ポケデレ〜不思議な生物とシンデレラガールズの日常〜 作:葉隠 紅葉
「楽しみだねー!」
少女、赤城みりあはウキウキとした様子を隠しきれないでいた。今にもスキップをしかねんばかりの彼女は智絵里の手を取りながら心からの笑みを浮かべていた。渋谷のざわざわとした街並みの中を歩いていく彼女達。歩行禁止を示すLED式の赤い歩行信号をまだかと言わんばかりに急かしたてて見つめるみりあ。
そんな少女を微笑ましげに見つめる別の少女、隣を歩いていたかな子は彼女に話しかける。ピンク色のポーチを肩、ゆったりとした胸元にクロスするように下げた彼女はスマートフォンで時折地図を確かめつつ言葉を発した。
「みりあちゃんとっても楽しみにしてたもんね」
「うん♩だってあのポケモンカフェに行けるんでしょ!」
「予約が取れてよかったよー」
「昨日なんか楽しみすぎて眠れなかったもん☆」
そう言ってみりあはえへへと笑みを浮かべて強く智絵里の手を握りしめた。どうやら気持ちが先走ってしまっているようだ。心なしかスキップのように足取りが軽くなってしまっている。
そんなみりあの様子に思わず笑みを浮かべてしまうかな子と智絵里。年下の無垢な反応に魅入ってしまう。智絵里は彼女の手を強く握りしめ返した。目的地まであと少しとはいえここは大都会渋谷である。はぐれてしまっては一大事だ。
そうして智絵里はお姉さんとしてふさわしい姿を彼女に見せようと心に誓う。まぁそんな智絵里もまた、まだ見ぬポケモンカフェが近いせいだろうか。普段よりもずっとそわそわとした様子を隠しきれないでいたのだが。ピョコピョコと小さく跳ねる足取りに、本人もまた気がついていない様子であった。
そうして彼女達は目的地であるビルの下へとたどり着いた。コンクリートで作られた五階建ての近代的なビル。壁面には幾本ものツタが絡まっていた。そんなビルの入り口そばには一枚の立て看板が建てられていた。その看板には黄色いチョークで「イーブイカフェ」と書かれてあった。デフォルメされたイーブイの姿を尻目に彼女達はビルの三階へと登っていった。
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「うわーー!!」
「わぁ♩」
「す、すごいね…」
少女達は皆一様に瞳を輝かせ黄色い声をあげた。その部屋には大量のノーマルポケモン、沢山のイーブイ達がいた。何十人もの年若い少女達が楽しげにイーブイ達と戯れている様子は男性にとってはまるで理想郷のようであろう。
ビルの1フロアを使ったその空間の中、冷暖房を完備したその近代的な空間の中には多くのしんかポケモンが生活をしているのであった。入り口でお金を払いながら智絵里は彼らの生態をまじまじと観察する。
丸皿で水をペロペロと舐めるイーブイ
窓際で丸まり欠伸をする日向ぼっこイーブイ
客に投げられたボールを嬉々として追い求めるわんぱくイーブイ
実に多くのイーブイ達がおもいおもいに生活するその様子。まさにもふもふ天国である。イーブイのつぶらな瞳と肉球を堪能するOLがとろけるような声をあげた。
イーブイカフェ、それは最近メディアで取り上げられ始めた新形態のカフェであった。もともとはカフェを経営していた人間が自宅でかっていたポケモンをカフェの場へ解放したのが始まりであったようであった。お客の一人がSNSで投稿した一枚の写真に都内の女性陣が食いつき、そこから爆発的に人気を催したカフェテリアなのである。
今では猫カフェやふくろうカフェと同様にポケモンカフェとして多くの人間達が通う人気スポットになったのである。飲食店にポケモンが混じることによる衛生的な観点、危険なのではないかと言った指摘など、問題点こそあるもののこれらは多くの人間達に愛されつつあるのであった。現代の癒しスポットと言えるだろう。
瞳を爛々と輝かせるみりあ。彼女はぴょんぴょんと小さく飛び跳ねながら今にも駆け出してしまいそうな勢いだ。店員からのアルコール配合式ウェットティッシュを受け取りながら説明を受けたみりあ。そうしてみりあは部屋の一角でテレビを夢中で見つめるイーブイの元へと駆け寄った。
そんなみりあの様子を眺めながらかな子は隣にいた智絵里に話しかける。女子座りをしながらかな子はおっとりとした表情をした。コーヒをテーブルに置きながら智絵里はかな子を見つめ返した。
「智絵里ちゃんみてみてー♩可愛いよー♩」
「ぷふっ!」
思わず吹き出してしまう智絵里。女の子座りをしたかな子は一匹のイーブイの両手を掴んだままそのイーブイを膝の上にたたせた。彼女の膝の上でおなかを見せたまま万歳をするノーマルポケモン。
まったりと昼寝を楽しんでいたイーブイは睡眠を邪魔されて機嫌を悪くしたようだ。かわいらしい耳をぺたんと閉じながらジト目しつつばんざいをするイーブイに満面の笑みを浮かべるかな子の姿のギャップといったら。思わず智絵里はアハハとお腹を抑えながら大きく笑い声をあげてしまう。
「むぅ…そんなに笑わなくても…」
思っていた反応と異なる反応を返されてむくれてしまうかな子。そんな彼女の様子に再び智絵里は笑ってしまう。瞳に涙をうかべながら謝る彼女。そうして彼女達は再びイーブイを触り、堪能し始めた。
二人のアイドル達の柔らかい手のひらによって刺激を与えられたイーブイは気持ちよさそうに鳴き声を上げ始める。そうしてイーブイの毛の感触を確かめながら智絵里はその感触に浸る。
三びきのイーブイに全身をもふもふと侵略されている赤城みりあを見ながら取り留めもない事をつらつらと考えた。穏やかで優しい休日だなと。