ポケデレ〜不思議な生物とシンデレラガールズの日常〜   作:葉隠 紅葉

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【川島瑞樹と地方テレビ局】

 とある日の昼下がり、彼女は某テレビ局にいた。大阪に設置されたそのテレビ局の第3スタジオ、その中には妙齢の美女がいた。よく手入れされたその長い髪をさらりとなびかせながら彼女はつぶやく。

 

「なぁにこの生物?」

 

 彼女、川島瑞樹は手に持った書類を眺めながら独り言を放った。テレビ局の化粧室のデスクに座ったまま呆然とその生物に見入る彼女。どうやら次のニュースの際に読み上げる原稿であるらしい。

 

 瑞樹は自身の衣装をいじる手を止めて思わずその書類に食い入るように見入ってしまう。業務用のパイプ椅子に腰掛けながらうなる瑞樹、そんな彼女に対してテレビ局の女性ADが声をかけた。

 

「珍しいですよねー新種の生物らしいですよ」

 

「いや…珍しいっていうか…これは…」

 

「すごい生物ですよね!」

 

「いや…本当にこんな生物いるのかしら?」

 

 むむむ、とばかりにジト目をしながらその書類に掲示された写真を見つめる瑞樹。そこには随分と珍妙な姿をした生物がいた。

 

 鳥の一種であろうか。ふさふさとした羽毛や翼のようなものをもっている事からかろうじて飛行生物であることはわかる。一見するとフクロウ、と呼べなくもないのかもしれない。が、眼球は橙色をしておりその周囲に黒い縁取りをされたかのようなこんな鳥は少なくとも彼女は見たことがなかった。

 

 ぽっくりと膨らんだお腹、突き出た嘴などはまだ愛嬌を感じさせる。目玉の上からぴょんと突き出た黒い触覚のようなものもまだ可愛いと言えなくもないだろう。

 

だがこれは

どう見ても

 

「一本足…よね?」

 

「ですよね…」

 

 某地方局のキャスターとその地方局に努める彼女達は思わず苦笑する。概要を見ただけではよくできたフェイクニュースとしか思えないだろう。事実この時点での瑞樹はこの珍妙な生物をネッシーやらビッグフットの類と認識していた。よくある未確認生物というやつだ。

 

 どう見ても一本足、である

 

 それだけならまだ遺伝子の変異だとかなんだとか理由もこじつけられそうだ。とはいえそれ以外の風貌やらなんやらがあまりに珍妙であった。これではできの悪いぬいぐるみだと言われた方がまだ納得できそうだ。携帯で撮影した荒い画素の写真もまた彼女のこうした判断を後押ししてしまったのだ。

 

 別世界においてホーホーと呼ばれるこの生物。どうやら川島瑞樹の琴線にはふれなかったようだ。彼女はため息をつくと女性ADの入れてくれたコーヒーを一口飲んだ。

 

 テレビ局に備え付けされたコーヒーメーカー製の安物である。その味の不味さに思わず苦顔する瑞樹。いやこれはおそらく淹れた人間の技術によるものだろう。年が近く嗜好も似通っていた事からふとしたことをきっかけに仲良くなったこの女性AD、そんな彼女の家事スキルの低さは瑞樹もよく知っているのだから。

 

「撮影した人間の映像を流すってうちの上司は言っていましたよ」

 

「まーたあの人は…どうせちゃんと裏付けも取ってないんでしょ?」

 

「でも今度こそ本物だって言ってましたもん!もしもこの生物が本当にいたらうちの番組の大手柄ですよ!」

 

 興奮する女性AD。彼女は手に持った雑誌を握りしめ熱い眼差しで瑞樹を見つめるのであった。なんでも田舎に現れたこの生物を一人の人間が自身のハンディカメラで撮影したとの事であった。無論、大都会であるこの大阪ではこのような生物が目撃されたとの事実はなかった。少なくともこの時点では、まだ。

 

 もしも発見できたら世紀の大発見である、とばかりにはしゃぐ彼女。メガネを曇らせながら瑞樹に攻め寄らんばかりに詰め寄る女性AD。そんな女性ADに対して瑞樹は芳しくない反応で返答した。

 

「はいはい、本当に居たらね」

 

「川島さん…その顔は信じてませんね?」

 

「あのね…子供以上にでかくて一本足で立つおばけフクロウなんている訳ないじゃない…」

 

 瑞樹は写真を指差しながら女性ADに答える。確かにずんぶりとした胴体に眼球の周囲のクマなどまるで時計の矢印のように鋭い。…つまりまるでこの世のものとは思えない風貌をしていたのだ。瑞樹がこう答えるのも無理はないだろう。

 

 ちなみにホーホーは別世界においては時を告げる神獣として有名である。毎日、毎秒きまったリズムで首をかしげたり羽繕いといった行動をとるらしい。その行動には一秒たりともズレがないというのだから驚きである。彼らの体内時計はこの世のあらゆる時計よりも正確であるだろうとの言葉は、かの有名なオーキド博士の主張である。

 

 古代人は時計の代わりにこの生物を用いたり、神託を告げる生命として崇めていたらしい。シンオウ地方においては時を告げる天の使い、知恵の神様とする地域まであるというのだからこの生物がいかに稀少で有益な生物なのかもわかるだろう。

 

 

だが勿論そんなことはこの世界の人間はまだ知らない

ましてやポケモンがようやく数種類現れた程度の

まだこの時点では

 

クールな顔でコーヒーを飲み続ける川島瑞樹。そんな彼女に対して女性ADは声をかけた。それならば、と。

 

「瑞樹さんはこんな生物が存在しないって言いたいんですね」

 

「当たり前でしょ」

 

「じゃあ本当にいたら女子高生の格好して駅前歩いてください」

 

「いや、どういう理屈?」

 

「いいじゃないですかー!きっと世の男性はメロメロですよ」

 

「流石にそんな格好恥ずかしいわよ…」

 

「瑞樹さんは美人だからきっとどんな格好しても似合いますよ?」

 

「はいはいお世辞は良いからもう行くわよ」

 

 そう言って女性ADを部屋から出そうとする瑞樹。この後は衣装合わせをし、また昼のワイドショーへと出演する予定なのである。こんな未確認生物の話に花を咲かせている時間などないのだから。ブーブーと文句を垂れる女性ADの背を押しながら瑞樹もまたせわしなく自身の準備を進め始めた。

 

 この5年後に、まさか制服以上に派手で露出が多い格好をする事になろうとは彼女は思うまい。ましてやその事を知るのはまだ当分先の事である。あと実はホーホーは実在する二本足の生物であるという衝撃の事実を知るのも当分先の事である。

 

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