ポケデレ〜不思議な生物とシンデレラガールズの日常〜   作:葉隠 紅葉

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【ギフテッドとポケモン】

双葉杏はギフテッドである

少なくとも周囲の人間はそう感じていた

 

 ギフテッドとは先天的に高度な知的能力を持つ人間の事である。英才児、秀才児とも混同されるがこれは誤った認識である。彼ら、彼女らは一般人とは根本的に異なった存在なのだから。

 

勉学においては一を知り万を理解する

運動においては常識外の身体能力を誇り

芸術においては至高なる傑作を生み出す

 

 まさに、ギフテッド(祝福)される人間なのだ。他人とは思考も、成長も能力も全てが異なっている。彼らは生まれながらに神に愛されし存在なのである。そんな一人のギフテッドはここ、北海道において空を見上げていた。

 

 それは幼い少女であった。身長は140cm未満、体重は30kgとかなり幼い印象を与える。15歳という年齢にはあまりにふさわしくない身長と体重。自身の髪をツインテールにまとめた彼女はダボダボのTシャツを身につけていた。「働いたら負け」と書かれたTシャツを身につけた彼女は自宅のベランダから北海道の空を見上げた。そうして深々とため息をはいた。

 

「働きたくないなぁ…」

 

 一人の少女が呟いた。そうして彼女、双葉杏は再び空を見上げる。彼女は現在15歳、高校に入学したばかりであった。華も恥じらう乙女な彼女。しかし残念なことに彼女は生粋のインドア派少女であった。

 

 怠惰にかけては右に出るものはいないとまで親族に言われる程のなまけぶり。なにせこの大自然王国、北海道においても彼女はアウトドアな物事に一切興味を示さなかったのだ。なにせ彼女の休日の過ごし方といったら自堕落だなんてものではなかった。

 

朝はぐうたらと寝過ごし

昼以降はネットと昼寝に費やし

夜はネットとオンラインゲームに勤しみ

 

 そうして朝までネットにかじりつくという生活。そのあまりにも怠惰な生活ぶりに実家の親族は皆呆れ返っていた。では学業の成績はどうかというと…これが驚くほどに良好なのである。

 

国語85点

数学95点

英語87点

世界史62点

 

 先月のテストなど何一つ不足のない、まっとうな点数であった。唯一世界史の点数が低いのは担当の教師の不備の為、平均点が58点とかなり下がったから。しかしそれですら彼女は平均点を取り続けた。

 

 小学生の頃からずっとそうであった。たとえテストの難易度がどれだけ難しかろうが、易しかろうが平均点以上を常に獲得し続ける杏。故に周囲の人間は怒るに怒れなかったのだ。たとえ授業に遅刻しようが居眠りをしようが彼女は必ず良好な成績を取るのだから。

 

「……」

 

 そんな彼女は現在パソコンを操作していた。カタカタとキーボードを叩いてはマウスを操作する。その海外製のデスクトップ型パソコン、黒いボディに高画質な液晶ガラスが備わったそれには杏のお気に入りのゲームがたんまりと詰め込められている。

 

「……」

 

無機質的な瞳のまま

淡々とパソコンをいじる杏

 

 調べているのはポケモンのことであった。数年前から出現するようになった種族。火を吹き出し水を生み出し電気を操る種族である。この信じがたい生物について杏はいち早く目をつけて観察していたのであった。

 

 当時は地球最後の日だの人類滅亡だのと騒がれていた。が、今ではこうしてすっかり順応して居る人類なのであった。

 

「……」

 

 そんな彼女は現在一途にパソコンを操作していた。無言のままウェブサイトにアクセしては情報を検索し、それを自身の脳内へと収めていく。

 

 彼女はこのポケモンという存在に一目散に目をつけていた。なにせポケモン黎明期の頃からネットにかじりついてその一部始終を目撃してきたのだ。他人よりもポケモンに関する情報には詳しいという自負がある。

 

キャタピー

コラッタ

 

