八雲紫 彼の地にて、斯く戦えり   作:片腕仙人

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スキマから戻ったので投稿




9話

さてさてやって来ました箱根の旅館。温泉よ温泉、特地にはここまでのものは絶対に存在していない。さすがの私も少しだけテンションが上がってしまう。

 

それは他のメンバーも同じなようで

 

「うわぁ~、泉が全部お湯になったみたい」

 

「こんなに大量のお湯に入るのははじめて」

 

「これ程にまで画期的な浴場が存在したとは」「殿下ここは異世界です」

 

「へへ、すごいでしょ!」

 

「一週間ぶりの、お風呂」

 

それぞれ思い思いの言葉を呟いているのだけど、なんで栗林は誇らしげにしているのだろうか?この旅館自分の物って訳でもないはずだけど。それと梨沙、一週間ぶりって私いったはずなんだけどシャワーくらい浴びろって。まあすぐに生活習慣を変えろって方が難しいだろうけど。

 

なんて思っていると栗林がロゥリィを羽交い締めにしていた。

 

どうやらこの光景に無言で感動していたロゥリィがさっそく入ろうとしたようで先に体を洗ってからという事で羽交い締めにされていたようだ。確かにそうね、先に体を洗ってからが普通だしただ特地じゃお湯なんてそうそうないからはしゃいでしまうのはわからなくもない。

 

実際にピニャとボーゼスも体を洗うことをうっかり忘れかけていたらしい。

 

ロゥリィはそのまま栗林に連れていかれて体と髪を洗ってもらっている。

ピニャたちもそれに続いて洗っている。私も、と言いたいところなのだけど少しだけ気になることがあるのよね。

 

ここは露天風呂になっていて旅館が山の中にあることもあって昼間なら綺麗な緑、夜なら星空といった感じの一度は来た方がいいと思う所なのだけど今はその緑が問題なのよ。

 

「紫、そんな所で立っててどうかした?やり方分かんなかったら教えるけど。それに女同士なんだからいつまでもタオル巻いてないでさ」

 

確かに私は今も体にタオルを巻いて隠しているけど別に恥ずかしいからとかではない。

 

「それがねぇ、栗林ちゃん誰かの視線を感じるのよ。視線をね」

 

「!?、覗き!たいちょー!?」

 

そこですぐに伊丹のことが出てくるあたり信用されてないのかなんというか。どうやらロゥリィも視線は感じていたようだ。

 

再度、山の方をよく見てみる。普通の人には絶対に見えないだろうけど妖怪の眼をなめてもらっては困る。うまくカムフラージュしているが私にはバッチリ見えている。向こうも双眼鏡を使っているからこっちの顔くらいは普通に見えるでしょうね。

 

折角だから忠告もかねてウインクと少しの殺気を送ってあげることにする。あっ、双眼鏡落とした。

それを確認して私はおもむろにスキマを開き上半身を突っ込む。

 

繋ぐ先は勿論、監視兼覗きをしていた自衛隊隊員の後ろ。どうやら今はどこかと通信しているようだ。

 

「たった今目標パープルと目が合った。いや絶対に気づいてる俺の勘がそういってる」

 

そうね、あなたの勘は確かよ。でも紅白巫女に並ぶためにはもっと必要ね。私、紫さん今あなたの後ろにいるの上半身だけ。

 

まだ気づかずに通信している隊員の喉元にいつもの扇子を閉じた状態でスッと当てる。流石にここまでやれば気がついたようで通信の途中だがピタリと話すのをやめ動きも止まった。

 

そんな彼の耳元に口を近づけ囁くように言う。この時できるだけ冷たい声色で言うことを意識するようにする。

 

「ねえ、あなた。監視か覗きかは知らないけどあまりじっくりと見るものではないわよ。VIP待遇とはいえあまり度が過ぎると何人か消えることになるかもしれないけどいいの?」

 

そういってあげると隊員は冷や汗をだらだらと流しはじめた。

 

「ある程度なら多めに見るけどじっくり監視するならほら、あっちの男湯でも見てなさいな。それじゃあ」

 

扇子を喉元から離して頭を二、三回ポンポンと叩いてスキマに戻る。

 

