傷が癒えてきた数日後、私は外に出ることが許された。
身体の調子は良好。
激しい動きをしなければ、問題なく活動できるだろう。
前日の食事は、通りの良い食べ物ということで粥を食べたが、これも温かくて美味しかった。
それを作ってくれたのはミストルティンだった。心配そうに、それでも微笑みながら美味しくなるように作りましたと言葉にしていた彼女の姿は、私よりも明るくって、少し、羨ましかった。
問題なく食べられるというのがわかったからか、次の日の朝はミルクパンと野菜のスープを出してくれた。これも、食べているという実感が沸く、丁寧な味で美味しかった。
……元々の世界の生活は、こうした食事ができない時間もあったので、素直に味わって食べることができる時間や食べ物というものがとても貴重に感じる。些細だけれども、安心を感じるほどに。
「どうしたの?」
「いえ、考え事をしていただけです」
身体の調子が治ってきた私は、隊のマスター……シェーヌに連れられる形で、外を歩いていた。
外、といっても森林といった場所ではない。彼女が拠点としているという街だ。店先は様々な人が品物を売ろうと活気に溢れている。
「意識を取り戻してまだ少ししか時間が経ってもいないのに、こうして買い物に付き合わせちゃって、なんだか申し訳ないかも」
「私のことは気にしなくても大丈夫ですよ。シェーヌさんには恩がありますし、その恩に報いるくらいのことはいつでもできますから」
荷物持ち、いざというときの戦闘。身代わり。……特攻。どれも問題なく対応できると思う。使役されるのにはなれているから、どんなことでも問題ない。
そう思っていたら、何故かシェーヌに不思議そうな顔をされた。
「……なんだか硬い言い回しに感じるかも」
「不備があったらすぐに直します、すみません」
「えっと、その、そういうわけじゃなくて。なんていうか、いざという時は自分の身を犠牲にしてもっていう雰囲気に感じて……」
「隊のリーダーであるマスターを守ることは、兵器である私からすれば当然のことですが……」
「……兵器?」
「なにか変でしょうか」
疑問を持たれるということが不思議でしかなかった。
……マスターは、私たちのことを兵器だと思っているのが普通。そう思っている私と、考え方がずれているのかもしれない。……世界の違い、だろうか。
「いや、私には聞きなれないかなーって」
「キル姫を、兵器として扱わないんですか?」
「そういう風に扱うなんて考えたこともないかな。私の大切な隊の仲間だし、一緒に生きているし……そんな、無機質な風には考えられないの」
「……そうですか」
やはり、マスターの在り方が異なっている。
距離の詰め方も、上下関係というものより、親しく接しているという感覚の方が強い。
……私が元々いた世界とは、随分違う。
「私がいた世界では、キル姫は使い捨ての道具みたいな扱いを受けていました。使えなくなったら捨てられる、活躍できなければ価値がないものとして……」
「そんなの、酷い」
「……マスター同士で争いあっていましたから。平和の為には武力が必要と、正義をかざす為に力あるキル姫が求められていたので仕方がなかったと思います」
離れてみれば、酷いものであると実感できるところはある。それでも、その世界に生きていた私からするとそれは常識だと思っていた。
「……シェーヌさんは、変わっています」
「どうして?」
「キル姫との距離感がまるで普通の人間の友人関係のようなものであったり、私のような不安定な存在を助けたり……私がいた世界のマスターとは大きく異なっていると感じます」
「あはは……変わってるマスターっていうのはよく言われるかな」
「よく言われる……そうなのですか?」
私の世界と比較して変わり者、というわけではないのかもしれない。
苦笑しながら、シェーヌは返答してくれた。
「ほら、クラウ・ソラスとかから聞いたと思うけど、『困った相手には手を差し伸べる。心配事は一緒に解決』っていう、この隊の方針があるじゃない? 言い出しっぺは言うまでもなく私なんだけど、それが珍しいって」
「素敵な方針だと思いますが……」
「報酬とかよりも困っている相手を助けることを優先するマスターって、思っているより少ないみたいなんだよね、これが」
街行く人を見つめながら、シェーヌが続ける。
「この街って、出せる報酬が美味しくないからとか、交通が不便だからみたいな理由があって、他のマスターが滞在することが少ない街なの。報酬の為に尽力するというマスターが多いのもあって、こういう場所を拠点にしている人って少ないみたい」
