拙作は優しい世界でいきます。
え、無惨様?知らない人ですね。
9/7:感想にてエモい設定いただけたので追記。これだから小説投稿はやめられねえぜ。
「──やっぱり鬼なんじゃないか?あの人」
不意に聞こえた声に、足を止める。
角の向こうから若い声。新入隊士か。
この藤の家紋の家にいるということは、任務後の療養中だろうか。
鬼との戦闘で生き残るとは、将来有望だ。
しかし、誰のことを話しているのか──
「ああ、あの
「俺の親父も鬼殺隊だったんだが、親父が現役だった時にはもう柱だったって聞いたぜ。何歳なんだ」
「おまけに日輪刀も使わない。見たか?殴っただけで鬼の頭が焼け崩れた」
「いやいや、鬼が太陽の下を歩けるかよ。こないだ日向ぼっこしてるの見たぞ」
「いやいやいや、そういう異能の鬼なんだって。傷を癒すのだってきっとそれだ」
──理解した。
そして、またか、とも思う。
無理もない。
俺もかつてはそう考えた。
恩師──鱗滝さん直々に旧友だと伝えられた時、この人も冗談を言うのだと思った。
本人から年齢を聞かされた時も、冗談だと一笑に付したのを覚えている。
だって、そんなことは、鬼でしかありえない。
──そう、自分が言った時、あの人はどんな顔をしていただろうか。
思い出すのが怖くて、何時の間にか忘れてしまった。
「傷を癒やすのは呼吸の型の1つだと聞いたぞ。独自の呼吸を作るのなんてそう珍しい話じゃない」
「じゃあ何で1人しか使えない?あんな凄まじいもの、基本の五つの呼吸よりよっぽど広めて、繋げていくべきものだろう。継子はおろか弟子の1人もいないのは不自然だ。
──そっか、お前たちでも、この呼吸はできないか。
申し訳なさそうな声音で、頭を撫でられた感触が蘇る。
──鍛錬の邪魔をして悪かったな。私のことは気にせず、左近次の教えを継いでやってくれ。
「仮に鬼だとして、何でわざわざ鬼殺隊──鬼狩りの本拠地にいる?陽の光を克服したんだ、鬼舞辻を下克上して、
「その準備段階だとしたら?」
「……どういうことだ?」
「更なる力をつけるために、
「隊士を喰うために、鬼殺隊にいる、ってことか!?」
「ああ、この国で鬼殺隊の隊士以上に鍛え抜かれた精鋭なんてそうはいない。柱ともなれば極上の餌だろうよ。
それに、喰った後に『敵の鬼にやられた』とでも嘯けば、死体を誤魔化す必要もない。何人も死んでいく中に紛れ込んでしまう」
何ともまあ逞しい想像力だ。
毎年、階級の低い隊士たちのなかで1人2人、こういうことを言いだす輩がいるのは知っている。
ただでさえ、鬼に恨みを持つ人間ばかりが集まる場所だ。
悪鬼滅殺の緊張感の中で、神経質になってしまうのは仕方がない。
異質なものを、何でも鬼と結びつけてしまうこともままある。
きっと俺も、鱗滝さんがいなければ疑念を払いきれなかっただろう。
この隊士たちは、きっと
鱗滝さんも錆兎もいないまま、己の内に籠った考え方しかできなかった自分。
あまり逸りすぎる前に、諭してやらねばなるまい。
しかし、
止まっていた足を動かし、彼らの視界に入ろうとする──
「あの
──今、こいつは、何を言った?
「鬼を倒してから、真っ先に腕を探しに行ったのはあの女だろう?柱の肉を他の鬼に喰われるのが我慢ならずに走っていったんだよ」
「はは、どんなに取り繕ってもやっぱり鬼は鬼か」
「案外、俺たち新入りを構うのも、将来喰うための人間を育てているのかもな」
あまりの怒りに、3人の隊士たちの声が遠くなっていく。
ふざけるな。
俺はあの時、必死になって腕を繋げようとしてくれたあの人を知っている。
鱗滝さんに泣いて詫びていたあの人を知っている。
ずっと俺たちを見守ってくれていたあの人を知っている──!
