冥府の神と妖怪の賢者
時代は未だ人間という存在が誕生していない遥か昔。
空は青く、辺りに広がる草原はそよ風が吹くたびに青々と揺れ動いている。そんな場所に目を閉じ立ち尽くす人物が一人。
ただその場に立っているだけだというのに絵になってしまうほどの美しい女性。風になびく腰ほどまでに伸びた金髪が太陽の光を反射しきらびやかに光り輝いている。服装はこの場に似つかわしくない八卦の萃と太極図を描いた中華風の服、だが本来ならばこの時代に彼女の様な存在がいる事自体がおかしいのだ。
その女性はゆっくりと目を開き辺りを数回見渡すと歩みを進め始めた。
私はどういう訳か草原に立っていた。訳がわからない、でも不安や焦りは全く感じない。馴染みのないドレスの様なものを着ているというのにまるでいつも着ているような、ずっと愛用してきたように馴染んで普段着のようにしか感じない。
持ち物は手に持っていた扇子が一つ。扇子一つで一体何ができるんだと思うが少なくとも手持ち無沙汰は解消できる。こんな風に手のなかでくるくると回せば気は紛れる。何かしら手に持っているのと何も持たずにいるのでは気の持ちようが意外と違う。
ここからどうすべきか計画なんてものは全くないがひとまずは辺りを散策してみることにする。
時は流れ数時間が経過した。散策していたが特に目につくような人工物も無ければ動物もいない。ようやく見つけたのは大きく澄んだ水がまるで鏡のようになっている湖。持ち物に鏡なんてものはない。自分の容姿を確認するには丁度いい、丁度いいのだが⋯⋯。
湖面に映り込む自分の姿を見た時、ハッと息を飲んでしまった。その姿はこれまでに見たこともないほどの美人、傾国の美女と言っても過言ではないほどだった。それもそのはず私は人間ではなかった。見た目だけならば人間だがその根幹は全くの別物。時に人を魅了しまたある時は恐怖を広め畏れを糧とする。その正体は妖怪。妖怪とはよく異径の姿をしているものが多いが相手を魅了し誘い込む者も少なくはない。
彼女がどうやっていたのかは知らないがこの人物ならば容姿がずば抜けて優れているというのも納得がいく。その人物は八雲紫。
神隠しの主犯にして妖怪の賢者とまで謳われるほどの切れ者。更に大妖怪とまで呼ばれるほどの強さも持ち合わせている。それが今の自分。自覚なんてものもまるっきり湧いてこない。でも現にそうなってしまっている。私が片手を上げれば湖面に写る八雲紫も片手を上げる。
どうあれ自分は八雲紫、妖怪の賢者になってしまったらしい。
綺麗な金髪、染めたりしている訳ではないナチュラルなもの。肌もきめ細かく色白。スラリとした優雅な立ち姿。顔のパーツも全てが整った造形をしている。そしてなによりも――――
「胸デッカ」
胸デッカ
八雲紫となって初めて口を開いて出た言葉がこんなものだとは我ながら情けないとは思う。しかもその声も鈴がなるかのように綺麗な声だというのがなんとも申し訳ないし情けない。
ただわかってほしい。人間、持たざる力をいきなり与えられたり強大な力を突如として受け渡されたら馬鹿な行動や言動をとってしまうものなのだ。だからこそ私は何度でも言おう、八雲紫の胸はやはりデカかったと。
だからといって自分のものに欲情したりはしない。他人であって他人ではない。そういった感情が湧くことはないだろう。自分が何者なのかは理解できた。とはいえ現状手持ちは扇子のみ、家無し、金無し、食料無し。これではいくら妖怪になったからと言ってもすぐに死んでしまう。
ひとまずの目標は人のいるであろう街を探し宿を確保、ないしその資金を手に入れること。目標が決まったならば後は行動あるのみ。先へと進もう。
――数十年後
湖の畔に一軒の家屋が建っている。木を積み重ねしっかりとした造りのログハウスのように見える。辺りにはこの一軒以外に建物は見当たらない。その時ログハウスの扉が開き中から一人の女性が現れた。
