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sideヴィルヘルム
『In principio creavit Deus caelum et terram.』( 初めに神は天と地を創造され)
それは小鳥のさえずりのようで、儚く消えてしまいそうな美しい、彼女の声。
彼女を包み込んだ光が少しずつ晴れていく。
それに反比例して姿を現していく、巨大な白い翼。
『創造ーー』
エイヴィヒカイトを持っていない筈の彼女が、俺が狂い願うほど欲しかった力、創造を彼女が使用している事へのあり得ないという現実逃避と、、
『 Date et dabitur vobis.』
俺が大っ嫌いな日の光を浴びて輝き、更に自らも白い光を発する、異形へと転身した彼女の美しさに心が奪われ、息をすることも忘れ見とれている。
そう、彼女は、、、、、、、、、、
本物の天使となったのだ、、、、、。
クラウディアは翼をはためかせ、儚げな彼女から想像できない天使の厳つい腕をラインハルトへ向ける。
(まさか、クラウディアの奴、、、、、、、、ラインハルトに接近戦するつもりなのか!?)
見たところクラウディアの創造は求道。
渇望は『天使になりたい』という内容であろう。
多少の誤差があれど、この渇望は含まれている筈だ。
(しかし!求道が1対1に向いているとはいえ、同じ創造へ到達しているラインハルトに喧嘩の1つもしたことないクラウディアは勝てる筈がない!)
「クラウディア!やめ、」
『消えて、下さい! 』
クラウディアの声が響き渡ると天から光の光線がラインハルトへ降り注いだ。
その光は巨大な骸骨形態のヴェヴェブルズ城すらも包み込む程膨大で、それは光の柱が落ちてきたかのようだ。
(って、何故に光線!?お前のその腕は飾りかよ!?てか、気の所為じゃなけりゃ、周りがなんか明るくなってね!?)
いくら、夜明けの時間帯とはいえ雲1つなく晴れ渡っている。
明らかに北極ではあり得ない。つまりこの状況はクラウディアが起こしているということは間違いない。
つまり、クラウディアの創造は『自身を天使へと転身し、周囲を光で包み込む世界へと変える』といった求道と覇道の合わせ技だと分かる。
つうか、この創造、、、、、、、
(原作のヴィルヘルムの創造と真反対じゃねぇかァ!?俺たち実は相性最悪だったか!?もしかして!)
俺がこんな(冷静考えれば)下らない事を考えていると、ラインハルトを包み込んでいる光が一時的に晴れていく。
どうやらクラウディアの攻撃は、エレオノーレ、赤騎士の創造の様に半永久的に持続する攻撃ではないようだ。
「ククッ!クハッハッハハハハハハハ!!!」
ラインハルトの笑い声が響く。
この嬉しそうな笑い声は聞き覚えがある。
そう、、、、、、、、
ラインハルトが未知を感じて喜びに身を震わせている時の笑い声だ!
光が完全に晴れると、そこには所々黒く焼け焦げたラインハルトがクラウディアを鋭い眼で見据えていた。
「あぁ、カールよ。ベイの想い人であるフロイラインが私達に挑むこの光景、既知であるが、違うな。カール、貴様が下準備せずとも彼女は立ち上がった。あぁ、これは未知だ!彼女を抱き締めて、私の愛で包み込みたいのだが、やはりダメか?」
「あぁ、獣殿。勿論いけない。今回の我々は舞台の脇役にしか過ぎない。主役のヒロインを横取りはいけない。」
(堂々と寝取り宣言やめてもらいますかハイドリヒ卿!?そして、意外にもメルクリウスは屑なのに寝取りは許容しなかった!?)