「シェーヌさんは、どうしてここを拠点にしているんですか?」
「……不安そうになっている人を助けたいから、かな。それに、私自身この街の出身だから、お礼返しがしたい、みたいなところもあるかも」
理由をいくつか語ってシェーヌが微笑する。
……裏がない、素直な表情のように思える。感覚として、優しいという印象。
「あっ、付け加えるけど、他のマスターのやり方を否定したいってわけじゃないからね? 考え方なんて人それぞれだと思うし、これが私の方針だってだけで、強要とかもしていないし」
「……それでも、一定の居心地の良さは感じます」
「そう? それなら嬉しいなっ」
今度は笑顔だ。暗い表情をすることが少ないマスターというのは斬新だ。それでも悪くない距離感なのかもしれない。とても、話しやすい。
「私がキル姫……ううん、隊の皆と友人のように接しているのは、お互いに上下関係みたいなものを作りたくないからなんだ」
「上下関係を作らない……? どうしてですか? キル姫は、マスターという存在に使役されるべきなのではないでしょうか」
マスターの命令は絶対厳守。逆らうことは許されない。対等の立場なんてもってのほか。そう考えている私からすると、彼女の言葉が理解できなかった。
「そもそも、命令みたいなものが苦手なのかも。硬くて、苦しくて、重く感じたりで……ガチガチに規律を敷き詰めると心も疲れちゃいそうだから、そういうのを避けたくって距離を縮めているんだ」
少し考えたあと、シェーヌが答える。
けれども、まだ納得しきれない。
「キル姫は、どんな命令に従うべき立場ではないのでしょうか? 使役されて、命を懸けて前線に出るべきなのではないでしょうか?」
「そういうわけじゃないと、思うかな」
「……どういうこと、ですか」
「だって、私もキル姫も、皆一緒だから」
「……答えになっていません」
「私が絶対的な存在になったとしても失敗はしちゃうかもしれないし、私だけがリーダー、なんてことはできないかなってこと」
静かに、言葉を続けていく。
「戦術の指揮については私なんかよりもクラウ・ソラスの方がよっぽど得意だし、治療についてはミストルティンが得意とする分野。私は……まぁ、料理とかは得意だけど、戦闘面についてはからっきしだし、他の姫に支えて貰わないといけない部分もきっと多いと思うから。みんなが、得意な分野でリーダーになれるならば幸せかなって思ってる」
「……マスターは絶対的な存在ではない、と?」
「活動方針とかは勿論考えるけどね。ただ、私だけが頑張りすぎるのも良くないから、甘えたりもしてるんだ。……甘えたいから、上下関係じゃなく、友人、ううん、親友として接してるっていうのもあるかも」
少し恥ずかしそうな様子でそう言っていた。
……あの世界で、私たちは頑張りすぎていたのだろうか。彼女の話を聞いてそう思う。
一人の力を信じて、過信して、前に進むことばかりを考えて他人のことを考えないようにしていた。お酒に酔ったマスターに暴力を振るわれた時だって、私が感情を堪えればいいと思ってばかりで、内側に感情を閉じ込めてばかりだった。
……今思えば、ピサールさんも葡萄酒を飲んで、遠くを見つめていた。でも、この世界がめんどくさいなんて言葉にしながら、なんだかんだで、私と会話もしてくれていた。……あれは、もしかしたら彼女なりに甘えさせようとしていたのかもしれない。お酒がどうしても苦手だったから、彼女と一緒に呑むことはできなかったけれど。
「……抱え込みすぎても、いつかは心がもたなくなってしまう……」
「だから、目覚めたばかりの姿を見て、心配だったんだよね」
「……すみません、軽率な行動で余計な心配をかけてしまい……」
「ううん、色々理由もわかったし、辛かったこともわかったからそんなに気負いしなくても大丈夫っ」
「しかし、驚かせてしまったのは事実ですから、なにかお詫びをしないと申し訳ないです」
本心から出た言葉だった。
しかし、それが逆に悩ませるきっかけになってしまったそうで、シェーヌはどうするべきか腕を組んでしまった。
「お詫び……お詫びかぁ……じゃあ、こういうのはどう?」
それでも、思いついたのはすぐだった。
シェーヌがポンと、思い浮かんだように手を叩いた。
「買い物の手伝いをするとか!」
「それで、いいんですか……? もっと頼んでも……」
「気分転換も兼ねてるからこれでよし! というわけで、出発!」