紫色の中華風の服を着た金髪の女性、八雲紫である。彼女が何故この場所にいるのかといえば答えは簡単。あの時、目標を決めた紫だったがいくら行けど暮せど街はおろか人っ子一人見当たらない。いるのは空を飛んでいる鳥くらいのものだった。
そして紫は元いたこの湖へと戻り新たな目標をたてた。まずは家を造る。それが彼女が新たに掲げた目標だった。
屋内から外へと出て私が自ら作った長椅子へと腰を下ろす。ここ数十年私はこの手作りのログハウスで暮らしてきたのだが未だに街や村といったもの確認できていない。最初は街があるものだと信じていたというのにそんなもの気配も欠片も無かった。
このログハウスもいくら私が妖怪だからといっても造るのは簡単ではなかった。最初は苦労の連続だったのだけど今ではかなり快適に暮らせている。暮らせてはいるのだが⋯⋯⋯⋯。
どんな時代、どんな状況でも不満というものは生まれる。だが今私が困っているものは私の我儘、家が不便だということではない。それとは全く別、もっと外的要因によるもの。それはここ数年間幾度となく続いてきたこと。
それは何かといえば視線。すなわち誰かが私の暮らしを覗いているということ。覗きは私、スキマ妖怪である八雲紫の専売特許だというのに。最初にそれに気がついたときは辺りをくまなく探したが気配の一つも無かった。そのときはあえて気にせずにいたが私が眠りにつこうと寝室に向かうときも、身体を洗うために浴室へ入るときも、食事、休憩、能力の特訓、すべての行動で誰かの視線を感じ続けていた。
それがここ数年続いている。そして今も誰かに見られている。ゆっくりと立ち上がり一本の樹の下へと移動し腰を下ろす。丁度いい木陰になって心を落ち着けるにはピッタリの場所。ここでわざと警戒心を緩め瞳を閉じてじっとする。
しばらくするとパッと目の前に何かの気配を感じる。まるではじめからその場にいたかのように突如として現れる気配。
「ふふふ♪ ねぇ? あなたはだぁれ?」
その声を聞きゆっくりと瞼を開け前を見る。するとそこに居たのは薄手のワンピースのようなものを着た銀髪の少女。無邪気に笑いこちらを見ている反面、どこか値踏みしているような幼さと怪しさを持ち合わせている。私が感じた最初の印象はこれだった。
「さぁ? 誰なんでしょうね。覗き魔さん?」
私がそう言うと少女はパァっと花が咲いたように年相応の綺麗な笑顔を浮かべ喜びを顕にする。
「ふふふ、気づいていてくれたのね! 私はハーディって言うの。あなたは?」
銀髪の少女はハーディというらしい。この見ただけでは年端も行かぬ少女のように見える人物が数年に渡って私を監視、観察していた張本人。
「むぅ⋯⋯それ!」
「ちょっと、何をしているのかしら」
ハーディと名乗った少女は私が答えない事に少し不満の表情を浮かべたが直ぐに笑顔に戻り私の膝の上に座りだした。だが不思議なことに膝に負担は感じず一切重さを感じない。まるで人の形をした空気がその場にいるようだ。
「私、ずっとあなたを見ていたの。とっても綺麗な人だと思って。てっきり気づいていてくれていないのだと思っていたんだけど気づいていてくれて嬉しい!」
私の膝の上で身体を揺らし嬉しそう湖の方向を見ている。まだ完全に信用はできない、だが私も自分以外に言葉をしゃべって会話できるものには初めて会った。
「⋯⋯紫よ」
「ん?」
「名前、八雲紫。それが私の名」
ハーディはそれを聞くとこれまでにないほどの笑顔を見せる。その表情は心の底なら嬉しいのだと分かるほど。
「ユカリ、ユカリ! うふふふ綺麗であなたに合ったとってもいい名ね」
その日からハーディはほぼ毎日私の所へとやってきた。会話をする日もあればただただ私を見ているだけという日もあった。何が目的かは分からないが特に害はないし人がいるというだけでも意外と安心感は生まれてくるものだから好きにさせている。
