ジョジョの世界に転生しました。   作:鏡華

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箸休め回です。


炎と共に

──ひどい音だ。

 

 

蝶屋敷全体を包むような、恐慌の音。

 

途切れることのない荒い足音に、怒号に近い人々の声。

 

 

自分の頭を掻きむしり、耳を押さえて蹲りたくなる衝動を、羽織の裾を握りしめることで堪える。

 

 

──屋敷のあちこちから、今にも崩れ落ちそうな音がするから。

 

 

きっと、俺が折れれば、それが合図になる。なってしまう。

 

自分の治療もそこそこに、横で固く目をつぶり、祈るようにうなだれている炭治郎も、猪の被り物で表情は窺えないものの、肩と呼吸を震わせている伊之助も。

 

口を堅く引き結び、仁王立ちの姿勢で沙汰を待つ煉獄さんも──俺なんかに、構わせてはいけない。

 

 

これでも、蝶屋敷に到着した当初に比べれば落ち着いたものだ。

 

胡蝶姉妹──カナエさんとしのぶさんが綾鼓さんを見た時は、そりゃあもう酷かった。

 

自分の傷が開くのも厭わず、声を張り上げて彼女の治療を懇願する炭治郎と煉獄さん。

 

顔を蒼白に染め、慌てて近所の医者という医者を呼び集め始めたしのぶさん。

 

アオイちゃんたちと共に、屋敷中の包帯や薬品を搔き集めるカナエさん。

 

 

誰も彼もから、今にも血管が破裂しそうな程の、激しい脈音が聞こえた。

 

驚愕、恐怖、焦り、哀しみ。

 

同じ音を発している真菰さんに抱えられて、綾鼓さんが屋敷の一番奥の部屋に消えてから、何時間経っただろう。

 

焼け爛れた四肢に、口から溢れる鮮血。

 

そして何より、身体が揺れるたびに腹部から聞こえる水音と、あまりにも弱弱しい呼吸音が、粘っこく脳裏にこびり付いて離れない。

 

十二鬼月、上弦。

 

あんなに、強そうな音を高らかに響かせていた人が、あそこまでして、それでも倒せないのか。

 

 

 

「……悔しいなあ」

 

 

炭治郎から、鼻声が漏れる。

 

こんなにもか細い声は、初めて聴いた。

 

 

「煉獄さんも、綾鼓さんも、傷つきながら頑張っていたのに、何もできなかった……助けられなかった」

 

「炭治郎……」

 

 

悔しさと、歯がゆさと、自己嫌悪の音。

 

 

「何か一つできるようになっても、またすぐ分厚い壁にぶつかるんだ。こんなところでつまずいているようじゃ、俺は……」

 

 

重みに耐えきれなかった涙が、堰を切って頬を伝う。

 

 

 

「──泣くな少年。胸を張れ。前を向け」

 

 

 

凛とした声。

 

 

「後輩を守り、育てるのは柱の責務だ。俺も、師匠(せんせい)も、君たちを守ったことを誇りこそすれ、悔いなぞしない」

 

「煉獄さん……」

 

「己の不甲斐なさを恥じるのであれば、強くなれ。心を燃やせ。そして、俺たちの意志を継ぐ、鬼殺隊の柱となれ。それでこそ、俺たちの行動に──()()()()()()()想いに、応えることになる」

 

「え──」

 

「俺は、君たち3人を──そして、竈門少年の妹を信じる。血を流しながらも人を守る彼女を、鬼殺隊の一員として認めよう。

 ……こんな状況で言うべきことではないかもしれんが」

 

 

言いたいことは、言える内に言ってしまうべきだからな、と静かに笑う煉獄さん。

 

炭治郎は色んな感情がごちゃ混ぜになった音を立てながら、ただただ涙を流していた。

 

 

 

──不意に、廊下の奥から足音が聞こえる。

 

いの一番に気付いた俺に続いて、全員がそちらを見た。

 

しのぶさんだ。

 

聞いているこちらが不安になるような、ぐらついた音。

 

 

「胡蝶!」

 

 

煉獄さんが、声をかける。

 

伏せられていた丸くて大きな瞳が、弾かれたように見開かれた。

 

いつもの笑顔は、ない。

 

 

「煉獄さん……炭治郎くん達も。もしかして、ずっと待っていたのですか?治療は──」

 

「俺たちならば問題ない。それよりも、師匠(せんせい)の容体を聞かせてくれ」

 

「そん──」

 

 

そんなわけないでしょう、と声を荒げそうになるところを、しかし煉獄さんの眼圧に押されたのか、唇を噛みしめて飲み込む。

 

こんなに感情的なしのぶさんは初めて見た。

 

 

「……大規模な開腹手術でしたが、内臓の位置を正しく戻し、肺の傷を塞ぎました。体内の負傷の処置はおおよそ済んでいます。今は真菰さんが看ていてくださっていますが──問題は、」

 

「熱傷、か」

 

「……はい」

 

 

眉根を寄せながら、俯く。

 

 

「本来のあの人であれば、あの程度の傷は何てことありません。腹部の傷も、わざわざ開腹せずとも、呼吸による自己治癒でどうとでもするでしょう。

 ……しかし、気道熱傷が酷いのです。あれでは、呼吸法はおろか、通常の呼吸をするのもままなりません。一般人と同じく、外部からの医療処置でしか傷を癒やせない。その上で、四肢全体を覆う火傷に、内臓の負傷……。生きているのが不思議だと、先生方が(おのの)いていました」

 

「そんな……」

 

 

それきり、しのぶさんは黙り込む。

 

言葉にしたくないのだろう。

 

あの人が──綾鼓さんが、あのまま目覚めない、という可能性を。

 

