設定変えるのずっと忘れてて申し訳ないです。
今回の話で出てくる設定が一番捏造度高いと思います。
驚天動地。
その日の蝶屋敷の様子を一言で表すとするならば、それだろう。
「と、いうわけで、継子をとることになったんだけど、勝手がわからないから教えてくれ」
私、ちゃんと弟子とったことないからさ、とあっけらかんと告げる彼の人に、しのぶはあんぐりと口を開けていた。
40年かけて、ついに見つかった波柱の継子。
それが自分の
しのぶは、場に居合わせた私と悲鳴嶼さん、そして渦中の人──不死川玄弥くんを連れて、客間へ。
茶を飲み、ひとまず落ち着く。
「──で、呼吸法と体術の指南は私として、剣術の指南をどうしようかと思うわけよ。私は言わずもがなだが、行冥もしのぶも修めている流派がかなり独特だろ?真菰に型稽古だけつけてもらうのもいいけど、ほら、本人に合う合わないがあるからさ。でも、私とは違ってある程度の素質はあるみたいだから、やって損はないと思うんだよ」
「いやいやいや」
勝手に話を進めないでください、と嘆息するしのぶ。
今の雰囲気、ちょっと前に戻った感じで懐かしい。
「ええと、その、すみません、まだ混乱しているんですけど……玄弥くんを、継子にする、ということで、いいんですよね?」
「ああ──っていうか、そうだ。悪い、まだちゃんと名前聞いてなかったな」
と、玄弥くんの方を見る綾鼓さん。
名前も知らずに彼を継子と決めていた事実に、少し瞠目する。
「改めて自己紹介。綾鼓 汐だ。一応、波柱の名を頂いている。
で、これからお前の師になる、予定だ。もちろん、お前の意思次第だが……」
玄弥くんは答えない。
混乱のあまり、応えられない──が、より正しいだろうか。
無理もない、柱3人──"元"である私も入れれば、4人──に囲まれているこの状況で、しかも話題の中心は自分。
まさに青天の霹靂だろう。
視線を忙しなくうろつかせ、たっぷりと汗をかいて言葉を詰まらせる彼に代わり、悲鳴嶼さんが声をあげた。
「彼は不死川 玄弥……今年の最終選別を生き残り、入隊した隊士です。今は、私が弟子として面倒を見ています」
「ほお、不死川……不死川?ん?てことは実弥の血縁か?」
その名前が出た途端、可哀相になるくらい大きく肩を跳ね上げる玄弥くん。
震える声で、か細く答える。
「不死川 実弥は……俺の、兄、です」
「なるほど、兄弟か!言われてみれば雰囲気似てるな。
しっかし実弥め、弟がいるなんて一言も聞いてねえぞ。水臭い奴だな」
あ。
多少の事情を知っている私たち3人が押し黙る。
当の本人、玄弥くんも。
痛々しい沈黙が下りる。
「……ん?どうした?」
きょろり、と周りを気まずげに見渡す綾鼓さん。
玄弥くんが、震える拳を握りしめて、声を発する。
「兄貴……は、お前みたいな愚図、弟じゃない、と」
「は?」
一段低くなった声に、何故か玄弥くんが慌てて弁明しだす。
「違うんです!兄貴は悪くない!俺が、呼吸も使えない能無しだから!鬼を喰って、戦うしかなくて……だから……」
段々と、尻すぼみになっていく語気と共に、俯く。
「……
綾鼓さんの言葉に、玄弥くんの顔がさぁ、と青くなった。
「……綾鼓さん、玄弥くんは全集中の呼吸が使えません。その代わりに、鬼を喰い、一時的に鬼となることで戦う力を得ているのです」
苦々しげに、しのぶが答える。
いつも玄弥くんを診察している時と同じ顔だ。
しばし、考え込む綾鼓さん。
その沈黙の間に、玄弥くんの額に浮かぶ汗の玉はどんどん増えていく。
──かねてより、功を焦るような言動が多い彼。
せっかく目の前に現れた、継子となれる機会が潰えるのではないかと、気が気でないのだろう。
しかし、こればっかりは誤魔化せるものではない。
呼吸が使えないこと、鬼を喰っていたこと。
それらをひっくるめて、綾鼓さんが玄弥くんを認めなければ──。
「……玄弥」
びくり、と身体を震わせる。
視線を畳から綾鼓さんへ、ゆっくりと引き上げた。
「──安心しろ。
「え──」
誰もが、息を呑む。
「どういう──ま、さか」
「流石しのぶ、理解が早いな」
「なるほど……たしかに、理論的には、筋が通ります」
2人だけで話を進めないでほしい。
悲鳴嶼さんと顔を合わせ、首を傾げる。
玄弥くんも同様だ。
説明を求める視線に気づいた綾鼓さんが、口を開く。
「まず、"鬼を喰うことで一時的に鬼になれる特異体質"──この前提条件、認識から確認していこう。
さて質問だ。鬼になるにはどうしたらいい?」
それはもちろん、
──あ。
自分の思い違いに、目を見開く。