『Archer!応答してください!』

 

「あ、ああこちらArcherたった今対象パープルから接触があった」

 

『そんな!?あり得ませんよ、そこから対象までは400メートル以上あるんですよ!』

 

「それが目の前に出てきたんだからしょうがないだろ。あと俺も含めて浴場の監視は内部に任せた方がいい。今ので一生分の冷や汗かいたし」

 

『で、ではそこから別のポイントに移動してください。監視も内部の者に任せます』

 

そう通信で連絡して隊員はこそこそと移動していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

よいしょっと、スキマに突っ込んだ上半身を戻しスキマを閉じる。

 

「あっ、戻ってきた。なにしてたの」

 

「なに、ちょっと覗きに釘指してきただけ」

 

まあ、まだ覗き続けるならスキマに何人か収納して少ししたら返しましょう。梨沙はスキマを初めて見るからか体を洗う途中で固まってこちらを見ている。大丈夫そのうち慣れるから。

 

漸く私も体を洗い始める。

 

洗っている間耳を傾けてみるとピニャがノゾキ?とレレイに聞いているようだ。

 

「私はあまり気にしたことがない、村の井戸端で水浴びをしていても素通りされていた」

 

………ん?レレイ井戸の側でしかも人が普通に通ってる所で水浴びをしてたの?それで見向きもされない?レレイそれはないと思うわよ。ここは少しだけ忠告しときましょ。

レレイの肩に手を置いてこちらに向かせる。

 

「レレイ、貴方が気がついていないだけで見られているかもしれないの。だからこれからはしっかりとした場所で水浴びするようにしなさいいいわね」

 

「でも別に━━」

 

「い・い・わ・ね!」

 

レレイは首を縦に何度もふって頷いている。うんそれでいいの。

この子は多分大人になっても「別に見られたからといって減ったりするものではない」とかいって同じ事をしかねない気がする。少し強めくらいの方がいいはず。

 

レレイを注意しているとピニャとボーゼスもなにか思い出したようだ。

 

「覗きといえば騎士団軍営の浴場を思い出すな。覗こうとする()()と防ごうとする()()との攻防戦」

 

「殿方が互いに友誼を確認し合う姿はそれは美しいものでしたね・・・」

 

「「え"!?」」

 

それを聞き栗林と一緒に声がもれてしまった。

 

明らかに何かおかしい部分があった。覗こうとする我らと防ごうとする彼ら、こういうのって普通は逆じゃない?

ああ……なんだろう騎士団なのよね一応。普通はそういったものを取り締まる方だと思うんですが、私は何か間違っているのだろうか?

 

随分と騎士団が変な方向にいっていることを確認した所で皆洗い終わり漸く湯船に入れる。その時テュカが飛び込みロゥリィに思いっきりお湯がかかって注意を受けるなんてことがあった。貸しきりだからいいものの本来は飛び込んじゃダメだからね皆も気をつけてましょう。泳ぐのもダメよ。

 

少しすると梨沙が何か面白い話はないかと栗林に聞いている、具体的には恋話とからしい。ここで話題に上がってしまったのがボーゼス、ボーゼスには富田に気がある疑惑が絶賛浮上中だし当然といえば当然。私も気になっていたから是非ともお聞かせ願いたい。

 

ボーゼスはというと

 

「騎士団では男女の交際は禁止されいますし、家柄とか身分とか……」

 

といって口元までお湯に浸かってブクブクいっている。私からしたら身分とか家柄なんて皆たいして変わらないように見えるけどね。

ボーゼスが黙り込んでいるとピニャが後ろに回り込み胸を鷲掴みにして問い詰めている。

 

ボーゼスはお姉さまとか言っているけど男色にくわえて百合の騎士とはこれいかに。

 

ボーゼスは流石に観念して富田のことを憎からず思っていると頬を赤らめながら答えた。これにはここにいる私を含めたほぼ全員がニヘラと頬が緩んでしまう。ただレレイだけは魔法でお湯を空中に浮かべて特になんとも思っていないようすだった。

 

