ポケデレ〜不思議な生物とシンデレラガールズの日常〜   作:葉隠 紅葉

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前川みくと猫カフェ

「お疲れさまでしたー」

 

「お疲れ様でしたにゃ!」

 

 汗をうかばせながら挨拶をする二人。そんなアイドルの言葉に顔をほころばせながらその店のマネージャーもまた返答をした。どうやらこの日の地方イベントは成功したようだ。前川みくは充実感を感じながらスタッフと談笑を交わすのであった。

 

 この日は地方で行われたキャンディーのPRイベントに出かけていたのだ。「ミラクル抹茶ストロベリー極み味」という正直どうなんだろうと思わずにはいられない味のキャンディーを全力でPRした前川みく達。午後三時間を外で立ち続けた彼女達は全身に大きな汗を幾つも浮かばせていた。

 

 その後待合室に入る二人。冷房のきいた部屋でクーラーのありがたみを全身から感じつつみくは自身のカバンからタオルを取り出した。猫がプリントされた可愛らしいタオル。そのタオルで汗をぬぐいながら相方である多田李衣菜と他愛もない雑談を行っていた。

 

「ねぇこの後どうする?」

 

「どうって?」

 

「時間が余ったじゃん、この後どこか行こうよ!」

 

「うーん…そうだね、たまには良いかも」

 

「やったぁ♩」

 

 笑顔で花柄のタオルを振り回す李衣菜。空き時間ができて嬉しいのだろう。はじけるような笑顔で荷物をバッグへとしまう彼女を見ながらみくはロックとは一体なんなのだろうと思案した。10分後彼女達はそろって神奈川駅の地方線のとある電車へと乗車していた。

 

 どこへいこうかと尋ねる李衣菜に対してみくは突如はっと声をあげた。スマートフォンでとある店を調べる彼女。その後しぶる相方をひっぱって彼女はとある店へと向かうのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「はぁあああん、やっぱりかわいいにゃぁ〜〜♩」

 

 蕩けるような甘い声をだすみく。その表情は心底から喜びをあらわにしていた。自身の目前でごろにゃんとまたたび棒に顔をこすりつける猫を眺める彼女。そんな彼女に対して李衣菜はぶーと不満げな顔で文句を言った。

 

「せっかくできた空き時間に猫カフェー…?」

 

「い、いいでしょ!かわいいんだから」

 

「せっかく神奈川まで来たのにさ…ここからなら中華街とか港公園だって行けたんだよ?」

 

「ここの猫カフェは雑誌にものってた有名なところなの!」

 

「私が言うまで忘れてた癖に…」

 

 不満げな表情を崩さない李衣菜。しかし膝元にやってきた猫を眺めるとつい口元が緩んでしまうようだ。優しく胴体を撫でてやると甘えるように声を出す黒猫に対してえへへと彼女もまた笑い始めた。

 

 ビルの中に設けられたカフェにたむろする7匹の猫達。黒猫や灰猫、ロシアンブルーやマンチカンといった実に様々な種族の彼ら。彼らはみながあくびを交えながらまったりと生を謳歌していた。おもいおもいに寛ぐ猫達の姿を眺めながらみくはにっこりと笑みを深めるのであった。

 

「なんだかんだ言って李衣菜ちゃんも猫好きにゃ…でもまぁやっぱり猫は最高にゃ♩」

 

 カフェに入室する際に購入したアイスコーヒーをごくごくと飲む彼女。その氷が詰まったコップを傾けながらふと窓の外を眺める。3Fに設置されたその猫カフェの窓からは飛行タイプのポケモン達が何匹か飛んでいるのが見えた。

 

「………」

 

 眉をひそめてそれを眺める。確かあれはポッポといったか。テレビのニュースで見たことがある。鋭い嘴にとがった爪をもったその生物が空を闊歩する様を見てみくとしては複雑な表情でそれを眺めざるを得なかった、ため息をつきながらそのポッポを眺めた。

 

「やっぱりポケモンって怖いにゃ…」

 

 ふと漏れ出す言葉。それはふと出た少女の本心からの言葉であった。ポケモンとは実に様々な種類がいる。体が大きなもの、小さなもの。岩のように硬い皮膚をもっていたりあるいは数十センチ程度の可愛らしいぬいぐるみのようのものもいる。

 

 だがそのどれもが皆恐ろしい技を用いるというのだから溜まったものではない。口から粘液を飛ばしたり高速で移動したりと無茶苦茶な事を平気でしでかす存在なのである。その多くが突如姿をかえる「進化」と呼ばれる現象を起こすのも、彼女の不安を強める要因の一つであった。みくは思わずぶるりと体が震えるのを止められなかった。

 

 

「みんなどうかしてるにゃ…ポケモンなんて怖いだけにゃ…」

 

 10年前の大災害から大きく変わった現代社会。ポケモン達と否が応にも共存しなければならないというのは彼女にもよくわかっていた。漁師は海の中では彼らを相棒同然に頼るし、病気や怪我といったものも彼らが提供した技術や薬によってこの上なく進歩した。間違いなく人間は彼らが出現する以前よりも格段に進歩することができたのだろう。不幸になる人間よりも多くの人間が幸福になったとも思われる。

 

だからこそ考えてしまうのだ

 

もしもそれが自身に向けられれば

もしもポケモンが人間を攻撃し始めたらと

 

 

 そこまで考えて自身が不毛な事を考えているなと気がつき思わず苦笑してしまうみく。彼女はそこで思考を断ち切ると目前の不安を追い払うように頭をぶんぶんと降るのであった。

 

「悩むのはやめにゃ!今は猫ちゃん達と一緒に楽しもっと」

 

「んーみくちゃん?今、何か言ったー?」

 

「なんも言ってないにゃ!」

 

 そうして再び猫に対して視線とスマートフォンを向けるみく。世界とかポケモンがどうなろうともやはり猫の可愛らしさとは不変のものであるらしい。改めて自身の信念に対して強く頷く彼女。そうしてみくは再度猫カフェという極上の天国を味わうのであった。

 


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