ポケデレ〜不思議な生物とシンデレラガールズの日常〜   作:葉隠 紅葉

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第8章
【久川颯とカモネギ】


「どうしてこうなった…」

 

 颯はそっと布団の前で黄昏れた。それから起きた事はなんだかあっという間の出来事であった。公園で謎の野鳥に出くわした久川颯と久川凪。二人は激論の末この野鳥を家へと連れ帰ることにしたのであった。

 

 いや颯自身は今でも大反対である。それでもこの野鳥、カモネギと命名されたこの生物を自宅へと連れ帰ったのは自身では凪の説得が非常に困難であったからだ。連れ帰ってくれなければ大声で叫んで裸になるぞ、とまで言われては同じ顔をしている双子の妹としても同意せざるをえない。

 

まぁどうせ家族が反対するだろう

そう颯は思っていたのだが…

 

 

「どうしてこうなった」

 

 もう一度つぶやく。あれから半日がたった。自身を養ってくれているゆーこちゃんの元へこの謎生物を見せたところ、なんとあっけなく飼育許可を出したのである。これは久川家史に残る驚嘆すべき出来事であった。

 

 清潔好きなこの女性のことだから野生に返してこい位は普通に言ってくると思っていたのだが…この半日で随分と彼女の価値観が変わってたような気がする。彼女はこの日は自宅でテレビを見ていだけの筈なのだが。一体お昼のワイドショーの何が彼女を変えたのだろうか。

 

 時は、もどる。現在久川颯は凪と一緒に自室にいた。就寝の準備の真最中であった。薄いピンク色の壁紙が貼られたその少女チックな部屋は颯と凪が二人で暮らしている共同部屋なのであった。

 

 ホームセンターで購入した学習机はいかにも対象的であった。颯の机の上が整然とされた状態であるのに対して凪の方は混沌とした状況であった。机の上にはくたびれた週間少年漫画、BB弾、バッキリマンシールなどが載っていた。この惨状だけ覗いてみればいかにも小学生男子のようであった。

 

 そんな部屋の空間でカモネギはくつろいでいた。両足をべったりと投げ出して凪と一緒に漫画を読んでいた。声をだして笑い声をあげる凪とカモカモと笑い声をあげる生物という非日常的な光景がそこにはった。というかネギを床に叩きつけないでほしい。

 

「はぁ…なんかもう疲れちゃった」

 

「おや…はーちゃんはもう寝るのですか?」

 

「だってもうこんな時間だよ?明日から学校始まるじゃん」

 

「そうですか、はーちゃんの学校は大変なんですね」

 

「なーも一緒の学校でしょうが」

 

 凪のジョークに疲れた声で答える颯。颯はいそいそとベッドへ向かう。そんな颯に対して凪はちょっとまってくださいと声をかけた。振り返る颯に対して彼女は軽やかに告げた。

 

「今日は床で一緒に寝ましょう」

 

「え…えぇ!?」

 

「ベッドで一緒に寝るには狭すぎるでしょう」

 

「いやいや、いつも二人で一緒に寝てるでしょ」

 

「違いますよ。カモくんも一緒に、です」

 

 そう言ってカモネギのお腹にだきつく凪。彼女はその小さな身体でむぎゅーと強くカモネギにしがみついた。そんな姿に颯は否定の言葉も忘れて思わず姉を見入ってしまう。こうして見るとやはり凪は整った顔をしているのだな、だなんて事をつらつらと考えてしまう。

 

 その行為はまるでテディーベアに抱きつく少女のように愛らしかった。パジャマを着たその彼女はぺたんと尻餅をついていた。その端整な瞳と美しいキューティクルを持ったロングヘアーをぐりぐりと押し付けながら凪は自身の妹を見上げた。

 

「だめ…ですか?」

 

「…今日だけだよ」

 

 つい、負けてしまう。この姉の可愛らしい声と仕草についうなずいてしまう颯なのであった。そのままなし崩し的に就寝準備を始める双子。彼女達はベッドから寝具を取り出し床へと広げるのであった。

 

 部屋を覆うように広がる寝具。これだけでいつもと違う感覚を覚えてしまう颯。そんな中凪は自身のペットに対して問いかけた。指を立てて注意をするかのように凪は呼びかける。

 

「良いですかカモくん、はーちゃんのお情けで一緒に眠れる事になりました。よく感謝して寝ましょうね」

 

「カモ!」

 

「具体的には1日3回、はーちゃんをあがめるダンスをしましょう」

 

「しないで良いから」

 

「カモカモ♩」

 

「かもかも♪」

 

「今しないで良いから、お願いだから二人とも踊るのやめて」

 

 両手とネギをふりあげリズムをとるカモネギ。腰を降り奇妙でパラパラチックなダンスをする凪。そんな彼女達に対して颯はため息をつきながらいそいそと就寝準備を始めた。そうしてできあがる即席ベッドならぬ即席布団、そんな寝具の上にぴょいとばかりに凪は飛び乗った。

 

「おぉ…凄いです。凪ははーちゃんの家事テクニックに感謝します」

 

「いやいやそんな…まぁ褒めてくれるのはうれしいけどね」

 

「では三人で『河』の字になって寝ましょうね」

 

「どう寝る気なのそれ…『川』の字ね、はいはい」

 

 そう言って彼女達は床に寝転んだ。中央にカモネギ、その隣に寄り添うように久川姉妹が寝転んだ。床の上で川の字のように寄り添う二人と一匹。こんな形で天井を見上げるのは二人にとっては随分と久々のことなのであった。

 

 一方のカモネギは初めての環境ですこし戸惑っているようであった。事実、このカモネギにとって民家の中に入るのは初めての出来事なのであった。自身が生まれ育った【12番道路】。その近くにあった【シオンタウン】という場所は老人ばかりだったし住民だってそんなに多くは暮らしてなどいなかった。

 

 カモネギにとって人間とは遠巻きに眺めるだけの存在だったのだから無理もない。ここにきて少しばかり緊張してしまうカモネギ。そんな彼に対して凪はそっと声をかけた。

 

「大丈夫ですよカモくん」

 

「?」

 

「私たちはお友達です。お友達はぎゅーっと抱きしめあうものなんです」

 

 そういって凪はカモネギのお腹に手を回した。もぎゅもぎゅと感触を確かめるように、強く抱きしめる凪。どうやらそんな彼女のあどけない様子にカモネギもほだされたようだ。彼もまた、緊張をゆるめほんの少しばかりの警戒心をといたようだ。トクトクと呼吸を合わせる彼女達、そんな仕草に少しばかり嫉妬心を抱く颯。

 

 颯もまたカモネギの胴体にそっと腕を回した。むむ…これは…。その感触は想像していた以上に極上のものであった。もふもふの羽毛からは暖かな陽だまりの香りがしていた。そっとバレないように匂いを嗅いでみる。顔をおしつけその極上の感覚にそっと溺れて見る颯なのであった。

 

 あぁこれは良いのかも

 

 そっと落ち行く意識。眠り落ちる寸前で颯は姉の声を聞いた。

 

「これが本当の羽毛布団というやつですね」

 

 ひょっとしてこのギャグが言いたいが為だけにこんな事をしたのだろうか。眠り落ちる寸前で颯はそう感じるのであった。

 


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