鬼滅世界で波紋の呼吸使う作品、もっと増えてもいいと思うの。
8/29:原作読んだら時系列メチャクチャだったので修正しました。
──暗い。
ぱちぱちと、数回瞬きを繰り返して、目を闇に慣らす。
時間が経つと共に、視界の中で浮かび上がる輪郭を辿る。
根、土、草、幹、枝、葉、葉、葉、葉──。
一面の自然を確認した後、ようやっと上体を起こし、ぐるりと辺りを見渡す。
生い茂る木々と暗闇に苛まれ、遠くまで見えるわけではないが、少なくとも近くに人工物はない。
──こりゃあ参った。
焦燥と恐怖をごまかすように、あえて何てことない口調で独り言ちる。
何故自分がこんな場所にいるのか、皆目見当もつかない。
酔って記憶を無くすにしたって、こんな場所まで来るかね、普通。
溜息と共に、くしゃり、と前髪を無造作にかき上げたところで、気づく。
小さく、柔らかい、自らの手。
成人もとっくに終えた、骨ばった本来のそれは、見る影もない。
慌てて立ち上がる──視界が低い。
……まーじで?
思わず空を仰ぐも、視界に写るのは葉と枝の群れだけだった。
***
どうもどうやら、私は別世界に来てしまったらしい。
転生なのか転移なのか、はたまた憑依なのかは置いておいて、ともかく、別世界。
死んだ覚えはないんだけどなあ。唐突だなあ。心の準備させろよ畜生。
周りは森で、人っ子一人いなくて、どういう世界なのかもさっぱり分からないけれど、少なくとも別世界なのは確かだと、そう言い切れる。
え?何で確信してるのかって?
「イヒヒッヒヒヒヒ!子供だぁ!柔らかそうだなぁ、旨そうだなぁ!」
──まさに今別世界である証拠に追い掛け回されているからなんだなあこれが!
ヒトっぽい四肢を蠢かしながら迫ってくる異形。
もちろん、私が元居た世界にはこんなもんいなかった。
が、こういう類の化物はフィクションで腐るほど見てる。
その経験則と勘でわかる。捕まったらまず助からない。
いやあ即座に足が動いてよかった。見たら発狂するタイプの神話生物じゃなくてラッキー。
随分と短くなって、動かし辛くなってしまった足を懸命に動かし、走る。
大きな木の根とか、岩とか、とにかく目に映る障害物を使って、少しでも距離を引き離すよう立ち回る。
私の趣味がパルクールじゃなきゃとっくに詰んでたね。
にしても服がまとわりついて動きづらい。暗くてよくわからんが少なくとも前世界で着ていたような服じゃないだろう。
「ちょこまかと鬱陶しいなァ!とっとと捕まれクソガキャア!」
「うっせーーーーんだよテメーこそとっとと諦めろ!つーかお前の方がよっぽど鬱陶しいわカサカサ動きやがって視界がやかましいんだよ!!」
苛立ちのままに、売り言葉に買い言葉。
それがいけなかったのかもしれない。
ずるり、と足元が揺らぎ、不意の浮遊感。
「──や、ばっ」
ろくに見えない暗闇の中、木の根を飛び越えた先には、地面がなかった。
急に止まることもできず、そのまま暗闇に投げ出される。
──あ、死んだか?