ここでロゥリィが思い出したかのように梨沙に伊丹との関係を訪ねはじめた。どうやら伊丹は銀座事件のあと門の向こうに行くことになったことを梨沙に伝えてもし自分に何かあったとしても保険金がおりるから平気とかいったらしい。

 

なんというか伊丹らしいといえばらしいんだけどね。梨沙は伊丹のことを好きなままらしいけど一度は仕切り直したくて今の関係になったみたい。もう好きなら素直にいってそのまま押し倒してしまえばいいじゃない。

 

「ねえ、梨沙。もう押し倒してしまえばいいじゃない」

 

「えっ!?それは……もう少し順番に、いこうかな」

 

そう、まあそれでいいなら良いけどね。ただ

 

「それなら良いけど、でもねぇ伊丹の周りには随分と美人が多いからもしかしたらもしかするかも知れないわよ」

 

「!?……それは」

 

 

あら、ちょっと言い過ぎちゃったかしら考え込んでしまった。

 

 

「なんていってる紫はそういう話はないの?」

 

ほぉ、それを私に聞きますか栗林ちゃん。いいでしょう話してあげましょう私の武勇ってやつを。

少し記憶を遡り考えてみる。ある時は若かりし時のカトーをからかいまたある時は美形揃いのエルフをからかい帝国では騎士団にちょっかいをかけ………無いな、これ。

 

「そうねぇ、無いわねそういうのは」

 

「えっ!?意外なんだけど美人だから引く手あまただとばかり」

 

「そういう栗林ちゃんはどうなの?かなり立派なものを持ってるようだけど」

 

「それは…今のところ、ない、です」

 

なんで栗林には男が寄ってこないのやら、顔も整ってるし胸も大きい背は低めだけどそこがまた可愛さを引き立てていると思うのだけど。となるとやっぱり性格だろうか少し…うん少しキツめだけど悪くないと思うのよね。もしくは自衛隊の男たちが見る目がないかね。

 

そんな感じに盛り上がったり悲しくなったりもしながら癒しの一時を過ごし自分達の部屋に戻りあとは寝るだけ、とはいかずにこれからはあらかじめ買ってあったらしいお酒とおつまみで酒盛りとなります。これには私も嫌いではないから賛成。

 

飲み進めていると皆それなりに出来上がった状態になりテュカはダウンして横になっている。レレイはまだ飲める年齢ではないけど今回は無礼講と言うことで度数の弱いものだけにしている。

 

ここら辺はまだおとなしい方なのだけど問題はその他、栗林を筆頭に梨沙、ロゥリィ、ボーゼス、ピニャ、中でも栗林とロゥリィ、ボーゼスがひどい。私は妖怪ということもありかなり強めでそこまででもないのだけどね。

 

酔った栗林とロゥリィは伊丹と富田の部屋の方に行き二人がもう寝ようとしていた所を無理矢理つれて戻ってきたようだ。

二人はこの光景を見た瞬間絶句、それも仕方ないでしょうね。ほぼ全員の浴衣がはだけているし。

 

そんななか優しい富田がボーゼスに下着が見えていることを教えてあげると本当は見たいんでしょとボーゼス。それに続きムッツリスケベなどなど素面では言いそうにない言葉と枕を投げられ哀れ富田は爆発四散はしていないけど部屋の隅で小さくなってしまった。

ほら、素面のボーゼスでは見れない一面が見れたと思えばよかったじゃない。

 

ただここは少しだけ慰めて置くことにしましょう。スススっと富田に近づき傍らに座る。

 

「富田、大丈夫よ。あなたは悪くないわよあれは完全に悪酔いしている連中が悪いから。ボーゼスのあんな姿なかなか見れないんだからよかったと思えばいいわよ」

 

肩をポンポンと叩いてそういう

 

「……紫さん」

 

私がそんな風に慰めていると何か後ろに気配を感じる。顔の向きだけ変えて見るとそこには一升瓶を持ったボーゼスが立っていた。

 

「おやおや~、紫殿まさか弱っていることをいいことに富田殿を籠絡して取り込もうという魂胆ですね。許しませんよ」

 

それと同時にガッと肩を掴まれ仰向けに倒されそのまま馬乗りにされてしまう。

 

「ちょっ!そんなつもりないわよ、って力強っ!」

 

待って待って!なんでこの子こんなに力強いの!?私の方が力は強いはずなんだけど!

