|ich liebe dich《イヒリーベディッヒ 》(相馬 七緒編) 作:nonoi
復帰予告をしたにも関わらず1ヶ月以上の無言延期は言い訳の余地なく私の不徳の致すところでございます。
それでも読んで頂けるのならば、楽しんで頂ける事を祈っております。
それでは長くなりましたが、本編をどうぞ。
「なぁ、仮屋は相馬さんの昔話とか聞いた事あるか?」
「なにさ保科、急になんの話?」
七緒とアルプについての話をした次の日、昼食後に教室に帰る途中、海道がお手洗いに行ったタイミングで柊史は和奏に質問を投げかけた。
「相馬さんの過去の事だよ。バイトしてて世間話とかしてる時に話したりしない?」
「オーナーの昔話ねぇ…あんまり聞いた事ないけど…というかなんであたしに聞くのさ?そういう話なら綾地さんに聞くか、それこそ保科なら直接聞けば話してくれるんじゃないの?」
「昨日相馬さんに聞いたけどはぐらかされたんだよ。でも誤魔化されると余計に気になっちゃってさ。仮屋ならバイト中に聞いた事とかあるんじゃないかと思って。綾地さんとは最近、落ち着いて話せるタイミング無いし」
昨日の今日という事もあるが、教室で寧々と話すと男連中からの視線が痛いし、今の部室には柊史の居場所が無いので、現在寧々と話すのは柊史にとって、少々ハードルが高い状況となっている。
「まぁそれもそうか。綾地さん達は今、部活関係で大変だもんねぇ」
「それは暗に俺が役に立たなくて戦力にならないからみんなが大変だと言ってるのか?そうですよ、オカ研の役立たず男子部員とは俺の事ですよ?はは」
そう言って例の発作を起こす柊史。最早、和奏にとっては見飽きた光景だ。
「ああもーそういう意味で言ったんじゃないよ。自分で地雷踏んで傷付くのホントやめな?そんなに自傷行為続けてたらそのうち癖になって海道みたいなドMになっちゃうよ?」
「…それは嫌だな。本気で嫌だ。ドMは海道だけで十分だ」
トイレに行っている間に貶されて人知れずくしゃみをしている海道。流石に言葉のナイフは届かず、ご褒美には至らない模様。
そんな事は置いておいて。
「というか、オーナー本人がはぐらかした事を他の人に聞くもんじゃないよ。そういう事はもし知ってたとしてもあたしの口からは言えないよ?綾地さんだってきっと同じだね。女性の過去は詮索しちゃいけないもんだ」
「それも相馬さんに言われたな。やっぱり仮屋もそういうのは聞かれたくないもんなのか?」
「はぁ…この流れで息をする様に聞いてくるから保科はデリカシーがないって言われるのさ。あたしはまだ詮索される程の過去を持ち合わせちゃいないよ。それに…」
少し間を置いて、和奏は言い放った。
「仮にあったとしても…。保科には、言わない」
そう言って顔に少し影を落とす和奏に、それ以上踏み込めなくなった柊史。
数少ない友人である和奏が、この若さで一体何を抱えているのか。いつか力になれる日は来るのだろうか。そう思わざるを得ない柊史であった。
閑話休題。
未だにトイレから戻らない海道を忘れ去って、教室に戻った柊史と和奏。昼休みはまだ少し残っている。
「オーナーの過去の話だけどさ、そもそも保科が聞けないなら誰にも聞けないと思うんだよね。綾地さん以外はって事になるけど」
和奏は空いていた柊史の前の席に座って話かけてきた。どうやらもう少し相談に付き合ってくれるらしい。
「なんでそう思うんだ?他にもいるんじゃないのか?」
「だって、あそこでバイトし始めて結構経つけど、オーナーがあそこまで気安く話してるお客さんなんて、保科以外では常連客でも見た事ないよ?電話とかでも事務的な会話しかしてないし」
「そうなのか?あんなに話しやすい人中々いないぞ?仮屋が知らないだけで案外いるんじゃないのか?」
そう言われて和奏はなんとか思い出す様なそぶりをするが少しして顔を横に振る。
「うーん…やっぱりいないかな。ほら、オーナーって美人じゃない?だから偶に言い寄ってくる人とかもいるんだよ。でも綺麗にあしらって殆ど会話にもならないんだよね。そんな感じで他のお客さんともあんまり会話しないから、保科みたいに話してるのはかなり珍しいんだよ」
「そうか。俺だけなのか…」
バイトをしていてあの店の実情をよく知る和奏からそう聞くと、なんだか自分だけが特別なんじゃないか、もしかして七緒は自分の事を…なんて淡い期待してしまう柊史。
「まぁどんな事考えてるのかは大体分かるけどさー。自意識過剰も大概にしなよ?過度な妄想は身を滅ぼすよ?」
そんな柊史の想像をいとも簡単に読み取る和奏。やはりエスパーなんじゃないかと思ってしまう柊史は驚きを隠せない。
「あのねー、保科や海道が考えそうな事なんて簡単に想像出来るっての。大体あんた達はーーー」
何やら仮屋先生のお説教が始まってしまい、早く帰ってこい海道と、思いながらありがたーいお言葉を粛々と聴いていた柊史の元へ、教室に駆け込んできた寧々が一目散にやってきた。後ろからは紬も追いかけて来る。
如何にも焦りを隠せない寧々を見て、驚く和奏と柊史。周りのクラスメイトも何事かとざわつき始める。
「お話のところ申し訳ありません!緊急の用事で今日は早退させて貰います!先生には体調不良とでも断っておいて下さい!オカ研の方も今日は休止という事でお願いします!それでは!」
