ポケデレ〜不思議な生物とシンデレラガールズの日常〜   作:葉隠 紅葉

6 / 65
【大原みちるとゴクリン】

 大原みちるは大のパン好きである。実家が「おおはらベーカリー」というパン屋を営んでいる事も関係しているのだろう。彼女はパンを見るのも作るのも、何より食べるのも大好きなのであった。

 

 陽光が降りしきる午後3時。店の裏庭に設置された木製のベンチに腰掛ける彼女。彼女は今日もまたおやつ代わりのパンを堪能するのであった。懐に持っているバケットにはお店の売れ残りのパンがぎっしりと詰まっていた。

 

 大好物のフランスパンを眺める彼女。その腕に抱えたバケットから取り出してはがぶりとそれにかじりつく。その濃厚な小麦の香りを口いっぱいに堪能する。実家のパンはいつだって彼女を満足させてくれるのだ。

 

「フゴフゴ…もぐもぐ」

 

 ベンチにこしかけたまま食事をする彼女。黙っていれば美人である大原みちる。その口元にぱんくずをこさえながら少女は夢中でパンにかじりつく。そんな彼女の背後からのっそのっそと何かがやってくるのであった。

 

「………」

 

 それは不可思議な生物だった。薄い緑色をしたそれは明らかに地球の生物ではなかった。手足もなく、あるのは頭部の触角だけという摩訶不思議なフォルム。ぽにょぽにょと良く分からない音を立てながらその生物はみちるに近づいてくる。そうしてその不思議生物は彼女と目があった。

 

 突如未知の生物と遭遇する美少女。悲鳴をあげるのか、或いは白目をむいて気絶するのか。少しばかりの間、お互いに見合う二人。やがて劇的で緊張の瞬間が……訪れるはずもなかった。

 

「フゴッ!フゴゴ?」

 

「………っ♩」

 

「フーゴ、フゴっ」

 

 パンにかじりついたまま彼女はその生物に対して語りかける。よっと片手をあげて気軽に挨拶をする彼女。するとその球体生物もまたよっとその小さな手(らしきもの)を上げて答えた。どうやら既知の仲であったらしい。こうして一人と一匹は今日もまたよくわからない逢瀬をするのであった。

 

 

 まるで親しい友人のように挨拶をする二人。そのままその生物は彼女のとなりに腰掛ける。するとみちるは懐から取り出した別のフランスパンをそっと差し出すのであった。

 

「……〜♩」

 

 喜ぶ軟体生物。そのまん丸い体をぷにょぷにょと弾ませながらフランスパンにとびつく彼。するとその口を大きくあんがりと開けてかぶりつくではないか。

 

もっしゃ

もっしゃ

もぐもぐもぐもぐ

 

 ほんの数口でペロリとフランスパンを食べて切ってしまう彼。するとみちるはまた別のフランスパンを取り出しそっと彼に対して差し出す。それを何回も何回も繰り返すのであった。いつの間にか、このやり取りが互いにとっては当たり前の行為となっていたのであった。

 

店で売れ残ったパンを差し出す少女

そのパンを受け取りおいしそうに食べる未知の生物

 

 そんな不可思議な関係が始まったのは半年ほど前からである。ベンチに腰掛けたまま大原みちるは自身の過去について振り返ってみた

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『大変だみちるちゃん!お宅の店のゴミ捨て場にUMAがいるぞ!!』

 

 常連客の悲鳴のような声が店内に響いた。大原みちるの実家でもあるここ大原ベーカリー、その常連客でもあるおじさんの滅多に聞かないような声に思わず呆然としてしまったみちる。

 

 なにごとかと集まる母やスタッフに対してその常連客はUMAを見たのだと語った。緑色でまん丸な生物がゴミ捨て場で食べ残しをあさっているとの事だった。その緑のまんまるは手足がなくつぶれた饅頭のような形をしていたのだと必死な形相で語るおじいさん。

 

 当時小学生のみちるにとっては実にファンタジーに溢れる話ではあった。が、同時にそんなオカルトあり得ないだろうとも思ってしまった。案の定、与太話だと他の常連やスタッフに笑われてしまうおじいさん。

 

「本当に見たんだ!あれは宇宙生物に間違いない!」

 

 なおも食い下がる彼に対して同情したのだろう。パンを陳列する手を止めるみちるの母。彼女は娘に対してゴミ捨て場の様子を見てきてほしいと述べた。母からのお願いにしぶしぶ承知するみちる。UMAだなんているはずがないだろう。そんな事を考えながら裏庭のドアノブに手をかけるみちる。そうして自身は運命的かよく分からない出会いを果たしのであった。

 

 

 

「うわぁ……」

 

 第一声がそれであった。みちるとて年頃の少女だ。アニメだとか絵本だとかもそれなりに見てきた。ファンタジーに憧れる気持ちも大いにあった。しかし実際にファンタジーに出くわすと、人はよくわからない言葉を口にだしてしまう物らしい。

 

 それは確かに見た事もない生物であった。大きさは40cm程でつぶれたクッションのような丸みを帯びたフォルムをしている。薄い緑色のような色をしたそれは手足がなく、代わりに頭部に触覚のようなものを持っていた。黄色い触覚をピョコピョコと動かしながらゴミ箱に顔を突っ込む球体生物。

 

「ゴク…?」

 

 うしろで呆然としていた少女の気配に気づいたのだろう。彼は食事をする手(手?)を止めてこちらを振り返った。口らしき所にソースやら全身にパンクズやらをつけてこちらをきょとんと見つめる彼。

 

 その顔はどことなく能天気さをかんじさせるものであった。未知の生物への恐怖とかあこがれやらが音を立てて崩れ去っていくのを感じる一人の少女。

 

 とりあえずゴミ箱をあさるのはやめさせようと近づき彼を優しく抱きかかえるみちる。すると彼はおよ?とでも言いたげにこちらを見上げながらも素直に彼女の胸に抱かれるのであった。餅饅頭のようなぷにょぷにょの感触を感じながら一人の少女は途方にくれた。これどうしようと。

 

 

 結局彼を抱っこしたまま自身の母親に対してその生物を見せにいった彼女。その時の母の表情は終生忘れる事はできないだろう。顎が地につかんばかりに驚愕する常連客やアルバイトのおばさんの顔をみつめながら一人と一匹は途方にくれた。

 

 

 その後が大変だった。写真を撮られたり指で突かれたりと散々な目にあう球体生物。彼は少しばかりするとみちるの背に隠れるように移動した。おんぶのような形で肩と背中にのしかかる生物。

 

 その10kg弱という少女にはあまりに過酷な重量に耐えながら目の前で繰り広げられる家族会議を眺めるみちる。常連客や一部スタッフを交えた会議は熾烈を極めた。

 

 

危険生物だから警察に連れて行こう派閥

UMAだからNASAに連絡しよう派閥

 

 

 二択に絞られた親族会議。結局常連客のおじさんの一声もありUMAだからNASAに連れて行こう派閥が勝利したところで誰一人NASAの連絡先を知らないというあまりにトンチンカンな最後を迎えた時には一人と一匹はすやすやと昼寝を貪っているのであった。

 

 よりそうようにしてソファで眠る彼女達の姿を見て暫定的に飼育することが決定したのはその後のことである。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。