 

そのままボーゼスは手に持っている一升瓶を私に近づけはじめる。

 

「ちょっと待ってボーゼスさん、それはそのまま飲む物じゃないような気がするのだけど」

 

そういうも尚も近づけ続けるボーゼス

 

「ちょっと…ンンンッ!?」

 

問答無用で一升瓶を口に突っ込まれてしまう。口いっぱいに酒が流れ込んできて許容範囲を越えてあふれでてしまう。

 

「さあ!さあ飲んでください紫殿!富田殿は渡しませんよ!」

 

いやそんなつもりはなかったんだけどそれよりもこれキツすぎる。

富田助けて!

視線だけで助けを求めるも富田は自分に飛び火するのが嫌なのか見てみぬふり。

 

この薄情者!流石にこのままでは色々とまずい。そう思いスキマでどうにかしようかとした時ボーゼスの様子が少しおかしい、いやまあこの状態がすでにおかしいのだけど。

 

「さぁ、飲んで…くだ、さ……」

 

そういい私の横に倒れて眠り始めてしまった。

 

「げっほげほ、や、やっと解放された……富田彼女の躾ぐらいしておきな、さい、よ……ガクッ」

 

そういい残しスキマを真下に開きそのまま落ちるようにして入っていく。まず落ち着いてからこの酒がたっぷり染み込んだ浴衣を着替えよう。そう落下しながら決めた私だった。

因みにボーゼスも一緒にスキマに落ちて来たようだが速攻で吐き出しておいた。

 

 

 

◆◆◆

 

先程の宴会からしばらくたち夜も更け皆が寝静まったなか、月明かりの射し込む場所。そこで月を眺めながらグラスを傾けている人物が一人。長い黒髪が月の光で輝く、その姿はとても幻想的にも見える。

 

その人物はロゥリィ・マーキュリー、そしてそこにさらにもう一人空間がいきなり裂け八雲紫が現れた。

紫は片手に酒の入ったビンを持ちもう片方の手には二つのグラスを持ちロゥリィの前の椅子に腰かけた。

 

 

 

 

「ひとりで月見酒かしら、ロゥリィ」

 

「そんなんじゃないわよぉ、眠れないの貴女ならわかるでしょぉ」

 

確かにこんな状況じゃ眠ることはできないでしょうね。特にロゥリィは。私もさっきのボーゼスによる水(酒)攻めから漸く落ち着けたことだしこっちで眠ろうと思ったけど随分とうるさくてそれどころじゃないしね。

 

「そうね、なら少し付き合いなさいよ。ほら」

 

そういいグラスに酒をつぎ指で弾きテーブルを滑らせてロゥリィの元に向かわせる。これ意外と難しいのよ。

 

「それわたしのセリフじゃない、まぁいいけど……変なもんいれてないでしょうねぇ」

 

それを聞き私は扇子で口元を隠して流し目でロゥリィを見て

 

「………なにもいれてないわよ~」

 

ロゥリィはそれを聞いて「そう」と短くいい躊躇いなくグラスに口をつけた。おかしいわね私のプランだと怪しさを出して何も入っていないのに警戒する様を見物しながら一杯やろうと思ったのだけど。

 

「ふふ、なにぃ?すんなり飲んだのがそんなに珍しいのかしらぁ。ふふふ、貴女がそうやって口元を隠すときは大体相手に深く考えさせてそれを楽しんでるときよ」

 

むむむ、そこに気がつくとは……なかなかやるじゃない。

 

「随分とよく見てるじゃない、なにそんなに私のことが気になってたの?」

 

「そんなんじゃないわよ。貴女とは長い付き合いだから嫌でも分かるだけよぉ」

 

確かにロゥリィとは長い付き合いね。亜神ってことが一番大きいんだろうけどここまで長く生きている人物はほぼいない。亜神は1000歳で肉体を捨てて神になる……1000ねぇ。

 

「そうね、貴女とは今みたいになる前からの付き合いだものね。それにしてもあと約40年ね」

 

「あら~、なぁに寂しいのかしら?貴女が?そんな柄じゃないでしょ」

 

