ポケデレ〜不思議な生物とシンデレラガールズの日常〜   作:葉隠 紅葉

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神谷奈緒とライセンス制度

 ファンが回り、空調の音がする。その空間、346プロダクションの待合室にて神谷奈緒は頭を抱えながら問題集を眺めていた。彼女は頭をわしわしと書きながらテキストを睨みつける。

 

「うぅ…この問題…結構むずかしいな…」

 

 開いたノートにペンを走らせる。カリカリと音を立てながら彼女は一心に問題を解いていく。そのテキストには『1週間で完全攻略!C級ライセンス取得』と書かれている。書店で購入した全200Pに及ぶ問題集には水玉模様のブックカバーがかけられていた。どうやらかなり使い込んでいるらしい。

 

 そんな彼女のそばをとある一人の少女が通りかける。彼女は机に向かって座学を行なっている奈緒を見かけると驚いたように振り返る。そのツインテールの少女、緒方智絵里はそっと彼女に声をかけた。

 

「あれ…奈緒ちゃん、何やってるの…?」

 

「あぁ…智絵里かおはよう」

 

「おはようございます…何か悩み事ですか?」

 

 最近知り合った二人。今度のお祭りイベントでユニットを組む可能性があるとの事でこの間顔合わせをしたのだ。その時から交友を少しづつ交友を深めるようになったのだ。

 

 ちなみにユニットは星輝子と奈緒と智絵里の三人。ユニット名は「シャイニングゴッドチェリー」である。おそるべきネーミングセンスであると言える。まぁそれは余談であるが。

 

 ともあれ仲良くなった彼女達。年齢は近いが先輩と後輩という関係。敬語が時折混ざるが、彼女達自身は仲が良いようであった。そんな智絵里はそっと机に視線を向ける。そんな彼女に対して奈緒はあぁと説明をするのであった。

 

「今ライセンスの勉強をしてるんだよ」

 

「ライセンス…それって確か奈緒ちゃんの…」

 

「そうそう、イーブイと一緒に暮らし始めたからさ」

 

 嬉しげに語る奈緒。彼女はへへっと笑いながら実に嬉しそうに家族の事を語った。最近ようやく両親にもなつき始めたのだと語る彼女の話に思わず智絵里も微笑んでしまう。

 

 缶コーヒーの蓋をあける奈緒。微糖と書かれたそれを傾けながら奈緒は智絵里とライセンスの話をし始めた。初めて受験する奈緒にとってやはり不安で懸念な事項らしい。彼女はその太く特徴的な眉をひそめながら智絵里に詳しい話を聞き始めた。

 

「ライセンス試験難しいですよね…私もポポくんとチュチュちゃんの為に頑張りました」

 

「チュチュちゃん…あぁあのふわふわ浮いてたポケモンか」

 

「はい、チュリネって言って草ポケモンなんです」

 

 智絵里は自身の家族について話す。こうしている今、二匹のポケモン達の事を思い出す。中庭にある大樹の陰で昼寝をとるのが好きな彼らのことを。

 

 智絵里もまた椅子を引き寄せ座り始める。スカートを巻き込まないように丁重に気を使いながら座る智絵里。それはとても女性的で美しい動作であった。

 

「でも独学でライセンスですか?すごいですね」

 

「いやいや始めたばかりで…試験って難しいんだな」

 

「あぁ…マークシート方式ですけど難しいですよね」

 

「でもイーブイの為だからさ、アタシも頑張ってC級取るよ!」

 

「えっ…イーブイなのにC級なんですか?B級じゃなくて?」

 

「えっ」

 

 きょとんとする智絵里。可愛らしく首を傾げて尋ねる、そんな彼女の姿にどきりと奈緒は反応してしまう。奈緒の背中に冷や汗が流れた。奈緒は椅子に座りながら思わず智絵里の事を見つめ返してしまう。

 

「特C級でも良いけどあまり意味が…それならB級の方が…」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ智絵里!」

 

「やっぱりB級から限定解除するのが一般的で…」

 

「いや待ってくれ!さっきから何言ってるかさっぱりなんだけど!?」

 

「ライセンスのお話…ですよね?」

 

「うっ…ごめんあたしそういうの初めてで…」

 

「あっ!ご、ごめんなさい…私も早とちりしちゃって」

 

 智絵里が慌てて言葉を放つ。焦ったように両手をあわあわとさせる智絵里。そんな彼女からライセンス制度について詳しい説明が行われた。

 

 ファンの音がなる。空調が効いたこの部屋にいるのは二人と一つのテレビだけであった。液晶画面の中では『輿水幸子!アマゾンの奥地で絶叫バンジージャンプに挑戦!』特集が行われていた。

 

 幸子のプロデューサーを呪い殺すような絶叫を背後に、二人のアイドルはライセンス談義を続ける。いたって平和で日常的な346プロダクションの光景がそこにはあった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

C級【ノーマル・草・虫】

B級【水・電気・氷・格闘・飛行・鋼・岩・霊・地面・エスパー】

A級【龍・毒・炎・悪】

 