『アァァアァァァァァァ!!!? 』
ラインハルトとメルクリウスの会話を聞いているとクラウディアが踠き苦しんでいるような声をあげた。
「な、なんだ!?どうしたクラウディア!?」
俺の問いにクラウディアは届かず、天使の身体をよじるだけだ。
その叫び声は、まるで痛みに耐えているかの様だ。
「おやおや。これはまずい。」
「メルクリウス、テメェ!クラウディアに今何が起きてんのか知ってる様な口ぶりだな!おい!答えやがれ!クラウディアに何が起こってやがる!?」
「何、簡単な事だカズィクル・ベイよ。」
メルクリウスの勿体ぶった言い方に苛立ちを覚えるが、今はただ耐え続きを聞く。
「彼女はエイヴィヒカイトを会得せずに、他者と比べ質の高い自身の魂と、先程貴様が取り込んだルートヴィヒが残した力で無理やり創造階位の力を振るっているだけに過ぎず、完全に制御できていない状態だ。当たり前のことだが、ただの人間に創造階位は過ぎた力、いや形成でも扱えぬだろう。」
「、、、、、、、、、」
「身の丈を超えた力は自身を蝕む。いわば、魂の純度に肉体の方が付いて来ていないのだよ。丸っ切り貴様の現状と逆だな。」
その通りだ、世界を塗り替えるほどの力をただの人間が扱える訳がない。
そして、メルクリウスの言う通り、今のクラウディアは内包する魂の量や魔人としての肉体は創造階位に到達できる筈であるのに出来ていない俺と本当に逆だ。
「しかし、それだけが原因では無い。」
「はぁ?何言ってやがる、テメェ。」
「彼女はエイヴィヒカイトを得る前の貴様と同じ日に弱い体質であるのだろう?なら、分かるだろう?彼女は今、自分を焼く光を自ら生み出しているのだから、肉体が焼かれない訳が無いだろう。」
「ッ!?」
つまり、アイツは、、、、、俺を守る為に
「、、、、死ぬって、言うのか?アイツは、、、」
「その通りだベイよ。しかし、健気であるな。貴様を守る為に、その身を焼きながら戦う彼女は。正しく聖女と言うのは彼女の様な人物を指すのであろうな。して、ベイ。貴様はどうするつもりだ?」
「メルクリウス、テメェ。何、意味わかんねぇこと言ってんだ。助けるに決まってるだろうガァ!」
再び、身体から杭を生やしクラウディアを見据える。
こんな大切な時になっても、俺はまだ創造階位に至れない。
俺は、やっぱり半端者で誰も助けられないのだろうか、、、、、、
「チッ!」
ふと、頭に浮かんだ弱音を舌打ちして頭から追い出す。
弱気になってどうする!クラウディアを生きて助けられるのは俺だけだ!
幸い、俺の聖遺物は相手の力を吸収できる。クラウディアが創造を維持できないぐらいまで弱らせればまだ可能性はある筈だ!
「待ちたまえ、カズィクル・ベイ。」
「何だメルクリウス。今更邪魔しようって訳じゃネェよな?そうだって言うなら、テメェから吸い殺すぞコラァ!」
いつの間にか前に立ち塞がっているメルクリウスに腕の杭を突き付ける。
時間が少しでも惜しいって時に、コイツの相手なんてしてられない。
勝てるとも、脅しが通じるとも思えないが今はこうするしかなかった。
「カズィクル・ベイ。貴様は形成のままで彼女を助けれると本気で思っているのか?そんな甘い考えは今すぐ捨てろ。今の貴様では彼女を助けるどころか、地に足をつかせることも出来ぬだろう。」
メルクリウスの言葉に、当たり前だろうと言わんばかりに答える。
「だからどうした?アイツは俺の獲物だ。ハイドリヒ卿にだろうと、誰にだろうと譲る気はねぇし、勝手に死ぬことも許すつもりはねぇ。もう、アイツの命はアイツのものじゃねぇんだよ。」
そこで一区切りし、間を開け、メルクリウスを避け横を通り抜けながら再び答える。
「俺の物だ。」
「だから、諦めねぇし、見殺しにもしねぇ。アイツが嫌がろうと何としてもずっと側に置いてやる。もう失うのは勘弁だからなぁ!だから、諦めねぇ!分かったかメルクリウス!」
俺の言葉を遮るかの様に、メルクリウスが目の前に現れ、額に人差し指を軽く突き立てる。
