ポケデレ〜不思議な生物とシンデレラガールズの日常〜 作:葉隠 紅葉
「お姉さんそっち…あぁもっとこっち!」
「わかったから頭上で叫ばないで…あぁ二日酔いに響く…」
頭上で響く子供の声に思わず苦い顔をしてしまう片桐早苗。彼女は警察官である。日夜市民の安全と生活を守るのが彼女の仕事だ、だからといって迷い猫探しまでする必要はあるのだろうか、と思わず考えてしまう。
自宅の猫が逃げ出したから探すのを手伝ってほしいと言ってきた少年の言葉に安請け合いしてしまった事を思わず後悔する。どうやら彼の家の猫はかなりの逃げ上手らしい。家の周囲、付近の公園、土手の川岸など大きな範囲を随分と捜索してきたがどうにも見当たらなかった。
「こんどはあっち!」
「はいはいわかったわよ」
早苗の手を引いて先導をする少年。少年自身はまだ小学生低学年である、自宅の猫の心配をする子供の手を振り払うことはどうにも躊躇われるのであった。だからこそこうして探してもいるがやはり見つからない。
早苗と少年は2か所目となる神社に到着すると再び猫探しを開始した。照り付けるような煩わしい太陽を思わずにらみつける早苗。
手で団扇を作りぱたぱたと煽りながら、早苗は四つん這いになり猫探しを再開する。なんとか猫はいないものかと捜索するもののどうにも成果が見られない。
「うちのミャーコは体は三毛柄なんだけどしっぽが真っ白でね!普段はとっても良い子なんだ…ほんとうだよ?」
「それじゃあきっと寂しがってるわね」
「ミャーコ…見つかるかなぁ…」
「きっと大丈夫よ…」
顔を地面にこすりつけながら公園に設置された倉庫の地面下を覗こうとする少年。早苗もまた自身の制服が汚れるのもまた気にせずに地面に四つん這いになると鳥居付近の草むらへと顔を突っ込んだ。
ガサガサ
ガサガサ
「ほんとに見つかんないわねー…うん?」
ふと、白い何かを見つける早苗。これはひゅっとすると…もしかするかもしれない。早苗は四つん這いのままその何かへとにじり寄っていく。草むらを必死に両手でおしのけながら彼女はそっと息を押し殺した。
それは白くふさふさとした体毛で覆われていた。早苗自身の見立てが正しければそれは間違いなく動物のしっぽであった。そっと呼吸を押し殺し…えいや!と彼女はそのしっぽへととびかかった。
「ガゥっ!?」
「ハッハー!捕まえたわよー!」
「お姉ちゃん…それなぁに?」
「何って…あれ?」
思わず首をかしげてしまう早苗。そんな早苗の眼前ではしっぽをつかまれたガーディが必死に逃れようともがいていた。
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「ガウガウ!ガウ!」
「ごめんごめん…痛くして悪かったって」
こちらに向かって恨めしそうに吠えてくる子犬に向かってつい謝罪してしまう早苗。そんな早苗のひざ元では件の少年がその子犬の背中を楽しそうに撫でていた。
体長65㎝程度のその子犬は随分と派手な柄をしていた。胸元と頭頂部にはしっぽと同じく真っ白でふわふわとした体毛があり、その周囲には燃え上がるようなオレンジ色の毛がもっさりと生えている。
「むむぅ…この子首輪してないわね。」
「じゃあこの子も迷子なの?」
背中と足の縞模様を眺めながらつぶやく早苗。彼女はその子犬のおなかにそっと手をいれ抱きかかえ、首元を確かめた。確かにそのガーディは首輪などしていなかった。
『フタバタウン』のすぐ近く『201番道路』から門【ゲートホール】を通じて転移してからまだ30分とたっていないのだ。当然彼は野生のポケモンである。そうとは知らずに早苗と少年はこの子犬を迷子犬として扱うのであった。
今の時代、田舎ならまだしも都会では野犬というものを見かけることはほとんどないのだからそれも無理はない。
「そうね首輪してないしなぁ」
「首輪してないとどうなっちゃうの?」
「保健所いきかな。飼い主が見つからなかったら…」
「ガウ!?」
早苗の言葉にショックを受けたような顔をするガーディ。その言葉を聞いた少年もまたひどい話だと憤慨をする。
「まぁこの子のことはおいておいてひとまず君の猫を…んー?」
「きみもミャーコを探すの手伝ってくれるの?」
「ガウ!」
「いやいやそんな…ほんとに?」
早苗の官給制服をひっぱるガーディ。どうやら俺に任せろと言っているようだ。彼はガウと短く吠えると少年の衣服のにおいをかぎ始めた。20秒ほどじっくりとにおいをかぐと彼はどこかへと猛然と走っていった。
ガーディという生物は並行世界においては警察をはじめとした治安維持組織に欠かすことのできない存在である。嗅覚に優れ、主人に忠実なポケモンである。オーキド博士が編集を行ったポケモン図鑑にも「どんな相手にも勇敢に立ち向かう頼もしい性格」であるとの記述がある。
つまり彼ら種族にとってこのような探し物は…
「いやいやそんな…警察犬じゃないんだから無理よ」
「ガウ~」
「ミャーコ!」
「いや早っ!嘘でしょう!?」
ガーディが小さな猫を口にくわえてこちらへと走ってくる。その様子をただ茫然と眺める事しかできない早苗。そんな彼女の様子をしり目に少年はその迷いネコを抱きしめて迎いいれる。
満面の笑みを浮かべて感謝の言葉を述べながらガーディの体を撫でてあげる少年、その少年の手つきにガーディ自身もまた嬉しそうにしっぽを振った。
「ガウガウ♪」
えへん
役に立ったぞほめてくれ
そういわんばかりにガーディはしっぽを振りながら早苗への足元へと寄っていく。彼はそっと自身の体を彼女のふくらはぎへと押し付けながらしっぽをふりふりと左右にリズミカルに振る。
早苗はそっと彼の頭に手をかける。その毛並みはまるで太陽のように暖かく、陽だまりのように優しい香りがした。