 ライセンスは大別して3種に分けられる。しかしそこから更に個別で2種類に分けられるのだ。『限定』と『特級』の二つがそれである。よって厳密にはライセンスには6種類存在するという事になる。

 

C級(限定)と特C級

B級(限定)と特B級

A級(限定)と特A級

 

 

 限定と特級の違いは「飼育できるタイプの差数」にある。例えばC級(虫)と書かれたライセンスの場合は虫タイプしか公共の場に連れ出す事はできない。

 

 しかし特級と書かれたライセンスならばその級に属する全てのタイプを飼育する事ができる。よって特C級の場合は(虫・草・ノーマル)の3種類を扱うことが可能になるのである。

 

 無論、試験の際にも違いがある。特級と限定級の場合は試験の際の出題傾向が異なるのだ。限定の場合は要求される知識が偏り難易度が下がる。一方特級の場合は該当範囲が広く、試験全体が難しい傾向になるのである。よって飼育するポケモンが明確に決まっている場合はそのタイプに限定した問題を受験した方が効率的なのである。

 

 電気作業員などは電気タイプを中心的に学習し、電気タイプをメインとした限定試験を受ける事が多い。そうして試験に合格すると職場などで電気タイプのポケモンに技を出させたりといった特殊な行動ができるのである。つまり職場や嗜好に特化したタイプを限定試験で受けた方がなにかと都合が良いと言える。

 

 

「なるほど…じゃあ智絵里の場合は」

 

「私はポポくんとチュチュちゃんがいるから…B級ライセンスの(飛行)限定を持ってるよ」

 

 智絵里が財布から取り出した一枚のカードを見せてくれる。それは集積回路が内臓された認証ライセンスであった。このカードを指定の機械に通す事で内部メモリに記録されたポケモンと本人の情報が記録、閲覧可能になるのである。

 

 それは黄色いプラスチックのカードであった。表面には智絵里の写真と住所、そしていくつかの項目がある。空白の欄の一つ、飛行と書かれた欄に○の記号が描かれているのが奈緒にもよくわかった。

 

 初めて間近で見た正規ライセンスに興奮する奈緒。彼女にはクレジットカードのような、格好良い大人が持つ魅力的なアイテムに見えたのだ。おぉと息を漏らしながらそのカードを見つめる奈緒。そうして彼女はあれ?と首を傾げた。

 

「智絵里のポケモンって草タイプだったよな」

 

「そうだよ?」

 

「どうして飛行なんだ?」

 

「あぁ…ポポくんが草と飛行タイプなんです。B級の限定なら(草・虫・ノーマル)タイプも扱えるから…」

 

「えーと…上位ライセンスなら下級ライセンスのタイプも扱えるって事?」

 

「うん…だから取れるならB級の限定を取った方が便利かなって…」

 

「それがさっき言ってた限定解除か…」

 

「うん、まず一つのタイプを取っちゃえば他のも割と簡単に取れるから…」

 

 上位ライセンスならば下級のライセンスを扱える。これは下級である程一般人への直接的な危険度が低いからだ。つまり社会への利益や個人の都合を考えた為、このようなライセンス方式になったのである。

 

つまりB級限定(電気・鋼)を所持した場合

電気と鋼、C級の全てのタイプ

 

A級限定(毒)ならば

毒タイプとB級&C級に該当する全てのタイプ

 

A級特級ならば

全てのタイプのポケモンの運用、所持が可能になるのである。

 

 よって理想的には特A級を取るのが一番良い。が、特A級ともなると座学試験、実技試験も恐るべき難易度となる。日本においても屈指の難易度でありこのライセンスを所持している人間は大変少数である。

 

 故に、限定解除とよばれる試験方法が人気である。これは一度どこかの限定試験を受けた後に別のタイプを受験する事ができる制度である。例えばB級(飛行)を受けた後に水や岩といった同級の異なるタイプを受験すれば、様々な面で優遇される制度である。

 

 具体的には実務試験が免除され合格の際に必要な正答数が減少する。よって最初から特B級を受験するよりも、限定試験をうけて他のタイプを受験(限定解除)する方がより少ないリスクで合格する事ができるのである。

 

 

「つまりイーブイの場合は…」

 

「いつ進化をするかわからないからB級の限定試験を受験して…そこから進化先のタイプに合わせて限定解除した方が…」

 

「受験料とか得だし難易度も下がるってわけか…」

 

 机に身を投げ出してうなだれる奈緒。まさかここまで知識が不足して居たとは思わなかった。彼女は机にうなだれるようにして倒れ込んだ。

 

 深く、長い溜息をついてしまう奈緒。そんな彼女を智絵里は慌てて気遣った。奈緒を元気付けるように、智絵里は明るい声を出して彼女を励ました。

 

「で、でもすぐに進化するってわけじゃないから…」

 

「そ、そうだよな!まずはC級取るのも良いよな」

 