そうしているうちに私とハーディの友好は少しずつ深まっていった。
彼女を見つけたのは偶然だった。
たった一度、ほんの一瞬だけ視界に入っただけだった。
それだけだというのに私の心は奪われてしまった。
美しい動物は多くいる。でも彼女は他とは違う。美しい肌、輝く髪、滑らかな曲線美。どこをとっても類を抜いている。
その時から私は彼女の一挙一動をすべて自分の瞳に納めようと思って彼女の暮らしを見続けた。
彼女が寝室へと向かいベッドへと入り眠りにつく。その寝顔も美しくついつい見惚れてしまうほど、すこし気を抜いてしまうと手を出してしまいそうになる。
彼女は常に気を張っている。何故かはわからないけどそのせいなのか常に凛とした表情をしている。それが同仕様もなく美しい。
ただ一度だけその凛とした姿が崩れたことがあった。それは彼女が水浴びをしていたとき。一糸まとわぬその姿に私は何度も見惚れてしまっていた。どれだけ美しい宝石でも、どれだけ綺麗な装飾をほどこしても彼女のその姿の前では全てが霞んでしまう。
水滴が白く美しい肌を滑り落ち、惜しげもなくさらけ出した滑らかな曲線を伝ってゆく。彼女の着飾った姿も綺麗だが生まれたままの、ありのままの姿こそがこの上なく美しかった。そのせいで少しだけ腰に手を触れてしまった。
その時彼女はバッとその場から飛び去り恥部を手で隠し頬を赤らめ辺りを見回していた。その姿がたまらなく愛おしく可愛らしいかった。
そしてようやくその時がやってきた。常に気を張っていた彼女が気を緩めた。わざとかもしれない、気がついているからかもしれない、でもそんなものはどうでも良かった。だってやっと彼女の前に出ていくことができるんですもの。彼女の声を、質感を、体温を、香りを全てを、見ているだけでは感じることのできない感覚を味わうことができる。
「ふふふ♪ ねぇ? あなたはだぁれ?」
ゆっくりと彼女がその瞳をこちらへと向ける。驚いた様子はない。返答もない、でもいいの。だって今彼女は私を見てくれてい
るんだもの。私だけをそのアメイジスト色の瞳で見つめてくれている。
「さあ? 誰なんでしょうね。覗き魔さん?」
彼女はそう言った。美しい外見に透き通るような綺麗な声、そしてなによりも私の存在に気がついてくれていた。自然と喜びで口角があがり頬が緩んでいるのが分かる。
「ふふふ、気づいていてくれたのね! 私はハーディって言うの。あなたは?」
早くあなたの名を知りたい。私の名を呼んでほしい。でもあなたは何も言ってくれない。もう一度その声を聞かせてほしい。今、あなたは手を伸ばせば触れることのできる距離にいる。でもただ触れるだけではこの気持ちは収まらない。
「むぅ⋯⋯それ!」
「ちょっと、何をしているのかしら」
私は気がつくと彼女の膝へと座っていた。柔らかく暖かい愛しい彼女の膝の上に。突然こんな事をして嫌われないだろうか? 嫌じゃないだろうか? 重くはないだろうか? そんな思いが心の中を巡る。
「私、ずっとあなたを見ていたの。とっても綺麗な人だと思って。てっきり気づいていてくれていないのだと思っていたんだけど気づいていてくれて嬉しい!」
不安な気持ちもあった。でもこうして会話できる喜びのほうが遥かに大きかった。そして待ち望んでいたときは突然やってきた。
「⋯⋯紫よ」
「ん?」
「名前、八雲紫。それが私の名」
ヤクモユカリ、その名が頭の中で何度も反響するように聞こえ続ける。ずっと知りたかった彼女の名前、きっと素敵なものなのだと思っていたがまさにそのとおりだった。
「ユカリ、ユカリ! うふふふ綺麗であなたに合ったとってもいい名ね」
もっとこの名であなたを呼びたい。お互いに名前を呼び合ってくだらないことで笑い合いたい。そしてなによりも溶け合い一つになってしまいたい。
私のユカリ、私だけの愛しいユカリ。ずっと一緒にいましょうね?
