ポケデレ〜不思議な生物とシンデレラガールズの日常〜   作:葉隠 紅葉

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アナスタシアと氷ポケモン

 そこは某県某所、とある市民会館であった。比較的大きなその会場には満員に近いほど多くの人間が集まっていた。声を枯さんばかりに張り上げる観客。そうしてライブは終わりの時間を迎えた。

 

「みなさーん今日はありがとうございましたー!」

 

「また来て欲しい、ですー」

 

 拍手が鳴り止まない大喝采。その中を力一杯に手を振りながら降りていく二人のアイドル。そうして新田美波とアナスタシアは満面の笑みを携えて劇場から降りていくのであった。

 

 彼女たちラブライカのCD発売記念イベントは大盛況のまま終わるのであった。ライブ直後ということもあり息をきらしては汗にまみれる二人。スタッフの人々に挨拶をかわしながら彼女たちは待合室へと歩いていく。

 

「美波、とっても良いステージでしたね♩」

 

「うん最高のステージだったねアーニャちゃん!」

 

 興奮冷めやらぬ中ふたりはステージの感想を言い合った。ドリンクを片手に彼女たちは白熱した会話を続ける。ここが良かった、次はあぁしようと具体的な改善点を交える所は生真面目な彼女たち独特の点であろう。

 

 しかし議論に夢中で自らの汗を拭おうとしない彼女たち。そんな彼女に対して見かねたのだろうか。一匹のポケモンがトコトコとタオルを咥えて走り寄って来た。

 

「キュゥゥアー」

 

「あっそうでした…フェーヤありがとうございます♩」

 

 これで体をふいてと言わんばかりに注意をしてくるポケモン。彼は二人分のタオルを咥えたままペシペシと器用にアナスタシアの足を叩いた。その前足でペチペチと叩く仕草のなんと可愛らしい事か。無意識に行う動作は彼自身の見目も合わさって爆発的な愛嬌を生んでいた。

 

 美波もまたそんな彼の愛らしい仕草に思わず見入ってしまう。きゅんと高鳴る胸を押さえつつ彼女もまた件のポケモンに挨拶をした。その短いスカートのまま美波はしゃがみこんで彼に声をかけた。

 

「フェーヤくんはお利口さんだね、ありがとう」

 

「キュゥ」

 

 尻尾をふって答える彼。気にするなとでも言わんばかりのそっけない気質はクールな性格である主人ゆずりなのかもしれない。そのそっけない態度もまた可愛らしかったが。

 

 そのポケモンはグレイシアと呼ばれる種族であった。美しいライトブルーの身体にくるんとのびた耳。その愛嬌ある顔は実に可愛らしいものであった。体長は60cmと他の個体に比べて小さな身体なことも相まって実に魅力的な姿をしている。

 

 フェーヤと名付けられた彼、そのオスのグレイシアは一心に寵愛を受けて育つのであった。ロシア語で妖精を意味する彼は愛しきご主人様にやんわりと抱かれた。全身をふかふかのベッドに包みこまれるような、そんな柔らかい感触に酔いしれるフェーヤ。

 

 アナスタシアの胸に抱かれる彼。くんくんと鼻を鳴らしては主人の匂いを堪能する。その花のように甘く優しい香りが彼は大好きなのであったのだ。ごろごろと喉を鳴らしながらご主人に甘える。そんな彼の姿にアナスタシアはにっこりと笑みを浮かべるのであった。

 

「あら仲良しさんだね」

 

「ふふっ、フェーヤは甘えん坊です」

 

「〜〜っ♩」

 

 全身を使って甘える彼の姿のなんと可愛らしい事か。美波もまたそんな彼の姿を大いに堪能する。あぁライブでの疲れが癒されていくようだ。彼女は可愛らしい一匹のポケモンに見入るのであった。

 

「ひんやりしてて、気持ち良いです。フェーヤはやっぱり最高です♩」

 

「うーん羨ましいなぁ」

 

「あっごめんなさい美波!変な意味では…」

 

「ううん、分かってるから。大丈夫だよアーニャちゃん」

 

 苦笑する美波。実はこうして彼が甘えるのはアーニャに対してだけなのである。彼はひかえめな性格な事もあり、他人には己の体に触らせようとすらしないからだ。他人が無理に触ろうとすると威嚇までしてくるのである。

 

 ちなみに最近では美波の努力の甲斐もあり餌があって機嫌が良い時には、ほんの少しだけ触れるようになった。彼自身すぐに離れていってしまうが。

 

 そのふさふさでひんやりとした独特の感触を思い出しながら美波はタオルで自身の汗をぬぐった。与えられたステージ衣装をまくりながら汗をぬぐっていく彼女。彼女は汗をぬぐいながらアーニャに対して声をかけた。

 

「ところでアーニャちゃんは東京に帰った後は暇?」

 

「今日の夜ですか…?ちょっと買い物の用事、あります」

 

「あぁーそっか、食事でもどうかなって思ったんだけど…残念だね」

 

 がっくりと気を落とす美波。どうやら東京に帰った後にアーニャと食事できるかもと期待していたらしい。仕方ないかと着替えながら彼女は苦笑する。そんな美波に対してアーニャはいいえと返事をした。

 

「用事の後、ならOKです。もし良いなら、美波も一緒に来ても大丈夫ですよ?」

 

「え、いいの?」

 

「はい、ちょっと退屈しちゃうかもですが」

 

 小首を傾げてうかがうアーニャ。銀色の髪、端正な顔つきを歪めてこちらを見上げる彼女はとてつもなく可愛らしかった。そんな仕草にほおをゆるめる美波。自身が手にしていたタオルをおきながら彼女は笑顔で返答をした。

 

「そんなことないよ、アーニャちゃんとフェーヤ君が一緒だもん」

 

「スパシーバ、それはよかったです」

 

「ところで…買い物の用事ってなにかな?」

 

「はい、実はフェーヤのボールを…」

 

 嬉しそうに買い物内容について語るアーニャ。まるで幼い子供のようにはしゃぐアーニャの姿に美波まで楽しくなってきてしまう。そうして二人は後片付けと関係者スタッフへの挨拶回りを終えると会場を後にするのであった。

 

 新幹線に乗り帰宅していく二人。そうして彼女たちはボール職人の元へと向かうのであった。ちなみに道中フェーヤはずっとアーニャの膝の上で睡眠をとっていたらしい。あくびをしながら寝ぼける姿を写真に収めようと、はしゃぐ二人のアイドルの姿が某新幹線の中で見られたとか。

 

 

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