……羨ましい。
(ま、真冬にはご主人様の童貞を先越されて……出雲はご主人様の一部を食べた……。羨ましい!!)
羨ましい。同時に、妬ましい。
彼女だって初期の一人なのに、あの二人だけどんどん優先されていく。
確かに調子に乗って彼の童貞を奪おうとした。それはもう反省している。
だから、やらない。妹が怖いのもあるけど。
それ以上に、出雲と真冬が前に進むのに置いてけぼりにされている気がする。
(む、村雨だって、女の子だもん!! ご主人様好きだもん!! 気に入ったって言ったのにぃ!!)
メイド、村雨は不満があった。
あの二名だけ前に進む。村雨だって彼をよく知るのに。
やっぱり襲ったのが悪かったのか!?
いや、今更どうこうできるか。もう遅い。
悔しい。今でも身構えをされる因果応報とはいえ。
(村雨だってねぇ、ご主人様好きなのよぉ!! 愛人枠はあるんでしょ!? すっぽり入れてくれないかな!)
村雨はメイドだ。同時に、現在欲求不満であった。
八雲が構ってくれない。遊んでくれない。
全部春雨に任せて村雨を軽んじている!!
(構ってええええーーーー!! 村雨とも遊んでええええーーーー!!)
正直言うと、真冬が言っていた拗ねちゃったとは、此方だった。
次回のデートは出雲に決めたようだ。何となく出雲の機嫌が良いのはたぶんそれが理由。
なんと言うことだ。あの二人は、特別なのに……村雨だけ普通じゃない。
自分はエロメイドかもしれないが、決して淫乱ではない。
一途に誘惑する相手は選ぶし、彼以外には絶対靡かない自信もある。
出雲が真剣に悩むトラウマも、彼女には特別の証。自慢にしか見えない。
ハッキリ言えば、あの初期の三人は全員大なり小なりおかしかった。
村雨は考える。彼女も特別になりたい。
でも、襲えば春雨が激怒してお仕置きをする。
勝てない、何であんなに強いのだあいつは。
深海雨雲姫だって強いと思う。が、あの駆逐棲姫はそれ以上に強い。
何でもできる万能メイド。姉は立場が危うい。
影が薄くなりそうで、沢山いる周囲に埋もれて消えてしまうそう。
濃厚なキャラのシスターズ、万能メイドにツンデレ駆逐、淫乱和装妻。
何かキャラ被っているんですが。アイデンティティーがもうない。
(……何か、何かご主人様の気を引く何かがあれば)
村雨は構ってほしかった。蔑ろにされている気がして、不安だった。
心の拠り所が、離れていく。怖い。寂しい。悲しい。
懸命に考えた。やっぱり強引にいくしかないか。
でも、これ以上性的に追い詰めれば、夜な夜な嫁に搾られる彼は枯れて死ぬ。
いや、ここは……春雨も無理と言った彼女の抑え役になろう。
現状、誰も真冬を止めない。彼は止めろと叫んでいるのに。
それは、良くないんじゃないか。いくらコミュニケーションでも。
相手を思いやれない一方的な愛情は。棚上げで言うけど。
(これだ! 真冬を抑えよう!!)
この日。
エロメイド、覚醒。愛人枠目指して目下の邪魔な妻を、退かすことにした。
「八雲。えっちしよう」
「嫌だ!! 死んじゃう!! もう嫌だ!!」
また誘ってる。いや、直ぐに飛びかかる五秒前。
ジリジリ無表情で追い詰めている夜中。
寝ようとした風呂上がりの八雲を狙っていた。
逃げ出そうにも、彼は追い付かれて何処でも搾られる。
可愛そうに。春雨のフォローが無ければ死んでいる。
助けなければ。村雨、行動開始。
因みに場所は、彼の部屋の前の廊下。
影から顔を出して様子を窺う村雨。青ざめていることに気づかないのか真冬。
(……よく見たら真冬の目がハートになってる……)
気付く。あの妻、八雲をまるで憧れるアイドルに出会ったファンのような熱視線を送ってた。
ハートになっている真冬は本当に八雲の事が好きなんだろうと思う。
が、あの淫乱妻にはそろそろご自重願おうか。
わざと良いタイミングで、村雨は邪魔に入った。
「あらぁ。丁度よかったわご主人様ぁ、例の書類出来上がったわよ。ちょっと目を通して」
丁度発見した感じを装い、適当な事を言って声をかけた。
振り返る二人。
八雲は助け船と分かってアドリブに乗った。
「あ、マジで? そっかー悪いなこんな夜中まで。ゴメン真冬。俺まだやることあるんだ」
何とか誤魔化して駆け寄る八雲。
すれ違い様、
「悪い村雨、サンキュー」
と小声のイケメンボイスで言った。
こういう然り気無い仕草が格好良過ぎて困る。
村雨の補正で。
「むぅ……」
良いところだったのに、と不満そうだが分別が出来る真冬は頷いて戻っていく。
こっちも適当に打ち合わせるように一緒に移動して、人気のない自販機のある近くまで逃げた。
「わ、悪い悪い。気遣って貰って。助かったぜ、死ぬかと思ったわ……」
「真冬も加減しないからねぇ。で、どうするのご主人様? 一緒の部屋じゃどうせ餌食になるわよ」
彼はもう毎日のようにする頑張りは十分だと嘆きつつ礼を言った。
ため息の八雲に、改めて訊ねる。
腕組みして天井を見上げて思案する八雲。
そういえば、寝巻きの八雲を初めて見た。
シンプルな長袖とジャージか。……嫌いじゃない。
最近は春雨の邪魔もあって、中々二人きりも出来なかった。
……折角だ。自分の部屋に招く。
安全は保証すると、こう言うときに便利な春雨の名前を出す。
「そっか……。お前も大人しくなったもんな。中身は変わってねえけど、春雨が教育したんだし……」
「最低でも真冬よりは断然安心できると思うわぁ」
自分よりも明らかに悪化している真冬を例に出せば全員マトモに見える。
分かってて言った。すると、それもそうかと納得する。
真冬の暴走に疲れきった彼は、まんまと村雨の提案に乗った。
……そう、乗ってしまった。
(やったあ! ご主人様が釣れたぁ!!)
