ジョジョの世界に転生しました。   作:鏡華

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4 年 後(迫真)(絶望)

劇場版無限城編が良すぎて出戻ってまいりました。

復帰一発目なのにオリ主不在というね。


温泉だよ不死川兄弟

かぽん。

 

どこかで石を叩いた鹿威しの音が、空しく響き渡る。

 

 

「………………」

「………………」

 

 

温泉はとても温かくて気持ちいいはずなのに、身体はガチガチに固まったまま動かない。

 

隣にいる兄ちゃんの無言があまりにも怖いからだ。

 

師範の取り計らいで兄弟揃って刀鍛冶の里に来たはいいものの、兄ちゃんはいつまでもしかめっ面で黙りこくったまま。

 

里の中でも離れず、師範のおつかい──手甲具足の予備の受け取りにも付き合ってくれたから、全く見限られたってわけじゃないんだろうけど。

 

それでもこの沈黙を破って話しかける心の準備はまだできず、いつもの辛辣な言葉が飛んで来やしないかとおっかなびっくり、湯船に身じろぎもできず浸かる。

 

というか、冷静に考えだしたら、里に来る直前に師範のことで兄ちゃんに大声出しちまったな……。

 

まずは母ちゃんのことを謝らないといけねえのに、更に謝らなきゃいけないことが増えてしまった。

 

 

目を閉じて、深く呼吸する。

 

駄目だ駄目だ、せっかく師範が作ってくれた機会をふいにするなんて、不甲斐ないにも程がある。

まずは心を落ち着けて、覚悟を決めて、ちゃんと兄ちゃんに言うんだ。

 

暗い視界の中、雑念を振り払おうと専心する。

師範の専属鍛冶師さん、ずっと泣き通しだったなあ、なんて思いも、一旦は心の隅に追いやって。

 

 

「…………──」

 

 

師匠にも師範にも瞑想は教わったんだ、得意なはずだろ。

 

 

「……──ゃ」

 

 

集中、集中だ。

 

 

「──おい、玄弥ァ」

 

 

如是我聞 一時佛 在舍衛國 祇樹給孤獨園 与大比丘衆──

 

 

「玄弥ァ!!!」

「はいぃぃぃぃぃっ!?」

 

 

耳をつんざく怒鳴り声に反射的にこちらも大声で返す。

小さい頃から聞いてきた兄ちゃんのお説教を思い出して、大袈裟に肩が跳ねた。

 

 

「……もう少し呼吸を抑えろォ。こっちにまでビリビリ来てやがる」

「えっ……、あ」

 

 

兄ちゃんの言葉に慌てて下を見ると、そこには自分を中心に大きく波紋を描く水面。

 

しまった、口にこの矯正器具をつけてると自然と波紋の呼吸になるから、大きく呼吸をすればその分練られる力も大きいなんて、当然のことを忘れていた。

 

 

「ご、ごめん兄ちゃん……」

 

 

あまりに周りが見えていない自分に顔が熱くなるのを感じながら、縮こまって肩まで湯に沈める。

こんな調子じゃあ、兄ちゃんに認められるなんて夢のまた夢──の、はずなのに。

 

 

「………………強くなったんだなぁ、玄弥」

「──、」

 

 

そう、ぽつりと。

染み入るように、感じ入るように、望む言葉を与えられたものだから。

 

 

「──ごめん、兄ちゃん」

 

 

考えるよりも先に、言葉が出ていた。

 

 

「あァ?」

「あの時、兄ちゃんが母ちゃんから俺を守ってくれた時、……”人殺し”なんて言っちまった。俺、わけがわからないで、気が動転しちまってて……。それを、謝りたくって、柱になれば、会えるって……。兄ちゃんは、ずっと俺のことを心配して、危険から遠ざけようとしてくれてたのに、それにも気づかないままで、」

 

 

ごめん。

 

 

しゃくり上げそうになるのを堪えて、震える声で思いを吐き出す。

自然と、”あの時”の──呆然と、兄ちゃんの目が褪せていく瞬間が脳裏によぎって、未だ波打つ湯面に視線を落とした。

顔があげられない。

 

 

「…………げん、」

 

