声と境界線   作:うめもち

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第6話 始まりは突然に

授業が終わって家への帰り道をフラフラと歩く。きゃっきゃっと楽しそうに横を駆け抜けていく小学生達の元気がほんの少し羨ましい。

あの後、相咲先生の言い付け通り嫌々ながらも学校案内をしてくれた夜神さん。

面白そうだと言って付いてきた総悟くん。

2人一緒は不安という奏くんと頼み込んで付いてきて貰った姫葵ちゃんたちと一緒に色々な所を回った。

が。

まぁ、行く先々で喧嘩になるわなるわで。

夜神さんの怒号と奏くんの鉄拳が猛威を奮った。

 

まだ初日だと言うのに何なのだろうかこの疲労感は。

 

平和な学校生活を望んでいた私の願いは見事に裏切られこればっかりは自分の体質といるのかどうか分からない神様を本気で呪った。

そんなことを考えていたせいだろうか。

気が付けば知らない道に迷い込んでしまっていたのは、

 

否。

 

知らない訳では無い。

少なくとも私はこの道を知っている(・・・・・)

見慣れた住宅街。馴染んだ通学路。

何一つ変わっていないはずなのに拭いきれない違和感がそこにはあった。

 

「どうなってるの…」

 

行けども行けども変わることのない景色。

本来ならば私の家であるはずの施設が見えてくるはずだ。

それでも景色が変わることは無い。

ハリボテのように同じ景色が消えては現れる。

 

「誰か…!?」

 

助けを呼ぼうとした時だった。

もう1つの違和感に気付いた。気づいてしまった。

 

「なんで…」

 

人の気配が全くと言っていいほどしないのだ。

小学生達の楽しそうな声も、自由に空を飛び回るカラスの鳴き声も消え、自分の荒い息遣いと足音だけがやけに大きく響いていた。

 

『コわイねェ〜コワいヨォ〜

だから…

 

こっちへ…おイデ?』

 

「妖…!!」

 

不意に聞こえた声に戦慄する。

振り返ればそこにはいつの間に現れたのかヨダレを垂らしながらこちらを見つめる妖。

聞いたことがある。

妖は、魂を喰らうだけでなく、気に入った人間を生きたまま冥界に連れて行くと。

となれば、この違和感だらけの空間は冥界なのだろうか。

兎にも角にも私の意識はこうして肉体に存在しているのだ。いくら冥界だとしても殺されるのを体験するのは真っ平御免だ。

恐怖心で固まる足を叱咤して走り出す。

持っていたカバンを投げ捨て逃げることに集中する。

しかし、出口がないのに一体どこへ逃げればいいのだろうか。

絶望感に支配され始めた時、無理やり動かしていた体は限界を迎えた。

 

「わっ…!!」

 

足が縺れ、地面に体を打ち付ける。

焼け付くような痛みが走り、血が滲んだ。

立ち上がろうと力を込めるけれど恐怖と混乱が合わさったソレは言うことを聞かない。

まるで、筋肉の動かし方そのものさえも忘れてしまったかのようだ。

 

『みィつけタ』

 

「ッ!!」

 

必死に逃げていたはずの存在がすぐそこいた。

ニタリと三日月形に口を歪めゆっくりとこちらに近づいてくる。

 

「あ…」

 

遂に私の目の前までやってきた妖の鋭く尖った爪が振り下ろされた。

殺ろされるはずなのに、その光景がやけに遅く見える。

 

(あぁ…。死ぬんだ、私…)

 

どう足掻いたところで直撃は免れない。

ならばいっそのこと…

 

「おい。俺の目の前で勝手に諦めてんじゃねぇよ。」

 

「!?」

 

突如聞こえたどこか苛立ちを含んだ声が私の鼓膜を震わせた。

次いで何が裂けるような音と響いた断末魔。

視界に移る黒髪と見慣れた学校の男子制服。

 

「なんで…」

 

