ポケデレ〜不思議な生物とシンデレラガールズの日常〜 作:葉隠 紅葉
どうしてこうなったのだろう
森林の中を駆けて行く。彼女は死に物狂いで樹林の中を駆けていった。それは必死の逃走であった。感じた事がないほどの恐怖と混乱、それでも前川みくは走り続けた。
「…はぁ!……っ!!」
脳が酸素を求める。ハッハッと荒く浅い呼吸をくり返し続けた。身体中に傷をおった彼女。ボロボロになりながら彼女は死にもの狂いで足を動かし続けた。あのポケモンから逃れる為に。
辞めてしまいたい
諦めてしまいたい
そう思いながらもみくは死ぬ気で駆け抜けた。そうして大きな草むらに無我夢中で体を突っ込ませる。今もなお自身を追い続けているあのポケモンから逃れようとみくはもがいてーーー
「……ぁ」
転んでしまった。
二度、勢いよくゴロゴロと地面を転がった。ざっくりと割れた太ももからおびただしい血を流しながらようやく止まる。そうして彼女の背後で草がかすれる音がした。
彼女の背後から
激昂したリングマが現れた。
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『ヒメグマちゃんの可愛いー写真が撮りたい訳よ、分かる?みくちゃんみたいなキュートなアイドルならそりゃぁ視聴者も大満足だしさ、分かるよね?』
サングラスをかけたテレビディレクターの言葉に苦い顔をする武内。そんな彼をよそにそのディレクターはご満悦の表情を浮かべ、自身の企画について話し続けた。どうやらとあるキャンプ場にて、アイドルによるポケモンのレポート映像を撮りたいらしい。
キャンプ地に住み着いたヒメグマの群れ。そんなヒメグマ達に餌を与えて懐かせる事で彼らをゲットしようじゃないか、という企画のようだ。この企画に抜擢されたのが前川みくであった。ティーンエイジ向けの雑誌を見てみくの事を気に入ったディレクター。その彼からぜひ自身の番組で彼女を使いたいとのオファーが346プロに来たらしい。
『ヒメグマを捕まえるというのは…』
『もちろんフリだよ?あとは逃すなり誰かが持ち帰るなりすれば良いじゃない』
『……』
渋い顔をする武内。そんな彼の様子に気がつかずにディレクターは言葉を重ねて行く。驕りか高ぶりか、ともあれ彼は武内とみくの苦い顔に気がつこうともせずになおも持論を語り続けた。
前川みくはポケモンと接するのが苦手である。そう伝えられていた武内はなんとかして彼を説得しようと試みる。重い口を開いて彼の持論を遮ろうとしてーーそしてみくに止められた。
自分が引き受けますと、みくは力強く主張した。驚く武内の隣でみくは作り笑いを浮かべた。彼女はポケモンが怖かった。それでも距離を置いて眺める位ならばできるようになった。軽く手で触れる程度ならば…たぶん、我慢をすればなんとかできるだろうと。
みくは仕事を引き受けた。それはきっと苦しい顔をしている武内にそれ以上苦労をかけたくなかったのだろう。あるいは先日の留美の言葉を思い出したのだろうか。ともあれみくはこの話に了承した。頷いてしまったのであった。
ロケは順調に行われた。朝方に東京を出発したスタッフ一行。ロケバスにゆられながら彼らは山梨県のとあるキャンプ地に到着をする。巨大な敷地面接を持つ有数の観光地。『郷津辺の森キャンプ場』という場所であった。
山梨県の南東に位置するこのキャンプ場。その最大の特徴は隣接した湖と大きな富士山が一望できる絶好のロケーションであった。なかでもポケモンの出現以降はひこうタイプ、みずやじめんタイプといった都会では見られない様々なポケモンが見られると評判なのであった。
観光客で賑わうキャンプ場、そこには確かにヒメグマの群れがいた。この豊かな土地に、ふとした時に現れるようになったアイドルポケモン。数匹程度で様子をみにきては人間たちがお菓子を食べる光景を物欲しそうに観察してくるらしい。
ヒメグマは確かに可愛らしい生物である。しかしその愛らしさ、希少性から国が指定する狩猟規制生物に認定されていた。個人が勝手に狩猟してはならない規定となっており、キャンプ場も利用客に対してそのように指示していた。このキャンプ場においてはヒメグマに10m以上近づくことを禁止しており、スタッフ達も客に対して細かく指導をしているのであった。
ヒメグマを怒らせてはいけない
どうか遠くから見守るだけにして下さいと
危ないから遠くから撮影してほしいと主張するキャンプスタッフ。そんなスタッフに対してディレクターが抗議をした。俺たちはもっと直接的な絵が欲しいのだと主張するディレクター。
当然、キャンプ場のスタッフ達は猛反対をした。お客様にも遠くからそっと見守るだけにして貰っているのだと。絶対にヒメグマに手を出してはならないと忠告をする一同。それでもディレクター達はキャンプ場のオーナーには既に同意を貰ったからとなかば強引に撮影を始めてしまう。
そうして撮影班はヒメグマを餌でおびき寄せキャンプ住民とふれあう場面を撮影しようと試みてしまった。
餌につられてよってきたヒメグマを捕まえる撮影スタッフ。ジタバタと腕の中でもがくヒメグマ。そんな怯えるヒメグマ達に対して観光客とスタッフ達が嬉しそうにデジタル機器を構えた。SNSにアップでもするのだろうか。彼らはポケモンの恐ろしさをまるで理解してはいなかったのだ。
スマートフォンのシャッター音
観光客の黄色い声援
大きくていかつい撮影機材
きっとそれらがきっかけとなったのだろう
初めて目にする物ばかりであったヒメグマは
混乱をしてわんわんと泣き始めたのであった
見慣れぬ機械文明に驚いた一匹のヒメグマが悲鳴をあげた。キャンプ地に響き渡る泣き声。そんな鳴き声に動揺してしまうキャンプ場の人間達。なんとか泣きやませようともがいている間に複数のポケモン達がやってきてしまう。
そうしてヒメグマの親たちが来てしまった。
怒り狂った
リングマとはノーマルポケモンである。木登りが得意でその前足で器用にきのみを採取する。なかでも鼻がきき地面にうまったきのみすらも掘り起こして食べてしまうらしい。そんな彼らはノーマルポケモンの中でも危険外来生物に指定されていた。その縄張り意識と戦闘力はポケモン界でも屈指の生物であるとされている。
そんなリングマ達に動揺をしたのか。キャンプに来ていた観光客が慌ててポケモンに攻撃を命じてしまう。一匹のポケモンが放った10まんボルトがその場にいたリングマ達におそいかかる。その場にいたヒメグマもろとも、電光は彼らを焼き払った。
そうして暴虐は始まった
人間達からの明確な敵対行動
リングマの群れは怒り狂ったのだ
2mという強大な身体をもつ生物。何よりもそのリングマ達は激昂していた。自身の子供がいじめられたと勘違いしたリングマは牙をむきながら威嚇し始めたのだ。そうしてその母グマは喉を最大まで震わせてーーー
「グゥアアアアァアアアアアア!!!!」
人間への復讐を始めた。