ポケデレ〜不思議な生物とシンデレラガールズの日常〜   作:葉隠 紅葉

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【姫川友紀と朝の目覚め】

 ふと目がさめる。どうやらまた、らしい。カチカチとなり続ける時計の音を聴きながら眠りから覚醒していく。寝ぼけながら自身の体を力強く抱きしめる姫川友紀のことを見上げながらサンドは深いため息をついた。

 

 年相応の胸元にぎゅーと抱きしめられたまま天井を見上げる。衣服を乱し、布団を蹴飛ばしてしまったのだろう。量販店で購入した柔らかな布団はベッドの片隅にぐちゃぐちゃに寄せられていた。ヘソをだしたままムニャムニャと夢を見る彼女は実に愛らしかった。

 

 ベッドの中でサンドを抱きしめる美女。それはまるでぬいぐるみを抱きしめる少女のように愛らしかった。それと同時に彼女のはだけた生肌が、艶かしい色気を醸し出す。

 

 すぐそばで友紀の穏やかな吐息と寝息を感じるサンド。青少年ならば辛抱たまらんであろうこの状況もポケモンである彼にはあまり意味がない。ましてや、生後数年も経っていない彼にとっては石鹸の香りのするほんのりと柔らかな女性の胸元など呼吸の妨げにくらいにしか思えなかった。

 

 彼はモソモソと身をよじる。小さな手足をジタバタともがくその様はまるで母親の抱っこから逃れようとする幼稚園児そのものだ。そのまま友紀の羽交い締めのような拘束を抜け出すとようやくといった様子で一心地ついた。

 

 すると自身の体からぬくもりが消えたことを感じたのだろうか。友紀はそれまでの穏やかな眠りから一転して悲しそうな吐息を出し始める。

 

「……うぅ」

 

「……」

 

「うぅ…いやだよぅ…れない…で」

 

 驚きながら彼女を見つめる。サンドは慌てた様子で自身の尻尾を彼女の手のひらにそっと忍ばせた。硬い外皮で包まれた尻尾が彼女の手の中にすっぽりと収まる。眠りながらその感触を感じたのだろう。泣いてしまいそうだった友紀の顔に再び笑みが点り始める。

 

 ベッドの中でサンドの尻尾の先に頬ずりをしながら彼女は再び笑みを浮かべ始めた。身をよじった事で彼女のベッドからかすかに軋む音がする。ギシギシという音を聞きながらサンドは彼女のそばにぺたんと尻餅をついた。

 

「えへ…」

 

「キュー」

 

「いあらし…さー…き…」

 

 どうやら満足したらしい。彼女は再び何事もなかったかのようにすーすーと眠り始めた。穏やかに眠ってつぶやく言葉が野球選手である「五十嵐」と「佐々木」であるところがいかにも彼女らしい。

 

 

姫川友紀は

寂しがりやである

 

 

 彼女を知る者からすると意外な事実かもしれない。友紀は明るく、一生懸命でどんな事にでも笑って向かっていける強さをもった少女だと周囲の人物には思われているらしい。けれどそれは彼女の根っこの部分ではないのだろうと、サンドは心で直感していた。

 

 故郷を出てからしばらく経つが、彼女はいまだにこうして故郷の事や自身の家族について寝言を発するのだ。無理もない。彼女はまだ20歳なのだから。誰かに甘えたくなってしまうものなのだろう。だからこそこうして毎日抱き枕になっているのだが…。そうしてサンドはリモコンを操作して今日の天気を眺め始めた。

 

『それでは本日のニュースです。ここ夕日ヶ浜では子供達が元気にーー』

 

 美しい女性アナウンサーが現地の様子と共にニュースを伝える。そんな見慣れた光景を眺めながらサンドはつらつらと考え事をした。音量を下げながらぼんやりとテレビを眺める。自身の尻尾の先に友紀のよだれがかかるのを感じながらサンドはキューと小さく鳴いた。

 

彼女は応援という言葉をよく使う

それはきっと誰かを応援したいという気持ちだ

 

けれどそれは本当は…

それ以上に誰かに応援してもらいたいという

彼女の気持ちの現れなのかもしれない

 

 

 そうして彼はベッドの片隅からペットボトルを器用に取り出した。【富士山の恵み】とパッケージに書かれたそれを両手で抱きかかえながら彼女の起床の用意をするサンド。贔屓チームであるキャッツの試合の明朝、それは彼女が8割9分で二日酔いを抱える日でもあるのだから。

 


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