感情のままに、足を踏み出そうとしたところで。
「──言いたいことは、それで全部か?」
意志の強い、聞き慣れた声。
錆兎だ。
そこには俺と同質の怒りが滲んでいる。
「みっ……水柱様!」
隊士たちの声音が焦りに染まった。
「療養中で口しか動かせないのはわかるが、男3人が雁首揃えて女の陰口など、情けないとは思わんのか」
「す、すみません……」
「で、でも!怪しいとは思わないのですか!刀も使わない、老いもしない!そんな、人かどうかもわからないものを、柱として仰ぐことはおろか、鬼殺隊として認めることは、自分にはできません!」
縮こまる2人を他所に、まず最初に話を切り出した隊士が食い下がる。
「人の中にいてもそれを襲わず、太陽の下を歩き、藤の花も厭わない。ここまで乖離すれば、たとえ人でなかろうと鬼ではない。そんな判断もできないのか。
第一、あの人は誰よりも長く鬼殺隊に所属し、貢献している。お前が何と言おうと、その事実は揺るぎない。俺の腕だって、あの人の処置がなければもっと酷いことになっていた。お前はあの人ほど鬼を滅したか?人を救ったか?」
「そ、れは……!」
「男ならば、口より行動で示せ。身も心も未熟なお前は、未だ男ですらない」
「……!」
「それと、上の者の名前は正しく、敬意を持って使え。あの人は『隠柱』ではなく『波柱』。そして、
隊士たちが何も言わなくなってしまったのを見て、錆兎は話を切り上げたようだ。
──流石だ。俺ならば、あんな風に諭しながら叱咤することはできなかっただろう。
やはり、水柱に相応しいのは錆兎だ。
俺の腕が斬られていればよかったのに──。
「また馬鹿なことを考えているな、お前」
何時の間にか、角から顔を出していた錆兎が、こちらを睨む。
「しっかりしろ。これからはお前が水柱なんだから」
「……俺は、きっとお前のようにはなれない」
額に衝撃。
指で軽く弾かれた。
「それが馬鹿な考えなんだよ、義勇。俺のようになる必要なんてない。お前はお前が正しいと思う道で皆を導いていけばいい。水の呼吸に新しい型を誕生させたお前を、柱に相応しくないと思う奴なんていないさ。
……ま、その言葉足らずな部分は多少直した方がいいな。人の上に立つ以上は」
「──……」
やはり、錆兎はすごい。
胸が軽くなると同時に、双肩に責任を感じて、背筋が伸びた。
最終選別を突破していない俺でも、錆兎に助けられっぱなしの俺でも、隣に誰かがいてくれるなら、頑張れる。
命と、未来を、繋いでいける。
「うむ!冨岡はもっと言葉を尽くした方がいい!その調子では柱合会議の折に皆の足を引っ張ることになるぞ!」
溌溂とした、よく通る声が廊下に響く。
意志の強い瞳、温度の高い炎を思わせる髪。
炎柱──煉獄 杏寿郎が、立っていた。
「煉獄、お前も来ていたのか」
「ああ!次の任務に向けての物資調達だ!
声と空気の圧に、やや圧倒される。
平然としている錆兎は、流石、柱として付き合いに慣れているのだろう。
俺はこいつとやっていけるだろうか。
「やめろやめろ、俺は恩師が詰られているのが我慢ならなかっただけだ。そんな高尚な行動じゃない」
「行動原理は俺も同じだ!
煉獄の言葉に、いつぞやあの人から聞かされたことを思い出す。
曰く、鱗滝さんが自分にしてくれたように、生活の面倒をみていたらしい。
真菰と一緒に、鍛錬もつけていたとか。
2人とも流派は異なるため、炎の呼吸自体は独学で極めたのだと、自分のことのように自慢げに話していた。
素晴らしい逸材だ。
同じ柱でも、格が違う。
「まあ、事情を知らない奴らからすれば奇妙に見えるのは仕方がない。俺でも未だに信じられないからな、あの人の年齢」
「ああ!父上も『あれは妖怪か物の怪だ』と気味悪がっていたな!
──だが、俺は
──私だって、老いないわけじゃあないんだよ。すごくゆっくりにしてるだけ。
──鬼を滅するために、鬼舞辻を討つために、悪あがきの時間稼ぎをしているだけだ。
──いつかは終わりが来る。それでいい。それが人間だ。
──老いの恐怖も死の恐怖も、当然ある。でも、それを踏み越える“勇気”を持てるのが人間の強みなんだ。
──鬼には無い、人間だからこその美しさと強さだ。
──お前たちは、その勇気を忘れなければ、きっと誰よりも強くなれるよ。錆兎、義勇。
「単純だな。俺にはとても真似できん」
「よもや!この流れで罵倒されるとは思わなんだぞ冨岡!」
「待った、違うんだ。『竹を割ったように実直な物言いは自分にはできないから感心した』って言いたいんだ義勇は」
「なんと!言葉が足りないにも程がないか!?柱どころか他の隊士からも嫌われるぞ!」
「……俺は嫌われていない」
「あー、うん。そうだな……。でも俺もずっとつきっきりで通訳できるわけじゃないんだ。しっかりしろよ」
「わかっている」
もう、2本の足で立つ力は貰った。
錆兎がいる。仲間がいる。恩師がいる。
それだけで、自分はどこまでも力を出せる。
仲間のために、戦える。
綾鼓 汐
波柱。そろそろ還暦が見えてきました。やっべえね!
入隊当時から人外だ鬼だと言われてきたけど、最近その声が強くなってきた。悲しい。
けど慕ってくれる後進も多くてうれしい。よーしおばあちゃん頑張っちゃうぞ!あと20年は現役だ!
綾鼓の別称であり蔑称。
剣の才が一切ないにも関わらず、柱になった彼女を揶揄して、剣の才がない者が行き着く部隊"隠"の字をとって呼ばれるようになった。
本人は、一生懸命隊に尽くしてくれている隠を蔑称に用いることに憤懣やるかたない。隠たちには会うたびに謝っている。
当の隠の面々は、形はともあれ、裏方でしかない自分たちの名前が鬼殺隊の、しかも柱の名前となっていることが嬉しいらしい。
本人がいないところでは"波柱"よりもこちらの方がよく呼ばれているため、知名度が高い。
時に、
錆兎
元水柱。任務で他隊士をかばった結果、片腕を失い、一線を退いた。
孤児のため、恩師である"鱗滝"の姓を名乗っている。
跡を継いで柱に就任したての兄弟弟子が心配。いろいろな意味で。
精一杯補佐してやらねばと使命感に燃えている。
真菰は姉弟子。
冨岡 義勇
つい先日、水柱に就任。
錆兎が隣にいることで多少前向きになったが、最終選別で錆兎に助けられたことによる自己肯定感の低さは相変わらず。
一言足らずで誤解を受けやすいが、錆兎によるフォローで多少は緩和されている(本当に多少)。
この後、任務で訪れた山にて兄を庇う鬼と出逢う。