―何故貴方は、私の手を握り続けるの?―
ある月夜の晩、あの人に唐突にかけられた問がそれだった
最初はどういう意味の言葉か理解しかねた
けど、あの人の話を聞いていくにつれ、意味を理解した
―私のやろうとしていることは、所詮はただの妄執。よしんば事を成就させたところで、かつてと同じように振り払われて終わってしまう可能性の方が遥かに高い、いえむしろ確実にそうなるでしょうね。貴方だって、私の身の上を知っている以上それは分かっている筈よ―
何故徒労になると分かっている自分の計画に付き合うのか
あの人はそう言ったが、俺の中でその答えは既に出ていた
―徒労ではない、少なくとも俺にとっては―
確かにあの人にとってその行動は、ただ自分の妄執を満たす為の独善でしかないのだろう
だがその行動によって否応にももたらされるだろう結果は、間違いなく俺の悲願を遂げてくれると、そう確信していた
身も蓋もない話だが、あの人が俺を手駒として利用していたように、俺もまたあの人の手段を利用させてもらっているだけだ
それを話したらあの人は周りも憚らず声を大にして、腹を抱えて笑った
―まさか、何千年と生きてきた私が生まれて高々十数年の子供に謀られるなんてね。あまりの仕様もなさに思わず年甲斐もなく笑っちゃったわ―
目尻に涙を溜め尚も笑いながら言うあの人の顔は、何か憑き物が取れたように晴れやかで、いつの間にか俺もつられる様に笑っていた
そして決めた
必ずあの人を守り抜き、あの人の計画を完遂させてみせると
――――――――――
結論から言えば、後に『ルナアタック』と銘打たれたこの計画は完全に頓挫
計画を実行に移す為の時間稼ぎとして俺も敵対勢力『特異災害対策機動部二課』に属するシンフォギア装者三名と相対するも敗北
計画の要にして切り札である荷電粒子砲『カ・ディンギル』は月を仕留めきれないうちに破壊され、主導者だったあの人『フィーネ』も現存する三つの完全聖遺物全てで武装していながら内の一つ、カ・ディンギルの動力に使った『デュランダル』を奪われ自身の纏っていた『ネフシュタンの鎧』と対消滅
残った『ソロモンの杖』によるノイズ制御にしたって、限定解除された“XDモード”のシンフォギア装者相手には焼け石に水、召喚したそばからまとめて消し飛ばされる始末
まさに完封負けだった
事件終息後、フィーネは依代の肉体を維持できなくなり一時的に表舞台から退場
俺もフィーネの協力者ということで特異災害対策機動部二課預かりで身柄を拘束された
だが、良くも悪くも人の予測を斜め上に裏切ってくれる二課の連中にはほとほと呆れ果てた
実際、三ヶ月後に起こった『フロンティア事変』の半ばまでは、確かに自分は拘束されていた
だが、よりにも寄って自分とフィーネを負かした一番の立役者が当時二課と対立していた組織『F.I.S.』所属のシンフォギア装者と一緒に俺を解放した
挙句理由が“自分の望むように動いて、その上で利害が一致するなら協力して欲しい”
更に周囲の大人は咎めるどころか子供の成長を見守る親のような目で見る始末
最早言葉がなかった、こんな連中に自分は負け、更にはフィーネが希望を託した当の本人は“人助けが趣味”などとほざく重度のお人好しで、普段は周囲からあのバカだの残念な子だの言われる程の天然ボケ
正直泣きたくなった
結論から言えば、俺とF.I.S.側の装者三人を加えた計七名の特記戦力と一名の民間協力者の手によりこの事件も終結
二課と対立していた側の装者達は事態収拾に貢献した実績から二課の監視下に置かれる形ではあるが事情聴取のみで全員ほぼお咎めなしという結果となった
そう、“全員”だ
つまり、F.I.S.の装者たちは勿論のこと、ルナアタックの時点で対立していた俺までもが監視付きという形で釈放された、否されてしまった
声に出して問いたかった
―こんな連中に任せて大丈夫か人類。それで良いのか世界―
そんな疑問に答えてくれる人間がいるはずもなく、ただ俺の中で虚しく漂い続けるのみだった
そんな顛末を辿って今に至るワケだが、今俺が何をしているかというと・・・
「リディアンに編入だと!?」
「そうだ。監視の簡略化と社会復帰の効率化を兼ねて、君には切歌君、調君と共にリディアンに編入してもらう」
二課本部で指令の風鳴弦十郎と格闘(言語)していた
私立リディアン音楽院
二課所属の装者たちも通う音楽学校でありルナアタック以前は二課本部を隠すカムフラージュの役割も担っていた
確かにそこならば監視対象に不足の事態が起きようと即座に対応できるだろう
だがそこに編入するという一点において先の暁切歌と月詠調の二人はともかく、“男”の俺には致命的な問題があった
「女子校に通えるわけないだろうが!」
そう、リディアンは女子校
先の二人はともかく俺はまず性別の時点で入学不可能なのだ、常識的に
「そう言うと思って、既に対策はとってある」
そう言って風鳴指令が一枚の書類を出してきた
内容は至極明快
要はリディアンの教育過程をより幅広く浸透させるために共学制に変える試金石として、試験的に俺を編入させるというものだった
「既に決定事項として校内の全掲示板に貼付済みだ」
「行動力が無駄すぎる・・・」
本当に、毎度呆れるしかない行動力だ
聞けばこの司令官、ルナアタックの折にネフシュタンを纏っていたフィーネを生身で圧倒したとか
こいつ人間か?