少し強引に、切り替えるように前に走って行ってしまった。
「ま、待ってください」
私は後ろから追いかけることにした。
雰囲気は違うとはいえ、これも命令……なはずだ。しっかり従わないといけない。そう思いながら。
……買い物はごく自然に進んでいった。足踏みすることもなく、さくさくと買い物を行えていたのはシェーヌの会話術があったからなのかもしれない。
武器を購入するみたいなこともなかった。それについては、最近調整したから大丈夫とシェーヌは言葉にしていた。彼女が言うに、基本的な武器は細工してもらうことによって強化しているらしい。
「クラウ・ソラスが採掘してくれたインゴットを利用して、武器を補強してるんだ」
趣味で採掘したものを利用して、色々やりくりしているらしい。時々採掘場から純度の高いレアメダルも掘り起こされるそうで、キラキラしててコインみたいで素敵だと言葉にしていた。武器が壊れてしまった時も、それを職人に持っていけば、元の形に戻せるらしい。
……趣味が転じて、戦場にも活躍できるなんて、考えたこともなかったから驚きだ。
買い物で最初に購入したのは回復薬だった。私の治療で少なくなっていたという痛み止めの薬草などもいくつか買っていた。
……私も治癒の心得がある方ではあるので、効果的な効き目があるものかどうかを店員との話をした。その中で、分析を行い、いくつかの提案をシェーヌに行ってみた。私に出来ることがあれば、なにかやっておきたかったのだ。
「へ? そうなの!? この薬草って、そんな使い方があったんだ……!」
「使用する量などを間違えなければ、強い効き目の回復薬の素材として機能します。……今度、情報を共有しましょうか」
「うんうんっ! 是非ともお願い、ミストルティン!」
「……その、この隊のミストルティンと間違わないように、アメーラと呼んでもらえるとありがたいかもです」
「え? えっと、アメーラ……なんか斬新な名前かもだけど、わかった!」
目を輝かせて、いいかもと言葉にしながら、提案したものもいくつか買ってくれた。知らない情報に興味を抱いて、役に立つかもとメモを取ろうとしていた辺りから、好奇心が旺盛なところをそこはかとなく感じた。
……素直に褒められることなんて、あまりなかったから、表情にはそんなに出してはいないけれども、とても嬉しかった。
次に購入をしたのは、購入隊の皆に振る舞うためという食材だ。
山菜などを利用した料理については得意な部類ではあるものの、肉を活用する料理はあまり知識がなかったので、シェーヌの買い物を見て、色々考えていた。
「そういえば、ミストルティンの作る紅茶ってとっても美味しいんだよね。甘いものも、苦いものも、すっぱいものもお手の物ー、みたいな感じで」
「紅茶、得意なんですか?」
「隊の皆のティータイムにはいつも出てくるくらいには。本人は煎じ茶が一番得意って言ってたけど、お茶ならなんでも行けるって思っちゃう」
「……私もいただきましたが、とても美味しかったです」
「でしょ?」
自分にはお茶を嗜む余裕もなかったので、斬新に思えた。
……味も嫌いではないし、飲んでいて落ち着いた気持ちにもなったから、今度教えて貰うのもいいかもしれない。
「なんで、アメーラって名前で呼んでっていったの? ミスティとか、ミスティルとか、そういうのじゃ駄目だったの?」
買い物途中の会話で、そのようなことも聞かれた。
言わない理由もなかったので、返答した。
「……シェーヌさんの隊のミストルティンが、眩しかったからです」
「光の魔法を扱うから……というわけじゃないよね」
「そういう理由ではないです。ただ、私とはやっぱり違うなって……」
「違うって?」
「本来のミストルティンらしさ……みたいなものを感じたんです。それを思うと、なんだかミストルティンって名乗るのも申し訳ないって思えて……」
「私は、アメーラも一緒のミストルティンだと思うけどね」
私の心配とは別に、シェーヌはあっさりそう言い切った。
「どうしてですか」
「だって、ちょっと大人びていたり、抱え込みすぎちゃうところもあるけど、アメーラだって、ミストルティンっぽいところいっぱいあるもん。申し訳ないってすぐ言葉にしたりするところとか、私なんてって思ったりするところとか……」
「……悪いところがいっぱいです」
「でも、いいところも似てるって思うんだ。自分が悪いって思うのは優しいからだと思うし、抱え込みすぎちゃうのも頑張り屋さんな気質があるからだって思うから。……だから、アメーラも、ミストルティンだよ。しっかりとした」
