が、合点で!……シーマ様!」

「バカ野郎!シーマ店長と呼べ!!」

(今日は弟のディルはいないんだな)

 キッチンで料理をする双子の兄を見ながら、俺は出された水に口をつける。

 数分後。

「旨い」

 俺は出されたオムライスに舌鼓を打った。

(リリー・マルレーンにいた時も料理の腕はあったが、今はそれ以上になっている)

 本人にそう言いたい気持ちを抑えて、俺はオムライスを綺麗に平らげる。

 その後追加でアイスを頼み、俺はレジで会計を済ませた。

「美味しかったです。また来ます」

 俺がそう言ったら、シーマ様は周囲に聞こえない小さな声で呟いた。

「また帰ってきておいで。『リリー・マルレーン(うち)』はいつでも帰りを待っているよ、ザケルフ」

「……!?」

 その言葉に俺の身体に衝撃が走った。

(シーマ様が。俺程度のやつを…。覚えていて……)

 諜報工作員という仕事上、感情のコントロールの特訓は欠かさずしているはずなのに目頭が熱くなるのを止められなくなっていた。

「また来ておくれ」

 シーマ様の言葉を背に、俺は店の外に出た。

 

「ちくしょう。これから店に出ないといけないのに……」

 

 止めどなく溢れ出る涙と鼻水にどうすれば止まるのか思案しながら、俺は店へと歩いた。




そっくりさんの伏線、回収。
(アクシズに部下が行っていることを半ば忘れてました)

デフキサ・ザケルフ。この名前に気づいたらすごい。SEEDのマルコ・モラシムを知っている人はピーンと来るかもしれませんが。
あと店の女の子。一人除いて……(ジゼルはガンダムのキャラではないですが(-_-;))。

あとシーマ様がオムレツを頼んだのにオムライスのオーダーをいうアホなシーマ様になってました。申し訳ありません。

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