ジョジョの世界に転生しました。   作:鏡華

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n回目の箸休め回です。

こっからどんどん原作改変していきます。


よもやま話再び

「──ってわけで、最近は任務に出るようになったぜ。とはいえ、基本の"き"の字ができた程度だから、まだまだこれからだけどな」

 

 

湯呑を置き、茶菓子のきんつばに手を伸ばす。

 

しっとりした薄皮と、上品な甘さの小豆が、渋茶によく合う。旨い。

 

 

「そうか……後継の育成は、順調なんだな」

 

 

気まずげな顔で茶を啜る、槇寿郎。

 

久しぶりに門をくぐった煉獄家で、もてなす側にはどうにも見えない。

 

盆を持って来てくれた千寿郎の方がまだ歓迎ムードしてた。

 

 

「本当は地獄昇柱(ヘルクライムピラー)も作りたかったんだけどな。流石に時間が足りなかった。鉄刀木(たがや)にまた泣かれても困るし」

 

「へる……?」

 

 

また何を言っているんだこいつは、と目がやかましい。

 

こいつからのこの態度は慣れてしまったから、ついつい口が軽くなるんだよな。

 

 

「まあまあ、私のことはいいんだよ。そっちはどうだ?息子たちとうまくやってるか?

 仕方なかったとはいえ、杏寿郎は多感な時期にお前から引き離してしまったからなあ。ちょっとは責任感じてるんだぜ」

 

「…………ああ、上弦の鬼と戦った後、久しぶりにまともな話ができた」

 

 

視線を湯呑に落とし、ぽつりぽつりと話し出す。

 

 

「竈門くんに言われたよ。『なんで煉獄さんたちが綾鼓さんの下に留まらず、また一緒に暮らすようになったかわからないんですか』──と。

 ……情けない話だ。()()失いそうになって、ようやく気付くとはな」

 

「──でも、気づけたんだ。ちゃんと。それだけで花丸満点だ」

 

「……貴方にも酷いことを多く言ってしまった。瑠火を失って、自暴自棄になって──強く若い貴方に、嫉妬していた」

 

 

深く、頭を下げる。

 

金と朱の髪が、弱弱しく揺れた。

 

 

「申し訳なかった」

 

「……謝られる筋合いなんてないさ。お前の不満も慟哭も、至極当然のものだ。

 ──私は、お前の愛する人を救えなかった。責められる謂れは、大いにある」

 

「今度は救ってもらった。大事な息子を──家族を」

 

 

持ち上げられた瞼からは、燃えるような強い瞳。

 

 

「これ以上、俺の恩人を貶してくれるな」

 

 

力強い、言葉。

 

 

「…………ありがとな」

 

 

震える喉を誤魔化して、何とか伝える。

 

やば、泣きそう。

 

 

「今さらだが、杏寿郎に炎の呼吸の指南をすることにした。……柱となったあいつには、もう必要ないかもしれんが」

 

「いやいや、そこはやっておけ。杏寿郎は成長できるし、親子の語らいにもなる。やって損はないだろう」

 

 

十年間の溝を埋めるんだ、そういうのはいくらやってもいい。

 

 

「千寿郎は剣士の道は諦めたんだって?隠になるのか?それなら体術指南してやるけど」

 

「隠以外でも人の役に立つ道は多い。まだ決断を急ぐ時期でもないだろう」

 

「それもそうだな」

 

「──今は、俺が破いてしまった炎柱の手記を修繕してくれている」

 

「手記?指南書じゃなくてか?」

 

 

指南書はちゃんと残っていたはずだ。読み込む杏寿郎の姿をよく見ていた。

 

ふるり、と首を横に振る槇寿郎。

 

 

 

 

「歴代炎柱の手記──"日の呼吸"の手がかりだ」

 

 

 

 

──日の呼吸。

 

全集中の呼吸の、始まり。

 

 

聞くところによると、炭治郎の耳飾りが"日の呼吸"の継承者の証であるらしく、しかしその仔細を知らない炭治郎のために、手記の修繕に取り掛かっているらしい。

 

ちなみに、杏寿郎は上弦の参に壊された刀の柄を、『身代わりとして守ってくれたもので縁起がいい』、と炭治郎に譲ったそうだ。

 

愛されてるなあ、炭治郎。

 

 

「そういえば、昔は私が"日の呼吸"の使い手じゃないか、って食いついてきたんだよな。すぐに違うってなったわけだけど。いやあ懐かしい」

 

「……若気の至りを掘り起こさないでください」

 

 

あ、敬語がついた。

 

こうなると本当に昔の槇寿郎そのままだな。

 

 

「ま、うまく事が進んだようで善哉善哉。取り持ってくれた炭治郎には感謝だな」

 

 

茶を呷り、飲み干す。

 

やっぱり旨い。後で千寿郎にお礼言っておこう。

 

 

「これからは教え子を持つ者同士、頑張っていこうぜ。昔はちゃんと教えてた分、経験としてはお前の方が上だからな。また教えを乞うことがあるかもしれん」

 

「それは構いませんが……もう行かれるので?」

 

「ああ、バタバタして悪いがな。千寿郎の様子を見てから発つ」

 

 

籠手を着ける私の様子を見守りながら、どこか名残惜し気な声音を出す槇寿郎。

 

本当に丸くなったな、こいつ。

 

 

「次は結構でかい仕事になりそうでな。準備しねえと」

 

「今度はどちらへ?」

 

 

物品の調達に奔走してくれている面々を脳裏に浮かべながら、敢えて笑んで、答えた。

 

 

 

「──鬼の棲む遊郭」

 




綾鼓 汐
十年ぶりに煉獄家に招待された。
愼寿郎も千寿郎も、久しぶりに元気な姿を見れて満足満足。
瑠火の病状を診ていたが、任務が立て込んでいる間に容体が急変し、救えなかった。
助けられなかった1人として心に強く残っているし、愼寿郎からの責めも甘んじて受け入れた。

煉獄 愼寿郎
煉獄杏寿郎・千寿郎の父にして元炎柱。
妻である瑠火の死をきっかけに自暴自棄な態度をとるようになってしまった。
なまじ近くで波紋の力を見てきただけに、自分の妻だけを救えなかった綾鼓への憎悪が生まれ、以降辛く当たるようになってしまう。
無限列車の件で息子を救われたこと、息子たちの思い、そして炭治郎の言葉で少しずつだが立ち直りつつある。
煉獄家の男なだけあって、芯を取り戻せばその精神性は無類。

竈門 炭治郎
今回の隠れたMVP。

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