用件を一息で伝えた後、踵を返した寧々は、自分の荷物を持って廊下へ飛び出して行った。
普段冷静な寧々があそこまで取り乱している様を見て、呆気にとられる柊史。
「ちょ、ちょっと待ってよ綾地さーん!ごめんね、保科くん!アカギから連絡があって急いで相馬さんの所に行かなきゃいけないんだ!本当は呼ばれたのは綾地さんだけなんだけど、心配だから私も行ってくる!」
寧々より少し丁寧に説明した紬は、寧々同様に荷物を取りに席に戻る。
柊史は慌てて紬を追い、小さめの声で問いかける。
「魔女関連の事なんだよね。だったら俺も行った方が…」
「ごめんね。保科君は絶対連れてきちゃダメって言われたんだ。あと、今日は寄り道せずに帰れってアカギが。後でちゃんと事情は説明するから今回は待っててくれないかな」
柊史が言い切る前に食い気味で返す紬。本気で申し訳なさそうな表情をする紬を前に、柊史は言葉を詰まらせる。
「あーそれと、仮屋さんに今日のバイトはお休みだって伝えておいてくれるかな。それじゃあ私も行ってくるね!」
「…分かった。椎葉さんも気をつけて…」
柊史が言い切る前に、紬は寧々を追いかけて教室を飛び出した。
事情を把握できないクラスメイトが一体何事かと騒ぎ始める中、柊史は寧々の慌て方、紬の話から何があったのかを何となく把握してしまう。恐らく七緒に何かがあったのではないだろうか。それもとても重大な何かが。
(相馬さんが怪我でもした…?それとも風邪?それで綾地さん達があそこまで慌てるか?それとも…)
嫌な想像ばかりしてしまう柊史。七緒が心配で今すぐにでも寧々達を追いかけたい衝動に駆られる。しかし紬の話によれば柊史は来て欲しく無いらしい。
(それに行ったとして何か出来るのか?それどころか邪魔をしてしまうんじゃ…)
「なーに1人で考え込んでんのさ保科!」
そんな声と共に背中を叩かれて我に帰った柊史が振り向くと柊史を気遣うように笑う和奏がいた。
「仮屋…」
「何があったか分かんないけどさ、多分オーナーになにかあったんでしょ?保科は行かなくていいの?」
「椎葉さんが言うには、絶対に来るなって言ってたらしくて…」
「それでも保科はオーナーが心配なんでしょ?ほら、先生にはアタシから言っておくから保科も…」
「でも、俺が行ったところで役に立てるか分からないし、寧ろ邪魔だから来るなって言われてるんじゃないかなって…」
ぐだくだと言い訳を続けながら項垂れていく柊史を見て和奏は…
「あーもううだうだうっさーい!」
柊史にケツキックを決めた。
それはもう綺麗なケツキックを。
スパーンとか小気味のいい音がするくらいの。
唐突過ぎて声も出ないまま崩れ落ちる柊史。痛過ぎてちょっと涙が出ている。
ざわつく教室が一瞬で静かになる程の強烈な一発だった。
「ちょっ…いった…えっかりやなにしてっ…」
呻きながら見上げると仮屋は腕を組んで仁王立ちして柊史を見下ろしていた。完全に切れている。
「結局保科は行きたいのか行きたくないのかどっちなの!」
「そりゃ行きたいけど…来るなって…」
「はー最近の保科はちょっとは積極的になってきたかと思ってたけど、恋愛相談でまたすっかり腑抜けちゃったみたいだね。来るなって言われたからって怖気付いてんじゃないよ!オーナーが心配なんでしょ!行きたいんでしょ!言い訳並べて行かない理由を探すくらいなら男らしく行ってこい!」
「でも…」
「おや保科。まだ足りないようならもう一回『気合』を入れてあげようじゃないかー」
「わ、分かった!行く!行ってきます!」
とてつもない怒気を纏って笑顔でにじり寄ってくる和奏を前に、腑抜けていた柊史も慌てて立ち上がる。
鞄を持って駆け出した柊史は教室の入り口で不意に足を止めると。
「仮屋!ありがとな。行ってきます!」
そう言い残して、教室を出て行った。
「まったく、そんなに心配ならさっさと行ったらよかったものを…世話の焼ける奴だぁね」
呆れたように笑う和奏と、何が何やら全く思考が追いつかないクラスメイト。そんな教室に遅すぎる帰還を果たす男が一人。
「あれー?柊史の奴、鞄持ってどこ行ったん?サボりとか次、佳苗ちゃんの授業なのに度胸あんなーってあれ?なにこの空気。なんかあったの」
「肝心な時に遅いわ海道ー!」
「え、まって、なんで和奏ちゃん怒ってんの⁉︎ちょ、まっ…あーーーーー!!!」
昼休みが終わる教室にはチャイムと、ケツキックの音と、海道の悲鳴がこだまするのであった。
どうもこんにちはnonoiです。
投稿が遅れた事、重ねてお詫び申し上げます。
投稿が遅れてしまった事の理由としましては「忙しかった」の一言に尽きます。
色々と時間の取られる事が続いてしまい、結果として延期の連絡もしないままここまで延期してしまいました。
延期の報告すら忙しさに感けて怠ってしまった事も本当に申し訳ありませんでした。
以後は、発信した投稿予定等を覆えす事の無い様、また、仮に遅れてしまう際には必ず送れる事の旨、また、延期後の予定日をしっかりと連絡させて頂きます。
この度は本当に申し訳ありませんでした。
またこの様な事態があったにも関わらず大変言い辛い事ではありますが
次回投稿予定は未定とさせていただきます。
次回投稿分が上がり次第連絡させて頂きます