ポケデレ〜不思議な生物とシンデレラガールズの日常〜   作:葉隠 紅葉

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島村卯月と神谷奈緒とノーマルポケモン2

「そんな事があったのか…」

 

「あまりに可愛いからママも私もすっかり甘やかしすぎちゃって…」

 

「まぁ気持ちはわかるけど…」

 

「日課のブラシをしなかったら頭をペシペシ叩いて来たり…構ってあげないとすねたりするんです」

 

「おぉ…う、うん…」

 

「でもそういう所が可愛くって♩やっぱりルビーちゃんが一番キュートです!」

 

 えへへと満面の笑みを浮かべる卯月。幸せいっぱいという表情である。まるでDVをしてくる彼氏のような…それを許してしまうダメ女のような関係に聞こえてしまうのは気のせいだろうか。奈緒は少しばかりひきつった笑みを浮かべてしまう。

 

 安物ポケモンフーズ(一食辺り20円)とワゴンセールで激安売りしているシャンプーで嬉しそうに喜んでくれるイーブイ。そんな彼に対して贅沢をさせてあげたいと思う一方で甘やかし過ぎるのはやめておこうとも誓う奈緒。

 

 一方加蓮は膝の上で抱えているイーブイをじっと見つめる。そうして手でやんわりと撫でながら、奈緒に対して加蓮は言う。

 

「奈緒、この子ちょうだい」

 

「ダメ」

 

「ケチ!ツンデレ!」

 

「ツンデレは関係ないだろ!」

 

「ハッピーセット奢るからいいでしょ!」

 

「そんなんで釣れると思われてるのか!?」

 

 レジャーシートの上で軽口を言い合う二人。もうすっかり竹馬の友と行った感じである。そんな仲が良い様子の二人に思わずくすくすと笑ってしまう卯月。

 

 卯月は女の子座りをしたまま両手でカップを抱える。そうして彼女は二人を微笑ましげに見つめた。

 

「二人は仲が良いんですね」

 

「うん、奈緒はいじられキャラのツンデレだからね」

 

「おい!」

 

「でも凛ちゃんも言ってましたよ?奈緒は可愛いって」

 

「んなっ…」

 

 顔を赤く染める奈緒。そのもふもふの毛先をいじりながら凛に対して恨めしくつぶやく。けれどその表情はいかにも嬉しげであった。奈緒は他人からの称賛に弱い所があるのだ。レジャーシートの上で彼女は赤面してしまう。

 

 顔を赤くする友人、そんな素直になれない所に可愛らしさを感じてしまう加蓮。卯月もまた奈緒の魅力に気がつき笑みを深める。そうして年頃の彼女達は渋谷凛の、ひいてはアイドルに関する話題でさらに盛り上がる。

 

 そんな女子会で盛り上がる少女たち。彼女たちの眼前では1匹のイーブイが顔を赤く染めて恥じらいを見せるのであった。ブイ助の異常な様子にふと加蓮が声をあげる。

 

「あれ…」

 

「どうかしたのか加蓮?」

 

「なんかブイ助くんの様子がおかしくない?」

 

 加蓮の言葉に反応を示す奈緒。奈緒はそっと自分の相棒に視線を向ける。するとそのイーブイが顔を赤くしてモジモジとしているではないか。それは奈緒が今まで見た事もない彼の異常な様子ではあった。

 

 ブイ助は顔を赤くしてじっとルビーを見つめている。呼吸を荒くして体をモジモジとくねらせている彼。爪の先でレジャーシートをかりかりとひっかきながらルビーを見つめているのは一体何故なのだろうか。

 

 病気か何かだろうか、心配げにブイ助を見つめる奈緒。そんなブイ助を眺めながら卯月は突如黄色い声をあげた。卯月は二人に対してもしかして、と前置きをしながら嬉しそうに言った。

 

「もしかしてっ!恋なんじゃないかな!」

 

「えぇ!」

 

 思わず声をあげてしまう奈緒。そんな事…ありえなくはなかった。ブイ助はオスでありルビーはメスである。同じ種族の雌雄という事もありそれは決して可笑しな話ではないだろう。だが奈緒としては素直に喜べなかった。

 

