理不尽という言葉が頭を過っていた。
あの日のことを思い返すと、どうしてそんなことになったのかを考えてしまったりもする。
なにか、成し遂げられることはなかったのかという気持ちも働いたりしている。
それでも、そこから抜け出したいと思った。
……だから、私はシェーヌの隊に同行することを決意したのだ。
それを打ち明けた時、シェーヌは喜び、そして……私と握手を交わした。
温かい手で、彼女も彼女なりに一生懸命生きているというのが感じられた。
……同行する中で、私はもう一つだけお願いをした。我儘なのはわかっている。
……もし、元の世界のマスターに出会うことができたら、会話してみたいということだ。
仲間から外れたいというわけではない。ただ、純粋に話がしてみたかったのだ。
その時どうなるかなんてわからないけれども、きっと、大丈夫だと信じている。
出会えるかもわからない、どんな状況かもわからない。けれど、希望は持ち続けたい。私もピサールも生きていた。だから、きっとマスターも生きていると。もし出会えたとしても、かける言葉は考えていない。これからじっくり考えていきたい。
未来に進む希望を持つ為に。
ちょうど隊に加わる日と、ミストルティンの誕生日が重なる形になり、隊の中ではちょっとしたパーティーが開かれていた。
街の外。森の付近では、何故かバーベキューが開かれていた。
「特製のバーベキューといこうじゃないか! 肉はタンパク質があるのもあって、スタミナが付くからおすすめだ!」
そう言って肉を焼いたり野菜を焼いたりしているのはクラウ・ソラスだ。……なんていうか、パワフルさを感じる。提案者たる自分が張り切ろうという意識みたいなものも感じられる。
「もうっ、ミストルティンの誕生日なのに、そういう男らしさを感じる料理を作るなんて……それだからソラ男って呼ばれちゃうのよ」
「私はソラ男ではない! そもそもミストルティンが提案に乗ってくれたからそれについては問題はない」
「そう? 体力が付くなんていって、懐柔したりしたんじゃないの?」
「断じてそんなことはしない!」
別動隊にいたというカラドボルグがジト目でその光景を見つめていた。彼女の呆れ口調を聞いて、クラウ・ソラスは口を尖らせて反発をしていた。
「あの二人はいつもこうなんだからっ」
「まぁ、いつものことだから、風物詩みたいになってるよね」
「ほんと、喧嘩するほど仲がいいって奴よね」
アスクレピオスとシェーヌが焼かれた野菜を口にしながらそれを見つめていた。
普段通りのことというので慣れているのだろう。
「……なんだか、羨ましいかもしれません」
「えっ、どうして?」
「……本心からお話しあえるって、素敵じゃないですか」
シェーヌの隊のミストルティンはその光景を見つめて、あんな形も友情としていいのかも、と考えている様子だった。
……私とピサールは、バーベキューを取りながら、その光景をのんびり見つめていた。
「平和だよね」
「……そうですね」
「賑やかなのを見てると、それだけで元気になるかも?」
「……ピサールさんがそれをいうなんて、意外です」
「私が直接交わるわけじゃないなら面倒じゃないし、見てるのは楽しいかな〜って」
「……なんだかんだで、めんどくさいんですね」
「まぁね」
彼女とのやり取りは気が抜けてしまう。けれども、気を張りすぎてしまう私とは正反対だから、バランスはとれていると思う。
「ところで、誕生日プレゼント、渡さないの?」
私の手に持っている花を見つめながら、ピサールがそう言葉にする。
なんだかんだで気にしていたそうだ。
「……これから渡す予定です」
「そうなんだ。じゃあ、頑張ってね〜アメーラさん」
「……ピサールさんにそう言われると、なんだか複雑な気持ちになります」
「ミストルティンって呼ばれたいの?」
「……ピサールさんには、そう呼ばれたいかもです」
「カワイイところあるね」
「……行ってきます」
「頑張れ〜」
からかわれてしまったのが、なんだか気恥ずかしい。
