ポケデレ〜不思議な生物とシンデレラガールズの日常〜 作:葉隠 紅葉
『えぇうちのイワークはそりゃもう勇敢で、なにせスピアーの群れにだってびくともしないんでさぁ』
「す、すっごい!おっきぃ!!」
「カッコ良い〜〜♩」
テレビに夢中になる少女二人。まるで怪獣映画を見ているような気分で彼女達は歓声をあげた。テレビの中では大きなイワークがぶんぶんと尻尾を景気良く振り回していた。城ヶ崎莉嘉はテレビに熱を込めて見入るのであった。
「今の見た、みりあちゃん!?すっごく大っきかったねー!」
「うんカッコ良かったねー♩」
テレビに夢中になってはしゃぐ二人。どうやらレッスン終わりの事務所で共にテレビを鑑賞しているようだ。テレビでは今北海道のとある農家が飼っている巨大なイワークについて特集していた。
大きさ8.8mという巨大な岩石ポケモン。そのゴツゴツとした岩肌は見るからに頑丈で威圧さを感じさせた。重量はなんと驚異の210kg。一般家庭ではまずお目にかかれないポケモンであろう。
どちらかといえば男の子が好みそうなポケモンではあるが、怪獣が好きな城ヶ崎莉嘉にとってはどうやらあこがれの対象になりうるらしい。スポーツドリンクを片手に彼女は食い入るように画面を見つめた。
「イワークってさ!きっと強いよね!あんなに体が怖そうなんだもん!」
「うん、きっとなんでもバリバリ食べちゃうね」
「食べちゃうぞ!ガォーー♩」
「やーん怖いよー♩」
大はしゃぎする二人。なんとも年相応でかしましい姿である。その後二人でひとしきり笑い合うと再び画面に向き合った。もうイワーク特集は終わり、テレビ番組では次のコーナーの映像を流していた。都会で経営しているおしゃれカフェの映像を眺めながら城ヶ崎莉嘉はため息をついた。
「あーあ私もポケモン欲しいなー」
「良いよねー…みりあも欲しいなぁ」
思わぬ独り言に対して同調してくれる友人。みりあの声に彼女もまた大喜びで声をかけた。
「みりあちゃんはさ、もし飼うとしたらどんな子が良いの!」
「うーん体が小さい子かな…大きな子はエサとかお世話大変そうだし」
妙なところでずれた感性を示すみりあ。彼女は下に妹を抱える姉であり、意外なところで家庭的な面を表すのである。むぅーとばかりに頰をふくらませる莉嘉。
「そういう事も大事だけどさぁ。やっぱり可愛いのとか強いのとかー」
「あっでもピカチュウは可愛いよね♩」
「そうそう!あのほっぺの所とかちょーカワイイよね!!」
「みりあは尻尾のところが好きだなぁーって」
「それわかるー♩」
今度は年相応の女子トークを行う二人。その後もマリルやロコンといった可愛らしいポケモンを出しては感想を述べ合った二人。お菓子を片手にはしゃぐ女子会トークに花を咲かせるのであった。
ちなみに小・中学生に人気のポケモンランキングではピカチュウは必ずと言ってよいほどランク入りする。彼ら電気ネズミはどの場所どの時代であっても不動の人気者であるらしい。
時刻は午後四時を示す。夕方に入りかける時刻ではあるがまだまだ少女たちのトークは終わらない。時間が経ってもなお、いやそれ以上に白熱していくポケモン女子トーク。空になったジュースの容器をゴミ箱に投げ捨てながらみりあは問いかけた。
「莉嘉ちゃんはどんな子が良いの?もしも飼うとしたら」
「うーん沢山いるけどー」
顔に手を当てて考え込む莉嘉。飼いたいポケモンはたくさんいる。怪獣のように大きな物、特にドラゴンタイプにはこの上ない魅力を感じてしまう。もしも巨大なドラゴンに乗って空を飛べたならきっと最高の気分になれるだろう。けれどやっぱり……
「やっぱりあの子だなぁ…」
「あの子?」
「分かんないかなぁ?じゃあヒントね!その子は虫タイプでーおっきなツノを持っててー」
「あー分かった!ヘラクロスだぁ!」
「ピンポーン大正解♩」
手を叩いて答えるみりあ。そんな彼女に対して莉嘉もまた満面の笑みで答えるのであった。
「ヘラクロス良いよね!カッコ良いし強そう!」
「そうそう、アタシ絶対ヘラクロス飼うんだ!」
「その時にはみりあにも触らせてね♩」
「勿論だよーえへへ」
ヘラクロスを飼う時を想像してつい顔がほころんでしまう莉嘉。にまにまと巨大なカブトムシを抱きしめる自身の姿を想像しては悦に入る。そんな莉嘉を微笑ましげな表情でみりあは見つめた。
こんな微笑ましい光景が日々、346プロダクションでは行われている。このプロダクションでは現在多くのポケモンも存在する。が、それでも虫ポケモンや毒タイプといった一般人受けしないポケモンは数が少ないのが現状であった。テレビや雑誌に出てもよい評判が得られにくいのが理由の一つでもあったからだ。
虫ポケモンが大好きな莉嘉としては強く主張したかった。虫ポケモンとは決して嫌われるような存在ではないのだと。
虫ポケモンの魅力は成長の速さである。十年かかっても進化できないポケモンがいる中彼らは一年もあれば大抵は進化してしまう。早く、大量に繁殖するその生態は実に魅力に溢れているのだ。あと可愛いし。
飼育環境を選ばない点も魅力的である。彼らは望めば家でも寝室でも物置でもどこであろうとも繁殖できるのである。その異様なまでの生命力の強さは注目すべきものであろう。あと可愛いし。
とまぁ心の中で大いに虫ポケモンの魅力について再確認する莉嘉。そういった繁殖力の高さが嫌われる要因の一つでもあるのだが。
くりっとした瞳のキャタピー、スピアーの巨大針、巨大なハサミを持つカイロス。実に多くの魅力的な虫ポケモンたちについて思い返す莉嘉。その魅力を全て語っていては時間がいくらあっても足りないだろう。莉嘉はお手製のノートに虫ポケモンたちのスナップ写真を貼ってはそれを眺めるのが好きであった。
いつの日か絶対に飼ってみせる
少女はすでに硬い決心をしていた。それはもうダイヤモンド並みの硬い決心であった。彼ら虫ポケモンに囲まれる生活をしてみたい、というのが今の彼女のささやかな夢の一つであるらしい。
ちなみにこのヘラクロス飼育計画は現在家族からの猛反対を受けている。なんとか家族を説得しようと試みているのだが芳しくない莉嘉なのであった。姉の城ヶ崎美嘉曰く「家に巨大な昆虫がいるのはマジで無理」とのことであった。