ポケデレ〜不思議な生物とシンデレラガールズの日常〜   作:葉隠 紅葉

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最終話(前)

 照りつける太陽の下、佐々木千枝はそっとベンチに腰をおろした。楽し気に遊ぶ子供たちとポケモンの声が公園に木霊する。そのまま見上げるように自身の眼前にそびえたつ新東京ドームを眺める。この日本においては有数の全天候型多目的スタジアムである。敷地面積4600㎡にも及ぶ巨大なスタジアムである。

 

 昨日千枝はあそこでライブを行ったのだ。全てのアイドル達が憧れる夢の舞台、たった一夜限りの夢のような時間。昨夜の感動に、千枝自身思わず震えてしまう。ここまで来るのに長かった。自分は本当にトップアイドルとしてライブを行ったのだ、と漸くその実感が沸いてくる。

 

「終わったんだ…昨日本当にあそこで…」

 

自分は本当にアイドルになれたのだ

彼女は言いようもない感動に打ち震える。

 

「えへへ…やったよみんな…プロデューサー…」

 

 そっと自身の肩にかけたカバンからスマートフォンを取り出す。その端末の画面には大切なお友達と自身が敬愛するプロデューサーの写真が移っている。共に喜び合った共と、熱く抱きしめられたプロデューサーの事を思い出して彼女は思わず顔を赤くし…

 

「こんにちは」

 

「はわわ!こ、こんにちは!?」

 

 声を。かけられる。慌てて携帯をしまい、声の主に対して反応を返す千枝。動揺したのも束の間。彼女はそっと息をのんだ。そこにいたのは想像以上の美女だったからだ。シルクのように流れる金色の長髪に、透き通るような美しい瞳をした彼女。黒いドレスをまとっており、それがまたなんとも彼女の色気をかもしだしていた。

 

 外国人…なのだろうか。彼女の相貌は実に日本人離れしている。彼女は小さく微笑みながらそっと彼女のそばへと近づいて、ベンチへと腰を下ろした。照り返すような夏の日差しが、彼女達を照らし出す。木漏れ日の中佇むその女性はとても美しかった。

 

「顔が紅いけど大丈夫かしら?」

 

「だ、大丈夫です!ちょっと熱いからです!」

 

「そう、確かにこっちの夏は蒸し暑いわね…それに都会の空気って物にはやっぱり慣れそうもないわ」

 

 そういって胸元を仰ぐシロナ。なんだかいけないものを見ているようだ。顔を赤くして思わず彼女から目をそむけてしまう千枝。おかしい、先程からどうにも変だ。先ほどから妙な感覚を覚えてしまう千枝。千枝はそっと隣に腰掛ける美女に問いかけた。

 

「お姉さん…日本語お上手なんですね」

 

「えぇ日本語をとっても勉強したから…」

 

「へー外国人さんなのに…凄いですね!」

 

「まさかこの世界のマイナー言語だと知った時は愕然としたわ…」

 

「え?」

 

「ふふっなんでもないわ、こっちの話よ」

 

 そういってニコニコと微笑む彼女。どうにも会話に違和感を覚えてしまう。けれどまぁ外国人特有の会話や対人の距離感という奴だろうか。千枝は疑問に思いながらも

 

 それからも会話が続く。いつの間にやら、彼女自身も気が付かぬまま随分と話し込んでしまった。シロナは話しやすく、温かみのある人物であった。学校のこと、アイドルのこと、友人のこと。ついこの間あった些細な出来事を話すと彼女はなんとも嬉しそうに相槌をうちながら聞いてくれた。それが千枝にとってなんとも嬉しかったのだ。

 

 だが、おかしい。どうにも…居心地が良すぎるのだ。彼女との会話に心を弾ませてしまう自分自身にそっと驚く千枝。初対面のはずなのに、まるで以前どこかで会ったことでもあるかのようなこの感覚。千枝は思い切って彼女に問いかけてみた。

 

「あの…お姉さんどこかで会ったことありますか?」

 

「んーさぁどうだったかしらね」

 

