ポケデレ〜不思議な生物とシンデレラガールズの日常〜   作:葉隠 紅葉

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堀裕子とポケモンハント

 熱い日差しが照りつける。穏やかな春は通り過ぎ、初夏のように熱い日光下を歩きながら自身の身体から滴り堕ちる汗をタオルで拭い去る神谷奈緒。周囲にひろがる野山の美景などもはや眼中に入らない。足取り重く、綺麗に整備された山道を歩いていく。

 

 ここは街中からほど近く、都会の喧騒から離れられる観光場所として有名な山である。ガイドブックにも載るような有名な場所であり、休日もなれば多くの登山客がこの山へと上りにくる。平日でもありメインルートから外れた別ルートを上っているせいだろうか。今奈緒たちの周囲にいる登山客の姿はまばらであり、ここ20分ほどは一人も見かけなかった。

 

 ここに来るまで電車で50分、背後に詰めたリュックサックの重みに耐えるように彼女はずしずしと足取り重く歩いていく。そんな彼女に対して前方数mほど先に歩いていた堀裕子は意気揚々と声を弾ませながら問いかけた。

 

「大丈夫ですかー奈緒ちゃん!」

 

「だ、大丈夫じゃない…」

 

「まだまだ行きますよ!ゆっくりしてたらあの子を見つけられないですもん♪」

 

「あっ!一人で行くな危ないだろ…っ!」

 

 いかにも楽し気な様子で山頂へと歩んでいく裕子。そんな彼女とは対照的に苦し気に表情をゆがませながらなんとかついていこうとする奈緒。裕子はポケモンをまだ捕まえたことがない。

 

 手ぶらのままポケモンを捕獲しようとする彼女が心配なあまりついてきたのだが…少し早計だったのかもしれない。彼女はほんのちょっとだけ心中で後悔する。年齢も近く、スケジュールがあいているアイドル候補生など奈緒位しか近くにいなかったのでしょうがないのだが。

 

 そんな彼女たちの前方に、ほんのすこしだけ開けた空間が現れた。山中においてある登山客用の休憩所だろうか。奈緒はそっとほっと息をつき、倒れこむようにしてその休憩所に備え付けられたベンチへと向かった。

 

 

「ひ、一休み…」

 

 彼女はそっとベンチに座り込む。どうやら随分と年季の入った休憩所らしい。壁には所々ペンキの禿げた塗装部分があるし、水道の蛇口部分は赤茶色にさび付いていた。歩道は整備されている事から登山客の正規ルートであることは確からしいが。

 

 視線の先で周囲のしげみをごそごそとあさっている裕子に視線を落としながら奈緒はそっと水筒を取り出して口に含む。ごくごくと喉を鳴らしながら口に含む水のなんとうまいことか。彼女は安心したようにそっとため息をついた。

 

「ポケモンを見つけるっていうけど…手がかりがこれだけじゃな…」

 

 スマートフォンを眺める奈緒。画面に映っているのは彼女が作製したというとあるポケモンのスケッチであった。堀裕子が地方のローカルテレビのロケでこの付近を訪れた際に見かけたというポケモンらしい。裕子と奈緒はそんな件のポケモンを捕獲しようとこんな人里離れた山道にまできたのだが…改めてその姿を見ると…どうにも珍妙な姿をしていた。

 

 狐のようにすすけた茶色。人型をしており手や足は三本指、鋭いかぎ爪がついている。太い尻尾とピンと突き出た耳が特徴的な…な、なんなのだろうかこれは。

 

 裕子が自身のスマートフォンで慌てて撮影したという写真はピントがぶれぶれでとても見れたものではなく、また彼女自身が描いたというイラストはどうにも奇妙で的を射ない。

 

 いくらポケモン黎明期、数週間に一度のペースで新種が発見されるような時代とはいえ本当にこんなポケモンがいるのだろうか。いや、いたとして本当にこんな姿をしたポケモンを捕まえたいのだろうか。なまじ人型の姿をしている分、少し不気味さすら感じてしまう。