寂しい、それも少しあるのかもしれない。自分と関わりが深い人物がヒトという肉体を捨ててその先に行ってしまう。何となく、何処と無く寂しく思っているのかも。

 

「そうね、少しだけ寂しいのかもしれないわね」

 

「……なによぉ。貴女がそんなんじゃなんだか調子狂うじゃない」

 

 

「ふふ、こんなこと素面じゃ言えないわよ。ましてや周りには誰じゃいる状況じゃなおさらね。今はみんな寝てるし私たちだけだから言えるのよ。それでロゥリィあなた一体なんの神になる気なの」

 

ロゥリィの頬の赤みが少しだけ濃くなったように見えるけど気のせいだろうか。私も随分と口が軽くなってしまっているようね。考えると顔が少し熱を持っているのを感じる。

 

「そうねぇ何にしようかしら。まだ決めてないわよ、ただそんな風に思ってるなら……そうね少しくらいなら貴女に会いに行ってあげてもいいわよ。むしろ姿形は思いのままなんだから貴女よりも美人なわたしになって見下してあげるわよぉ」

 

「そぉ、なら私は……今回はここでお開きかしらね」

 

寝ていた人物が一人目を覚ましたようだ。ロゥリィも気づきそちらを見ている。

目を覚ましたのは伊丹だったようだ。ロゥリィに手招きされ私たちの側にやって来た伊丹。

 

「紫にロゥリィか、起きてたんだな。それにしても惜しいよな」

 

「なにがぁ?」

 

「いや紫の方はいいとして、ロゥリィは亜神だろ。肉体の年齢が固定されてるってことは二十代のロゥリィの姿が拝めないってことは惜しいなって」

 

その私はいいとしてってどういう意味でなのか少し気になるけどまあいいわ。そうねぇ、二十代のロゥリィね。

 

「期待しても大して変わらないかもしれないわよ。そのままぺったんこでね」

 

ロゥリィはキッと睨んでくるがすぐに話題を変えて伊丹にあることを訪ねはじめた。

 

「それよりも、この近くで誰か戦ってるでしょ。おかげで全然眠れないのよぉ」

 

伊丹はなんで分かるのか一瞬驚いていたがイタリカでのことを思い出したらしくすぐに解決したらしい。

そんな生殺し状態のロゥリィの横に外に繋がるスキマを開く。

 

「それならほら、行ってきなさいよ。ただ静かにね他が起きるわよ」

 

そういって別のスキマから取り寄せたハルバードを投げ渡す。渡してあげるとゆっくりとした足取りでスキマに消えていった。

 

ロゥリィがいなくなって空いた場所に今度は伊丹が腰かける。

 

「ねえ、伊丹。梨沙とは結局のところどうなの」

 

「あー、それは……俺が特地に行ってるってこともあるしいつトラブルが起きるかもわかったもんじゃないしな。まあ何かあったとしても保険があるから梨沙は平気だろ」

 

うーん、そうじゃないのよねぇ。確かにこれは梨沙のことを思っているのかもしれないけど好きとは別の何かしら。梨沙の本当の気持ちに気がつくのはいつになることやら。これは少しからかっても問題ないでしょ。

 

「そうなの、なら今はフリーってことね」

 

そういいテーブルをつたって伊丹の膝の上まで行き体を密着させる。伊丹は突然のことにかなり驚いているようす。

 

「ふふ、私もロゥリィの気に当てられたみたい。だからいいでしょ伊丹、平気よ少しくらいなら」

 

できるだけ体を密着させ上目遣いで囁くように、さらに伊丹の手を私の腰のあたりに持っていかせる。

 

「んっ…周りに言いふらしたりするようなことでもないし、一回くらい梨沙も許してくれるわよ」

 

伊丹はなんというかもう色々限界が近いように見える。

 

「だから…目、閉じて私に身をまかせて」

 

そういい怪しく妖艶に笑いかける。伊丹は瞳をゆっくりと閉じていき完全に閉じると思ったその時突然、バンッという破裂音のようなものと携帯の着信音が辺りに響きわたった。

この事で伊丹は正気を取り戻したようだ。

 