思惑通り。村雨、八雲の味方ポジに就任。
そうして、八雲は夜の平穏を。村雨は、点数稼ぎをする。
暫くの間、真冬の魔の手から、彼を守る約束をしたのだった……。
こういう場合、必要不可欠なのは根回し。
シスターズに、お兄ちゃん死にそうだから少し預かるけどこっちに来るかと聞いた。
「あー……そうだね。あたしも協力するよ」
「兄様の望むままに!!」
凩は油断していると夜な夜な喘ぎ声が聞こえて眠れないという生々しい悩みで賛同。
同室だって言うのにあの妻、寝ているからと思い込んで襲っていたとか。
(そんなわけないでしょうに……村雨だって分かるわよ)
本気で脳内蕩けてしまったようだ。少し距離を離そうと皆で相談。
飛騨は言うまでもない。八雲の望みだと本人が言ったのだ。
「俺は……快眠を求める。安らかな眠りを……」
永遠に眠りそうな顔で言われると焦る三名。
で、肝心の真冬には。
「真冬、ゴメンね。少しご主人様、具合悪いから此方で預かるけど。暫く一人で休んでて」
「そんな……!? 八雲のお見舞いに行く!!」
具合悪いから預かるというと、やっぱり血相を変えて見舞いに来ようとする。
だがしかし。甘いのだ。その辺も村雨は対策しておいた。
「真冬お嬢様。ご主人様は、現在重度の睡眠不足です。何故だか分かりますか。真冬お嬢様が激しくご主人様をお求めになられるせいで、ご主人様は体調を崩されたのですよ」
春雨も利用する。理詰めのお説教で、正論を使って真冬を叩きのめす。
村雨は妹に持ちかけた。矯正しないと八雲がそろそろ限界だから手伝えと。
それならと彼女も助力して、出雲以外が全員参加の真冬矯正作戦開始。
出雲は今度のデートに備え、おろおろしながら着飾る為の準備中。
好きじゃないとか言いながら可愛い子であった。
で、真冬が今度はお預けを食らう日々。
毎晩、ぐっすり眠れるように村雨の私室で眠る八雲。
シンプルな私室で、最低限の家具にフローリングに木目の壁、あとは冷蔵庫や大量の本棚もあった。
暇潰しに購入してもらったものがぎっしり入っていた。
別に読書は好きじゃないが、時間を浪費できるのでこういう手合いは村雨は好きだった。
まあ、大本営にいた頃には、出雲や真冬と違って、唯一同じ名前を持つ艦娘だった。
自分の失敗作が死んでいくのもよく見てて、疑問に思ったことがあった。
それを解決すべく、本に手を伸ばした。
結果だけは安定していた彼女は特別視されていたこともあって、多少の自由を利用して読んでいたのがきっかけ。
世の中の情報を求めて、そして自分がどうして生まれたのか知りたくて読みふけた。
春雨が博識なのも、村雨がこんな風にしていて知識向上は良いことと研究員が知ったからだった。
つまりは、村雨も本来ならば博識。意外なことに。
が、然し途中で活字のエロ本のような官能小説など読みあさり、結果発情。
ああなった。まあ失敗したわけであった。
なので、落ち着けば村雨もスペックは真冬以上に高いのだ。本来は。
今はその博識さを存分に披露していた。
「村雨、お前見直した!! お前は実は凄い奴だったんだな!!」
「ふふふっ、そうでしょぉ? 村雨のうんと良いところ、たっぷり見せてあげるねご主人様♪」
一週間もすれば、すっかり持ち直す村雨の評価。やれば出来る子、それが村雨。
真冬が散々理屈で淫乱でスケベで非常識かと論破された結果。
「わたしは、健全な関係をする。春雨に、八雲に嫌われるって言われた。そんなの、いや……」
あまりにごねるので、禁句を言って打ち負かした。
真冬はすっかり悄気て、落ち込んで反省していた。
「春雨、お疲れ様」
「いえ。真冬お嬢様が思った以上に強情でしたが、これで反省して下さったでしょう」
八雲には、許可なく襲わないと宣誓して帰ってきた。
これで、快適な生活に戻れると誰もが思った。
そうはいかない。村雨、最後の仕上げに入る。