 

 

「なぁー裕子ー本当にこんなやつ見たのか?」

 

「見ましたよー。エスパーユッコの琴線にビビッと来たんです!サイキック琴線です」

 

「サイキックってなんだよ」

 

「このあたりにいるのは間違いないです!…たぶん」

 

「いるのかいないのかどっちなんだ…」

 

 どうやら裕子は相当例のポケモンを気に入っているらしい。wikiやらサイトやらを眺めてもまったく同例の観測情報がない以上は本当に新種の可能性もある。彼女曰くサイキック一目ぼれ、らしいが…タイプも何もわからないポケモンを捕まえたいだなんてもの好きにもほどがある。

 

 水筒を傾けながら太陽を恨めしそうに見上げる奈緒。そんな中、突如響く悲鳴に対してぎょっとした彼女は思わず水筒を落としてしまう。どうやら裕子の悲鳴らしい。裕子は茂みから逃げるように奈緒のもとへと走り寄ってきた。

 

「裕子大丈夫か!?」

 

「ポ、ポポポケ…ッ!?」

 

「分かったから私の傍にいろ!よし…頼んだぞブイ助!」

 

 自身の腰に取り付けたモンスターボールを手に取り、声高に叫ぶ奈緒。そんな彼女の呼び声に応じて勇ましく鳴き声をあげるイーブイ。イーブイは牙を剥きだして威嚇をしながら油断なく目前の敵をにらみつけていた。

 

(やっぱこれ…テンションあがるなー!)

 

 ピリピリと神経にめぐる感覚に思わず背筋を震わせる奈緒。内心では満更でもない様子だ。RPGゲームでいう所の「魔獣使い」或いは「ビーストテイマー」辺りの職業を思い出す。このようにして配下の魔物に指示を出して戦っていくというのは一人のゲーマーとしては気分が高揚してしまうのも無理はない。

 

 まぁ眼下のイーブイは魔獣と呼ぶにはあまりに愛らしすぎたが。いけないいけない、集中しろ奈緒。彼女は自身の頬をはたいて気合を入れなおす。

 

 ポケモンバトルを行うのはポケモン達自身である。とはいえ、フィールド内にいる以上、トレーナーもまた危険を負うのは当然の節理である。ポケモンが繰り出す攻撃の余波だけでケガをしたなんて例は挙げればきりがない。

 

「ブイ助!鳴き声だ!」

 

「ブイ!」

 

「っ!?」

 

 突如鳴り響く金切り声。反射的に思わず固まってしまうこらったを奈緒は両手で耳を抑えながら観察をする。鳴き声はその場にいる全ての存在の攻撃力を下げるデバフ攻撃である。耳を抑える事を忘れてふらふらとめまいを起こしている堀裕子は奈緒に対してなんとか告げる。

 

「な、奈緒ちゃん…アプリを…」

 

「っとそうだった」

 

 裕子の助言に対してうなずく奈緒。彼女は急いで自身のリュックからスマートフォンを取り出すとインストール済みのアプリケーションを起動させる。そうして奈緒はスマートフォンのカメラを目前の紫色のポケモンに向けてシャッターを切った。

 

「アナライズッ!!」

 

カシャッ

 

 バトルフィールドにそぐわぬシャッター音が響き渡る。どうやら無事に動作できたようだ。カメラによって撮影された映像データはネットワークへと接続され、クラウド上に保存された図鑑情報へとアクセスされる。

 

 ちなみにアナライズと叫ぶ必要はどこにもない。曰くゲームのようでテンションがあがるからとは彼女の言葉である。数秒の後、AIによって判断された情報が、目前のポケモンの種族をはじき出した。

 

『ドクケイル  どくがポケモン。危険を感じると猛毒の鱗粉をまきちらす。触覚のレーダーでエサを探す』

 

「さ、最終進化!?いや、そうじゃなくってタイプ相性…でもなくって使用技は…!?あーもう体当たり!!」

 