全身を包む浮遊感に、走馬灯がかけめぐる──暇もなく。
「────っ!」
腹部に衝撃。
岩か、根か。暗くてよくわからないが、全体重がその突起にのしかかった。
肋骨の間をすり抜けて、体の中心を貫くように食い込む。
「が、ぁ……!」
うめき声と共に、肺から全ての空気が絞り出されていく。
息が、できない。
「イヒヒヒヒィ」
悶え苦しむ私の腕を、異形の手が掴む。
無遠慮に持ち上げられるのにも抵抗できず、されるがままにぶら下がるしかできない。
「どこから喰おうかなァ……一等柔らかいはらわたかなァ……」
ちろちろと舌を覗かせながら吟味する化物を睨み付けようと、顔を上げる──と。
気道が広がり、空になった肺に空気が怒涛の勢いで流れ込む感覚に、身体が持っていかれそうになる。
コォォ、と、奇妙な音が聞こえた。
「ギェ、イァアアアアアアアア!?」
化物は、急に叫び出したかと思うと、私の腕を離した。
そのまま重力に従い、地面に崩れ落ちる。
何事かと見やると──奴の腕はボロボロに砕けていた。
少しずつだが、確実に、胴体に向けて侵食する崩壊に、化物の顔が引きつる。
その崩れ行く手が、私の腕を掴んでいたものだと理解した私は、考えるよりも先に動いた。
賭けだ。負ければ死ぬ。それでも。
渾身の力で飛び上がり、化物の顔面に両手を押し付ける。
ジュウ、と焼けるような音。
「ギアアアアアアアアアアアア!!?馬鹿な、これは日の光のォオオオオオオオ!?」
断末魔と共に、怪物の頭が砕け散る。
頸を喪った身体は糸が切れたように倒れ込み、灰となって散っていった。
***
夜明けが来るまで木の
明るくなってから化物を倒した場所に戻ってみたけど、やっぱりそこに奴の身体は残っていなかった。
日が差してようやく状況がわかったが、私が足を滑らせたのは、小さな土砂崩れ跡のような段差だったらしい。
そこから、剥き出しになっている岩の突起部分に覆いかぶさるように落下し──丁度、それが私の横隔膜を突いた。
で、今している呼吸法が誘発された、という訳。
ということはつまり。
「──やっぱりこれ、波紋……だよな」
呼吸をすると、血流に沿って、痺れるようなエネルギーが手足に集まっていく感覚がある。
"波紋"。
『ジョジョの奇妙な冒険』初期に登場する、仙道エネルギーを生み出すための呼吸法。
会得するためには、何年も過酷な修行をしなければいけないが、達人が横隔膜付近を刺激することで一時的に同じ呼吸法をさせることも可能だ。
あれだね。ツェペリ男爵がジョナサンにしてたやつだね。
それが今回、
そして、一晩ぶっ通しで呼吸をし続けたおかげで、多少感覚が掴めてきた。
まあ、つまり、何だ。
私の異世界特典は、波紋の呼吸だった、ということになるのだろうか。
「……にしたって力技すぎやしねえか神様よお……」
岩にぶつかったから呼吸覚えましたって、流石に無理あるでしょうよ。
それなら事前に神様が姿見せて口頭説明してくれた方がマシだわ。
……いるかどうかもわからない奴への愚痴はここまでにして、状況を整理しよう。
まず、起き抜けに私を襲ってくれやがったあの化物。
人を喰い、波紋(と、おそらくは日光)が弱点。
……とくれば、まあ吸血鬼だろう。
石仮面によって生まれる、不老不死の怪物。
その配下である
この山にいるのがあの1体だけなら良いが、希望的観測はできない。
覚えたての微弱な波紋で、あんな不意打ちみたいな真似で、今後対抗できるとも思えない。
誰も頼りにできない以上、ある程度1人でなんとかできるだけの力はつけたいが……それは追々考えよう。
次に、私の服装。
着物、である。
それも安い生地の、粗末な物。
日常的に着られているであろうことが窺える。
つまり、まだ洋服が普及していない時代。
となると、ここは『ジョジョの奇妙な冒険』──さらに言うと、その1部、あるいは2部の世界、と考えるのが妥当だろう。
特典能力(仮)がスタンドではなく波紋なのも、納得がいく。
この時期はスタンドのスの字もないからね。
問題は、場所である。
着物と、あの吸血鬼が話していた言葉から、おそらく此処は日本。
1部の舞台であるイギリスでも、2部の舞台であるイタリアでも、波紋の本場チベットでもない。
ジョジョの世界では3部になるまで影も形もない、それが日本だ。
すなわち、波紋の修練をするにあたって、師と仰げるような人物はみんな海の向こう。
時代的にも年齢的にも、単身で国を跨ぐというのは現実味がなさすぎる。
日本にいるのかもわからない、見ず知らずの波紋使いを探して全国行脚というのも同上。
──まあ、そもそもこの山を下りないことには始まらないのだが。
山を下りるために波紋を鍛えたいが、波紋を鍛えるためには山を下りなければならない。
うーん、ジレンマ。
悶々と考え続けても埒が明かず、腹は空くし喉は乾く。
──よし、とりあえず、木の実でも探そう。
ぱちん、と両手で頬を叩き、目の前のタスクに思考を切り替える。
サバイバル環境では、絶望に呑まれないようにやるべきことに集中するといいらしい。
まずは食料と、飲み水の確保。
ついでに周辺の散策だ。
山を下るにしても準備は要る。
焦らずに、落ち着いて、1つずつ着実に。
生きるために、全力を尽くそう。
***
そんなこんなで3年経ちました。キングクリムゾン!