「あぁ、貴様の想い確かに聞こえた。今宵の主役は貴様だ。諦めない、その言葉を言ったからには救ってみせるのだな。柄では無いが少し手助けをしてやろう。」
「な、何を?」
「貴様に力を得るチャンスをくれてやると言っている。それに、彼女も待ちくたびれているだろうからな。」
その言葉と共に、、、、、、、、、、、
俺の存在は、雪積もる白銀の世界から、薔薇の花が咲き誇る夜の世界に移っていた。
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sideヴィルヘルム
周りは月明かりが指す夜の世界。薔薇の花が瑞々しく咲き誇り、鋭い棘を持った薔薇が壁の様に四方を覆っていた。
次に印象に残るのは、この鉄臭さ。
足元を見ると紅い液体、血液が全体に広がっており俺の靴を濡らしていた。
瑞々しい薔薇の葉や花弁をよく見て見ると、瑞々しく感じていた部分は水の水滴では無く、血液であった。
初めて着た場所であるはずなのに、何故か見覚えがある。
そう、此処は、、、、、、、、、、
原作においてヴィルヘルムが創造で創り出した、心象世界の薔薇の園だ。
「いらっしゃい、愛しい愛しいヴィルヘルム。ようこそ貴方の世界へ。」
考え事をしていると背後から少女の声が聞こえてくる。
反射的に背後を振り返り、その人物に視線を向けるが、あり得ない存在に身を見開き思考が止まった。
「な、なんで、」
「どうしたのヴィル?そんなら幽霊を見たような表情をして?体調でも悪いの?」
俺と同じ紅い目に、白い肌と髪。俺に優しく投げかけてくる安心する声。
中学生になっているか分からないほど幼い少女。
手足は触れば簡単に折れそうな程細く、かつて俺が締め殺した唯一の家族。
「し、死んだ筈の、テメェが何で此処にいやがる!?ヘルガ!」
そう、俺の生みの親にして姉であるベルガ・エーレンブルグが殺した当時の姿でそこに居たのだ。
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sideヴィルヘルム
「あら、何でって、私はずっと貴方の側にいたのよ?」
優しく話しかけながら両手を広げて近づいて来るヘルガ。
「な、に、?」
だが、今の俺は困惑で頭が一杯であった。
あり得ない。間違い無く俺はヘルガを、大切な家族を殺した筈だ。
「貴方が、あの、なんて言ったかしら?ら、ら、らい?ライオンさん?そう!ライオンさんに挑んで、負けた時の夜も、」
細い首を両手で締め、骨を折った感覚。
「その後、あの屑に変な術をかけられた時も、。また、ヴィルに会えたのは屑のおかげだから感謝は小指ぐらいはしているけれど、お母さんやっぱりなんか嫌いだわ。」
苦しさの余り涙ぐむ美しい紅い目に、元の可愛らしい声の名残りも残っていない苦しみの声。
「あの白い虫を暴漢から、私のヴィルヘルムが助けた時も。ヴィル?気をつけた方がいいわよ?ああいう女は、ヴィルを惑わす毒虫なんだから!」
最後に、ヘルガの死体に火をつけて燃やした時に生じた異臭。
「そして、、、、、、、、、、」
何故か溢れ出し止まれなかった涙に、胸が締め付けられるような痛みに吐き気。
「ヴィル、貴方が。泣きながら私の身体を焼いている時も、お母さんはずっと側にいたのよ?」
あぁ、忘れるはずが無い。
これは、忘れてはなら無い、俺の罪なのだから、、
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
「私を貴方が殺したのに、後悔し、悲しみに暮れる貴方を横で見ていて、とても抱き締めたかった、貴方は悪くは無いのだと慰めたかった。でも、私の身体は既に無かったから抱き締められなくてとても悲しかったわ。」
遂には目の前にまで辿り着いたヘルガは背伸びをしながら俺の顔へ両手を伸ばしてくる。
だが、そんなことを気にしている余裕は無い。
今、ヘルガは、なんと言った?