「ブイブイー!」

 

「~~~シィッ!」

 

 全力で疾走し身体をドクケイルへと自身の身体をぶつけるイーブイ。それと同じようにドクケイルもまたかがみ合わせのように同じ行動を取る。二体のポケモンによる体当たりによって鈍い打撃音がフィールドへと響き渡る。

 

 当たり所が悪かったのだろうか、地面に転げるように堕ちてよろけてしまうイーブイ。そんなイーブイに対してドクケイルは容赦なく牙を剝く。

 

「なっ!?」

 

「こ、これってかぜおこ…きゃぁ!」

 

 動揺する奈緒に悲鳴をあげる裕子。ドクケイルが自身の羽をこれでもかと羽ばたかせることによって周囲に巻き起こる猛風。それはまぎれもなく飛行タイプの必殺技『かぜおこし』であった。石が、砂塵のつぶてが、周囲に存在する全てのものへと降り注ぐ。体重の軽いイーブイはあっというまに吹き飛ばされて背後にあった大樹へと打ち付けられてしまった。

 

 猛風によって自身の身体すらも浮かび上がってしまいそうになる突風に奈緒はぎょっとしてしまう。飛びついて浮かび上がらないように、自身の身体を抱きかかえてくれている裕子に感謝しながら奈緒もまた力強く彼女の身体を抱きしめた。

 

「こうなったら奥の手を…」

 

「奥の手…なにかあるのか!」

 

「なんとかします!私のサイキックパワーで!!」

 

「なんとかなるはずないだろ!?」

 

「むむむぅ~~…ムンッ!さ、サイキック…なんとかなれーー!!」

 

「ふざけてないで……なんとかなった!?!?」

 

 

 スプーンを片手に大声でサイキックパワーを念じる裕子に対して大声で突っ込みをいれる。しかし、なんということだろうか。彼女がスプーンをドクケイルに向けると突如ドクケイルが苦しむように身をよじりだしたのである。

 

 裕子自身もまさか効くとは思わっていなかったのだろう。というより本人が一番驚いていた。この機を逃してはならない。唖然としていた奈緒はハッとしたように自身の相棒に向けて大声で指示を下した。

 

 

「ブイ助!じたばた!!!」

 

「ギャウ!?」

 

 奈緒の声に即座に反応するイーブイ。吹き荒れる猛風の中、突っ走る一匹の猛獣。彼は勢いよく飛び上がりドクケイルの身体へとしがみつくと、荒々しく反撃を行った。右足を、左足を相手の頭部に打ち付ける。まるで鉄板がひしゃげてしまうような鈍い音が響き渡る。

 

 

 そうして残った両足でドクケイルの腹部をこれでもかと乱打する。不規則に、縦横無尽に繰り広げられる猛攻に思わずうめき声をあげてしまう虫タイプ。

 

じたばた

 

 自身の残りHPが少ない時ほど威力が高くなる必殺技である。バトルの経験からイーブイがじたばたを覚えているとの事を知った奈緒は積極的に取り入れるようにしたのである。彼女たちが持つ文字通り必殺の一撃である。地面へと倒れこむようにして堕ちていったドクケイルに対して「電光石火」を放ち、とどめを指すことも忘れない。

 

 

 

 ドクケイルが消えていく。どうやら瀕死状態となったことで縮小化がはじまったようだ。まるでテレビゲームのエネミーのように光の粒子とともに姿を消していくドクケイル。ぽわぽわと美しい光をまき散らしながらそっと消えていくのを彼女たちは静かに見守っていた。

 

(こういう所までゲームみたいなんだよな…なんか複雑な気分だ)

 

 先ほどまで戦っていた相手がまるで煙のように消えていくという不可思議現象。奈緒としてはゲームの中なのか現実の世界が入り混じったような気分にさせられる。おかげで罪悪感も少なくて助かるが。これまで延々とレベリングの為に狩られ続けたスライムの気分はこのようなものだったのかもしれない。