 にこりと微笑む彼女。不思議な事に、彼女とは初めてあった気がしない。人見知りしがちな彼女にとっては珍しく、家族にも似た安心感さえ抱いていた。初対面の相手にここまでの感情を抱くというのは大変に珍しい出来ごとだ。

 

 ふと、気が付く。ここまで来て彼女の名前すら知らないことに。自己紹介すらしていなかったことに気が付いた千枝は慌てたように答えた。

 

「あ、えーと私…」

 

「佐々木千枝…ちゃんよね、昨日ライブ会場で見たわ」

 

「見てくれたんですか!」

 

「えぇとっても輝いてて…今でも思い出せるくらい眩しかった」

 

 そういって目を細めるシロナ。噎せ返るようなアスファルトの熱気の先に、彼女たちが昨夜いた新東京ドームがそびえたっている。まるで遠いどこかへと想いを馳せるような彼女の表情に千枝はつい小首を傾げてしまう。

 

「あの…お姉さんのお名前は…」

 

「シロナよ」

 

「シロ…ナ?」

 

 口に出して、つぶやいてみる。なぜだろう。耳に届いたその名は実に懐かしい響きを伴っていた。まるでかけていた何かが戻るように、千枝の心が暖かなモノで満たされていく。

 

「ねぇ、千枝…一つ聞いてもいいかしら」

 

「な、なんですか…?」」

 

「千枝は毎日が楽しいかしら…アイドルをしていて良かったってそう思える?」

 

「…はい、とっても!」

 

「そう…ならよかったわ」

 

 そういって彼女は満足そうに顔をほころばせた。それは会話して以来初めて見る顔だった。心の底から良かったのだと、そう想えるような満面の笑み。まるで母のように慈愛に満ちており、旅立ちを祝う友のように屈託のない表情であった。

 

 思わず、その美しさに見とれてしまう。同性である千枝自身も見惚れてしまうような、素敵な顔であった。そっと風に揺れる金色の髪が彼女の心をくすぐっていく。その心地に酔いしれるような穏やかな瞬間であった。そっとシロナは手を差し出した。彼女へと差し出す贈り物、その掌の上には丸みを帯びたとある物が乗っており…

 

「はい、あの時に忘れていったものよ」

 

「え?こ、これって…」

 

「フレンドボール…こっちの世界だと素材がなくてまだ造れないはずだから…世界に一つの一品ものね」

 

 シロナから手渡されるボール。そのボールは緑色に縁どられ各種に鮮やかな装飾が施されていた。所々いびつな形をしており、これを造った人間はよほど技術的に未熟だったのだろう。けれどそれは暖かった。なぜだかひどく懐かしい香りさえした。

 

 そっと手で握りしめてみる。まるでガラス細工に触れるような慎重さだ。おずおずとしたその手つきの先からは木々独特の穏やかな温かみが存在した。その存在感に、千枝はそっと息を呑んだ。

 

「それじゃ名残惜しいけどそろそろ帰るわね」

 

「あ、あの…もうちょっとお話を…」

 

「やめておく、あんまり長居して神様を怒らせても仕方ないしね」

 

「あの…っ!」

 

 ここで彼女と分かれるともう会えないような。そんな予感がした。思わずベンチから立ち上がって彼女を追いかける千枝。そんな彼女に対してキョトンとした顔で見つめ返してしまうシロナ。

 

 どうしよう、何を言うべきだろうか。ほんの少しの間放心してしまう。千枝はぎゅっと自身の胸元を掴みながら問いかけた。まるで何かに怯えるような小さな…それでいてほんの少しだけ芯の強さを感じさせる声色で、問いかけた。

 

「また…貴方と会えますか?」

 

 そう言われた彼女は驚いたような表情をしてしまう。目を見開いて、その言葉に動揺してしまう。けれどそれもほんの束の間の出来事であった。今にも泣き出しそうな千枝に対してそっと微笑みながら、彼女は優し気に言葉を返した。

 

「えぇ、またきっと会いましょう…約束よ」

 

 

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