俺を抱き締めたかった?
慰めたかった?
悲しかった?、だと?
ヘルガが、俺が殺したヘルガ本人であるはずなら絶対言わ無いであろう言葉を聞き、混乱していた心と身体に冷静さが戻ってくる。
そういえば、原作のヴィルヘルムは創造によって自分の中に生み出した薔薇の園に自分の記憶イメージを元にして生み出したヘルガを住まわせていた。
つまり、今、俺の目の前にいるヘルガも俺の記憶から無意識に生み出した偽りのヘルガ・エーレンブルグなのだろう。
俺の都合の良い行動を取り、言動を放つ幻影でしか無い。
何故なら、、、、、、、、、、、
自分を殺した俺を、ここまで愛する訳がないからだ!
「俺に触るんじゃねぇ!偽物!」
パン!とヘルガが伸ばしてきた手を払い、押し退け距離を取る。
「あら?どうかしたの?ヴィル?」
「俺の名前を軽々しく呼んでんじゃねぇよ偽物ガァ!」
杭を眉間に突き付ける。
「偽物?ヴィル、私は偽物じゃ無いわ。貴方のお母さんのヘルガ。ヘルガ・エーレンブルグよ?どうかしたの?頭でも痛いの?」
「チッ!」
幼き頃の記憶のヘルガの姿と重なり、胸が罪悪感で一杯になりムカムカする。
そして、自分で殺した大切な家族を、今自身で都合の良い存在として生み出していることを自覚し、自らヘルガ・エーレンブルグという大切な存在の死を汚していると分かり、舌打ちを打つ。
「俺を愛してるダァ!?そんな訳ねぇだろうガァ!?本物の、俺が殺したヘルガなら!俺を愛してる訳がないだろうガッ!」
「、、、、、、、、、、」
ただ、黙って俺の言葉に耳を傾けるヘルガ。
その姿は、子供の戯言に優しく聞いてあげる母親の様だった。
「あぁ、テメェの言う通りヘルガが俺を愛していたと認めてやる!アイツに向けられた愛情はとても愛おしくて、大切な物だった!でもよ、殺されてなお愛することができる訳がねぇだろうガァ!」
近親行為で産まれた俺にヘルガは愛情を持ってくれていた、それは分かる。
だが、殺されてまでごとも愛することができる親なんているか?いる訳がない。
人間誰しもがその人間がどんなに大切だったとしても、結局は自分が一番大切な筈だ。
それに、
「俺がヘルガを殺したのは10年以上前だ。その頃は勿論、俺はエイヴィヒカイトを手にしてねぇ。可笑しいよなぁ?テメェが言っていることが本当なら、ヘルガはどうやって俺の側にいた?エイヴィヒカイトに吸収されていない状態でずっと側にいたってか?そんなことできんなら、あっちこっちに浮遊霊が存在していることになるだろうが!?」
俺の言葉にヘルガは答えない。やはり、このヘルガは偽『その決断は少し待って貰おう。カズィクル・ベイ。』!?