「進化するまで時間もかかるだろうし」

 

「…ってそう言えばさ」

 

 奈緒はふと思い出す。手元にある参考書をそっと閉じるとそばにいる智絵里を見上げた。智絵里もまたキョトンとした可愛らしい顔で奈緒を見つめ返した。

 

「イーブイってどうやって進化するんだっけ?」

 

「え、えーと…」

 

「進化条件とかネットで調べたんだけど山ほど情報があってさ。情けないけど結局よく分からなかったんだ…」

 

「奈緒ちゃん…言いにくいんだけど…」

 

智絵里がくらい顔をしながら奈緒を見る。彼女は苦笑しながらそっと奈緒の疑問に答えてあげるのであった。二人が飲んでいた缶コーヒーと缶ジュースはいつのまにか空になっていた。空き缶を両手でそっと抱えながら彼女は言った。

 

「イーブイって何に進化するかわからないの」

 

「えぇ!ま、まったく分からないのか…?」

 

「大抵はエーフィーかブラッキーらしいんだけど…環境や習慣によって簡単に変わっちゃうらしくて…」

 

「えーと…ランダムなのか?」

 

「うーん…寒い所だとグレイシアに進化しやすいとか…?ごめんなさい、私もよく分からなくて」

 

 申し訳なさそうに謝罪する智絵里。そんな彼女に対して奈緒は慌てたように反応を返す。学者ですら分からない知識をアイドルに尋ねても仕方がないだろう、そう気づいた奈緒、彼女もまた苦笑しながら謝った。

 

 イーブイはポケモン界で最も多様性に富んだ進化をする種族である。嘘か真か、Evolution『進化』の頭文字からふた文字を取って「イーブイ」と名付けられた、だなんて都市伝説もある位である。故にその生態にも謎が多かった。

 

 多くの学者が研究を行なった結果、彼らが不安定な遺伝子を持つ事が判明した。この不安定な遺伝子こそが彼らの進化の鍵を握るとされている。つまり周囲の環境、人間の愛、鉱石の波長といったものから影響を受けるとそれに適応するかのように自身の身体を変化させる事が可能であるらしい。ゆえにイーブイは‘てきおうりょく’に特化した生物ともいえるだろう。

 

 とはいえ判明した事はその程度である。こうしている今もなお多くの人間が研究をして居るが、そのメカニズムは今だに明らかにはされていない。自身が共に暮らし始めたポケモンの凄さやポケモン自身が持つ特異性に改めて驚く奈緒。彼女は机につっぷして疲れたようにつぶやいた。

 

「うぅ大変そうだな…」

 

「でもライセンスを取ったら便利だよ?一緒に旅行とかもすっごく楽しいからね」

 

「そうだな、智絵里みたいになれるように頑張るよ」

 

「わ、私みたいに…?」

 

「ポポッコやチュリネと仲が良いだろ?ポケモン達と一緒にいる時の智絵里ってさ、凄く良い笑顔をするから羨ましいんだ」

 

「そ、そうかな…うんっ、そうかも!」

 

「大好きなんだな、あいつらのこと」

 

「…うんっ!最高のお友達なんだっ♩」

 

 弾けるような笑顔を見せる智絵里。まるで満開の花びらのような、見る者を幸福にさせる笑顔であった。それはかつて幼き頃の彼女が無くしてしまった心底からの笑みでもあった。かつて一人ぼっちであった彼女が持てなかった幸福でもあったのだ。

 

 そんな智絵里の笑顔に奈緒もまたどきりとしてしまう。同性である奈緒ですら見惚れてしまうような可愛らしい笑顔であった。かわいいなと思いながら奈緒は顔を赤く染めてしまう。

 

「二人が来てからは本当に変わったんだよ…家族みんなでごはんを食べたり…家族みんなで一緒に旅行に出かけたり」

 

「うん?それって()()()()じゃないのか…?」

 

「ふふっそうだね…()()()()だよね」

 

「う、うん?」

 

「奈緒ちゃんもポケモンの事…大事にしてあげてね」

 

「…あぁ!言われるまでもないさ、大事な家族だからな!」

 

 奈緒もまた笑顔を見せる。萎えていた心に再び燃料が充填されていく。ライセンスを取りたいと願うのではない。絶対にとって見せるのだという気持ちが彼女の中で燃え上がっていく。

 

 そうして奈緒はほおをぱしりと叩くと智絵里に感謝を述べた。ありがとうと伝えた彼女は再びテキストに向かい合う。大切な家族のために、一生懸命に勉強を行う奈緒。そんな彼女を智絵里は微笑ましげに見つめた。頑張って欲しい、そう願いながら智絵里は待合室を後にする。

 

 ファンの音がなる。空調が効いたこの部屋にいるのは一人と一つのテレビだけであった。液晶画面の中では『輿水幸子!アマゾンの奥地で栄養満点の昆虫食に挑戦!』特集が行われていた。いたって平和で日常的な346プロダクションの光景がそこにはあった。

 

 

 

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