 

 とはいえ、これは現実である。一歩間違えば大けがをしてやられたのはこちらかもしれないのだ。あの虫毒ポケモンもきっと今頃縮小化してどこかで羽を休めているだけなのだ。妙な感傷などは捨ててしまったほうがお互いのためだろう。

 

「ご、ごめんなさい…私のせいで」

 

「いいって…ブイ助にもいい経験になっただろうし…」

 

「でもブイ助君もこんな傷だらけで…き、傷薬を…」

 

「いや、木の実があるからそれでいいよ。それよりも、一度街まで戻らないか?」

 

「…そうですよね。無理したらだめですよね」

 

「こんどはもっと準備して…それとバトルに強い人も呼ぼう」

 

「は、はい!えーと帰り道は…あっちからの方が近い…いや、やっぱりこっちの方かな…」

 

『ギュンギュウ…?』

 

「ほーらブイ助たっぷりあるから沢山食べて…うん?」

 

 ベンチに腰をおろしてブイ助を膝へと抱きかかえる奈緒。そうして彼女はリュックから体力回復用の木の実を取り出しながらそっとイーブイへと差し出す。もくもくムシャムシャとおいしそうに食べるイーブイに頬をゆるめながらふと気配を感じてしまう奈緒。あれ、と違和感を覚えた奈緒は裕子へと視線を向ける。

 

 小首をかしげながら地図を見つめる裕子。ムムムと困り顔で地図を眺める彼女の背後では…何かがいた。まるで浮遊霊のように裕子の背後でゆらゆらと浮かぶソレ。彼女がうがーと叫びながら頭をぽりぽりとかくととその動作をまねるように背後のなにかもポリポリと頭をかきだした。

 

「あれ?うしろ…」

 

「うん、うしろがどうかしましたか?」

 

「い、今たしかに…あれー?」

 

 ふっと裕子が背後を振り返る、するとその瞬間にそれまで居た何かがすっとその姿を消した。まぶたをごしごしとこすって見つめる奈緒。だがもう、あの妙な存在はいない。何かの見間違い…なのだろうか。

 

「じゃあ!さっそく街まで帰りましょー!」

 

「……」

 

「もうノリ悪いですねー。元気に帰るまでが遠足です!奈緒ちゃんもブイ助君もほら!えいえいオー!」

 

「…オー!」

 

「ブイ!」

 

『ギュンギュオウ♪』

 

「お、おい今なにか声が…っておい裕子!?」

 

 ずんずんと進んでいく裕子とブイ助の後を追う奈緒。そんな彼女の背後では件のポケモンが姿を透明化しつつ、ゆらゆらふんわりと宙をただよいながら後をつけていく。

 

 

 

ケーシィ

 

 幼体でありながら非常に強力なサイキック能力を操るエスパーポケモン。その余りに強力な超能力の反動から、一日に18時間近い睡眠を取って脳と身体を休ませなければ反動に耐えられないとまで言われるらしい。眠ったままでも自衛のために常に読心術とテレポートを多用しており、悪しき心を持つ存在は相まみえることすら不可能と言われている。野生で出会うことは奇跡とまで言われるほどの実に稀少なポケモンなのである。

 

 強い精神力を宿したトレーナーでなければ彼らを扱うことは愚か、そばにいる事すら出来ないとまで言われる最強のエスパータイプでもある。そんな強力な存在である彼がどうして彼女たちのそばにいるのか。あるいは彼はこのトレーナーが自身にふさわしいのかを見極めている最中…なのかもしれない。

 

 

(ギュンギュン~♪)

 

「いった!?今小石かなにか頭に投げませんでしたか!?」

 

「そんなことしてな…ってうわぁ!上から毛虫が!?」

 

「ぎゃぁあああ!こっち来ないでください!?!?」

 

 

 いいや、ただ単に人間をからかって遊んでいるだけ…なのかも。

 

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