ポケデレ〜不思議な生物とシンデレラガールズの日常〜   作:葉隠 紅葉

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第4章
【星輝子とパラスと商店街】


 場所は福島県のとある商店街、休日の為か多くの人が街中を歩いて居た。手を繋ぎ楽しそうに歩いていく母娘。ゲームセンターへ向かおうとする男子中学生の集団。実に多くの人々が休日を謳歌する中、彼女はそこにいた

 

「…ぐへへ」

 

 ダボダボのシャツを身につけたグレーの髪をした美少女、星輝子である。彼女は本屋の表に販売されている雑誌を立ち読みしながらにへへと笑みを浮かべている。どうやらキノコが気になるようだ。雑誌『月刊キノコパラダイス』を眺めながら彼女は笑みを浮かべた。

 

 キノコ雑誌を眺めながら危ない笑みを浮かべる中学一年生。色々な意味で危険な香りのする子供である。人々はちらりと横目で観察しながら脚早に通り過ぎていく。そんな彼女の足もとにとある一匹のポケモンがやってくる。

 

 それはオスのパラスであった。彼はトコトコと輝子の足元までやってくると、彼女の足をえいえいと軽く小突いた。大きなハサミに驚いたのだろうか、はっと下を注視する輝子。

 

 おそいよと言わんばかりに両手をあげて抗議する彼。そんな彼に対して輝子は申し訳なさそうに謝罪した。

 

「ご、ごめん…本が気になって…」

 

「パラー?」

 

「うん…ここんとこ…シイタケ特集がすごいんだ…」

 

 雑誌を見開いて彼に見せてあげる輝子。心なしか彼女の瞳が輝いて見える。キノコを頭につけた親友に嬉しそうに笑って見せる輝子。どうやら彼に対しては普通にコミュニケーションを取る事が出来るらしい。

 

 だが共に暮らして数年にもなる親友はどうやらあまり興味がないらしい。ため息をつくように口をガシガシと鳴らすと日陰の方へ歩いて行ってしまった。そんな彼の態度に苦笑しながら輝子は手に持った雑誌を購入すべくレジへと向かった。

 

 どうやらお互いに普通に会話ができているらしい。ポケモンが世に広まって数年経つとはいえここまで高度にコミュニケーションが取れる者は少ないだろう。双方に実力がなければできない芸当である。相当二人の相性が良かったのだろう。本当にすごいことはそれを無意識的に行なっている事だが。

 

 ポケモンは生まれたばかりでは言語を理解できない。生後数ヶ月を通して周囲の人間やポケモンが話す言語を聞きながら、少しづつ理解を深めていくのである。この段階になるとYes,Noをボディランゲージで示す事ができるのである。一説には言語ではなくその生命の感情、喜怒哀楽を通して学んでいくのだともされているが、そこは確かではない。

 

 第二段階の進化時にはほとんどの言語を理解する事ができるようになるとも言われている。大切な事は人間がポケモンを一方的に使役するような関係ではこのような親密な仲にはなれないという事である。

 

 かつてNと呼ばれる青年はこう主張した。『彼らは人間以上に物事を理解する力がある。ポケモンをボールに閉じ込めるような人間にはそれが分からないのだ』と。

 

 お互いが存在を主張しあい、尊敬し合う姿勢。ポケモンと人間が尊重しあう、かつてNと呼ばれた青年が理想とする光景がそこにはあるのかもしれない。

 

 

「パラ〜」

 

「うん?な、なんだ…親友…」

 

 ともあれ、まだ完璧な意思疎通ができる訳ではないらしい。自身のスカートを掴んでくる彼を見ながら、輝子は考える。自身の顎に手をかけて、うーんと少しばかり思案する星輝子。指し示す爪の先を見て、漸く輝子は彼が飲み物を飲みたがっているのかと理解した。

 

「あぁそうか…うん…私も」

 

「パラ♩パラ〜♩」

 

「親友は…どれが飲みたい…」

 

「パラッ!」

 

「し、親友は…それ…最近のお気に入りなんだな…」

 

 水・ジュース・お茶と様々なものが立ち並ぶ自動販売機。2mばかりの高さの大型機械を眺めながらどれを飲もうかと考える輝子。だがどうやらパラスは既に決めているものがあるようだ。

 

 硬貨を投入して彼の要望の通りボタンを押してあげる。するとガコンという子気味良い音と共に麦茶が落ちてきた。輝子は500mlの麦茶を手に取り彼にそっと手渡した。彼女達はそのまま隣接されたベンチの上で休み始める。ベンチに腰掛けゆったりとくつろぐ一人と一匹。

 

 自身もまた購入した水を飲み始める輝子。そんな彼女の元へ一人の人間がよってきた。青い制服に身を包んだ成人男性、警察官であった。

 

「あのーすみません」

 

「な、なに…?……フヒッ!?」

 

 警察官が苦笑しながらよってくる。自身の目の前に立ち始めた警察官を見上げて、輝子はぎょっと驚いてしまう。瞳をそらして激しく動揺してしまう彼女。まるで不審者その者である。

 

「少しよろしいでしょうか」

 

「あ、あの…何もわるいこと…してまひぇん…」

 

 涙目で答える星輝子。どうやら彼女は先日起きたトラブルを思い出しているらしい。あやうく警察沙汰となってしまったその事件。それはいつの日か語る日がくるのかもしれない。ともあれこの時の輝子は警察に苦手意識を持っているのであった。

 