存在を認めてくれるような言葉。悪いところもいいところも含めて、ミストルティンらしい。
……出来損ない、みたいな言葉じゃなくて。
……私もしっかりとしたミストルティンだと言ってくれた。
「……ずるいです」
「え、どうして?」
「……嬉しい言葉がいっぱいで、ずるいです」
泣いたりするわけではないけれども、心に嬉しさとして強く残る。
私を私として認めてくれた、それが嬉しくて、つい照れ隠しでずるいなんて言葉にしてしまった。
「……ありがとうございます」
誤解されないように、言葉にして、頭を下げる。
シェーヌはまんざらでもないという様子だったけれども構わない。ただ、ただ嬉しかった。
「……でも、二人が一緒の時にミストルティンって言うと混乱しちゃいそうだから……そこはアメーラで大丈夫?」
「はい、それで大丈夫です」
自分で名乗った名前だからきっちり責任を持ちたいと思った。
「クラウさんにも、説明しないとですね」
「えっ、説明してなかったの?」
「……状況が状況でしたから」
切羽詰まっていた精神状態だったのもあって、その時は名前も思い浮かばなかった。
シェーヌに手間を掛けさせない為にも、自分から名乗っておきたいと思った。
……最終的に、野菜関係の提案を私が、肉関係はシェーヌが進んで購入するという役割分担をしながら食材の調達を終えた。
……様々な話が出来たこと、とても良かったと思う。
色々な買い物を終えて、最後に立ち寄りたい場所があるといって連れてきてくれたのは花屋だった。
多種多様な花が売られていて、ものによってはドライフラワーのようなものもある。
「どうして、花屋に?」
「そろそろ誕生日になるキル姫がいるからね」
「……私が付いていってもいいのでしょうか」
「いいのいいの。むしろ、いてくれた方が嬉しいかも」
誕生日になる、いてくれた方がありがたい。
そこから考える。
……花というところから、思い浮かんだのは一人のキル姫だった。
「ミストルティンの、誕生日ですか」
「正解っ。……アメーラも、同じ誕生日だったりするの?」
「……わかりませんが、もしかしたら」
そう言って誕生日を話してみる。
すると、驚いた表情になっていた。
……そう、同じ誕生日だったのだ。
「……世界が違うのに、そういうことってあるものなんだね」
「私も、驚きました」
「……ケーキは、一緒のもので大丈夫?」
「私のことは気にしなくて大丈夫です。そもそも、正式にまだ隊に入っているわけではありませんし……」
「いやいや、ミストルティンの誕生日なんだから。それに、しばらく一緒に行動するってことは食事も一緒でしょ? だから、ケーキとかでお祝いしなきゃ……」
「そ、それよりお花を見ていきましょう。私も彼女にプレゼントする花を考えたいですから」
誕生日を祝われることなんてなかったから、気恥ずかしくて話題を逸らす。
それに、花を見ておきたいというのは事実だ。私もミストルティンにお礼の花を贈りたいから。
多種多様な花がお店には並んでいる。
綺麗に、それでいて立派に咲いている花を見ているとそれだけで心が癒される。あの世界では、こういった花屋は見れなかったから、尚更だ。
店に並んでいる花を見つめていると、シェーヌから声を掛けられた。
「……いざ、買ってみようと思っても、なにがいいのかわからない……」
相当苦戦している様子だった。
花屋に行くことそのものに慣れていないのかもしれない。
腕を組んでどうするべきか、悩んでいる。
「香りや花の色などで決めるのはどうでしょうか」
「ちょっと安直な気がする」
「そうですね……なら、花言葉はどうでしょうか」
「……知識がないから無理」
「……季節が合っていたら、山茶花がいいと思ったのですが……」
「サザンガ? どうしてそれを」
「宿り木と同じ花言葉があるからです。困難に打ち克つという。……私が気に入っている花です」
「なるほど、いいね。……でも、ある?」
「ないですね……季節も異なりますし……」
「……だよね」
私のドリュアスの能力を利用した魔法を使えば季節外れの花を咲かせるのも無理はない。が、そうした植物は不安定で歪な形になってしまいやすいので極力避けている。
サザンガは秋から冬の花なのもあって、花屋には並んでいない。好みをあげてみたのはいいものの、うまくいかないならばこれは没ということになる。
「んー……もう、これは直感で選ぼうかな」
「いいんですか?」
