ポケデレ〜不思議な生物とシンデレラガールズの日常〜   作:葉隠 紅葉

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プロデューサーとゴーストタイプⅡ

「いかがでしょうか。アイドルに…なってはいただけませんか?」

 

「…」

 

 1時間にも及ぶ長時間の業務的説明。その説明を終えると武内は手元のファイルから346プロダクションの資料を取り出しながらそっと彼女のほうを眺めた。

 

 鷺沢文香はそっと押し黙ったまま手元の書類を眺めていた。彼女自身の目元はその長く美しい黒髪によって見えなかった。が、その髪の隙間からうかがえる顔からもその端正な顔立ちが見て取れた。

 

 やはり美しい。アイドルとしての魅力は顔だけだ、などとは言えないがルックスの良さもまた、欠かす事のできない重要な要素である事もまた確かだ。そのまま彼女の顔をそっと眺める。文香はコーヒーカップのふちをそっと手で撫でながら言葉を紡いだ。

 

「お話は分かりました。あなたが真剣に私の事を考えてくれた事もわかります」

 

「で、でしたら…」

 

「ですがやっぱり…ごめんなさい。お断りさせてください」

 

 その返答に思わず動転してしまう武内。一方、文香自身もまた気落ちした様子であった。彼女の目は実に悲しげであった。

 

 二人の男女の間で静寂がこだまする。顔を俯かせたまま、視線をテーブルへと向けたまま彼女はぼそぼそとしゃべる始めた。

 

「たくさんのアイドル志望の女性達と比較して私の容姿が特別優れているとは思えません。私自身内気で…だからきっと難しいと思います」

 

「……」

 

「アイドルだなんて成功するともわからない…不安定な職業です。私はその不安定な職業に人生を投げ出すような真似はしたくありません」

 

 そういうと彼女はそっと息をついた。彼女自身の発言に武内もまた沈黙してしまう。二人は書店の裏部屋で押し黙ったように固まってしまう。

 

 アイドルという職業は夢のある職業ではない。その夢を何万人という若く美しい女性達が目指し、そしてその大多数があきらめていくのだろう。武内自身そうした女性たちを嫌というほど見てきた。だからこそその発言の重みを理解してしまう。

 

しかしだからこそ

武内はそっと彼女に告げた。

 

「あなたは今楽しいですか」

 

「…はい?」

 

「あなたの人生は充実していますか」

 

「……」

 

「私は…アイドルとは夢をつなぐ仕事だと思っています。」

 

「夢を…つなぐ?」

 

「人々にこうありたいと願い、そのように努力する。観客と共に一時の夢と感動を共有する存在だと」

 

「……興味深い考え方ですね」

 

「本来そのアイドルに興味がなければつながらなかった縁がアイドルによってつながっていく。そうしてその輪が広がっていく。だからこそ同じ時代に同じ場所にいられるからこそ夢が見られるのだと。…きっとそこがこの職業の一番の魅力なんだと私は思います」

 

「鷺沢さん、あなたは美しいです。読書に夢中になってほほえむあなたに…夢を見させる才能というものを感じました。だから…私はあなたの才能を沢山の人に見てもらいたいんです」

 

「あっ…あの…ち、近いです」

 

 武内の熱い言葉に思わず思わず顔をそむけてしまう鷺沢文香。しかしその頬はほんのりと紅く昂揚していた。異性からの真正面からのアプローチ、ともすれば告白ともとられかねないほど熱い言葉に思わずどきりと鼓動を感じてしまう文香。

 

 動揺を隠すかのように彼女はそっとコーヒーカップを口元へと運ぶ。そんな彼女に対して武内はそっと言葉を重ねた。

 

「また来てもよいですか?」

 

「は、はい?」

 

「また…今度はDVDも持ってきます、あなたに理解して貰えるまで何度でも来てみます」

 

「…わ、わかりました。お待ちして…ます」

 

 感じた事のない鼓動の速さをごまかすように彼女はそっと返答をした。この男が来てからというものこんな事ばかりだ。体験したことのない事ばかり、それまでの人生にはこんな人はいなかったのだから。

 

 彼女は指先で自身の髪先をそそくさといじる。うつむいたまま目前の人にばれないようにそっと独り言をつぶやいてしまう。

 

「もしもアイドルになれなかったら…」

 

「その時は私が責任を取ります」

 

 その言葉に文香はハッとしてしまう。驚いたまま見つめた彼の表情は…これまで見たことのないほど真剣な顔をしていた。その時に文香はそっと感じてしまう。あぁこの人にならきっと信じられると。

 

不確定な未来が少しだけ明るく感じられる。

この人が隣にいてくれるならきっとそんな道も楽しいのかもしれないと

 

 文香の雰囲気が変わる。それまでの陰鬱な、暗い雰囲気がほんの少しだけ変わってゆく。そんな変化を察したのかムウマはふよふよと楽し気に彼女の頭上を飛び始めた。

 

「次に来るときはこの子にお土産をお願いします」

 

「それは…困りました。何を贈れば良いのかさっぱりです」

 

 ゴーストタイプを相手に真剣に贈り物に悩み始める男性を眺めて文香はくすりとほほ笑んだ。新ためて武内という男性の馬鹿正直なまでの誠実さに思わず声をあげて笑ってしまう。

 

 そんな彼女の笑みにつられて武内もまたそっと笑みを浮かべる。どうやらここでもまた縁が生まれたらしい。二人の頭上ではムウマが実に嬉し気な表情で二人の間をぷかぷかと浮かぶのであった。

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