ポケデレ〜不思議な生物とシンデレラガールズの日常〜   作:葉隠 紅葉

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プロデューサーとゴーストタイプ

「名刺だけでも受け取って貰えませんか?」

 

「興味ありませんので」

 

 そう言って彼女は本に視線を落とす。美しい黒髪をした彼女、鷺沢文香はその端正な顔立ちを前髪ですっぽりと隠しながら再び読書を始めた。ペラペラと古びた本のページをめくる音だけが、小さな書店に響いた。

 

 都内某所、そこはいかにもこじんまりとした古本屋であった。

 

 そんな彼女の目前で男は気難しい顔をする。その男は大きかった。身長185cmを優に越すのではないかと思われる程の身長を持つ彼は、黒いビジネススーツを身につけながら無言のまま佇んだ。どうやらスカウトはうまく言っていないらしい。武内はそっと自身の首に手を押し当てる。

 

 この日が5度目のスカウトであった。1度目は気づかれず、2度目は本を読んだまま無視をされ続けた。4度目にして彼女が、親族が経営しているこの書店でアルバイトをしている事を突き止めたのだ。

 

 なんとか名刺だけでも彼女に受け取ってもらおうと、と3時間ほど書店の前で立ち続けた結果警察に補導された彼。そうして今日、ようやく面と向かって話ができる状態になったらしい。文香はそっとため息をつきながら彼に向かって話しかけた。

 

「申し訳ありませんが貴方は不審すぎます」

 

「………」

 

「書店に招き入れたのは」

 

バンッ!!

 

「なっ!?」

 

 突如起きた破裂音。その音に驚きたまらずどきりと動揺してしまう武内。そんな彼をあざ笑うかのように一匹のポケモンがクスクスと笑いだした。

 

「ゴ、ゴーストタイプ…ですか…」

 

「あぁその子はこの書店に住み着いた子でして…」

 

「住み着く…ゴーストタイプが人間の住居に、ですか…?」

 

「人を驚かせるのが好きな子なんです」

 

 なんて事はないと言わんばかりに告げる文香。そんな彼女とは対照的に武内は内心の動揺を隠しきれないでいた。今の時刻は午後15時、まだまだ太陽が照り付けると季節と時間である。まちがってもゴーストタイプに遭遇するような時間ではない。

 

 そのポケモン、ムウマは文香に寄っていくと彼女の髪に擦り寄るではないか。自身の体を擦り付けながら嬉しそうに鳴き声をあげるムウマ。そんな彼女に対して一切動じない文香はなおも本を読み続けていた。

 

「その…随分と人に慣れているのですね」

 

「そうでしょうか?じゃれているだけでしょう」

 

「それでも素晴らしい事です。ここまではっきりと目視できて、人に親しいゴーストというものは大変珍しいと思います。」

 

 ゴーストタイプとは極めて希少なタイプである。17種類発見されているタイプにおいて最も個体数が少ないタイプとされている。発見例もまた驚くほど少ないのである。

 

 ゴーストタイプを目視するには霊的な素質が必要であるとされている。霊的感受性、シックスセンス、魂の感応度が必要とされており、才能がなければそもそも発見することが非常に困難であるのだ。

 

 ちなみに感受性の高い、素質あるトレーナによって捕獲されたポケモンは他人の手によって目視できる可能性が非常に高まる。が、その理由までは未だに発見されておらず、例えその場合であっても全く霊的感受性が高くないものは全く視認する事ができないのである。

 

 一般的に男性よりも女性のほうがこの霊的感受性が高いとされてる。現に並行世界においてゴーストタイプ専門のジムリーダーとして選出されている優秀なトレーナーのほとんどは女性であり、例外としてはジョウト地方のマツバ位であろう。

 

『野生のゴーストタイプを昼間に確認する事は極めて困難である。また、住宅地や人気が多い場所においても同様である。これは彼らの生態に起因するものであり、ゴーストタイプの希少性に通ずるものでもある。』

———○×年発行携帯獣学研究レポートより一部抜粋————

 

 彼らは才能がない人間には姿すら表さない。墓地や廃墟、奥深い森林地帯などでひっそりと暮らす生物なのである。現在発見されているゴーストタイプは全部で14種類のみであり、現在でも多くの学者や見識者たちが探し求めている。

 

 ゴーストタイプはそのあまりの異質さから多くの噂話が一人歩きしている状態なのである。幽霊を見た、UFOを見たという感覚で多くの目撃例があるものの、実際にであい捕獲した人間は驚くほど少ないのである。

 

『切り株に扮したお化けを見た!子供の泣き声みたいな音を立てながらこちらを睨んでいたのよ!きっとあれは死んだ子供の魂が…』

 

『ふわふわとした紫色の風船のようなポケモンがいた。誰かの子供があの世へと引きずられていくのをボクはこの目で見た』

 

 このようにゴーストポケモンを見た、という目撃例自体はあれど、それを実際に捕まえたわけでも写真に収めたわけでもないことから正式に学会に登録されていないゴーストタイプも多い。ゴーストタイプは非常に危険であるといった無知からくる偏見も多く、また事実未判明な部分も多いのが現状である。

 

 テレビではゴーストタイプに出会おうと廃墟を探索する番組まであるほどである。つまりゴーストタイプとは

 

見つけることが出来ず

捕まえる事はもっと出来ず

しつける事はもっと出来ず

 

 というあまりにも異質なタイプなのである。白坂小梅がジュペッタと出会えた事や早坂美玲がヤミラミと出会えた事は非常に希少な出会いであり、驚くほど幸運な出来事でもあったのだ。ちなみに現在ジュペッタを従えている人間はこの世界においては12人しかいない。

 

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