「あ、ああほら!携帯!って紫は知ってるか。いや~誰からかな~!」

 

「はぁ…全くもっと静かにできないものかしらね。ロゥリィも外の連中も。伊丹、私も行ってくるわね。それじゃ、続きはまた今度♪」

 

うーん、あと少しだったのだけど良いところで邪魔が入ってしまった。あとは伊丹が目を閉じて私がなにもしてこないことに不思議に思って目を開けた伊丹を前に残念でした、とネタばらししてから梨沙のことをもっと考えてあげなさいとか一言いってからロゥリィの方にいきたかったのだけどうまくいかないものね。

 

もうどうしようもないからさっさとロゥリィのとこ行きましょ。

 

(にしてもあと少しだったわね。惜しい)

 

(ヤバかった、あと少し遅かったら完全にヤられてたな…)

 

伊丹がそう思っているとは知らないまま紫はスキマに消えていくのだった。伊丹は少しだけ紫に注意しようと心に刻み込むことにした。

 

 

 

 

場所は移り旅館の庭、私が来たときにはすでにそこは地獄と化していた。綺麗に手入れされていた庭は赤く染まってぼろぼろ澄んでいた池も人だった物が浮かび赤く濁っている。

 

それをした張本人は未だ銃弾が飛び交うなか宙を舞い敵を切り裂いている。

パッと見たとこ死神ロゥリィと絶対に無謀な戦いをしている連中は黒人、白人人種はバラバラ所属部隊も別々。

完全に鉢合わせてさらにそこに死神が追加され正真正銘の地獄になっているようす。

 

縁側に立っているだけの私には関係ないけど。

 

そう思いぼーっと眺めていると私に気がついたどこかの部隊の一人がこちらに銃口を向ける。いや、私じゃなくてあっちを狙いなさいよ。余所見なんかしてると、あっ…

 

こちらに注意を向けていた彼はうしろから急接近してきたロゥリィに呆気なく切り伏せられてしまった。そしてロゥリィは私の横に降り立つ。

 

「あら、貴女も来たのねぇ」

 

「もっと静かにやりなさいよ、あと私の側に来ないでくれる?近くにいると━━!」

 

ロゥリィに向かって放たれた、というよりは私たちに向かって放たれた弾丸をスキマを使い撃ってきた連中にそっくりそのまま返す。

いくら特殊部隊と言えどまさか返ってくるとは予想していなかったようで数人が蜂の巣になった。

 

予想できても避けれるのは私かロゥリィぐらいのものだろうけど。

 

「ほら、さっさと残りもやって来なさいよ」

 

「わかってるわよそんなことぉ」

 

ロゥリィは再度跳躍し特殊部隊のほうに戻っていった。そのあとはまあ変わることのないロゥリィ無双で幕を閉じた。

私はというと時折飛んでくる弾丸、ロゥリィが弾いて跳弾したもの流れ弾をスキマで返すことだけ。

 

そうして辺りが静かになった頃伊丹たちがやって来てこの惨状に驚いている。旅館だった場所が地獄絵図になってれば誰でも驚く。

 

ただそこは流石自衛隊というべきかもう持ち主のいなくなった銃を拾いすぐにここを立ち去るべきと判断し行動に移している。

私もそうしたいところだけどいい加減余韻に浸ってるやつをどうにかしましょう言いたいことも出てきたことだし。

 

「ロゥリィ、ちょっとこっち来なさい」

 

「ちょっと!なにするのよぉ!」

 

首根っこを掴み引きずっていく。わーわーいっているが無視してつれていく。

 

「そうだ伊丹丁度いいからあなたも来なさい」

 

伊丹はいまいちわかっていないがしっかりとついてきている。

 

そしてやって来たのは旅館の一室に備え付けてある風呂場。旅館ということもあって檜でできている。この風呂場にロゥリィ、伊丹そして私がいる訳だが伊丹は私の後ろにロゥリィとは向き合う形になっている。

 

「さて、ロゥリィ一つ尋ねるけど何発当たったの?」

 

「なっ!ロゥリィ撃たれたのか!?」

 

「平気よぉ、全部避けたし」

 