けれども彼女に応援されたので、気合が入る。
シェーヌの隊のミストルティンの場所に歩いていき、挨拶をする。
……準備はできている。心の方も、問題ない。
「ミストルティンさん」
さっきまで、自分がミストルティンと呼ばれていたのに、今度は自分からそういうというのに不思議な感覚を覚えながら、声をかける。
すると、微笑みながら彼女が振り向いてくれた。
「……はいっ、なんでしょうかアメーラさん」
「……この世界で、貴女に会えて嬉しかったです。シェーヌの隊の皆さんも優しくて、暖かくて……私たちを助けてくれたこと、とても感謝しています」
「……皆さんが、一生懸命やれることをしただけです。だから、そんなに気にしなくていいと思います」
「それでも、嬉しかったです」
硬い挨拶の言葉がどんどん浮かんでくる。
違う、もっとすっきりとした言葉が言いたいだけだ。
深呼吸をして、言葉にする。
「……お誕生日おめでとうございます、ミストルティンさん」
そう言って、私はプレゼントの花を渡した。
「これは……吾亦紅ですか?」
彼女に手渡したのは吾亦紅の髪飾りだ。
私の魔力を通じて成長させて、今日、彼女に手渡したかったのだ。
「……移りゆく日々も、変化も、そして私自身が抱える、ミストルティンに対する憧れも。全部詰まっていますから。……この世界の私に渡すなら、この花がいいって思ったんです」
花言葉も、花の雰囲気も、色々込めて、感情を伝えられるものがこれだと思ったのだ。
受け取ったミストルティンは微笑みながら、ありがとうと頭を下げてくれた。
「……誕生日と同じ、誕生花でもありますね」
「二人を繋ぐ絆……などとは言えませんが、それでも一緒に誕生日を迎えられたということを大切にしたいものですから」
「……とても素敵だと思います」
「ありがとうございます」
「お礼を言いたいのは、私も同じかもです。素敵な花をありがとうございます」
お互いに感謝しあって、微笑みあう。
……このひとときを私は忘れない。そう、心に誓った。
……この世界に来るまでは、笑顔になることなんてなかった。
辛くて、怖くて、一生懸命で。独りで頑張らないといけないなんて思っていた。
けれども、違うのだ。
もっと他人に頼っていいのだ。
自分の心を隠さないで生きてもいいのだ。
他人の力を借りて、協力し合って、見えてくる世界がある。それを私は探していきたい。
失敗することはあるかもしれない。落ち込むことだってあるかもしれない、それでも構わない。私は私の意思で、仲間と一緒に、心を許しあえる相手と一緒に進んでいきたい。
……もし、マスターに会うことができたなら、今の私の感情をはっきりと伝えたい。もっとみんなに頼っていいんだと、抱え込まなくていいんだよ、と。
……吾亦紅の花言葉は、私自身大切にしたい気持ちの表れだ。
移りゆく日々の中で訪れる変化を望んで生きる。後ろ向きがちだった自分の心と向き合って変わっていくことはできるはずだ。
そして、憧れを抱いていたあの平和な世界を、もっと他人と繋がりあって、創っていくこともできると信じている。
……絶望の世界を超えた先に何があるかなんて、私にはわからない。未来のことなんて、どんなキル姫だってマスターだって、きっとわからないだろう。でも、それで構わない。
私なりの希望を持って。
前に進むという思いを心に宿して。
希望の先に見える世界を、私が、私たちが望んだ世界を、明日を目指して歩いていくのだ。
何回転んだって、立ち上がって、頑張る。独りぼっちじゃなくて、仲間と一緒に。
……私も、ミストルティンなのだ。
ミストルティン・獣刻・ドリュアスだったとしても、一人のミストルティンだ。だからこそ、私は私の意思で進んでいける。
「何度でも立ち上がり、突き進めるように……!」
自分の足で、仲間と支えながら新しい世界を歩いていこう。
バーベキューの夜空に映る星々は、どこまでも、どこまでも広くて、綺麗で、そして……眩しかった。