というか、仮にそれで性別上の問題をクリアしたところで対人関係の問題がある
ルナアタックの折、リディアンの生徒は旧本部内のシェルターに避難していたが、戦いが佳境に入ったところで二課の連中の誘導の下脱出し地上に出た生徒が複数いる
当然その生徒には自分がフィーネの傍にいたところも見られているワケで
「事を知っている生徒が許容するとは思えないんだが・・・」
「事前に本人たちに確認をとってみたが、響君達が認めているなら文句はないそうだ」
「・・・・・・・・・」
不貞寝でも決め込んでやろうか
結局、あらん限りの不安要素を提示して抵抗するも、その悉くを潰され敢え無く俺のリディアン編入が決まった
――――――――――
・・・かに思われたが、ある意味でそれ以上の厄介事が舞い込んできた
後日、編入に合わせて準備の為買い出しに街に出ていたところで爆音
何事かと向かってみると、銃器で武装した数名の覆面と機械じみたデカイ鎧を纏う女が一人
何処から盗み出したのか知らないが『インフィニット・ストラトス』を保有するテロ集団だった
ISと略されるその機動兵装は、フィーネとの会話でも“悲願達成に於ける最大の障害の一つ”として度々話題になっていた
曰く―――
―ただでさえバラルの呪詛で言語の段階で支障をきたしているというのにこの上男女差別などという根源的な問題まで激化されては手に負えない―
―――とのこと
斯く言う俺自身もアレに個人的に思うところがあったのも災いし、即効で集団を制圧
女からISを取り上げたところ、何故かISが俺に反応し起動
それを大勢のギャラリーや警察機構の人間に見られたとあっては逃げようもなく
更に後日、二課に俺へのIS学園入学要請が書かれた書面が届けられた
―――――
学園入学の要請が届いて二ヶ月
政府からの直々の辞令ともなれば二課の連中も抗いようがなかったようで、俺のIS学園入学はスムーズに処理された
途中適性検査だのデータ採集の為に専用機がどうだのと面倒があったが、検査はそこそこに、専用機は話題に出た瞬間に即却下の旨を先方に叩きつけて終わらせた
ただでさえこっちは極力関わりたくなかったものに否応なしに関わらせられて苦心しているというのにこの上専用機など持たされてはたまったものではない
入学式を終えて自分のクラスであてがわれた席に着き、学園側の次の沙汰を待つ間、とにかく周りの視線が鬱陶しい
早いところ担任が来てHRでもなんでも始めてくれないものか・・・
ガラッ・・・
「全員揃ってますねー。それじゃあSHR始めますよー」
扉を開いて入って来たのは到底成人しているとは思えない低身長とそれにそぐわない巨乳のメガネをかけた緑髪の女
ちなみに俺はこの女に見覚えがある
適性検査の際に行われた模擬戦の相手だった
といっても、真っ向から突っ込んできたのを避けたら転けて自爆しただけだったのだが、それが逆に印象的すぎて記憶に残ることになったわけだが・・・」
「うぅ・・・フレムヴェル君、幾らなんでもその覚え方は先生ひどいと思うんだけど」
「ん?」
思考を中断して前を向けば涙目でこちらに訴えかけてくる教師
どうやらいつの間にか思考が口から漏れていたらしい
ちなみに思考中も話は聞き取れているため、今の状況は把握している
副担任の彼女、山田真耶の指示の下、クラス内の自己紹介で今丁度俺の番が回ってきたところだ
「そう思うなら模擬戦で、それもズブのド素人相手に自爆なんて無様を晒すなよ」
「あぅッ!?」
軽く副担任に止めを刺してから席を立ち、後ろに振り返る
どういうわけか席が最前列中央というなんとも微妙の一言に尽きる位置取りだったため、後ろを向けばクラスのほぼ全景が見て取れる教壇とほぼ変わらない位置条件なのだ
「ロード・フレムヴェルだ。必要以上の関わりを持つ気は無い。お前らと馴れ合う気も戯れ合う気も無い。周りで世間話をするのは勝手だが俺に話題を振るな、俺に話し掛けるな。」
ここまで言うと周囲の目が多少引っ込む気配があった
おそらく後ろでは副担任が涙を引っ込め顔を青くしているだろう
だが未だ終わらない
まだ言うべきこと、そして見せつけるべきものがある
「それからもう一つ、俺の存在が気に入らないと喧嘩をふっかけるのは自由だ。だが俺は降りかかる火の粉は容赦なく振り払う。結果手足の一本でも折れようが俺は取り合わんし謝罪もしない。例えばッ!」
後ろに感じた敵意に跳躍
直前の位置を角を金属で補強した黒い革張りの冊子―出席簿が上から下に斜めに通る
出席簿を振り下ろした人物が素通りした事実に一瞬体を硬直させる
ドスッ!
その脳天に回転運動で威力を上げた踵落とし
ガンッ!!
そのまま体重をかけて頭を押し込み机に顔面を叩きつける
この間わずか一秒前後
「このように向かってくる奴は容赦なく叩き潰す。その結果お前らがどのような怪我を負おうが俺は知らん。全てはお前たちの自業自得だ」
動作の結果乗ってしまった机の上から降りながら話を締めにかかる
「俺が気に入らないならすべての責任を負う覚悟を持って向かってこい。俺がお前たちを蹴散らしてどのような結果になろうがそんなものは知らん。以上だ」
ここからだ・・・
ここから全人類を引っ掻き回す狂騒劇が始まる・・・
終わりは希望か?はたまた絶望か?
それは未だ誰の目にも映らない・・・