 それはもう、メガリザードンに対峙したパラセクトに匹敵する苦手意識である。涙目でぷるぷるとうつむく輝子。なんという不利対面であろうか。大型台風にビニール傘で挑むことに等しい。

 

 パラスもまた輝子の動揺を過敏に感じたのだろうか。彼も涙目で警察官を見上げる。そんな涙目の女子中学生と虫ポケモンに対して警察官は慌てたように答えた。

 

「い、いえ…トレーナー確認がしたいだけです」

 

「ト…トレーナー確認…」

 

「ライセンスは持ってるかな?」

 

「は、はい…だいじょぶ…です」

 

 動揺する輝子。彼女は手提げ鞄をごそごそと漁ると中から黒い財布を取り出した。そこから震える手つきで免許証を取り出す。C級と刻印されたそれがトレーナー認定証であった。

 

 彼女の引きつった笑みが印刷されたライセンスカードを眺める警察官。輝子としては気が気ではなかった。早くおわってくれないだろうかと彼女は神に祈り始める。

 

「C級ライセンス…手持ちはそのパラスだけかな?」

 

「はい…」

 

「うん…確認しました。大丈夫そうだね」

 

 にこりと微笑む警察官。それにより輝子はようやくほっと息をついた。過去に違法所持云々でもめた経験もある彼女にとっては嬉しくない時間であったのだ。安堵する親友にパラスもまた嬉しそうに鳴き始める。

 

 最近ではこのように街中をポケモンが連れて歩く為にはトレーナー資格と呼ばれるものが必要になったのである。つまり政府が発行するライセンスの事だ。このライセンスには階級が三つあり、それぞれ所持するポケモンの個体数、タイプやサイズによって規定が定められているのであった。

 

C級では虫・草・ノーマルタイプ

B級では水や飛行といった幅広いタイプ

A級は悪・炎・毒・竜などの危険なタイプ

 

 このようにタイプによって取得しなければならない物が異なってくるのである。一般家庭で飼育するだけならば役所への申請だけで良い。しかし仕事や公共の場所で連れて歩くにはライセンスによる認可が必要である。

 

 これは知識を持った人間でなければ犯罪や事故が起きる可能性があった為政府が実施した政策でもあった。これを破れば犯罪にあたり、また起こした事件・事故の規模によってはライセンスカードが取り上げられるのである。

 

 虫や草、ノーマルタイプは比較的危険が少ない。が、炎や毒タイプといったポケモンの種族によっては恐ろしい事態になってしまう。故に、ライセンス制度である。少なくとも自身の能力や技をコントロールできなければ街中を歩くのは大変危険な事だからだ。

 

 試験はマークシート方式によるペーパーテスト。その後は座学を受けて定期的に講習にも参加しなければいけない。B級からはポケモンと人間双方への実務試験もあるのだ。欲しいからといっていきなりドラゴンタイプを飼い始めることができない制度となっているのである。

 

 とはいえこの法律にも穴はある。やはりポケモンが世に出て試験的に採用した制度である為かどうしても対応しきれない部分が多々あった。その辺りは今後の法整備や専門家による会議が必要であるとも言われており、役人達が日夜議論に明け暮れるのであった。閑話休題。

 

 

 ライセンスを確認し終えた警察官は輝子にそっと返した。危惧であったことにほっと息をつく警察官。

 

「ごめんね、もう行っても大丈夫だからね」

 

「は、はい…」

 

 声がうわずってしまう星輝子。どうやら本人も自負するコミュ障ぶりは健在であるらしい。彼女は額に汗を流しながら早くここから離れようと心に決めた。そんな彼女の葛藤を知らずかパラスは陽気に声をあげた。

 

「パラー」

 

「うん、君も周囲に気をつけてね」

 

 嬉しそうなパラスに反応をする警察官。存外に大人しく可愛らしい彼に対して出来心でもあったのだろうか、警察官はしゃがみこんでそっとパラスを撫でようとする。撫でようと、してしまう。

 

「あっ…」

 

「うん?どうか……あばばっ!?」

 

 あっと声を出してしまう輝子。だがもう遅かった。止める暇もなく警察官はパラスの体に触れてしまう。2,3秒のふれあい、それにより警察官は奇声をあげてばたりと倒れ込んでしまった。顔を青くする輝子、だが既に事態は手遅れになってしまったようだ。

 

 

 パラスの特性『ほうし』であった。自身の身体に触れたものへ低確率で毒、麻痺、睡眠状態のいずれかを付与するほうしを放出するという特性。一部の虫ポケモンが持つこの特性が警察官を襲ったのである。

 

 このほうし、輝子のように日頃からなれ親しんだものには放出しないようにポケモン側もある程度はコントロールする事ができる。ポニータの炎は親しい人間に触れても熱くないという記述もあるように。親しい人間、落ち着いた環境ならばこれらは十分コントロールする事が可能なのである。

 

 だが今回の場合は親友である輝子の動揺と見知らぬ他人に触れられたという衝撃がパラスを混乱させたのだろう。つい、驚いてほうしをだしてしまったという訳である。全身をまひさせガクガクと震える警察官を見下ろして輝子は血の気が引いた真っ青な顔をしてしまう。

 

 

 まひなおしを求めにスーパーへと駆け込む星輝子。そんな彼女と警察官に対して、申し訳ないというふうにパラスが寂しく鳴いた。痺れて倒れ臥す警察官に対して彼は静かに謝罪をした。

 


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