相咲先生の後に続いて廊下を歩くとこれからお世話になる教室の前に到着した。
ガヤガヤと賑やかな声が廊下まで聞こえてきて明るいクラスだということが伺える。
「で。ここが教室な訳なんだけど…大丈夫?」
「だっだだだだいじょうぶでひゅ!!」
「…あー…そんな気負わなくてもうちの連中はバカばっかりだけど悪い奴らじゃないから」
緊張のあまりまともに返事できなかった私に相咲先生は苦笑した。
最初の印象を覆すかのような優しい表情に驚くと同時、少しだけ心が落ち着いた気がした。
その様子を確認した相咲先生は小さく頷くと教室の扉に手をかけた。
「あ。らんらん、おはーって誰その子!
もしかしなくても噂の転校生!?」
「ひっ!?」
「はい、おはよう。その呼び方やめろって言ってんでしょ。あと転校生怖がってるから。
ほら、紹介するからさっさと席つく」
教室に入るや否や私を見た生徒が声をかけてくる。あまりの勢いの良さにたじろぐと呆れ顔の相咲先生が間に入ってくれ、周りにいた生徒達も自分の席へと戻っていく。
「じゃあ、はい。自己紹介して」
「え、ええと…柏木まゆるです…!
好きな物は…」
頭に浮かんでいたことは先の出来事で全て吹き飛び真っ白状態。
どうしよう…何も浮かばない!!
自己紹介なんてあまりやらないし、趣味だってこれと言ってないし…どうすればいの!?
相咲先生は…!?
「…zzzzzz」
ね、寝てる──!?
助けを求めて先生の方を見ると壁に寄りかかった状態で寝息を立ててらっしゃった。
お疲れなのは重々承知のつもりだけどもう少しだけ頑張ってもらいたかった…。
「ねぇ、君唯斗と身長同じくらいじゃない?かわい〜」
「テメェは黙っとけ!!総悟!!」
「!?」
どうしようか悩んでいると、からかうような声が聞こえたかと思えば、直後聞き覚えのある声がそれをシャットアウトした。
「え…夜神さん!?」
「…よぉ…柏木…」
誰かと思えば今朝助けてくれた男の子、夜神さんだった。
驚きのあまり叫んでしまうと、周りの生徒の視線が一気に彼に集中とした。
(すみません、夜神さん…。わざとじゃないんです…。)
「あれあれ〜?唯斗もしかして…っておっと!危ない危ない〜」
夜神さんの近くにいた麻栗色の髪をした男の子が何か言いかけると異常な威力で投げられた筆箱が先の言葉を制した。
総悟と呼ばれた男の子の顔スレスレに刺さった筆箱。パラパラと崩れ落ちる教室の壁。
「な、な…」
なんですとぉ———!?
叫ばなかった私は偉いと思う。
誰か褒めて←
て言うか、なんでみんな反応しないの!?
なんで「あー、また始まった」見たいな顔してるの!?
「ちょっと〜事実を言われそうになるのが嫌だからって暴力はないでしょー?」
「よぉし、わかった。
じゃあ重力に潰されるか雷で焼かれるか好きな方を選べ。心配するな。楽に逝かせてやるよ。」
2人とも表面上は笑顔を取り繕っているけど、間に流れる雰囲気は最悪だった。
何これ…もう帰りたい。
「ちょっと、唯斗も総悟も落ち着いて。
教室が壊r
「「テメェは黙ってろロン毛!!」」
「ロン毛って言うなぁぁぁぁっ!!!!」
見事なとばっちりを喰らった青髪の男の子も交えてさらにギャアギャアと喧しくなる教室内。もう自己紹介所じゃない。
収集がつかなくなり誰もが諦めの境地にいる中言い争っている3人めがけて白い物体が飛んで行った。
ゴッと言う鈍い音を響かせて突き刺さるチョーク。パラパラと崩れ落ちる壁。何だろうこの既視感。
「ギャーギャーギャーギャー喧しいのよ。
ここは動物園ですかぁ?」
「あ…相咲先生!」
真っ青な顔で固まる夜神さんたちを気に止めることなく眠そうな教師は小さな欠伸をひとつ漏らす。
「えーと…柏木の席は…あぁ。
夜神の隣空いてるからそこね。
わかんないことは夜神が全部教えてくれるから大丈夫よ」
「はぁ!?丸投げかよ!!
あんた取り敢えず教師だろ!?」
「あんた達がテストの度に赤点連発するせいでこちとらろくな睡眠とれてないのよ。
それとも何?次のテストは赤点出さずに完璧にやり通すって事かしら?」
「…チッ。わあったよ。やればいいんだろ」
目が死んでいる相咲先生から放たれる真っ黒いオーラに一瞬たじろぐ夜神さん。
舌打ちを漏らすと渋々役割を引き受けた。
対する先生はといえば、わかればいいのよと言わんばかりに満足げに頷いていた。
え、ちょっと待って。私あそこに座るの?
「うん。物わかりが良くて大変よろしい。
じゃ、あたし行くからあとはあんたらで好きにやりな〜」
言うだけ言うと教室を出ていってしまった相咲先生。
改めて自己紹介する気にもなれず、かと言って逃げ出してしまえば命の保証があるかどうかもわからず私は自分の席へと向かった。