ポケデレ〜不思議な生物とシンデレラガールズの日常〜   作:葉隠 紅葉

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多田李衣菜と前川みくの日常

『ご覧ください!ここ天川リゾートホテルでは多くの水ポケモン達が楽しそうに水浴びをしています。ではこのホテルの職員の方にお話をーー』

 

 テレビから音が聞こえる。その小さな画面の向こう側で中東の宮殿をイメージしたリゾートホテルが立派に鎮座していた。そのふもとに広がる巨大な湖では多くの人間達やポケモン達が楽しそうにはしゃいでいる。ワンルームの空間に楽しげな男女の声が響いた。

 

 

 テレビを食い入るように見つめる一人のアイドルがいた。彼女は食事の最中の箸を止めその画面を食い入るように見つめている。そんな行儀の悪い彼女を、もう一人の少女がじとーとした瞳で咎めるように見つめていた。

 

『可愛らしいポケモン達ですねー!みなさん旅館に泊りにきた観光客のようです。では詳しいお話を伺いましょう!』

 

 画面の中でなおも中継を行う美人レポーター。彼女はそのホテルに泊まりにきた人間達にインタビューを行っていた。楽しげな様子の集団へと声をかける。10年前の異変の際には決してみられなかった光景がそこにはあった。

 

 水着を着た若い女性がトサキントと共に優雅に泳いでいる。またその側では小麦色に焼けた逞しい男性がワニノコとビーチバレーを楽しんで居た。他にもカニのような存在が水をかけあっていたり大きな羽を持つペリカンもどきが日向ぼっこをしていたるのであった。とにかく見るものに爽快さと楽しさを伝えてくる映像なのであった。

 

『このリゾートホテルでは10年前のポケモン大異変の際にいち早くポケモンとの共存を主張したS県が主体となってーーー』

 

 画面の中かから美人レポーターがはつらつとレポートを行なって居た。その姿につい目を奪われてしまう。なによりも水着を着た彼女が羨ましいのだ。こうしてレッスンを終えたばかりで汗を拭いただけの彼女達に取ってそれはあまりに刺激的な光景でもありーー

 

『という訳で以上現場からリポートでしたー!』

 

「いいなー私もポケモン飼いたいなー」

 

「……」

 

「いいなぁーいーいーなーー」

 

「あーもううるさいにゃぁあ!!」

 

 ポケモンを飼いたいと駄々をこねる美少女、多田李衣菜。そんな彼女に対してこれまた可愛らしい美少女、前川みくは声を張り上げたのであった。鬱陶しいと言わんばかりの声に思わずびくりと身をすくめてしまう李衣菜。

 

「な、なにさちょっと良いかなーって言っただけじゃん!」

 

「もう何十回も同じ事を聞いてるの!いい加減しつこいにゃ!」

 

「なぁ!?そ、そんなことないし!」

 

 狭い部屋の中で口論する二人のアイドル。ガーガーと回る扇風機が、この346プロダクションの女子寮ワンルームを冷やしていた。けれど関係ないと言わんばかりの美少女二人。互いに向かい合って行っていた食事の手を止める。そうして口論はさらに白熱していく。

 

「何回も言ってるじゃん!ポケモンがいれば仕事にもつながるんじゃないかなーってさ!」

 

「この狭い部屋でどうやって飼う気にゃ!そもそもペット感覚で飼うものじゃないでしょ!?」

 

互いに顔を突き合わせて口論する二人。どうやら李衣菜としてはポケモンを持っていた方がアイドルとしての仕事につながると主張しているようだ。結成したばかりのアイドルユニット「アスタリスク」をポケモンを連れたアイドルグループにしたいらしい。一方みくは育成費・手間、なにより育成する場所がないとのことで断固反対をしていた。

 

 

 

 10年前の大異変によってこの世界の常識はがらりと変わっていた。ポケモンたちとの共存を行い、より充実した日々を送れるようになったのである。人間社会の一部はすでにポケモンとの共存関係を紡いでいた。

 

介護施設でお年寄りや認知症患者の相手をするノーマルポケモン

漁業の場では漁師の協力を行ってくれる水ポケモン

交通渋滞といった問題の劇的改善にてを貸してくれたひこうポケモンなど

 

 例をあげればきりがないほど、ポケモン達は人々の暮らしに馴染んでしまっていたのだ。10年前の大異変、人間達のこの世の終わりかと見まごう程のパニックやら暴動やらが起こっていた事を考えると奇跡のような状況でもあった。

 

 次々と発見される未知の生物や不可思議な災害に政府各国は大混乱の極みに陥った。なんとかして法整備を整え社会の混乱が収まるようになるにはかなりの年月がかかったものだ。あれから十年、人々はようやくこの現状になれつつあったのだ。

 

 しかし人間の適応力とは凄まじいものである。彼女達のように年若いものならばなおさらだ。現に今では、ポケモンと共にアイドル活動を行うものだって多くいるのである。ここ346プロダクションでもまたポケモンを連れたアイドルの光景がよく見られた。時代はまた大きく変化しつつあった。

 

「だからどうせ飼うならドラゴンとかロックだって」

 

「どこで飼う気にゃぁあああ!?」

 

 このようにポケモン達の存在は大きくなっていた。が、必ずしも必要なものではなかったし、また簡単に飼えるようなものでないことも確かであった。

 

 少なくとも、アイドルとして未熟な彼女達アスタリスクではポケモンを飼えそうにはなかった。そうなるまではもう少し時間のかかる話のようである。

 


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