それを聞き伊丹はひと安心しているが私にはわかってしまう。

 

「そう全部避けたのね……じゃあこれはなに」

 

そういうと同時に返り血で濡れた浴衣を剥ぎ取る。

 

「紫!なにしてんだ、!?」

 

浴衣を脱がせるとそこに現れたのはジュクジュクと音をたてて再生真っ最中の傷。伊丹は信じられないというように見ている。

ロゥリィは何か言おうとしていたがそんな暇を与えることなく熱めのお湯ぶっかけ血を洗い流す、お仕置きも兼ねて手荒に。

 

「ちょ!ちょっとぉ!もっと優しくなさいよ!傷にしみる!」

 

「うるさいわよ!もうちょっと避ける努力をしなさいよ!あんたはその体だから大体はゴリ押し戦法しかしないんだから。伊丹、ロゥリィたち亜神てのはね死なないんじゃないのよ。死ねないの、これは呪いってレベルの物じゃないの。バラバラになっても意識があり続けるのを想像してみなさい、最悪でしょ」

 

 

伊丹はその光景を想像したのか青ざめている。それからロゥリィのこともざっと洗い終わり旅館をあとにする。その時伊丹が支給された資金とにらめっこしていたがお詫びとして置いていくことにしたらしい。旅館を後にしてすこし行ったところにバンが止まっていたので警戒して近づいてみればもう存在していない特殊部隊の仲間だったらしい。この人物にレレイが魔法をかけ眠らせて無力化しバンはありがたく頂戴して足として使っている。

 

そして今はパーキングエリアですこし休憩中。

 

レレイ、テュカ、ロゥリィは車外に出て飲み物と食べ物を買いにいっている。私は別に行く必要ないだろうから車内にいる。

 

「それで、誰が好み?……容姿はエルフの娘よね、性格的には黒ゴス、保護欲がそそられるのは魔法使いの娘」

 

「大変よくわかってらっしゃる」

 

「何年付き合ってると思ってんのよ」

 

伊丹と梨沙がレレイたちを見ながらこんな会話をしていた。流石は梨沙、伊丹のことをよくわかっているようだ。

レレイたちはもう少しかかりそうね。

 

「それでこれからはどうするの?」

 

「今日はとりあえずこのまま車中泊かな。銀座戻ってもまた襲撃ありそうだし」

 

車中泊、車中泊かぁ。まあ野宿よりはいいだろうけど間違いなく体痛めるでしょうね。それなら━━

 

「ねえ、それなら一番安全な場所に行ってみない?広さも設備も十分に揃ってる襲撃されることも絶対にない場所よ」

 

「ん?そんな場所あるのか。それならそこに行くのがいいんだろうけど何処だ?」

 

「そうねぇ、レレイ達が戻ってからにしましょう」

 

そして買い出し組の帰りを待つこと数分、無事に戻ってきた。流石にあのあとですぐに増援ですとはならないだろうけど一度は襲撃があったから注意することに越したことはない。

 

「それでその安全な場所は何処なんだ?」

 

「説明するよりも行った方が速いし、さあドライバーさんそこ真っ直ぐお願いね」

 

そう富田に伝えると戸惑いながらもゆっくりと前進し始める。まあ無理もないでしょうね。私が示したほうには道はなく未だにパーキングエリアの駐車場内だし。伊丹も他のメンバーもいまいちわかっていないといった感じだが一番安全なことは保証できる。

 

ゆっくり進んでいる車の前にスキマを開く、開いたとき富田がブレーキを踏もうとしていたがそれを止めてそのまま進ませる。

 

 

そしてバンは伊丹たちを乗せたまま完全にスキマの中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




温泉でのちょっとした出来事

梨沙「なに考えてるかわからない魔法少女と天然自然系エルフ娘に900歳越えのロリBBA、さらにその年上4000歳の妖怪でBBA。ネタには尽きないね」

ロゥリィ「リサぁ~、その日本語どぉゆぅ意味ぃ?」

紫「梨沙ぁ~、少し向こうで話さないかしら?今の発言についてじっくりと」

梨沙「ハッ!?」

この後、梨沙を見たものはいなかった……何てことはなくいたって普通に戻ってきたのだった。

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