その日ハーディは日が昇ると同時にやってきた。あの出会いから数年が経ったがその日のハーディはどこか浮き足立っているようにも見えた。
「ユカリ、おはよう」
「ハーディ、今日も来たのね」
いつものようにニコニコとした笑顔を見せるハーディ。
「ええ、そうなの! ユカリに見せたいものがあるの! 一緒に来てくれない?」
ハーディは紫へと身体を寄せ腕に抱きつく。ハーディは事あるごとに紫の身体を触っている。名前を呼んでは腕を絡ませ、身体を寄せ、手を握る。かなりスキンシップが多い。あくまでハーディは少しスキンシップが多い娘、というのが紫の考えである。
ハーディに腕を引かれながらついていき暫くして神殿のような場所へとやってきた。ハーディを見れば変わらぬ笑顔を浮かべている。
「ユカリ、こっち! こっちよ! どう綺麗でしょ?」
ハーディが指を差す先にあったものは動物、その剥製だった。見たこともない幻獣のようなものから誰もがよく知る動物。かなりの数が揃っていた。その剥製一つ一つが全て美しくまるで今にも動き出しそうに思えた。瞳から毛先まで艶を保たれて本当にさっきまで生きていたようにしか思えない。この場所を博物館として売り出せば人気は間違いないだろう。
「ええ、どれも本当に生きているように美しくわ」
「そう、そうなの! とっても美しいのよ! 見せたいものはまだあるの!」
私の腕に抱きつき指を絡ませ俗に言う恋人繋ぎと呼ばれる握り方をしてくる。今日のハーディはやはり少しおかしい。いつもよりもスキンシップが多い。過剰と言ってもいいほど。それにさっきから私を見つめる目になにか得体の知れない不安感を覚える。
ハーディが指を指した先に見えたものに私は度肝を拔かれた。
「どう? とっても綺麗で可憐でしょ?」
それは確かに美しかった。きっと可憐だったに違いない。まるで商品を陳列するかのように並べられた人間の女性たち。誰も彼もが美人と言える造形をしている。いや、よく見れば人間ではないらしい。人間にしては耳が尖っている。エルフかそれに関する存在に違いない。
ハーディは美しいものを気に入る節がある。それは人体も例外ではなかったらしい。
「ハーディ、彼女たちは――」
「ええ、ええ! 美しいでしょ! 愛らしいでしょう! これは私の
魂のコレクション、ハーディはそう言った。つまり今まで見てきた動物も生きているように思えたのは魂としてああやって飾られているということだろう。彼女たちは自分の意思でこうなったのか、無理矢理こうされたのかそれは本人たちとハーディしか知らないこと。
「ねぇ、ユカリ。私はユカリが好きよ。あなたとずっと一緒にいたい。あなたを私だけのものにしたい。あそこを見て、あなたのために空けているのよ」
ハーディの視線の先には確かに一箇所だけ空いている場所がある。その場所は他の彼女たちのいる場所とは違い多くの装飾が施されている。だが中身は無く空っぽのまま。
「ユカリ、私はあなたが欲しいの。太陽の光で輝くその髪、白く柔らかな肌、美しい曲線の腰、長くてスラッとした脚、完璧に近い体型。全てを私だけのものにしたいの。私のお嫁さんになってユカリ。平気よ、全部私がやってあげるから。髪のお手入れ、肌のお手入れ、着替えも何もかも。私と一つに、溶け合って一つに、一緒になりましょう? こんなにもあなたを愛しているの。ねぇ、いいでしょう? 私と永遠に一緒になりましょう、ユカリ?」
⋯⋯⋯⋯どうやらハーディは見た目に反してかなり重い愛情を持っているらしい。重い、とてつもなく重いものを。そしてそれが今まさに私に向けられているという事実。ずっと感じていた不安感の正体が今わかった気がする。ハーディから向けたれていたものは愛。ただし歪みきった愛。本心まではわかりはしないがハーディは今あそこに飾られている女性たちやもしかすると私のことも美しい物、あくまで人や生き物ではなく物としてしか見ていないということになる。
いくら愛情があるとはいえそんなもの私は真っ平御免だ。一つになる、それは文字通りの意味だろう。ハーディは本当に私と一つになりたいと思っている。私はハーディに恋愛感情を抱いてはいない。ハーディとは良き友人という関係を築けていると思っていたけど少し違っていた。
