無惨様書くの腹立つけど楽しいね。
ベン!
強く、絃を弾く音が響く。
それに反応し、構える前に、目の前の景色が、足裏に触れる感触が、変わる。
──異空間・無限城。
ここに喚ばれたという事は、上弦が鬼狩りに殺されたということ。
無惨様はまだいらっしゃってないのか──
「……ッ!」
ずるり、と頸が落ちる。
ついで、四肢、胴が細切れに。
成す術なく、無様に畳の上へと放り出された。
情けない叫び声が遠くから。これは半天狗だろう。
「おお──っと?危ない危ない、危うく踏んづけてしまうところだった。大丈夫かい猗窩座殿」
影が落ちる。
──上弦の弐、童磨。
微塵も感情の籠っていない軽薄な声色に、流れ出ていくばかりの血液が頭に昇る感覚。
一刻も早くその面に拳を叩き込みたいところだが、一向に再生が始まらない。
「ヒョッ……童磨殿」
「やァやァ久しいな玉壺。ところでこれはどういうことだい?今回は猗窩座殿がやられてしまったのかい?もしそうならとてもとても悲しいけれど。でも気配が無くなりそうな感じはしないしなあ」
「いいえ、いいえ……猗窩座殿はつい先ほどまでお元気そうに……」
「ふうむ、そうなると──」
「──そろそろ……控えろ……。無惨様が……御見えだ……」
2人の言葉を遮る声。
それと同時に出現した気配に、動かせない頸のまま視線を上に上げる。
「妓夫太郎が死んだ。上弦の月が欠けた」
──無惨様。
失望と落胆を隠さない声色に、千々になった身体のそれぞれが強張る。
「誠にございますか!それは申し訳ありませぬ!紹介した身として御詫びをしなければ……」
「今更必要ない。妓夫太郎は負けると思っていた。堕姫が足手纏いだった。くだらぬ。人間の部分を多く残したものから負けていくのだ」
童磨の言葉を一蹴し、続ける。
「それはもうどうでもいい。問題は、彼奴らを倒したのが
「──ッ!」
この叱責の理由を理解すると同時に、今までとは比にならない圧が襲い掛かる。
「……猗窩座。これはどういうことだ?あの時、何故確実に始末しなかった。結局、あの場の誰も殺せていない。上弦の参も落ちたものだな」
「……も……しわけ、りま……」
血で塞がれた喉から、空気を絞り出す。
生きていた?あの女が?
確かに息が止まるところは確認していなかったが、内臓を傷つけ、四肢を焼き潰していた。
あれだけの負傷、鬼でも何でもない人間なら致命傷を通り越している。
……何だ?
俺は今、何を考えて。
「もういい。お前たちにはつくづく失望した。私はもう期待しない」
「またそのように悲しいことをおっしゃる。俺が貴方様の期待に応えなかった時があったでしょうか」
童磨の軽薄な声。
無惨様にも変わらずの無礼な態度を咎めることができない不甲斐なさに、歯を噛み割る。
「産屋敷一族を葬っていない。“青い彼岸花”も、何百年も見つけられていないではないか。“石仮面”や“赤石”は?お前たちは何も成せていない」
「おや?例の“山吹の女”を殺せとはおっしゃらないのですね。探知探索が不得意な身の俺でも、それくらいならできそうなものですが」
「…………たかが女1人、そうかかずらうこともない。産屋敷を潰し、鬼殺隊という組織がなくなれば、一個人では無力だろう。優先順位を間違えるな」
「左様でございますか!出過ぎた言葉を失礼しました」
ニコニコと笑う童磨と、強張った表情のままの無惨様。
対照的な2人の間に、声が割り込む。
「無惨様!!私は違います!貴方様の望みに一歩近づくための情報を掴みま──」
「私は百十三年振りに上弦を殺されて不快の絶頂だ。まだ確定していない情報を嬉々として伝えようとするな」
玉壺の言葉が、呼吸ごと遮られる。
天井から滴り落ちてくる血が、畳の上の血と混ざった。
無惨様の手から離された玉壺の頸が、血と同じ軌跡を辿って落ちる。
「これからはもっと死に物狂いでやった方がいい。私は上弦だからという理由でお前たちを甘やかしすぎたようだ」
ひぃ、と引きつった半天狗の悲鳴が、琵琶の音に上塗りされる。
「玉壺、情報が確定したら半天狗と共に其処へ向かえ」
無惨様の声が聞こえた直後に、再びの琵琶の音。
身体が再生されていく感覚を受けながら、目の前で閉じる襖を見た。
***
異空間・無限城。
鳴女の血鬼術によって上弦の鬼たちが退去された後。
気配と音が消えた、不意の空寂の間に2人の影。
「……無惨様……何か……御用でも……わざわざ……2人きりとは……」
「黒死牟、お前、
「…………確か……2人……もう顔も……覚えていないが……」
「そうか」
質問の意図がわからないまま、上弦の壱──黒死牟は答える。
「……ならば、
「…………、それは……」
不意に話題に出された存在に、ほんの一瞬、息が詰まった。
三対の目を、少し伏せる。
「……わからない……少なくとも……私は見たことがない……」
「……そうか」
「しかし……何故……」
黒死牟の問いかけに、しばし沈黙を保った後、鬼舞辻無惨は口を開いた。
「──あの女が、堕姫に問うていた。『
「……それは……」
「堕姫は短絡的に肯定していたが、私自身が柱と呼ばれる鬼狩りと会ったことはほとんどない。あるとすれば、
無惨の言葉に、黒死牟の脳裏で記憶が再生される。
かつて、
弟と共に戦っていた頃の、記憶。
「……その記録は……最早……鬼殺隊にはないはず……。私が鬼となり……彼奴が追放されたことで……抹消……された……口伝するような……後継も……殺し尽くした……」
「そうだ。故に、
「……確実な……記録が無い故に……確認したかった……」
「お前を探して鬼になった足跡を辿っているのか、あるいは」
そこから先は、言葉にしない。
互いに、口にしたくないものだということがわかっていた。
「……まあいい。確証がない以上、断言できることではない。奴が
黒死牟の返事を待たずして、琵琶の音と共に無惨の姿が消える。
残されたのは、黒死牟1人。
「……………………血族…………」
静寂の中、強く拳を握りしめ、骨が軋む音だけが響いた。
鬼舞辻無惨
柱殺せてないし上弦殺されるしで顔真っ赤状態。顔色良くなってよかったね。
自分のことを棚に上げさせたら世界一の男。
綾鼓に関しては直接姿を見せなければ問題ないので、組織力の高さとして鬼殺隊そのものと産屋敷一族の抹殺の方が先にやるべきであると考えている。
それはそれとして情報収集はする。
猗窩座
綾鼓が生きていたことを知り、悔しさと屈辱感で大変なことになってる。
”何故か”『人間の身ならば絶対に死んでいるはず』という確信があったため、ショックが大きい。
杏寿郎とあの小僧は絶対に殺す。
黒死牟
上弦の壱。人間だった頃は弟と共に柱として鬼狩りをしていた。
突然降って湧いた弟の血族(疑惑)に色々大変なことになっている。
何故お前だけが。