「あ!不死川玄弥!……と、風柱の不死川さん!」

 

 

兄ちゃんの声が、溌剌とした雰囲気ぶち壊しの声に遮られた。

 

あんまりにもあんまりな乱入に、咄嗟に「うるせえ!」と声を荒らげる。

 

 

「久しぶり! 元気してた? その口につけているの何? 風柱と一緒にお風呂入ってるってことはやっぱりご家族なの?」

 

 

お構いなしにずんずん近づいてくる。無敵かこいつ。

 

最終選別でひと悶着あった同期──確か、名前は竈門 炭治郎。

 

師範からも話を聞いた。鬼の妹を連れているだとか。

 

きっと背に負っている木箱の中から感じる気配がその鬼で……。

 

 

あれ? これはまずいのでは?

 

 

俺の呼吸で波紋が満ちた温泉──鬼にとっては劇毒──波紋は水に留まる性質──もし飛沫でもかかれば──そもそも兄ちゃんの殺気が横からすごい──そういえば、この鬼の妹に対して滅殺派の筆頭が風柱だって──これ止めないと──でも俺自身が触っても──

 

一瞬の間にぐるぐると思考が回る。走馬灯ってこんな感じかもしれない。

けど、その状況判断の末、やっとできた行動は。

 

 

「──こっちに来るんじゃねえ馬鹿野郎ーーー!!」

 

 

視界に入った石を、あいつの額めがけて投げつけるだけだった。

 

 

 

***

 

 

 

「……裸の付き合いで仲良くなれると思ったんだけどなあ」

 

結構な強さで石を投げられてしまった。石頭のおかげで血は出てないけれど、まだ衝撃が頭に響いている感じがする。

 

あの後、気を取り直して、離れた位置に引かれている温泉に入ったけど、宿に戻って夕飯をいただくまで、あの2人と再び出会うことはなかった。

 

 

「どうかしたの?」

「あ、いいえ──」

 

 

と、こちらを覗き込んで尋ねてくるのは、恋柱の甘露寺 蜜璃さん。

 

そうだ、さっきのこと、念のために報告しておこう。

 

 

「そういえば、さっき甘露寺さんが出会ったのは、俺の同期の不死川玄弥でした。風柱の不死川さんとご一緒だったみたいです」

「えっ、そうなの?私が見かけたとき不死川さんいなかったから気づかなかったー!でも、不死川さん、弟はいないって言っていたような……何か心境の変化でもあったのかしら?

 あ、でも”玄弥”って名前は聞き覚えあるかも! そう! たしか綾鼓先生の継子がそんなお名前だったわ!」

 

「え!? 玄弥って綾鼓さんの継子なんですか!?」

 

 

驚いた様子の甘露寺さんから告げられた言葉に、今度はこちらが驚き返す。

 

 

「そうそう!元々は悲鳴嶼さんに師事を受けてたそうだけど、綾鼓先生に直々に引き抜かれたそうよ。言われてみれば、先生のお話のとおり、呼吸の訓練で不思議な装備を口につけてたし、あの子で間違いないんじゃないかな」

 

 

禰豆子を手慣れた様子であやしながら、甘露寺さんはそんなことを教えてくれる。

 

 

「へぇ、そうなんですね……。あの綾鼓さんの継子かぁ。すごいなぁ」

 

 

確かに、遠くからでもわかる努力の匂いがした。きっと想像もできないほどに頑張っているのだろう。

カナヲといい玄弥といい、同期なのにすごいなあ。

 

 

「甘露寺さんも"先生"と呼んでいるってことは、綾鼓さんの継子だったんですか?」

「わ、私!?いやいやそんなそんな!私は元は煉獄さんの継子だったの!煉獄さんは綾鼓さんに面倒を見てもらっていたそうだから、綾鼓さんは私の大師匠にあたるのかな。

──でも、"先生"って呼んでるのはそういうこととはあまり関係がなくって、単に私が先生を目標にしてるってだけ。私もあんな風になりたいって。まだまだ遠いけどね」

「甘露寺さん……」

 

 

ふんす、と胸元で両手を握りしめる甘露寺さんからも、たゆまぬ努力と決意の匂いがしてくる。

 

 

──継子も柱も、それが決して到達点というわけではない。

 

どんなに凄い人も、高い志に向かって走り続けている。

 

それを改めて思い知らされたようで、自ずと背筋が伸びた。

 

 

俺も頑張らなければ!