「ハーディ、私は物じゃないのよ。あなたとは友人、友達として接してきていたの。だからといって直ぐにあなたを嫌いになったりはしない。そこまで薄情ではないから。でもあなたの愛情に答えることはできないわ、ハーディ」
「⋯⋯⋯⋯何故? 何がいけないの? こんなにも愛しているのに。こんなにもあなたが欲しいのに、あなたの髪、あなたの瞳、あなたの身体を、あなたの着飾らないありのままの姿が、こんなにも愛して溶け合いたい、感じ合いたいのに――どうしても駄目なの?」
小首を傾げて少し悲しげな表情を見せている。見ただけならあどけなさの残る少女、でも蓋を開けてみれば魂をコレクションする特殊すぎる癖の持ち主。どうあれ私の答えは変わらない。
「駄目よ、どうしてもね」
「そう⋯⋯⋯⋯なら仕方ないわね! なら私、待つわ! ユカリが私の物になってくれるその時を。だって、どうしてももあきらめられないんですもの。時間はたっぷりあることだし、ずっとずーっと待ってるわねユカリ♪」
そう言い残しハーディの姿がだんだんと薄くなっていき最後は完全にきえてしまった。消えるまで終始笑顔のままで恐怖しかなかった。まさかこんな重い愛を向けられる日が来るとは思ってもみなかった。とはいえハーディは待つと言っていた。私にその気はないから無駄に長い時間を待ち続けてもらおう。
彼女がなくなってハーディの魂コレクションの彼女たちと私しかいないこの神殿に長居したくはない。スキマを開き直ぐに家へと戻った。
その日の晩、帰ってから日が暮れるまでずっとハーディの事を考えていた。こんな事を言ったら彼女は大喜びしそうではあるけど考えずにはいられない。ハーディとは数年の付き合いがあった。ハーディ自身の気持ちはどうあれその数年は悪くはなかった。
ただずっとあんな風に思っていたんだと考えると少しゾッとする気は否めないけど。もし次にハーディが現れた時はどうすべきか。いたって普通に迎えるか、他人のフリをするか、それはその時決めることにしましょう。
――そして翌朝、嫌な重みで目が覚める。
まるで人一人胸元に乗っているような感覚。ぼやけた眠気眼の状態で胸元へと視線を向ける。
「ユ カ リ ♪ お は よ う ♪」
そこにはニッコリ笑顔のハーディがうつ伏せで寝転がっていた。一瞬状況が飲み込めなかったが持ち前の頭の回転の速さを活かして一気に頭を覚醒させる。
「う~ん、やっぱりあなたの胸ってとってもいい触り心地よねぇ〜」
私の両胸を嫌に優しく撫でながらそう言うハーディ。なんでここにいるの? なんで胸を撫でてるの? いつからいたの? いろいろと聞きたいことはあるが一番聞かなくてはいけないことが一つ。
「ハーディ、あなた待つとか言ってなかった? 私にその気は一切無いの。というか胸を撫でないでくれるかしら」
「んふふふ♪ そ れ は ね ! 待つって言ったんだけどどうしてもユカリに会いたくてぇ〜、ユカリが欲しくてぇ〜、ついつい来ちゃったのぉ〜。可愛かったわぁ、ユカリの寝顔。襲いたくなるくらいだったもの! よく胸だけで耐えたわね私」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯よし。
バッと飛び起きハーディを弾き飛ばす。そして首根っこを掴み玄関へと引きずって行く。扉を開け渾身の力を込めてハーディをぶん投げ鍵を閉める。ハーディは『あ~れぇ〜、ユカリ〜! どうしてぇ〜!!』と言いながら星になった。あれはすぐ戻ってくるわね。
昨日の私に言ってやりたい感傷に浸ってハーディの事なんか考えてるならいち早くハーディ避けの結界を作っておけと。
それから直ぐに結界を作った。ハーディは読み通り直ぐに戻ってきたが結界に阻まれ近づけず泣く泣く帰っていった。帰り際に『これも愛の試練ね! ユカリ! 私負けないわ!!』 と意味の分からない事をほざいていた。
まったくとんでもない奴に目をつけられてしまった。まだ早朝だっていうのにもうクタクタだ。今日はゆっくりと平和を楽しもう。
そう心に決めた八雲紫であった。尚、再度ハーディの襲撃に合い平和はなくなったらしい。
ハーディ「やだ、あの子綺麗すぎ」