「ご主人様。村雨も、貰ってくださいな」
「お前もかぁ!?」
最後の夜だった。村雨、襲う。
油断していた彼は、もう安全と思い込んで……皆がいない夜に、捕縛された。
施錠されて、安全と分かっている怪しいお薬の入ったお茶を飲んでしまって、痺れていた八雲。
村雨、告白しながら自分のベッドに横たわる彼を見て恍惚に微笑む。
「やっぱり、物理でご主人様傷つけるのは……抵抗あるのよねぇ。好きな人にお薬盛るなんて、村雨も最悪だけど……こうもライバル多いと、四の五の言ってられないの。ゴメンねご主人様。少し、痺れると思うけど死にやしないし一過性だから安心して」
「安心できるか!! 見直した俺がバカだったよ!! お前もやっぱし無理矢理か!?」
村雨も、合意しないで身体を奪うのかと叫ぶ。
が、そのわりには声が出ない。風邪の時のように弱々しい。
全身痺れるのに、メイド服の美少女に迫られ下半身の愚息は元気溌剌で醜いテントを張っていたが。
「無理矢理って言うけど。ご主人様は、どうせ誰にも応えられないヘタレでしょ? だから、此方から迫らないと先には進まないわぁ。合意なんか、普通に無理だって。女の子泣かせの癖に」
痛いことを言われた八雲。確かに、本来はこんなことする気はなかった。
然し、状況に流されてこの有り様。責めるには自分が悪くないとも、言えないのだ。
テントを人差し指で弾かれる。面白いのか、指先でズボンの上から股間を弄くる。
「や、止めんか!! 俺は、この程度じゃ、屈しないぞ……!!」
「身体は正直ねぇ。ほれほれ、ご立派な息子さんですが、村雨もこれからこれで泣かされるのよねえ……。楽しみ」
心底嬉しそうに村雨もベッドに横たわる。
添い寝のようになる体勢で、耳元でクスクス笑う村雨。
「大丈夫。愛人は良いって、真冬は言ってるし。村雨はそこまで頑張れないから。普通が一番よ。お薬以外は普通にするから」
「そういう問題じゃないから!! マジで勘弁、もうこれ以上は人生負えない……!!」
「皆で互いを支えればいいのよ。ま、それ以前に……人間の見解が、村雨たちは適用されないけどね……」
暗に気にするなと言うが、八雲は嫌がった。
だけれども、もう遅い。彼は罠にハマったまま。
「さーて、それじゃ……ご主人様の息子様の、ご開帳!!」
「村雨、ベルトを外すな、ズボン下ろすな!! 待て、待っ……!!」
アッーーー!!
八雲、愛人に食われた。妻に比べれば非常に優しく互いに無理のない初めてであった。
「俺は……何て事を……!!」
「んー? 別に気にしないでいいのに」
「何時からこの国は二股オッケーになったよ!?」
「二股? 予約いっぱいあるから、二股なんて優しいものじゃないけど?」
「ファッ!?」
「村雨が真冬にも言ったからね。真冬は受け入れたし、春雨が文句いったけど苦言程度だよ? 凩が次って言うし、飛騨も欲しいって。春雨も最終的には愛人に皆で引き込むから、ご主人様味方居ないわ。諦めて」
「うわああああああ!! 待ってええええええ!!」
「出雲だけじゃない、無事なの。その内陥落するだろうけど」
「俺はそんなに養えないいいいいい!!」
「良いの良いの。村雨たちは、そんな負担になれないから」
「……えっ?」
「どうせ、今の実験が終われば皆廃棄だもの……。今ぐらい、夢を見させてよご主人様……」
「村雨……?」
「…………なーんてね!! 湿っぽい話はお仕舞い!!」
「お、おい……!!」
「じゃあね、ご主人様! また明日!!」
「村雨、ちょっと待って……!!」
(知らないわけ無いじゃない。村雨は、知ってるのよ。春雨から聞いたから)
(未来なんかないわ。プロトタイプは、役目が終われば……分かるでしょう?)
(ご主人様と結ばれて、少なくとも未練はないけど……)
(……死にたくない。もっと、生きたいよぉ……ご主人様ぁ……!)