|ich liebe dich《イヒリーベディッヒ 》(相馬 七緒編)   作:nonoi

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ようやく第2話が投稿できました…本当更新ペース遅くてすいません…
今回は主役2人だけの会話回なので少し長くなっちゃいました。
2人でまったり過ごすひと時をどうぞお楽しみ下さい

また、原作をプレイしていない人向けにキャラ紹介と用語解説も併せて投稿しましたので分からない用語やこの人誰?って言うのがあればそちらに目を通して頂けると多少は分かるかも知れないので是非ご覧下さいませ


chapter1-②

chapter①-2

 

「こんにちはー」

 

カランコロンと、小気味良いを音を鳴らして、柊史がドアを潜ったのは、学院を出てしばらく歩いた所にある喫茶店「Schwarz・Katze(シュバルツ・カッツェ )」。

ドイツ語で「黒猫」を意味する名を冠するこの店は、外観内装共にとても落ち着いた雰囲気であり、オーナーの性格も相まってとてもゆったりと出来る空間となっている。

その上、出てくる飲み物は軒並み美味いし、食べ物も言わずもがな。特にパフェは、種類も豊富で、どれも味・見た目共に素晴らしい一品だ。

そんな、最近柊史のお気に入りとなりつつあるこの店のオーナーが。

 

「おや、保科君じゃないか。いらっしゃい」

 

この人、相馬 七緒である。

柊史の能力を知る数少ない人物の1人であり、魔女である寧々の契約相手でもある。

 

「今日は仮屋さんが休みだったからね。もうそんな時間になっていたとは思わなかったよ。今日は何にするんだい?」

「今日もブレンドでお願いします」

「最近はずっとブレンドだね。随分と気に入ってくれているようだが、飽きないのかい?」

 

そう言いながら柊史にカウンター席に座るよう促し、コーヒーを入れる準備を始める。

 

「相馬さんのブレンド、好きなんですよ。お世辞抜きで美味しいですから。ずっと飲んでいられます」

 

そう言うと、七緒は一瞬、意表を突かれたような表情をしたが。

 

「そ、そうか。お気に召してくれたなら何よりだよ」

 

すぐ誤魔化すように顔を背けてブレンドを入れ始める。だが、背けた顔から覗く口元が緩んでいるのを、柊史は見逃さない。

そう、七緒は自分の作った物を褒められると、嬉しそうにするのだ。他のお客さんがボソッと「美味しい」と呟く時もしっかり聞き取って嬉しそうにしている。

しかし、柊史は知っている。最近気づいた事だが、七緒はただのお客からの感想は喜ぶだけだが、身内から面と向かって褒められると、照れるのだ。能力を通して甘味が伝わってくるので、本気で照れていると思われる。

これに気づいた柊史は、滅多に感情を露わにしない七緒をからかう事を(とは言っても本心だが)マイブームにしつつあるのだが。

 

「褒められるのは嬉しいが、そうやって私をからかうのは感心しないよ。私だって怒るんだよ?」

 

と、言いながら七緒はカップを配膳する。

 

「あ、バレてましたか。すいませんでした」

 

柊史は平謝りしながら、出されたコーヒーを1口飲んで続ける。

 

「でも言ってる事は本心ですから許して下さい。本当、美味しいです」

「分かったよ。そう何度も言わなくても、保科君が美味しそうに飲んでくれているのを見たら伝わるさ」

 

七緒はそう言って少し呆れながら、カウンターの向こうに戻る。

 

「でも相馬さんが怒る所なんて見た事ないですけど、相馬さんでも怒る事なんてあるんですか?」

「保科君は忘れてるかも知れないが、これでも私は猫だよ?猫なんてのは大概気性が荒いものさ。例に漏れず、私もね。私が野生の猫より多少理性的に見えるのは、アルプとして色んな感情を学んできたからだよ」

「あーそう言えばそうでしたね。相馬さんの猫姿なんて随分前に一度見たきりですから、忘れてました」

 

そう。会話にある通り、相馬七緒は猫のアルプなのだ。店の名前が指す通り、黒猫のアルプ。

寧々の契約者にして、完全なる人間となる為に、心の欠片という形で人の感情を集め、学ぶアルプなのである。

 

「でも、相馬さんはもう殆ど人間と言っても過言じゃ無いくらい人間らしいですよ。こうやって普通に会話しても、猫だなんて忘れるくらいには」

「嬉しい事を言ってくれるが、私にだってまだまだ分からない感情があるよ。例えば、恋愛感情とかね」

 

と、気軽に言った七緒の言葉を聞いた途端、柊史の目が虚ろになる。それはもう以前の死んだ魚の目と言われた頃のように。

 

「恋愛感情…そうですね…俺も分かりませんよ…恋愛なんて今までした事ないですから…そりゃ戦力外にもなりますよ…はは…」

「あーいや、すまない。今の保科君に『恋愛』は禁句だったな…私が悪かった。謝るからそんな寧々みたいな眼をするのはやめてくれ」

 

まるでダウナー寧々の様な柊史の落ち込み方に、流石の七緒も慌てて慰める。

 

「俺だって男が来てくれたら力になりますよ。いやまぁ、恋愛経験ないんでそこまで役に立たないとは思いますけど、それでも多少できる事はあると思うんです」

「しかし、来るのは女子ばかり、という話だったね。でも本当に1人も男子は来ないのかい?1人くらい来ていても良さそうなものだが」

「いえ、全く。今まで男子の恋愛相談者なんて、1人しか来たことありませんよ。因幡さんが半ば強引に連れてきた川上君という一年生だけです」

「ああ、以前話していた、初デートのプランが云々という話の彼か。心の欠片が回収できるくらいの不安を抱えていたんだったか」

「そうです。解決した後の喜びようと言ったらもう、彼に向けて隕石が落ちてこないものかと思ったくらいでしたよ。…あれ、でもよく考えたらあの時も因幡さん達にダメ出しされただけであんまり役に立ってなかったな…あれ、もしかして男子が来ても俺って要らないんじゃ…」

