ジョジョの世界に転生しました。   作:鏡華

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あけましておめでとうございます。新年一発目です!
今年もよろしくお願いします。

オリジナル展開むっずい……。


上弦の陸

冷えた夜風が、身体を撫ぜた。

 

天井に開いた穴から、淀んだ暗い空が見える。

 

私が上弦の陸の身体を蹴り上げたから──ではなく、その直後に繰り出された無数の斬撃による大穴。

 

ここから鬼の姿は見えない。

 

おそらくは屋根の上。

 

蹴りの際、多少の波紋は込めたものの、大部分のものは拳に集中させていたため、上弦相手の効果はあまり期待しない方がいいだろう。

 

 

「善逸、外に出て他の4人に状況を伝達しろ。それから民間人の避難だ」

 

 

後ろに控える善逸の返事を待たず、跳躍。

 

瓦の上に降り立つと、ひやりと足裏の熱が奪われる感覚がした。

 

 

 

 

「──おいおい、もう泣くなよぉ。泣いてたってしょうがねぇからなああ。涙で顔がぐちゃぐちゃじゃねえかあ。可愛い顔が台無しだなあ」

 

 

 

ぐずぐずと泣き腫らす上弦の陸を庇うように立つ、もう一匹の鬼。

 

ひょろりと長い痩躯の手先には、一対の鎌が握られている。

 

そしてその双眸には──“上弦”、“陸”の文字。

 

 

「ははぁ、成程。2人で1人、ってわけか。普段はその女の中で引き篭もってるのか?とんだ寝坊野郎だな」

 

 

苛立ちを隠さずに軽口を叩くと、女の方の鬼が涙に塗れた瞳で睨みつけてきた。

 

 

「お兄ちゃん!コイツよコイツ!いきなり押しかけてアタシをいじめてきた老いぼれ婆!殺してよ!絶対殺して!」

 

「そうかそうかぁ。そりゃあ許せねぇなぁ。俺の可愛い妹が足りねぇ頭で一生懸命やってるのをいじめるような奴は皆殺しにしねぇとなぁ」

 

 

痩躯の鬼──会話を聞くに兄らしい──が、顔面を掻きむしりながらこちらを見る。

 

 

「……それにしても、まさかお前が来るとはなぁあ。お前、見たぞ。確か参の野郎にこっ酷くやられてた奴だよなああ。生きてたことには驚いたが、何だぁ、その痣」

 

 

鬼の視線は、私の足元に向いている。

 

先程の斬撃に巻き込まれて着物の裾が切り裂かれたため、太腿まで走る火傷痕が丸見えだ。

 

 

「ひひ、醜い身体だなああ。そんな姿になってまで殺されに来るとはなああ。みっともねぇったらねぇよなああああ」

 

 

ぐにゃり、と鬼の目が歪む。

 

嘲笑と侮蔑。

 

掻きむしる手は止まらず、引っ掻き傷からは血が滲み出した。

 

 

「そりゃあ、人間生きてりゃ痣の1つや2つくらいは出来るものさ。いちいち気にすることでもねえだろう?()()()()()()()()()()()()()()──」

 

 

眼前に赤が迫る。

 

先程と同じ、血の斬撃。

 

 

──波紋の呼吸、肆の型・銀鼠。

 

 

髪から簪を引き抜き、薄い刃のような斬撃(それ)に向かって振り下ろす。

 

波紋に触れた血は、私の身体に触れる前に弾け、空中に霧散した。

 

纏め上げていた髪が解け、風に巻き上げられる。

 

 

「──妬ましいなぁぁ。そうやって器が大きいようなことを言えるのは、生まれた時から何もかもを持っている選ばれた人間だけだもんなぁあ。1つ2つ何かが欠けても、笑い飛ばせるんだもんなああ。さぞかし周りから慕われて持て囃されているんだろうなあ」

 

 

鬼が全身を掻きむしる音と、怨嗟の声が響く。

 

うるせえなあ。

 

 

「はっ、てめぇ何歳だ?妹と揃って随分子供っぽい文句垂れるじゃねえか、あぁ?