それで、綾鼓さんも察してくれたようだ。
「そう、鬼舞辻の血を身体に取り込めば、鬼になる。傷口に鬼の血を浴びるのが典型だな。
──その理屈で考えれば、鬼を喰えば鬼になるのは当然のことなんだ。鬼の血を飲み、鬼舞辻の血を間接的に取り込んでいるわけだから」
「南無……すると玄弥は……」
「ああ、ここで特筆すべきは、鬼舞辻の血を取り込み、一時的に鬼となりながらも
「そして、それは綾鼓さんの呼吸法が生み出す、鬼を滅殺する力と同じ……と、いうことですね」
「その通り」
しのぶの合いの手に、綾鼓さんが片目をつむって返す。
「ま、一時的とはいえ鬼化してしまっているということは、極めて微弱なんだろうがな。
体内に放出できる程の量が生み出せないから、同じ呼吸をしている私じゃないと気づけなかった。
──とは言えども、本人さえ自覚のないものであるならば、生まれながらにしての波紋使いだ。とんでもない逸材だぜ、これは」
生まれながらの、呼吸使い。
あまりにも突飛な話に、無意識に視線が玄弥くんへと集まる。
本人もにわかには信じがたいようで、驚愕に表情を染め上げていた。
「俺が……呼吸を……?」
「ああ。そう考えれば、全集中の呼吸が使えない、というのも納得できる。なんせ、波紋呼吸法なんて強烈な癖がついちまってるんだからな。足で箸を使えって言っているようなもんだ」
仕方ない仕方ない、と
「と、なると……玄弥の継子としての素質は……疑う余地はないようですな……いやはや……波柱の後継者が現れる日が来ようとは……めでたいことです……南無阿弥陀仏……」
滂沱の涙を流し、言祝ぐ悲鳴嶼さん。
綾鼓さんの孤独も、玄弥くんの苦悩も、一番見てきた人だ。喜びもひとしおだろう。
私たちも知っている。
診察の度に思いつめた表情をする玄弥くんを。
ただ1人で、刀も持たず鬼に立ち向かい続ける、綾鼓さんの姿を。
よかったね、と手話でしのぶに語り掛ける。
しのぶは、控えめに笑いながら、小さく頷いた。
「──さて、玄弥。聞いての通りだ。
悪いが、悠長なことはやっていられない。1日でも早くその呼吸を自在に使いこなせるようにする。私の40年間を、極限まで圧縮して、余すところなく叩き込む。
──死ぬほど辛い目にあわせることになるが、その覚悟はあるか?」
綾鼓さんは、改まって玄弥くんの瞳を見据える。
山吹色の瞳孔が、彼を射抜いた。
少したじろいだ彼は、恐る恐るながらもしっかりとした口調で、問う。
「……継子になれば、俺は柱になれますか」
「なれる」
即座の断言。
「お前の素質と才能は、この私が保証する。お前は、私を超える波紋使いになる男だ。柱になるくらい、朝飯前に決まってるだろう」
言葉に揺らぎはない。絶対的な自信。
思わず、といったように、玄弥くんが悲鳴嶼さんを見上げる。
「……よかったな、玄弥」
両頬に涙の筋を残しながら、穏やかに笑う。
そんな悲鳴嶼さんを見て、感極まったのだろうか。
「……浅学菲才の身ですが、精いっぱい頑張ります……!どうかこれから、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!!」
三つ指をついて、深く頭を下げる。
その際、畳に零れた雫には、見ないふりをした。
綾鼓 汐
後継が見つかりました。やったー!
水の呼吸一門は時々鍛錬を見た程度だし、煉獄兄弟はどちらかというと後見人の立場だったため、本格的な弟子をとるのは初めて。
生まれついての波紋使いとか、ジョセフやシーザー並の才能じゃんやべえ。
育て甲斐があるなあ!とウキウキワクワク。
不死川 玄弥
岩柱の弟子にして波柱の継子。
鬼を喰うことで一時的に鬼になれる特異体質──ではなく、生まれついての波紋使い。
波紋エネルギーで鬼舞辻の血を体内で滅することで、人間に戻っていた。
かなりギリギリの綱渡りであったことは事実。
この世界では数百年に1人の、波紋の呼吸に適した身体構造の持ち主。
才能を認められて思わず泣いてしまったことを、後になって滅茶苦茶恥ずかしがった。
ちなみに、綾鼓も鬼を喰うことはできるが、体内で生成される波紋エネルギーが強く、即座に鬼舞辻の血が分解されてしまうため、一時的な鬼化はできない。
悲鳴嶼 行冥
岩柱。
現柱の中では綾鼓に次いでの古参。故に綾鼓との付き合いも多い。
あまりにも無茶な戦い方をする弟子に気が気でなかったが、この度継子としてのスカウトが決まり、一安心。よかったよかった。南無阿弥陀仏。
玄弥のことは継子になった後も弟子だと思っているため、時折鍛錬を見てやっている。