俺の考えをいつのまにか俺達しか居ないはずの薔薇の園にいたメルクリウスが遮る。
「メルクリウス、テメェ。俺の世界に土足で踏み込みやがって、それに何故止める?まさか、この偽物はテメェの仕業か?なら、マジで殺すぞ?」
『勝手に侵入したことは詫びよう。しかし、彼女は私が用意したものでは無いし、このまま彼女が消されて仕舞えば、彼女の10年以上の苦労が報われぬのでな、介入させて貰った。』
「何を言ってやがる。」
『単刀直入に言うと、彼女は本物のヘルガ・エーレンブルグだ。私が保証しよう。』
「な、なんだ、と?あ、ありえねぇ!?」
『それがあり得たのだよ、カズィクル・ベイ。』
『最初は私も驚いたものだよ。貴様にエイヴィヒカイトを施した際、やけに魂の量が多いと思ってはいたがまさか、過去に殺した人間の魂が生きた人間になり憑いているとはな。』
『死した者の魂は憑代と憑代との強い繋がりが無ければこの世に留まれなく、座へと還るだけだ。しかし、彼女は貴様と共に存在していた。どうしてだと思うカズィクル・ベイ?』
「、、、、、、、、、、」
『愛だよ、愛!貴様を1人にしたくない、もっと共にいたい、抱き締めたい!それらの親愛だけで彼女は存在し続けたのだ!これほど深い愛!私は私の女神以外に見たことない!だ、「もう、退場の時間ですよ?」なに?』
ヘルガの言葉が再び聴こえると、周りの薔薇から鋭い棘のついた蔦が幾重も連なり、メルクリウスを包み込む。
少しの間、蔦が蠢くと何もなかったかのように元の場所に戻る蔦。メルクリウスの姿は何処にも見えなくたっていた。
「全く、ヴィルが真面目な顔して推理する姿がかっこよ過ぎてウットリしている間に私達だけの世界に入って来るだなんて、屑の癖に、巫山戯たことしやがって!、、、、、ふぅ、落ち着かなきゃ。土足で入ったんだから無理矢理放り出しても別に構わないわよね?お待たせ、ヴィルヘルム。」
まさか、あのメルクリウスを自分の領域内とはいえなんで力だ。
それに、、、、、、、、、
「ヘルガ、なの、か?」
「はぁい、貴方のお母さんヘルガですよ〜。」
信じられない
その感情が頭から離れない。あまりの動揺から頭が考えるよりも先に、口が、心が1人でに話し始めた。
「なんで、、、、、俺を、怒らない。」
「え?どうしたのヴィル?」
「なんで、俺を恨まない、、。ヘルガ、俺はお前に殺されても仕方がないことをしたんだぞ!?俺は、自分の命大切さにお前を!愛してくれていたお前を殺したんだぞ!?苦しかった筈だ!痛かった筈だ!俺を憎たらしいと思った筈だ!なのに、なのに、、、、、、、」
「どうして俺を愛してくれるんだヘルガ!?」
俺の心の叫びに対して、ヘルガは当たり前のことの様に、そして逆に問いを投げかけてきた。
「子供を愛するのに理由がいるの?」
「ッ、だから、殺されてまで愛せるわけが、」
「ヴィル、貴方は私を殺す時泣いていたわよね?」
「それが、どうしたん、だよ?」
「最初はどうしてこんな事をするのか分からず困惑したわよ?でも、ヴィルが泣きながら私の首を絞めているのが見えたら、あぁ、ヴィルが泣いてまでやるなんて、ヴィルにとって必要な事なんだって分かったら、我慢しなきゃって思ったの。」
「だから俺に必要な事だからって、お前は命を俺に捧げるって言うのかよ!?はっきり言うが、お前の愛情は歪んでる!普通の親ならそこまでできるわけねぇ!どうして、お前はそこまでできるんだよ!?」
俺の問いにヘルガは一息間を開けて、何か覚悟を決めた表情をして言葉を放った。
「だって、私にはヴィルしか居ないから、」
「お母さんは、私を産んですぐ居なくなった。」
「お父さんは、私が痛いと言っても怖い事をやめてくれなかった。最後にはお母さんの様に捨てた。」
「街の人は、私を汚いゴミを見る様な目で見てきた。話しかけたら、動けなくなるまで殴られて、蹴られた。」
「隣の家の叔母さんは、近所のジェーンお姉ちゃんは、警察さんは、お花やさんのおねぇさんは、お肉屋さんの叔父さんは、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、ははははははははははははははハハハハハハハハハハはハハハハハハハハハはははハハハハハはハハはははハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、」