 恋かと言われればなるほど、ブイ助にはそのような兆候が見られた。顔を隠しルビーに食い入るように見つめるその視線。まるで告白できないでいる思春期のような状態。それはもう熱の籠った視線でもあった。加蓮はにやにやとしながら奈緒の肩を叩く。

 

「なるほど一目惚れってやつ?おませだねーブイ助くん♩」

 

「う、うちのブイ助に限ってそんな事…」

 

「いやもうあれかなり見入ってない?目がとろーんとしてモジモジしてるし」

 

「な、なんか複雑な気分だ…」

 

苦い顔をする奈緒。自分の相棒が誰かに見入るという嫉妬のような気持ち。あるいはそれが恋ならば応援してやりたいという親心やら。彼女の中で複雑な感情が立ち込めごちゃ混ぜになってくる。子供が自立する母親のような心境に近いのかもしれない。

 

 そんな三人のアイドルに見つめられる2匹。そんな状況の最中、ブイ助が意を決して行動を開始した。掛け声とともに勢いよくルビーに駆け寄るブイ助。奈緒はそっと息を飲む。そうしてアイドル達に見つめられながら、彼はそっとルビーのそばによる。

 

 ブイ助が決意を固めて話しかける。キャゥンという強い鳴き声。だがルビーは反応を示さなかった。雄になんて興味ないと言わんばかりのそっけない態度。そんなルビーになおもブイ助は懸命に声をかけ続けた。

 

「ブ、ブイ…」

 

「……」

 

 そうしてブイ助はそっと体をすりよせる。おぉと息を飲む加蓮。彼の勇気ある行動に思わず固唾を飲んで見守る奈緒と卯月。自らの身体をこすりつけるようにしてブイ助は魅力的な異性へとアピールを行なっていく。匂いをこすりつけて覚えてもらおうとしているのだろう。そんなブイ助の告白にルビーはーー

 

「キャウンっ!?」

 

「……」

 

噛みつきで

答えた

 

 悲鳴をあげるブイ助。そんなブイ助に対して更に二度、強烈に噛み付くルビー。ブイ助の首回りと尻尾に深々とルビーの牙が突き刺さった。

 

 明確な敵対行動であった。同じ攻撃を受けた加蓮としては彼に思わず同情してしまう。ルビーの牙は鋭くて痛いのだ。しかも人間に対して行なったそれではなく、明らかな本気噛みであった。

 

 まるで一昨日きやがれと言わんばかりのルビー。どうやら彼女にとって体が小さくおどおどとした彼の様子が気に入らなかったのだろう。ルビーはふんとばかりにそっけなくブイ助を追い返す。そうして再び午睡を貪り始めた。

 

 ポケモン世界において大切なのは戦闘力である。つまり体が大きく強いオスこそが魅力的なのである。群の中でも体が小さい弱者は仲間はずれにされる。反面身体が大きな個体は持て囃される。ましてや進化済みポケモンともなれば同種からの羨望の的なのである。

 

 故に彼らは戦闘力を求める。より強く、より逞しく成長できるように。食欲、睡眠欲、戦闘欲求は彼らの三大欲求と言われているのだ。より良い餌場や住処を求めて何千年・何万年と歴史を積み重ねてきたのがポケモンという種族なのだから。

 

 ポケモンが人間を求める理由の一つがそれである。人間のそばで指示に従えばより効率的に経験や力を得ることができる。彼らはその事を本能で理解しているのだ。ポケモンだけで進化を行うのは稀であり難しいが、人間のそばにいればそれもまた可能になる。

 

 ヒトカゲよりもリザード、リザードよりもリザードンの方がモテる環境。哀しきまでに弱肉強食なポケモン達の世界なのであった。ともあれ、ルビーにとってブイ助は魅力的なオスには映らなかったらしい。生涯初の失恋にブイ助はわんわんと泣いて奈緒へと駆け寄った。奈緒もまた、何も言わずそっと彼を抱きしめてあげる。

 

ごめんなさい、ごめんなさいと何度も謝る卯月

奈緒の胸元でわんわんと泣きわめくブイ助

それを面白そうに眺める加蓮

 

 こうして三人はよくわからない友情を結ぶ事になったのである。ちなみにその日以来たびたびルビーにアタックをするブイ助の姿が見られた。しかし最後には決まって返り討ちにあってしまうらしい。

 

めげるなブイ助

頑張れブイ助

 


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