 世界で最初に発見されたポケモンはこの二種である。前者に関しては中国の森林で発見された巨大な未知の昆虫。後者はアマゾンで発見された珍しいネズミの一種と解釈された。

 

 つまり…ただの生物の一種と見なされたのだ。彼らが進化して未知の生物へと変化した等という現地民の言葉など都市伝説だと嗤われたものである。

 

 最初こそよくできたガセネタだといって鼻で笑っていた。相手にすらしなかったがその情報が実態を帯びてくると杏の目の色が変わった。そこからは驚くほど熱心に情報を収集し始めた。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

双葉杏はギフテッドである

が、少なくとも本人はそう認識してはいなかった。

 

 確かに自分は他人よりも数学が得意であった。が、それだけである。比類した身体能力も芸術性も持ってはいなかった。天才児だと呼ばれようが彼女はそんなことはないと笑って否定した。

 

皮肉なことである、彼女の異常性に

本人自身が気がついていないのだから

 

 本人は気がついていない。彼女が無意識的に異能を使用している事について。遅刻をしようが居眠りをしようが、()()()()()()()()()()()()()()()()を。

 

教師が黒板にかくチョークの筆圧の微差

授業の際に放つ口調の抑揚の変化

テスト時における生徒の筆音のリズム

 

 それらの情報だけでテストの出題範囲を、ひいてはテストの平均点を把握している人間など彼女だけだということを。これは彼女が小学生の頃から無意識に磨き続けた技術であった。

 

鬼才者は世の中生きづらい

というか都会にいけとか言われる

 

 幼いころよりそれを理解していた彼女。彼女がその気になれば義務教育のテストなど満点を叩き出せただろう。けれどそれではいけないのである。

 

 そうなれば偏差値の高い学校へいけと言われるに違いない。それでは通学時間が多くなってしまう。そうなってしまえばゲームやネットができないではないか!

 

 実に彼女らしい三段論法である。飴と怠惰をこよなく愛する双葉杏。故に彼女は普通で在ることを選んだ。周囲を分析し平均点を取り続ける道を選んだのだ。

 

全ては未来のぐうたらライフ

略して「ぐうたライフ」の為に!

 

 

彼女はギフテッドである

『分析能力』と『演算能力』にたけた人間である

 

『スカイツリーのてっぺんからリンゴを落とすと落下直前の速度はいくらになりますか?(スカイツリーは634m。重力加速度は9,8とする)』

 

 という問題に3秒で暗算して答える高校生などそうはいないだろう。ダンスの振り付けを動画で見ただけで完璧に覚える高校生もそうはいない。ましてや周囲の人間の仕草やら息遣いから分析し、相手が何を求めているのかを手に取るように理解できる事もまた。場の空気を読む能力にかけて彼女は尋常でないほど長けていた。

 

 それらはまぎれもなく特異能力なのだから。ちなみにこれらの能力は後にアイドルになってから大いに発揮されることを彼女はまだ知らない。

 

 

閑話休題

 

 何が言いたいかというと彼女は比類無き能力をもったギフテッドであり、そしてなによりもニート志望という事である。つまり…ポケモンを利用して楽して金儲けできるんじゃね?という事である。

 

ポケモンによって必ず社会が変わる

それに伴い収入構造も必ず変化する

 

 最初期のポケモンの出現から2週間。世間がポケモンの存在を都市伝説やら珍しい外来生物程度にしか考えていなかった時に、すでに杏はそこまで結論づけていた。その無駄に優れた分析能力を余す所なく用いてポケモンに対して理解を深め続けた。

 

杏の望みはただ一つ

ポケモンを利用して楽をしたいという事である

 

 ポケモンを利用してお金を稼ぐ。あるいは電気やら水やらを生み出してもらって田舎で隠居生活もよいかもしれない。夢のぐうたらライフへの想像は広がるばかりである。

 

 

まだ見ぬ隠居生活について想像しては

にへへと笑みを浮かべる美幼女みたいな美少女がそこにはいた

 


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