医学に通じていない俺でも、その、今にも泣きだしそうな声色と、早鐘を打つ彼女の心臓で、事態の深刻さを嫌でも理解した。

 

 

「……そうか」

 

 

煉獄さんから、静かな一言。

 

しかし──それをかき消すように、激しい炎が燃える音。

 

 

師匠(せんせい)ならきっと大丈夫だ!()()()()で、立ち上がれなくなってしまうような人ではないだろう」

 

 

檄を飛ばす。

 

しのぶさんにも、俺たちにも──自分自身にも。

 

 

「俺たちがすべきはここで項垂れていることではない!今回得たものを、次へ繋いでいくことだ!師匠(せんせい)の想いに、応えていくことだ!」

 

「煉獄さん……」

 

「──胡蝶。引き続き、師匠(せんせい)を頼む。俺はお館様や、他の柱への報告をしてこよう。上弦の参の貴重な情報だ。一刻も早く周知させねばな」

 

「……わかりました。しかし、貴方も重傷ではあるので、無理はせずに。伝令は鴉に任せて、蝶屋敷で療養していてください」

 

「むぅ……俺の口から直接伝えたいものだが……」

 

「貴方だって内臓を負傷しているのです。そんな状態で長距離移動など、させるわけがないでしょう」

 

 

にこりと、怒りの音を滲ませた笑み。

 

いつもの調子に戻って来た。(ちょっと怖いけど)

 

 

「わかった。ならばせめて、胡蝶にだけでも伝えておこう」

 

「はい?何ですか?」

 

 

 

「"柱の男どもを相手取るよりよっぽど楽"──だ、そうだ」

 

 

 

「──それ、は」

 

「上弦の参、猗窩座との交戦中の、師匠(せんせい)の言葉だ。

 ……こんなことを言ってもらえて、奮起しない柱がいるだろうか」

 

 

ゴゥ、と、熱風が鼓膜を撫でる、錯覚。

 

心が燃え上がる、音。

 

 

「……()──ですか」

 

「胡蝶……?」

 

 

ふふ、と目を細めるしのぶさん。

 

その恐ろしさに、思わず喉から悲鳴が漏れた。

 

 

()()()も決して劣るものではないということを、私と蜜璃さんで示していかなければいけませんね」

 

「うむ!良い闘志だ!!これからも互いに頑張ろう!」

 

 

互いに嘘のない、真っ直ぐな言葉。

 

 

──2人とも、決して楽観してはいない。

 

苦しんでいる。悲しんでいる。

 

それでも、その傷ついた心を叩いて叩いて、叩きあげて──今まで以上に、奮起させている。

 

きっと、炭治郎も伊之助も、それはわかっているのだろう。

 

だからこそ、悔しさと悲しさを乗り越えようとする音が聞こえる。

 

俺も、固く拳を握りしめた。

 

 

 

 

「──胡蝶、もう一つ、頼まれてくれるか」

 

「何でしょう?」

 

「千寿郎──弟を、この屋敷に連れてきてもいいだろうか。俺と共に師匠(せんせい)には世話になった身だ。報せだけでなく、見舞いに来させてやりたい。そも、重傷患者に面会が通るかどうかなのだが……」

 

「いえ、大丈夫です。寧ろ、今のあの人には、親しい人からの声掛けがあった方が良いでしょう。真菰さんがその役目をしてくれていますが、すぐさまお館様の召喚があるでしょうし」

 

 

──それは、気力だけで命を繋いでいるということじゃないのか?

 

──それは、看取る人が備えておいた方がいいということじゃないのか?

 

 

声色から感じ取った"それ"に、血の気が尚のこと引いていく。

 

 

「……わかった。感謝する。すぐさま鴉を飛ばして──いや、それは柱たちへの伝令に回したいな」

 

「柱の方々以外への、方々(ほうぼう)への伝達も必要です。蝶屋敷にいる鴉たちを総動員してもギリギリになります。人員を割こうにも、今は綾鼓さんの治療に手いっぱいで……」

 

「なら──」

 

 

俺たちが、と口にしようとしたところで、廊下を風が通った。

 

 

「──炭治郎くん!?」

 

「竈門少年!」

 

 

柱2人の静止も止めず、腹の傷も意に介さず、駆けていく背中。

 

杉の箱を揺らしながらのその姿は、あっという間に外へと消えていった。

 

あまりにも無茶な行動に、口を突いて出るは──

 

 

 

「──馬鹿なの!?」

 

 

 

 




綾鼓 汐



「柱の男」
ジョジョ2部に登場する、吸血鬼を捕食する闇の一族。
鬼殺隊所属当初の綾鼓はこの存在を知らせようとしたが、外ツ国にいるはずの、今も眠っているそれを何故知っているのかを説明できずに、妄言として片付けられた。
あまりにもしつこかったので、当時の柱合会議で謹慎処分及び箝口令を布かれた。
現在までそれは続いており、今の柱たちは「柱の男」の情報を知らない。


鎹烏にて綾鼓の容体と戦闘時の状況、言葉を伝達された。
殺意とやる気と闘志がフルスロットル。
あの人が言ってくれたんだ。上弦にだって勝ってみせるさ。
周りの隊士から一段と「怖い」と言われるようになる。

竈門 炭治郎
居ても立っても居られずに駆け出した。
少しでも自分が出来ることを。まず休め馬鹿。
煉獄家に千寿郎を迎えに行くも、そこで槇寿郎と遭遇。
「あの化物女、まだ死んでいなかったのか」「大して才能もないのに鬼殺隊にしがみついてみっともない老害だ」等の発言を受けて怒髪天。
蝶屋敷に戻るころには傷が増えてた。しのぶさんに超怒られた。
後日、改めて煉獄家に詫びに行ったところで、炎柱の手記に関して教えてもらうことになる。
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