3年……3年!?嘘だろ承太郎!
まだ私山下りれてないんだが!?
おっと、3年かけてリスポーン地点から離れられないクソ雑魚、とか思わないでほしい。
だってここ、人里離れた、ってレベルじゃなく離れてる。
一度山頂まで行って確認してみたけれど、見渡す限り山、山、山。
村はおろか平地も見えない。
人に出会うまで山をいくつ越えなきゃならないのか、考えたくもなくなるわこんなん。
旅人とか、山伏とかに出くわさないかな、と淡い期待も寄せていたが、それも昔。
なんでかって?アホみたいに吸血鬼がいるからですよ。
年がら年中鬱蒼とした木々で木陰が多いこの山は、どうにも吸血鬼にとっては絶好の環境らしい。
毎夜毎夜、何なら曇りの日には昼にも出くわす。
そりゃ誰もこんな山に入りませんわ。道理で獣道しかないわけだよ。
そんなわけで、山を下りるどころか、すっかり野生児となって、3年。
山頂付近の、日の光が入る開けた場所をねぐらにして、食料調達と独学で波紋を練り上げる日々を繰り返した。
まず最初に、寝ている間にも波紋の呼吸ができるようにして、次に仙道エネルギーを全身に回すための操作術。
狩りに慣れてきた頃から、波紋による物体操作・生物操作の練習。
回復機能と戦闘術は、吸血鬼との戦闘で嫌でも覚えた。
あ、そうそう。倒した吸血鬼に聞いたところ、どうやら今は江戸時代後期らしい。
1部の20年前くらい。
微妙に原作から外れていて、ちょっと残念──と、思ったところで、疑問が湧いた。
──何でこのタイミングで、こんなに吸血鬼がいるんだ?
1部でディオが石仮面の能力に気付くまで、吸血鬼という脅威は鳴りを潜めているはずだ。
そうでなければ、柱の男の復活を待たずに、あっという間に人類は滅んでいる。
じゃあ、何故、吸血鬼が極東の島国でのさばっている?
考えて、考えて──水面に立てるようになった頃に、1つの仮説を立てた。
すなわち、
吸血鬼は、柱の男たちの食料だ。
2部でも手駒兼食料として、百人ほどの人間が吸血鬼にされていた。
──それはきっと、彼らが眠りにつく前、2000年前にも行われていたのだろう。
柱の男が、吸血鬼を喰い尽くさず、あえて野放しにしたまま眠りについていたとしたら。
稚魚を川に放流するかの如く、次の目覚めの時にも食事にありつけるように。
そして、その吸血鬼が国を渡り、日本に流れ着き──今に至るまで、生き続けていたとしたら。
血を分け与えることで数を増やし、人を喰らい続けているとしたら。
……これ、私が頑張らないといけないスピンオフ的な奴では?
物語の裏で、知られざる奮闘があった、みたいな。よくあるよね。
慣れない運命論を使うならば、ジョナサンや波紋戦士たちの代わりに日本で人々を吸血鬼から守る、というのが、この世界での私の役割なのだろうか。
もしそうなら、物語の奴隷にされているようで業腹ではある。
でも死にたくないし、日本を吸血鬼に滅ぼされるのもまっぴら御免だ。
──よっしゃ、やるだけやってみるか。
人間、ポジティブに捉えなければやっていけない時もある。
どちらにせよ、山を下りるためには吸血鬼を倒さなければいけないわけだし。
さーて、世界救っちゃいますか、という奴だね。
そんなわけで、決意を固めてから攻勢に出た。
私の波紋は思ったよりも練度が上がっていたようで、雑魚吸血鬼は楽に倒せる。
片っ端から波紋を流し込んで、時々自分用に着物や履物を
そりゃまあ、昔から血の気が多いとはよく言われていたけれど、まさか吸血鬼に『鬼』と言われる日が来るとはね。
とは言え、それは下っ端共の話。
逆に、縄張りを持っているようなそこそこ強い奴らは、強者の身体を喰おうと襲ってくるようになった。
なんか血?体液?を操作する能力持ちの吸血鬼。
ちょっと違うけど、スト様がやってた奴だ!とテンション上がったのは内緒。
そいつらを何体か倒したところで、そろそろ情報収集を始めた方がいいのでは?と考え出した。
石仮面を被った吸血鬼は日本のどこに、どれだけいるのか。
いるとして、それは柱の男と直接的な関わりがある、2000年前からの生き残りなのか。
これから対峙する時の心構えと対策練りのために、知っておいて損はないだろう。
襲ってきた吸血鬼──この山で見た限りだと、2番目か3番目くらいに強い奴──の四肢を波紋で粉々に砕いてから、尋問する。
──お前をその身体にした奴はどこにいる?