壊れたラジオの様に、目に光を無くし、誰にどんなひどい事をされたのかを話し続けるヘルガ。
ヘルガの狂気を目の当たりにしていると、急に目に光が戻り俺を穴が開くぐらい強い眼差しで見つめ、話し続ける。
「でもね、貴方は、ヴィルだけは違ったのよ?」
「最初はお腹がだんだん大きく重くなっていって気味が悪いそう思ったわ。だんだん、激しい痛みを感じる様にになるし、妊娠したと知った時は絶望しかなかったわ。何せ、私に酷い事をしたお父さんとの許されない生命。産まれたらどんな事をされるか嫌になったわ。」
先程まで恨み放っていた口調がだんだん嬉しそうな口調に変化していく。
「今までのどんな痛い事よりも激しい痛みに、無理矢理出てくる圧迫感。何度死ぬかと思ったか分からないわ。でも、今思えばそれは貴方と出会うための神様からの試練だったのねと思えるわ。だって、」
「私に笑いかけてくれたのよ?ヴィル、貴方は。」
ヘルガの言葉にこう思った。
『たったそれだけの事で?』と、
「あ、今たったこれぐらいの事でと思ったでしょ?」
思っていた事を言い当てられて、少しドキッとした。
「貴方から見れば小さい事でも、あの時の私から見たら、あの笑顔はどんな宝石よりも、どんなに高価で美しいものよりも価値ある物だったわ。だって、今まで負の感情しか向けられなかった私に唯一、向けられた明るい感情だったのよ?どんなに嬉しかったか!どんなに感動したのか!今でも鮮明に覚えてるわ!そして、誓ったのよ。」
「私に唯一無二の物をくれた貴方の為なら、何だってやってやる。絶対に幸せにしてみせるって、」
「貴方がお腹が空いたと言うなら自分の分を迷わず差し出しましょう。足りぬと言うなら自分の身体を切り裂いてでも肉を与えましょう。」
「貴方が何かを欲しいと言うならば、寝る間を惜しんで働いて買ってあげましょう。もしそれが他人しか持っていないのであれば、盗み、殺してでも手に入れて見せましょう。」
「貴方が誰かに死んで欲しいと言うならば、私がどんな手を使ってでも殺しましょう。それが例え、私であったとしても、だから、、、」
「もう休んでもいいのよ?」
狂っていた口調が、慈愛に満ち溢れた口調に戻った。
「休む?どいう事だ?」
「私はずっと貴方のそばにいた。だから、分かるの。貴方がどんなに痛い思いをしたか。どんなに苦しんだのかは。私は全部知ってるわ。だから、もう頑張らなくてもいいのよ、ヴィル。」
ヘルガが再び、俺の顔に両手を添え、抱きしめる様に引っ張ってくる。
先程は容易に振り解けたはずの手には何故か力が入らず、膝もヘルガの力に負け地に着く。
これにより、俺はヘルガの胸に抱き締められた形となった。
「貴方を苦しめる物の全てから私が守ってあげる。昔は力が無かったけど、貴方が苦しんででも手に入れた力のおかげで今なら貴方を守れる。」
強く抱き締めてくるベルガの腕。
息苦しさは全く無く、感じるのは眠くなる程気持ちの良い暖かさと、安心する甘い匂いであった。
瞼が異常に重い。意識が遠く、なっ、ていく。
「もう苦しむ必要は無いの。私とずっと一緒に、この薔薇の園で眠りましょう?大丈夫、誰にも邪魔などされないわ。だから、全て忘れてしまいましょう?あの、怖いライオンさんも、屑のことも、私を殺したという罪すらも、そして」
「貴方を誑かした女のことも忘れてしまいましょう?」
オリ主といえばオリジナルの創造というイメージがあるんですが、必要ですか?
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いる!
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いらない!
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作者の厨二力に期待!