ポケデレ〜不思議な生物とシンデレラガールズの日常〜 作:葉隠 紅葉
こおりタイプ慰安施設の中にその二人の少女はいた。彼女達は互いに寄り添うように霜の生えたベンチに腰掛ける。はぁーと蒸気のような息をもらしながら彼女達は会話に談笑を続けていた。そんな中奈緒はアナスタシアにこう問いかけた。
「こおりタイプの魅力って何なのかな」
「魅力…ですか?」
ホットココアを堪能しながら話に華をさかせる少女二人。年齢が近いということも有り、何よりもお互いにイーブイ種を育てているという事から話題が尽きることはなかった。奈緒は防寒用のストールをもぎゅもぎゅと抱きしめながら問いかけた。
「いやさ、こおりタイプって街中であんまり見た事ないからさ…」
「うーん、たしかにそうです、ね。」
「こおりってバトル大会でも全然見ないしなぁ…」
はぁと白い息をはく奈緒。ベンチは凍りついておりどうにも居心地がわるかった。もじもじとスカートの位置を直し続ける奈緒。いつの日か自身のパートナーもグレイシアに進化する可能性がある以上やはりどうしたって興味は湧いてきてしまう。
こおりタイプはドラゴンタイプに対して最大限の効力を発揮する。が、しかしそもそもこの世界においてはそのドラゴンタイプを所持している人間が少ない為こおりタイプに対する需要が少ないのもまた現実であった。
いまだバトルといった大会は日常的に行われているわけではなく、それで生計を立てているプロトレーナーの存在もいない以上は仕方のないことなのかもしれない。
そんな奈緒に対してアナスタシアは苦笑で答えた。彼女はうーん、と頰に手をかけながらゆったりと考え込んだ。彼女たちの眼前ではグレイシアとイーブイが互いにおにごっこをして楽しんでいる。キャッキャとはしゃぐ彼らの声を聞きながらアナスタシアは陽気に答えた。
「でもこおりタイプ…一番可愛いですよ?」
「そ、そうかな?」
「ハイ、例えば…ユキハミとか…ウリムーとかとっても素敵です」
はぁと悦の入った息をこぼすアナスタシア。ほおを紅潮させながら彼女は指先でユキハミを示した。彼女の指先では二匹のユキハミがはむはむと氷山にかじりついて食事を堪能している。もきゅもきゅという音を立てながら食事をする姿は確かに可愛いと言えないこともないのかもしれない。
アナスタシアの意外なセンスに少し戸惑いながらも同意をする奈緒。確かにポケモンというものは可愛い。一緒に暮らし始めてそれを実感するようになった奈緒。彼女はスマートフォンをかざす。あとで加蓮と凛に写真を送ってやろう、そう思いながら。
「奈緒のイーブイがグレイシアになったらきっとトテモ素敵です」
「…うん、そうかも」
「一緒にお出かけ、しましょうね」
にっこりと微笑むアナスタシア。氷雪の舞う中で見るそれはあまりにも幻想的で美しかった。雪だるまを催したランプによってぼんやりと照らされる彼女の笑顔を、奈緒もまた微笑のまま見つめ続けた。
ブイ助がグレイシアに成長した時のことを想像する。そうして彼女は改めてグレイシアを見つめてみた。やはりグレイシアは美しいものだ、と彼女は確信する。蒼肌が雪景色の中を漂う一筆の美を生み出していた。
そのスマートな体躯、妖精のように儚い存在は誰の目から見てもきっと魅力的なのであろう。雪の降る中佇むその姿は額縁に収めてしまいたくなるほどに実に幻想的な姿であった。