掠れた喉から漏れた言葉は彼に届いたのだろうか。

巨大な鎌を持っているところを除けばその人は紛れもない私の隣の席の男の子だった。

 

「よ…るかみ…さん…」

 

「…無事か。柏木」

 

不機嫌そうな表情は相変わらず。

それでも、妖に臆することなく対峙する彼の姿がとても頼もしかった。

 

「全く。嫌な予感がしてきてみればなんの集会だこりゃあ。

お前体にマタタビかなんか塗ってんの?」

 

「そ、そんなわけ…!」

 

そんなわけないと否定しようとした言葉は至る所から聞こえる唸り声によって遮られた。

 

「5…10…すげぇな。まだ湧いてくるぜ」

 

「そんな…どうするんですか!?」

 

夜神さんの言葉通り、いつの間にか私達は多くの妖達に囲まれていた。

これでは逃げることは不可能だ。

 

「柏木。お前どっか隠れて…て、それじゃ無理か」

 

出来るなら私だって邪魔にならないように移動したい。

だけど、転んだせいで盛大に膝を擦りむき腰まで抜けてしまったのだ。

 

「…お前そこ動くなよ」

 

バリバリっと夜神さんの周囲を雷が覆う。

彼が踏み込んだ瞬間。

その姿が掻き消えた。

 

「ギシャァ!!」

 

響く断末魔。

妖を切り裂く漆黒の大鎌。

脅威の身体能力で背後に回り込んだ夜神さんは次々と他も妖達も倒していく。

 

(すごい…)

 

洗練された無駄のない動きに思わず見とれているとすぐ後ろで何かが突き刺さるような音がした。

 

「え…?」

 

「無防備な女狙うのはフェアじゃねぇだろ」

 

地面に刺さる巨大な鎌と1匹の妖。

今まさに私を襲おうとしていた妖が夜神さんの鎌によって串刺しにされていた。

驚異の出来事に冷や汗が垂れる。

夜神さんがいなかったらこうなるのは自分の方だったかもしれないのだから。

 

「ったく…キリがねぇ!」

 

倒しても倒しても尽きることなく現れる妖達に夜神さんの顔にわすがな焦りが見え始める。いくら彼が強いとはいえ、数に勝るものはない。その証拠に夜神さんの体には着実に傷が増えていっていた。

 

「チッ。おい柏木!!」

 

「は、はい!ってうぇぇぁあぁっ!!?!」

 

いやいやいやいやちょっと待って落ち着け私!!

 

えーと、さっきまで夜神さんは妖と戦っていたはずで?

急に名前呼ばれたから返事したんだけど?

どうして私はキミの肩に担がれているのかな?

 

「ちょ、よよ夜神さんんんん!!?!!?!」

 

「うるせぇなぁ…。黙って目と耳塞げ」

 

いやだから待って?誰か説明プリーズ。

混乱した頭で説明を求める私に迷惑そうな夜神さん。

そんな顔しても原因キミだからね!?

そんなこんなで脳内お祭り騒ぎの最中にジェットコースター並の浮遊感に襲われた。

それが私を抱えた夜神さんが大ジャンプしたことだと気付くのに約3秒。

 

「うぇぁいゃぁあぁぁぁぁあぁっ!!!!?!」

 

理解すると同時にお腹の底からの悲鳴が上がる。

女子らしくないとか言われるかもしれないけれどそんなの知らない。

こちとら生きているうちにあるかどうかわからない空中散歩の真っ最中なのだ。

瞬く間に遠のいた地面に思わず意識が飛かけるのを目と耳を塞ぐことでどうにか耐える。

 

この時の私は知らない。

私を抱えて空に浮かぶ彼─夜神唯斗が群がっていた妖を一掃するべく地面に巨大なクレーターを開けていたことを。

そしてこれが、私の日常の終わりを告げることだということを―。




最後の最後でキャラ崩壊が発生しましたね←
次からもちょいちょい発生すると思います。
御容赦ください(´・ω・`;)
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