 

 

むん!と拳を強く握りしめたところで──襖の開く音がした。

 

 

「──おう、甘露寺。……と、竈門ォ」

「不死川さん!玄弥!」

 

 

噂をすれば何とやら。

食事の間に現れたのは、風柱の不死川さんとその後ろに控える玄弥──不死川兄弟だった。

 

不死川さんは俺の方を見るなりバシバシと敵意の匂いを漂わせているが、それを上回ってほこほこと温泉の匂いがしているので、そんなに怖くない。

 

 

「さっきまで温泉入ってたんですか?すっごく長風呂ですね!のぼせてませんか?」

「ンなこたどうでもいい。聞いたぜ竈門ォ。お前玄弥の腕折ったんだってなァ」

「あれは女の子を殴った玄弥が全面的に悪いので仕方ないです!」

「即答かよ。上等だァ表出ろ」

「わーっ!待って待って兄貴!別に仕返ししてほしくて言ったわけじゃねぇから!」

 

 

お、や?

 

 

玄弥の怪我に怒る不死川さんに、逆に自分の怪我なのに俺を庇う玄弥。

 

これまでの印象──どころか、ついさっきの温泉での態度と真逆だ。

 

温泉で石を投げられた時から今までの間に、2人に何かあったんだろうか。

 

嬉しさの匂いが流れてくる方を見てると、甘露寺さんがそんな2人の様子を、こらえきれない笑みをにまにまと浮かべながら見ている。

 

 

「おい、甘露寺ィ。なんだその顔」

「んーん?」

 

 

水を向ける不死川さんにも臆さず、いよいよ甘露寺さんは顔を綻ばせる。

 

 

「──やっぱり、綾鼓先生はすごいなあって」

 

 

そんな甘露寺さんの言葉に、玄弥は嬉しそうに笑い、不死川さんはばつが悪そうに顔を背けた。




鉄刀木(たがや)
波柱の専属鍛冶師。
刀鍛冶の里で必死に刀鍛冶としての鍛錬を積んできたのに担当の柱が刀を振るわないので手甲やら変な絡繰りやらを作り続ける羽目になった人。可哀想。
矜持やら自己肯定感やらが沈みきっているのでよくめそめそと泣くが、その一方で鍛刀の技術に属さない精緻な金属加工に長けており、唯一無二の人材として里で重宝されている。
なお本人は気づいていない。可哀想。

不死川 玄弥
温泉で積りに積もった話を全部ぶちまけて無事に兄と和解。
兄は弟のために、弟は兄のために戦う鬼殺ブラザーズが爆誕した。
炭治郎にも石を投げた件をはじめ諸々について説明・謝罪をして打ち解けた。
焦りが消えて地金の心優しい弟気質が前面に出ている。

不死川 実弥
温泉での長風呂長話の末に弟と和解。
弟を追い出すための態度も軟化したが、鬼殺の覚悟は揺るがず。
寧ろ「絶対に弟を生かして帰す」という別種の覚悟が固まった。
ふと冷静になって「刀鍛冶の里なんだから呼吸矯正器具は製作者の鍛冶師が外せるし、わざわざ自分が付き添わなくてもよかったのでは」という事実に気づき、頭を抱えたのはまた別の話。
長時間の波紋風呂の影響で全身の傷跡がかなり薄くなった。

甘露寺 蜜璃
恋柱。炎柱・煉獄 杏寿郎の元継子。綾鼓から見れば孫弟子。
「特異な体質を鬼殺に活かし、”普通じゃない”ことを隠さずに自分らしく生きる姿」の憧憬を綾鼓に見ていて、目標としている。
なので「柱の男」発言については綾鼓本人からの説明があるまで結構本気でショックを受けていた。ほんまごめん(by綾鼓)
不死川兄弟の和解に綾鼓が関与していることを察せたのは、恋のときめきセンサーが仲人の存在を感知したため。
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