「私がびしーって決めたものならきっとうまく行く、ということでコレーっ!」
そう言ってシェーヌが指さしたのはルドベキアだった。鮮やかなオレンジにも黄色にも感じる花弁が健康的な力強さを表している、素敵な花だ。
……直感だとしても、なかなかしっかりした選択のように思える。
「ルドベキア、ですね。……これはプレゼントとしていいと思います」
「やった、私のカンも当てになる! ……でもどうして?」
「花言葉に『公平』という言葉があります。皆さんをしっかり見ているマスターとしてのシェーヌさんの気持ちを伝えられるかもしれません」
「公平……ほかに何かあったりする?」
「あとは……『あなたを見つめる』というのがあったと思います。……感謝の意を込めるならばそれもいいのもしれません」
正義という言葉もあるけれど、これについては敢えて言わないことにする。
……もう一人の私であるミストルティンならば気が付きそうだけれども、この言葉よりも他の二つが合致していそうだと思ったからだ。
「……そもそも、ミストルティンと同じ日の誕生花なんです」
「そ、そうなの!? 花について全然知識がなかったから知らなかった……」
「……調べてみると楽しかったりしますよ?」
まだそんなに戦闘が激しくなる前、本を読んで知識を蓄えたこともある。
なんだかんだで、それらの知識は植物関係の能力を扱う時に役に立つこともあるが、どちらかというと雑学的なものとして、私の知識になっている。
「びしっとやってみて正解だったかも! ちょっとルドベキアを購入してくる!」
そう言ってシェーヌは足早に店員に話しかけに行った。
誕生花、花言葉。
……それらを踏まえて、私もミストルティンにあげる花を思い浮かべる。
……しっくりきて、ちゃんとした花があった。
時期的にも能力を利用しても無理な成長にはならないだろう。
外には良い土がある。自然から探し当てて、成長させることは可能。
……私なりの『私』への誕生日プレゼントが決まった。
「買ってきた! アメーラは買わなくていいの?」
「私は自分の力で用意しますから、大丈夫です」
「……自分の力?」
「そんな悪いことをするわけではないので、心配しないでくださいね」
「んー、アメーラがそう言うなら信じる」
ひっかかってはいたものの、承諾してくれた。
これで問題はない。
ミストルティンの誕生日前には作業を終わらせることはできるだろう。
「さて、拠点まで戻ろっか!」
外に出て、戻ろうとした時だった。
空から手紙を口にした鳥がシェーヌの肩に降りてきた。
「ん? このタイミングで手紙……」
彼女は中身を確認して……そしてハッとした。
急なことだったからか、強張った表情になっている。
「……なにか、ありましたか?」
「別動隊として探索してた皆が怪我をしたキル姫を発見したみたい。そっちにいたアスクレピオスが治療にあたって……今、拠点で匿っているって」
「怪我をした、キル姫……」
「普段はそうそうこういうことはないんだけどね。……珍しく、立て続けかな」
まるで自分のようだと思い、その話が気になってしまう。
似たような状況。
治療が行われている状態。
普段はないという言葉。
心臓の鼓動が激しくなる。
「……キル姫の名前は、手紙に書かれていますか」
聞かずにはいられなかった。
私の様子に気が付いたシェーヌが、急ぎ確認する。
「えっと、キル姫の名前……ここかな。『服装は異なっているものの、髪などから判断して、キル姫のピサールと予想……』って書いてある」
「ピサールさんっ……!」
その報告から考えると、彼女しかありえなかった。
あの世界を一緒に戦ってきた、ただ一人のキル姫の戦友。
私のように、この世界にやってきたのかもしれない。
「知っているの?」
「元の世界で、一緒にいた方かもしれません……!」
「……それなら、急がないと、だね」
「会わせて、くれるんですか?」
「元々の世界で一緒だったんでしょ? だったら、行かないと」
荷物があるはずなのに、早足だ。
私も当然のように足も呼吸も速くなる。
「……ピサールさんに、もしものことがあったら、私はどうすれば……」
「大丈夫、私の隊を信じて。きっと大丈夫だから」
「でも」
「前に進まないとわからないことがあるって言うでしょ? 行って、確かめないと!」
「……はいっ」
不安はあるけれども。
それでも、前に進むと決めたから、歩んでいく。
シェーヌに背中を押される形で、私はピサールがいるという拠点、その部屋に向かった。