「え…ここって…」
目の前に聳え立つ大きな校舎。
慌てて駆け込んでいく生徒達。
「職員室なら階段上がって右側の突き当たりだ。早くしねぇと遅刻すんぞ」
「え、ちょっと!」
それだけ言い残すと、いつの間にか上履きに履き替えていた夜神さんは私の返事を待たずに掻き消えた。
キーンコーンカーンコーン
「やばっ」
呆気に取られているとこの学校の予鈴と思える音が私を現実に引き戻した。
兎に角、職員室に向かおう。
転校初日に遅刻なんて色々問題だ。
ーーーーーー
(やっぱり、緊張する…)
何年学生をやっていようともやはり職員室特有の緊張感は拭えない。
時間もあまり残されていないし、早く中に入らないといけないのだが、どうしてもその一歩が踏み出せずにいたのだ。
(いつまでもここにいるわけに行かないし…)
もやもやとした感情を追い払うかのように頭を振り、職員室の扉へと手を伸ばす。
ガラッ
「ひっ…!?」
「っ!」
ノックするより早く扉が引かれ思わず手を引っ込めると、中から女の先生が出てきた。
緋色の髪に新緑の瞳。
口にチュッパチョポスの棒を咥え、よれよれの白衣を纏った一人の女性教師がいた。
「あの…」
「あーもしかしてあんたが転校生?」
「えっ…」
夜神さんの時もそうだったけどどうしてみんな私が転校性だと分かるのだろうか。そして人の話を最後まで聞こうとしない。
教師と思える人の質問に頷きながら密かに首をかしげる。
「まぁ、この時間で職員室前を理由もないのに立ち往生してる生徒なんていないからね。
それに、あんた2年生のようだけどうちの学年では見たこと無かったし」
「そ、そうなんですか…」
エスパーか?エスパーなのかこの人は。
私の疑問を先回りして解決していきながら、当の本人は涼しい顔をしている。
混乱する私を置いておいて、腕時計を確認した先生は小さな欠伸をひとつ漏らすと歩き出した。
「あの…」
「何ぼさっとしてんの。
転校生。初日から遅刻でもするつもり?」
「へ?でも、担任の先生が…」
「担任?ここにいるじゃない。」
「はい?」
思わず耳を疑った。
担任?この人が?名前も知らないだるそうで眠そうでやる気のなさそうなこの先生が!?
「そういうのはねぇ…表に出さないのが道理ってもんよ。
あたしの名前は
これからあんたが生活することになる2年E組の担任さ。
そういう事だから、早くしなさい。
それ以上時間取らせるようだったら置いていくわよ。柏木まゆる。」
「わ、わわ!はい!」
こっちの心情などお構い無しの相咲先生。
遅刻はどうしても避けたいため、遠ざかっていく背中を追いかけた。