トラブルしか無かった朝のHRから1時間目をどうにか乗り切り、束の間の休憩時間に大好きな親友に抱きついた。
「ひ、妃葵ちゃぁあぁあぁぁんっ!!!!」
「のわっ」
「ふぇぇぇ…妃葵ちゃんが一緒でよかったぁぁぁ…」
「よしよし。浪人せずに済んでよかったねぇ」
引っ付いた私を優しく撫でてくれるのは小学校からの幼馴染みである
同い年なのにしっかりしてて私にとっては頼れるお姉ちゃんみたいな存在。
「にしても あんた勉強大丈夫なの?
去年ギリギリじゃなかった?」
「うっ…」
姫葵ちゃんの言うことは最もで自分で言うのもあれだけど、私は恐ろしい程に勉強ができない。
毎回テストの度に追い込まれ必要最低限を頭に叩き込み、どうにかこうにかしのいできたのだ。
学生のうちは逃れられないテストという悪魔の存在に震え上がっていると、そんなことを吹き飛ばすような怒鳴り声が聞こえた。
「総悟!テメェまた俺の消しゴム勝手に使ってんな!?」
「消しゴムごときでケチ臭いなぁ〜
そんなんじゃモテないよ?」
「喧しいわ!!
何が悲しくて消しゴム代だけで財布軽くしねぇとなんねぇんだ!
ふざけんな!!」
額に青筋を浮かべる夜神さんにそれを軽く受け流す彼の前の席に座る男の子。周囲を見渡せば誰もが夜神さんに哀れみの目を向けている。
一体彼らの関係はどうなっているのだろうか。
それよりも夜神さん、そんなに怒って血管切れないといいけれど…。
「ん?どうしたの?」
「いや、あれ…」
「あぁ…。唯斗と総悟のこと?
大丈夫よ。アイツらなら。だって…ほら」
目の前で繰り広げられる光景を指させば、姫葵ちゃんが苦笑した。
彼女の視線の先を追えば、先程巻き込まれた男の子が2人に近づいていく。その後ろにドス黒いオーラが見えたのは気の所為なのだろうか。
「お前ら、何時までやっている!!」
ゴツンっという鈍い音。
頭を抱えて蹲る2人。
何があったかといえば青色の髪を一纏めにした男の子が鉄拳を下していた。
自己紹介の時とは違った展開に開いた口が塞がらない。
一見柔らかそうな雰囲気を纏っている男の子は拳一つで喧嘩していた2人をあっさりと沈めてしまった。
「だっ…何すんだ奏!!」
「痛た…絶対たんこぶ出来たよこれ…」
頭を抑えながら抗議する夜神くんと彼の相手をしていた男の子。
2人の頭には漫画のような綺麗なたんこぶが出来ていることに背筋に冷たい何かが走った気がする。
「ごめんね、柏木さん。
俺、
「よ、よろしく…黒井くんと…北帝くん…」
「総悟でいいよ?呼びにくいでしょ、北帝って」
「俺も。好きなように呼んでくれて構わないよ」
一転して置いてけぼりだった私の存在を思い出したのか、自己紹介をしてくれた。穏やかな雰囲気に戻ったことにほっと胸を撫で下ろす。
とんでもないクラスに来てしまったのは間違いないと思うけれど、悪い人たちではないのだと思う。
ただし、黒井くんもとい―奏くんだけは絶対に怒らせないと心にキツく誓ったのだった。