ポケデレ〜不思議な生物とシンデレラガールズの日常〜   作:葉隠 紅葉

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タイプ改定2

 ———このような事から以前から一部のノーマルタイプには他タイプのポケモンには見られない特異的な性質があると見識者達の間では注目されておりました。悪タイプや格闘タイプに強烈な耐性を持つ性質。なによりも最大の特徴としてはドラゴンタイプの無効化があげられるでしょう。

 

 強力なドラゴンタイプの技を無力化し、触れるだけでドラゴンタイプの身体能力を著しく低下させるという性質です。

 

 これまではこの性質はポケモン自身が持つ「とくせい」の一種として扱われてきました。しかし、それでは一部のポケモンが二種類のとくせいを持つこととなり長らく提唱されてきた「個体特性理論」、つまりポケモンは一個体につき一つのとくせいを有するという理論に反する為ながらく疑問視されてきました。

 

 詳細はお配りするレポートを読んでいただくとして、改めて申し上げますとこれらの特徴は一部のポケモン達のみが有する「新たなタイプ;フェアリー」という事で学術機関から正式に発表がありました。それが1週間前のことです。

 

 こちらの正式発表に伴って新たなガイドラインの改定、ならびにライセンスの新事項が設けられましたのでご留意くだされますようお願いいたします。

 

 なお、このフェアリータイプはBライセンスとなり、取得移行期間は今後二年間となっております。それまではこれまで通りのノーマルタイプとして公共機関では扱われますので一般申請のみで構いません。しかし、一部の場所では行動に制限もかかることが予想されるため、二年以内にはこちらのライセンスを取得するようにお願いいたします。

 

 今回の改定にともなって該当するフェアリータイプのポケモン所持者には引き続きガイダンス、および研修会への参加を呼びかけておりますのでぜひご参加ください。当職員、ならびに関係者の方々には今回のガイドラインの改定に伴って必要が速やかに該当機関からの正式申請等、手続きを進めていただきたいと思います。

 

ーーーーーーーーー

 

 職員による長いガイダンスが終わる。お願いしますと告げた彼女は忙しそうに機材の撤収に取り掛かった。パソコンを操作しプロジェクターの線を抜き始める彼女を尻目に愛海はくわぁと隠すようにあくびをした。

 

 手帳をしまう。意外にも美しい字体で書かれたそれは愛海自身の家庭での育ちを表しているのかもしれない。こう見えても彼女は私立の女子校に通っている裕福な育ちなのである。

 

 この空間にいるのは二人のアイドルだけであった。今回のガイドライン改定には多くの職員、ならびに一部のアイドル達が該当するようであるがどうやら他の少女たちに限ってはすでに説明を受けた後らしい。

 

諸星きらり

佐久間まゆ

 

 すでにガイダンスを受講し終えたというアイドル達の名前を意外そうにつぶやいて繰り返す。年齢も離れている為親しい面識もないが彼女たちも「フェアリー仲間」であるらしい。意外といえばこの空間にいるもう一人の少女である。愛海はそっと同じ空間にいるその少女に視線を向けた。

 

 大きな業務用デスクに縮こまるようにして座る彼女。彼女は愛らしいユニコーンが書かれたファンシーなペン入れにペンをしまいながらいそいそと帰り支度を始めていた。ふと、目があう。するとその彼女は小さく声をあげた。

 

「あっ…」

 

「こ、こんにちは?」

 

「ど…どうも…」

 

 つたない挨拶を交わす。どうやらこの森久保乃々という少女は中々内気な少女であるらしい。彼女は動揺するかのように視線をそらすとそわそわと身じろぎをした。

 

 その少女は小さかった。身長149cm,体重38kgというあまりにも小柄な体。彼女からは儚げで幻想的な雰囲気が漂っている。触れては消えてしまいそうな…まさしく森に住まう妖精といった印象を受ける。

 

 むくむくと好奇心がわく愛海。愛海はそっとそばに近寄ると彼女に声をかけた。どうやら同世代という事で興味が湧いたようである。

 

「乃々ちゃんもポケモン飼ってるんだね、私もなんだー」

 

「あの…はい…」

 

「うちの場合は家族が飼ってるってだけなんだけどね。あっ一緒におやつ食べる?」

 

「は、はい…?」

 

「はい、このクッキーあげる」

 

「あっ…どうも…」

 

 伸ばされた手につい応じてしまう乃々。そうして彼女は袋からクッキーを取り出すと両手でカリカリもぐもぐと小さく食べ始めた。視線をおどらせながら愛らしい小ぶりな口を懸命にうごかしながらその様子。

 

 まるでハムスターが餌を他人に取られないように警戒するような行動。いやそうではない、単純になんというか…すごくーー

 

(可愛い…!)

 

 愛らしい小動物

 

 彼女という存在を端的に表すとこうなるのではないか。あるいは森に潜む妖精といった雰囲気であった。ふわふわのスカートにシンプルな藍色のカーディガンを身につけた彼女。髪には小さな花を催した髪飾りをつけておりそれがまた彼女の純朴な愛らしさを強調していた。

 

 もぐもぐと口を動かしこちらを上目遣いで見つめる仕草はたまらなく愛らしかった。愛海は自身のよくわからない心のセンサーがビンビンに反応するのを感じる。彼女はそっと乃々の隣の席へと移動し即座に行動を開始した。

 

「ねーねー連絡先交換しよ!SNSやってる?」

 

「ひゃい!…い、いきなり近いんですけど…」

 

「ほらうちのピィの写真見ない?可愛いよー」

 

「あっ…可愛い…」

 

 乃々の隣に腰掛ける愛海。そうして彼女は乃々に密着するようにぎゅっと距離を押しつめた。そんな強引な愛海の様子に思わず動揺してしまう乃々。しかし、それもつかの間である。ぎゅっと硬く緊張した乃々の嗅覚をくすぐるように、愛海の髪先から漂うシトラスの香りが彼女の態度を和らげた。そのまま彼女たちは一台のスマートフォンを肩をよせあって見つめ続けた。

 

恐るべき手腕、である

 

 行けると判断した直感にしたがい強引にパーソナルスペースを詰め寄る手腕。愛らしい動物の画像を見せ体験を共有し、ながれでそのまま連絡先を交換する手口。女性を安心させるかのようにほんのりと五感を刺激する巧妙さ。

 

 愛海の計画性と無自覚の天然成分が組み合わさった結果である。これまでこの手口で何人ものアイドル達の連絡先を交換してきたというのだから驚きである。無論、愛海自身の根底から滲み出る善人さも影響しているのだろうが。

 

 この出来事をきっかけに愛海と乃々はお互いに交友を結ぶことになったらしい。恥ずかしそうに自身の名前を呼ぶ乃々は大変に可愛らしかったとの言葉は愛海自身の発言である。

 


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