吸血鬼は震えるばかりで答えない。
仕方がないので、質問を変えた。
──柱の男を知っているか?
前の質問で歯の根が合わなくなった状態だったので要領は得ないが、大体こんなことを言っていた。
きっとあいつ等を喰えばあの方に認めてもらえる。
いつかあいつ等を喰ってもっと強くなってやる。
そのために、お前を殺す!
再生した腕を振りかぶって来たので、そこで諦めて、頭を潰した。
塵に還っていく吸血鬼を見ながら、考える。
1体目から柱の男を知っている奴に出くわすとは思わなかった。
けれど、柱の男よりもこいつを吸血鬼にした奴への恐怖心が強かったことから、知識としてしか知らない、という方が正しいのかもしれない。
まあ、2000年姿を見せない、いるのかもわからない上位存在よりも、直接的に自分を支配する奴の方が恐ろしいのは当然の心理だろう。
ディオも柱の男なんざ敵ではないわ!くらいは言いそうだしな。
問題は、あそこまで恐怖させる親玉の方だ。
恐らくは、原作に出てきたどの吸血鬼よりも長く生き、多く人を喰っている怪物。
これ、私1人で対処しきれるのかな──と、半ば絶望していたところで。
がさり、と背後から音。
反射的に波紋を練り上げ、振り向き様に蹴りを一発。
それを鞘に納めたままの刀で防いだ男は──この世界で、初めて見る人間だった。
***
鱗滝、という名前らしい。
随分と優しい顔立ちをした少年は、そう名乗った。
この山から下りてくる鬼の数が増えたと報告を受けて、調査に来たと。
どうも、吸血鬼のことを日本では鬼と呼んでいるようだ。
吸血鬼という言葉は海外発祥だし、そう呼称するのは自然だと、納得した。
そして、山を下りる吸血鬼たちは多分私が追いかけまわすようになってから逃げた雑魚たちだと思います本当に申し訳ない。
にしても、こんな小さい男の子が単身で乗り込んでくるとは。
正確にはわからないけど、肉体年齢的には私よりちょっと上くらいかな?
16歳で任務?世も末だねえ。
いや、江戸ならその歳で働いているのは普通か。
ん?何?鬼を殺すための組織?
ふむふむ、鬼殺隊、全集中の呼吸、日輪刀……。
え、ジョジョ世界の日本ってそんなガラパゴス進化遂げてるの?
はー、驚いた。山の外ではそんなことになっているとはね。
まあ、吸血鬼が世界中にいるのなら、国ごとに対策組織があってもおかしくはないか……。
で、それ私も入れる?
うん?いや、今後も吸血鬼──いや、鬼と戦うなら、そりゃ根無し草よりも後ろ盾があった方が色々と楽じゃんよ。
だから、鱗滝クンが紹介してくれて、入れるなら入りたいけどなーって。
……あー、うん。そうだね。まずこの山の鬼全部倒してからだね。
──よし、じゃあ行こうか。
山を下りたら、色々教えてよ。私、世間知らずだからさ。
オリ主(ラスト時点で12歳)
前の世界では24歳女。
趣味はパルクール、サバゲ―、キックボクシング。
好きな漫画だけ読むタイプのライトオタクだった。
『鬼滅の刃』は一切知らない。
自分の持ってる知識のみで推測してたらあらぬ方向へ飛んで行ってしまった人。
この後、ジョジョ世界のガラパゴス日本だと勘違いしたまま、日本内の鬼全滅を目指して鬼殺隊入隊。
唯一刀を持たない隊士として、鬼殺隊所属歴最長、柱在任歴最長、柱歴代最年長の記録を樹立する。
波紋の呼吸 in 鬼滅の刃もっと増えて(願望)