ポケデレ〜不思議な生物とシンデレラガールズの日常〜   作:葉隠 紅葉

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モンスターボールとアイドル

 事務所へと来たさくらが一番に目撃したものは興奮した様子で語り続ける友人、大石泉の姿であった。スマートフォンを握りしめなにやら熱い言葉で事務所の職員に話し込んでいた。自他共に認めるクール属性な彼女には珍しい言動である。

 

「イズミンどうかしたの?」

 

 そう挨拶を交わすさくら。そんなさくらの言葉にありがたいとばかりに職員は苦笑をしながら離れて言った。どうやら仕事があったのだが中々会話が途切れないので困っていたようだ。

 

 一方の泉、彼女は嬉しげな表情でおはようとさくらに返事した。ほんのりと顔を高揚させたその顔はなんだか随分と満足げであった。こんなに嬉しげな彼女を見るのは随分と久しぶりであった。

 

 自身の通学カバンを事務所のソファの傍に下ろすさくら。そのままさくらは嬉しげな様子だが何かあったのか?と泉に問いかけた。問いかけて、しまった。すると泉はよくぞ聞いてくれたと言わんばかりの表情をしてさくらにつめよった。

 

泉が見せつけてくるそれ、スマートフォンの画面にはとあるネットニュースが表示されていた。ぶさいくな猫のストラップが取り付けられたそのスマートフォンの画面には携帯獣捕獲器とあった。

 

あっこれ話がもの凄く長くなるパターンのやつだ

 

さくらがそう自覚したのはそれから20分後のことである。

 

 

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世界初の工業製品【モンスターボール】の発売

 

 現在は職人によって手作業で製造されている携帯獣捕獲機、通称モンスターボール。これらはポケモンたちへの捕獲器であり、彼らの家ともなる大切なものである。今回は記者である私が、この企業へと取材をした際の記事をネットニュースとしてまとめたいと思う。

 

 本来はぼんぐりとよばれるきのみを加工し、中にキャプチャーネットと呼ばれる特殊な網状のシートを設置する。このシートは粘着性があり、ポケモンを捕獲する為の特殊な役割を果たすのだ。とはいえこれまでのモンスターボールは捕獲率が低く、また職人の技術や加工木の状態によって効率が左右されてしまうのが問題視されていた。そこで【シルフスターライト社】が開発したのが上記の写真に掲載されている工業用モンスターボールである。これは巨大マシンを利用してつくる世界初の工業的携帯獣捕獲機なのである。

 

 開発名称はプロトボール。写真の通りこれらはぼんぐりを加工したものではなく金属を素体に球型に加工をしたものである。

 

プロトボールα

プロトボールβ

プロトボールγ

 

 それぞれがステンレス、チタン、特殊カーボンでできており、製造コストはランクが上位の物ほど高くなるようだ。中でも目を引くのは中の機械機構である。球体中心部に据えられたスイッチングを起動させることで中の機械マニュピレータが作動する。

 

 これにより電気信号が発せられ人間が中のポケモンの状態を把握することが可能となる。電気信号は携帯通信信号へと変換され、持ち主のデジタルデバイスへと送信されるのである。

 

 企業担当者はこれらの生態情報はスマートフォンのアプリを通じて持ち主が閲覧できると主張している。現在は某アプリ開発企業と業務提携を組み開発事業を立ち上げているとの事である。著者である私もニュースレポーターとして現在開発中のこちらのアプリをお試しで活用させていただいた。(画像は私が飼育しているラッタをキャプチャーした状態の物である)

 

 可愛らしいイーブイのユーザーインターフェースを通じてアイコンをタップして行くと自分が登録したポケモンの情報の閲覧。および周囲のポケモントレーナーとの情報共有やSNS共有機能までついているというのだから驚きである。

 

 また球体内部に埋められたICチップから特殊な電気信号が解読、発信させられることで中のポケモン達へ電磁波を浴びせる事ができるらしい。この技術を応用させる事で、従来は傷ついたポケモンを回復させるのに数日かかっていたところをわずか数時間で回復させることに成功したと企業は主張している。

 

 この技術がさらに発展すれば、やがては街中でポケットモンスターセンターのような回復専門店も沢山設置されることも夢ではないかもしれない。

 

 キャプチャーネットも大きく改善されている。ポケモンを捕獲する際は第三世代CPUによってポケモンの状態を0.08秒で認識し、球体内部に捕獲のためのロック機構が動作するのである。これにより捕獲率は劇的に改善されたようだ。

 

 つまりこの工業製品によって「ポケモンの捕獲率の向上」「ポケモンの回復速度上昇」という二つの機能を我々人間が持てるようになったということである。

 

 ちなみに中に備え付けられたバッテリーにより連続18時間駆動が可能。充電はそれぞれUSB typeBかワイヤレス充電によってーーー

 

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「うーん…よくわかんない!」

 

「はぁ…つまりボールがもっと便利になるって事だよ」

 

「おぉ!わかりやすい!」

 

 うなだれるさくらに対して泉は呆れ顔で答える。どうやらさくらにはこの世紀の大発明の価値がわからなかったらしい。泉はそっとため息をついた。彼女など昨日自宅でこのニュースを見たときは飛び上がらんばかりに喜んだというのに。

 

 これこそが科学の発展である、テクノロジーを愛する泉にとっては最高のニュースであったのだ。やっぱりかがくのちからってすげー!という事なのである。

 

 特に捕獲したポケモンの生態情報と球体から発せられるGPS信号によって「ポケモンの生態情報とその分布図」がネットのクラウドサーバーへと送信される機構などは衝撃を受けたものだ。これによりいまだ謎が多く滞っているポケモン研究が世界中で情報共有されることでその速度は加速度的に改善されることだろう。

 

 とはいえそのことをこの友人に伝えてもその衝撃の10分の1も伝わらないであろうが。泉は自身のカバンからペットボトルを取り出した。「富士山の恵み」を静かに飲み始める友人に、さくらはそっと声をかけた。

 

「ちなみに値段っていくらなの?」

 

「15万6000円」

 

「え?」

 

「こんなハイテクノロジーがそんな値段で手に入るんだもの、安いわよね!」

 

 にっこりと笑みを浮かべる泉。どうやらニューウェーブ内でここまで価値観に差異があるとは思ってもみなかった。さくらは内心でカルチャーショックをうけてしまう。15万円、である。スマートフォンだって購入できてしまうだろう値段である。とは言え確かにこのハイテクノロジーには価値に見合った価格設定なのかもしれないが。

 

もちろんこの値段も今後は変動していくだろう。

それこそ数十年も経てば、値段もぐっとリーズナブルになるに違いない。

 

いつの日かは、こどものお小遣いで購入できる日がくるのかも

 

 別世界において、物理法則を無視してぶっとんだ機能が大量に盛り込まれたモンスターボールが売られているとこの世界の住人が知ったらどう思うだろうか。駄菓子の隣で子供達の手によって買い込まれているとしったら彼女たちはどのような顔をするであろうか。ましてやそれらが数百円〜数千円単位で売られているとしったら。

 

『そんな値段があったら海外旅行か新しいスマホ買うべきじゃない?』

 

そう思ったものの口には出せなかったさくらなのであった。

 


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