 ──自分が何かを失う覚悟もねえ奴が、人様を傷つけるんじゃねえよ、馬鹿野郎が」

 

「……違うなあ。自分が奪われた分、相手のものを奪い返して取り立てる。それが俺たちの生き方だからなあ。そうやって言いがかりをつけてきた奴は皆殺してきたんだよなあ」

 

 

凄まじい殺気に、背中を冷たいものが駆けあがる。

 

これ以上あちらから何かを仕掛けられる前に、片をつけなくては。

 

 

瓦を割りながら、鬼へと急接近。

 

警戒すべきは兄の方だ。先にこちらを仕留める。

 

 

両側から鎌の刃が迫る。

 

逆手に持った簪を当て、急所から軌道を逸らす。

 

キン、と甲高い音。

 

肩と額を斬られたが、皮一枚だ。無視する。

 

頸に手を伸ばそうとしたところで──胴体を横薙ぎにする、帯。

 

腹を真っ二つにされる前に、太腿と肘で挟み込み、波紋を流す。

 

灰になりながらもその勢いは止められず、吹っ飛ばされた。

 

 

 

戸にぶつかる派手な音と共に、建物の中へ転がり込む。

 

受け身を取り、即座に体勢を立て直す。

 

土間だ。幸いにして人はいない。

 

視界の端を掠めた水瓶に手を突っ込み、波紋を流す。

 

 

 

──波紋の呼吸、参の型・水縹(みはなだ)

 

 

 

手刀を高速で振り抜き、纏わせていた波紋と水を飛ばす。

 

薄い刃となったそれは、土煙の向こうから飛んできた血の刃とぶつかり、相殺し、掻き消えた。

 

もう一発、向こうの追撃が来る前に、水の刃を飛ばす。

 

木片を踏み、表へと。

 

 

幾重にも球状に巻かれた帯の塊を見て、舌打ちを一つ。

 

 

「……ま、そう甘くはねえわな」

 

 

しゅるしゅると解かれたそれの奥から、2対の目がこちらを射抜く。

 

 

「俺たちは2人で1つ、だからなあ」

 

 

 

 

額と肩──先程斬られた箇所に違和感。

 

毒、か。

 

呼吸を整え、血管を意識。

 

力を込めて、血流をコントロールする。

 

毒の入った血液を体外に絞り出す。

 

 

 

「なぁに毒出してるんだよぉオイ。お前本当に人間かぁ?」

 

「正真正銘人間だよ。化物(てめぇら)を殺す、な」

 

「粋がってるんじゃないわよ!上弦の1人も倒せていない糞婆の分際で!」

 

「おうおう、それを言われちゃあぐうの音もでねえな」

 

 

ゴキゴキと首を鳴らしながら、耳を澄ました。

 

地を這うような低い声と、突き刺すような甲高い声が交互に響く向こうの音。

 

にぃ、と唇を歪め、歯を見せる。

 

 

「──だから、お前らが()()()に倒される最初の上弦だ」

 

 

「──!」

 

 

 

視界に、鮮やかな薄水色が煌めく。

 

 

──水の呼吸、肆の型・打ち潮。

 

 

最初に気付いたのは、やはりと言うか、兄の方。

 

流麗な一閃を、片手の鎌で弾き飛ばした。

 

即座に伸びてくるもう片方の鎌を、身を捻って回避。

 

ずさ、と土埃を上げて、私の傍らに着地した。

 

 

「……まぁ、単身で乗り込んできたわけはねぇわなああ」

 

 

日輪刀の切先と、上弦の瞳がかち合う。

 

刀の持ち主──真菰は、鬼共から視線を外さない。

 

 

「綾鼓さん、遅くなりました」

 

「いいや?丁度いいくらいだぜ」

 

 

後ろ手に投げられた包みを、片手で受け取る。

 

私が預けていた戦闘用の装備だ。

 

 

「また不細工が増えた!何なのよ鬱陶しいわね!いいから全員死になさっ……」

 

 

不意に、喚く声が途切れる。

 

 

 