 

ぶつぶつと呟きながら1人で勝手に沈んでゆく保科柊史。目は光を失い、最早どこを見ているかも分からない。

柊史の落ち込み様に、見兼ねた七緒は強引に話を変えることにする。

 

「そ、そういえば保科君。相談者といえばあの子はどうなんだい?厚真さんだったかな?最近では珍しい普通の相談者なのだろう?」

「ああ、厚真先輩ですか。そうですね、恋愛ではない普通の…とは言っても彼女は少し深刻な話ですけどね」

 

恋愛関係の話じゃ無くなると、途端に柊史の目に光が戻る。最早恋愛についての事で、心に穴が空いてるのではなかろうかと七緒が疑うくらいに。

 

「愛犬を亡くした…だったかな。寧々から少し話を聞いた限りでは、心のバランスが大いに崩れているようだな」

「はい。心に穴が空きかけているかも知れないので、どうしても他人事とは思えなくて…カウンセリングの様な形になりますけど、落ち着くまではみんなで話を聞いてあげようかと思ってます」

「そうしてあげるといい。話しているうちに自分の中で整理がついて、心も時期にバランスを取り戻すだろうからね」

「分かりました。心の欠片は取れそうにありませんけど、やっぱり心の穴と聞くと見過ごせませんからね。頑張ります。あ、でもそう言えばここ数日は調子が良さそうでしたよ」

「そうなのかい?何か立ち直るきっかけでもあったのかな」

「どうやら仔犬を拾ったそうで、その子のお世話で連日大変みたいです。大変と言う割には笑いながらとても生き生きしていましたけどね」

「別の生きがいを見つけたならいい事だよ。いつまでも落ち込んでいるよりは、そうやって哀しみを乗り越えられる方が、愛犬だって浮かばれるだろう」

「そうですね」

 

柊史は頷きながらカップに手を伸ばすが、いつの間にやら飲み干していたようで、既にカップは空だった。

それに気づいた七緒は2杯目のコーヒーを注いでくれる。

 

「とはいえ、心のバランスを崩すくらいの喪失感か…逆に言えば、その愛犬とやらは随分愛されていたんだね。同じ動物としては羨ましい限りだよ」

「ええ、少し話を聞いただけでもとても可愛がっていたのが分かりました。そんな人に看取られて逝ったなら、犬も幸せだったでしょうね」

「そこまでの愛情を注がれていたならば、アルプに成る可能性もあったかも知れないな…亡くなってしまった今、そんな事を言っても仕方がないけれどね…」

「アルプに成る…愛情を注ぐとアルプに成れるものなんですか?」

「そんな簡単な話ではないよ。愛情を注ぐだけで成れるならこの世の飼われている動物は皆アルプに成っているだろうさ。アルプというのはね、長年強い感情に晒されると成る可能性があるんだ。それがプラスであれ、マイナスであれね。だから単に愛情と言っても厚真さん程の強く、深いものでなければ可能性すらないんだよ」

「なるほど。アルプにとっては人の感情が魔力になるから、長い間強い魔力を身近に感じる事で、自分の魔力として吸収し、扱えるようになる…とかそんな感じですか」

「まぁ大まかに言うとそんなところかな。前段階として長命になる、という段階があって、その後にこの世の理以外のものが見えるようになり、ようやく人化の術が使えるようになるんだ。人化が出来るようになって、初めてアルプの一員という訳だね」

「アルプに成るとは簡単に言っても、その間には色々あるんですね。相馬さんも当然その道を歩んできた訳で…ってあれ、そういえば相馬さんって綾地さんと契約する前からここに居るんですか?」

「そうだね。アルプとして活動し始めた頃にはこの辺りにいたよ。人化が安定するようになってからこの店を構えたんだ」

「じゃあそれ以前はどうしてたんですか?相馬さんの昔の話って聞いた事無かったですよね?」

 

柊史はふと気になった事を七緒に聞いてみる。

それを聞かれた七緒は意表を突かれたような驚いた顔をした。

 

「アルプに成る前…それは…」

 

七緒は過去を振り返るように目を瞑り、しばらく考え込んでいたが。

 

「いや、もう覚えていないな。なにせ随分昔の事だからね。というか保科君。女の過去を詮索するのはあまり褒められた事ではないよ。覚えておくといい」

 

と、笑って誤魔化されてしまった。

その後、七緒は話を変えてしまった為、この時柊史がその先を聞く事は出来なかったが、この不思議な雰囲気の女性がどのように生まれたのか、そしてどのように生きてきたのか。それが気になってその後の会話に集中出来なくなった柊史なのであった。




相馬さんの過去は完全オリジナルなので今後描かれていくお話をお楽しみに…

会話が連続していて、話す人たちの描写が少ないという書き方はもしかしたら読み辛いかも知れません。徐々に人物描写も増やしていけたらとは思っていますので今はまだこのままで行かせて下さい…
独特の作風としてご理解頂ければと…

2020.3.2
この後のストーリーとの兼ね合いで、部分的に改稿しました。
厚真さん関連が大部分となります。
その他は言い回しを変えてあるだけで特にストーリーに変更はありません。

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