ポケデレ〜不思議な生物とシンデレラガールズの日常〜   作:葉隠 紅葉

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青木慶とマンキー

 野球場のように拓けた空間、その土手広場の一角に設けられたバトルフィールドには観客達がいた。老人達が茶を飲んでいたり、近所の子供達が熱い眼差しでそのバトルを見守っている。プレーヤーである少女が声を張り上げた。

 

「ブーちゃん!ちょうはつ!」

 

 青木慶の命令する声。その声に反応し彼女の相棒、マンキーは中指を立てて相手をちょうはつし始めた。にやりとほくそ笑むマンキーに対して、対戦相手で在るゴローンは反応してしまう。

 

 鼻息をあらげて突進してくるゴローン。そんな中、マンキーは冷静に攻撃を見極めて攻撃をよけていた。ぶたざるポケモンらしく軽々とした身のこなし。鼻歌まじりに攻撃をかわすマンキー。

 

「ブーちゃん!フィールドの端に移動してビルドアップ!」

 

「ゴローン!慌てずにいわおとしだ!」

 

 口に手を当てて大声を出す慶。そんな彼女の声にすかさず反応したマンキーは素早く移動を開始する。対戦相手である中年男性もまた指令を下す。だがすばやさが低いゴローンは敵の動きに対応する事ができないでいた。

 

 仕方なくその場で岩を生み出してはマンキーに対して投げ始めるゴローン。しかし距離があるためか岩は一向に当たらないでいる。そんな10秒足らずの攻防の間に、マンキーはすっかり準備を整えていた。

 

「ブーちゃん、行けるよね!」

 

「ブー!!」

 

 相棒からの言葉に力こぶで答える彼。ビルドアップにより、彼の肉体はむきむきと力が滾っているようだ。腕の筋肉がはち切れんばかりに膨らんでいる。準備は整った、そんな彼を見た慶はすかさず命令を下す。

 

「いくよ!とどめの……インファイトッ!!」

 

パァン!

 

 弾けるように飛び出した一匹の弾丸。そうして彼はその丸い身体を全力で走らせては相手に拳を叩きつけた。ライフルのように激しい衝撃音。それと共にダメージを受け顔を歪ませるゴローン。そんな彼に対してマンキーは、激雨のように拳を浴びせ続けた。

 

 激しい攻撃の数々。7発目の連撃と共にゴローンは倒れた。湧き上がるギャラリーの歓声。町内会の人々の声援を背に、レフェリーは大声で宣言をした。

 

「ゴローン戦闘不能!マンキーの勝ち!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「やったねブーちゃん♩」

 

「ブー♩」

 

 抱き合う女性とマンキー。彼女達は汗や泥も気にせずに駆け寄っては互いの健闘を称え合った。お疲れ様と彼の身体を労わる慶。そんな彼女からのいたわりに瞳を閉じて感じ入るマンキー。どうやらお互いに良い信頼関係が築けているようだ。

 

 勝利した彼女達をもてはやす観客達。近所の男の子達が大はしゃぎする中、一人の男性が彼女達へと歩み寄ってきた。作業服に身を包んだ40代程の男性。タオルを首元に押し付けながら彼は語りかけた。

 

「いやーまいった、慶ちゃんには敵わないなぁ」

 

「わたし、じゃなくてブーちゃんも一緒ですよ?」

 

「おっとそうだった。ブーちゃんも強いなぁ」

 

 中年男性もまた、慶とマンキーの健闘を称えた。悔しそうに、けれど誇らしげな顔をする彼はカバンへと自身の相棒をもどしながら彼女と会話を続けた。

 

「もうこの町じゃ誰も慶ちゃんには敵わないなぁ」

 

「えへへ、けどお姉ちゃん達はもっと強いんですよねぇ」

 

「そういや四姉妹だったなぁ。うんうん、強くて美人とは最高だ!」

 

 男性のガハハという笑い声に苦笑する慶。ジム通いとポケモンバトルが趣味である彼女。彼女の相棒であるマンキーもまた身体を動かすバトルが好きなのであった。なので、彼女達はこうして休日にはポケモンバトルに勤しむのであった。

 

 談笑をする二人。そんな彼らの目前ではまた別のポケモン達がバトルを繰り広げようとしていた。短パンをはいた小僧がビードルを出す。そんな光景を横目に慶はそっとマンキーの額を撫でてあげた。

 

 

 バトルを行うことはポケモン達にとって虐待ではないか、と考えられていた時期がある。激しい技の攻防、毒や麻痺といった状態異常は身体へと過酷な負担をかけるのではないかとする考え方である。現に、今でもこうして主張する人間も中には存在する。

 

しかし最新の研究結果により

これは否定されているのであった

 

 ポケモン達にとってバトルとは運動なのである。犬に散歩をさせる事に近いと言えるだろう。適度な散歩は犬のストレス解消につながるし、ひいては彼らの健康の為にもなるのだ。

 

 ポケモン達にとってバトルとは至上のコミュニケーションツールでもあるのだ。餌や住処を求めて何千年も戦ってきた彼ら。敗北、痛み、勝利、それらを通して群れの仲間とコミュニティを築くのだ。

 

 他者との闘争が自身の中で経験値となって積み重なり、やがては新たな技や更なる進化へと繋がっていくのである。ポケモンは戦いの中で己を高めていると言い換えても良い。故に適度なバトルはむしろ必要である、とするのが現在の科学的な見解であった。

 

 ポケモンにとって人間とは成長を促してくれる存在なのである。一方的に使役される隷属関係ではなく、利に則った共存関係であると言えるのだ。だからこそ人間とポケモンはそこから信頼関係を構築する事ができるのである。

 

 無論、バトルを好まない種族や性格といったポケモンも存在する。どの程度のバトルが必要なのか、彼らが進化を望むか望まないか。そういった事は互いのパートナーとよく話し合う必要があるのである。

 

 

 

「とまぁそんな訳でタバコ屋の婆さんがな?」

 

「あっごめんなさい…そろそろ事務所の方に行かなきゃ…」

 

 苦笑する慶。近所の話題をふってくれる男性には申し訳ないが、彼女もまたこれから仕事へと向かわなければいけないのであった。長話をさせてしまったかと苦笑いする男性。彼は謝りながらテントの方へと歩いて行った。

 

「お疲れ様ブーちゃん、あとは休んでいてね」

 

 バトルの疲労と男性の長話で眠ってしまっているマンキー。彼をせなかにおぶりながら慶は急いで帰り支度を始めた。バッグに必要なものをつめ、彼にそっとボールを押し当てる。静かに玉の中へと収まっていく彼の姿を確認した彼女は急いで346プロダクションへと向かった。

 

 青木慶、別名ルーキートレーナーと呼ばれる彼女。彼女は今日もまたアイドル達のトレーニングをサポートするのであった。いつの日か最高のトレーナーと呼ばれることを夢見て。

 

 

 


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