ずるり、と寸断された頸が、妹の鬼の手元に落ちた。

 

 

 

 

「──え?」

 

 

素っ頓狂な声が、鬼の口からぽろりと零れる。

 

それに重ねるように、しゃらりと涼やかな音。

 

 

「よお、嫁さん方は見つかったかい?」

 

 

大きな影に、声をかける。

 

快活な声が、鐘を打ったかのように返って来た。

 

 

「おうよ!ド派手に全員、五体満足で無事だったぜ!後はこいつらを倒せば、派手に任務完了だ!」

 

 

天元の言葉に、笑みを深めた。

 

 

 

「……柱かぁ。こいつ1人じゃなかったみてぇだなああ。ひひっ、一晩に2人も喰えるなああ。運がいいなああ」

 

 

兄の声が、不気味に震える。

 

妹がやられたというのに、随分と落ち着いた声だ。

 

違和感に、眉を顰める。

 

 

「──綾鼓さん!宇髄さん!」

 

 

炭治郎の声だ。

 

隊服に着替えた3人が、合流してきた。

 

これで2対6。

 

勝機は十分にある、はず──。

 

 

 

「うううう!頸斬られた、斬られたぁ!畜生、畜生!糞野郎が!絶対許さないからね!」

 

 

妹が、相も変わらず元気な声で騒いでいる。

 

 

──何で身体が崩れていない?

 

 

その警戒は天元や真菰も同じで、構えを解かず、鬼を凝視している。

 

視線が多方向から突き刺さる中、妹の鬼は手に持つ頸を持ち上げて。

 

 

──おい、おいおい。何をやっている。

 

 

「頸が……」

 

 

そう漏らしたのは誰だったか。

 

 

 

ぴったりと、断面が塞がっていく一瞬きが、随分と長く感じられた。

 

 

 

 

──俺たちは2人で1つ、だからなあ。

 

 

 

「……ッ!!」

 

 

状況の理解と推測に頭を回す前に、攻撃が来る。

 

無数の帯と、血の刃。

 

 

──波紋の呼吸、肆の型・銀鼠!

 

 

包みから飛び出ていた()()を引っ張り出し、振る。

 

攻撃を受け、流し、灰にする。

 

 

「そんな玩具で、俺たちの頸を落とせるわけはねぇんだよなああ」

 

 

嘲笑は崩れない。

 

咥えていた()を口から放すと、カラン、と澄んだ音が鳴った。

 

 

周囲を見る。

 

大丈夫、全員攻撃を凌いでいる。

 

 

刃渡りが一尺にも満たない短刀を回転させ、構え直す。

 

その刃の先まで、波紋が通る感触。

 

 

「はっ──てめぇの()()とどっちが上か、試してみるとするかなぁ!」

 

 

沈み込み、跳躍。

 

 

 

鈍く光る赤黒い刃と、鋭く光る鋼の刃が、交差した。




綾鼓 汐
とりあえず嫁さんたちは無事なようで何より。さっさと倒さないとな。
複数人での戦闘中は、少しでも自分に意識を向けるためによく挑発する。
笑ったり軽口叩くのは挑発半分味方への発破半分。あとほんの少しの虚勢。
痣の生まれつき云々に関してはジョースター家を意識してのもの。


参の型・水縹
青緑波紋疾走(ターコイズブルーオーバードライブ)』他、水を媒介とした波紋疾走。
拾の型の中でも随一の応用力を誇る。
口や手で薄く飛ばした水の刃で切断したり、水を弾くことで水面に立つことが可能。
水分を伴う技は大体がここに分類されるため、派生技の数も多い。


短刀
襟巻に並び、綾鼓が常備している装備の1つ。
刃渡りの短い、片手使いを前提とした小刀。
武器として刃物は必要だが、通常の日輪刀の大きさでは綾鼓の力量で扱いきれないため、懐に忍ばせられる程度のサイズのものが用意された。
担当鍛冶師がほぼほぼ唯一作成できた刀なので、かなり気合の籠った一品。


鬼舞辻 無惨
は?????????痣??????

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