防御寄りな個性の少年の話   作:リリィ・ロストマン

14 / 15

 9000字越えた ホワイ?
 とりあえず大河の闇落ちは回避する方向に落ち着きました
 シリアスハキライダァー デモサケテハトオレナーイ
 心操君はいません 常に大河視点だからしょうがないね!



神野決戦

 

 

 その日の夜。爆豪救出に赴く為に集まったのは、轟、切島、緑谷、八百万、俺の5人だ。

 

 「しつこいようで申し訳ないけど、単独行動はしないこと。何か思い付いたときは、必ずみんなに相談すること。いいな?」

 

 「分かってるよ!」

 

 「ああ。俺達はまだヒーローの卵だ。なるべく目立たないように、自分が出来ることをやる」

 

 「よろしいですか緑谷さん?正直、私は貴方が1番心配ですわ」

 

 「うっ・・・気を付けます・・・」

 

 名指しで注意を受け萎縮する緑谷を横目で流しつつ、俺達は病院の出口へ向かう。そこに、俺達の行く手を阻むように立つ男がいた。

 

 「・・・飯田か・・・」

 

 立っていたのは、自分達の出る幕ではないと、救出に反対していた飯田だった。

 

 「・・・なぜ・・・よりにもよって君達なんだ!俺の蛮行を、命懸けで止めてくれた君達が・・・!!」

 

 肩を震わせて俯きながら、悔しいような、悲しいような、様々な感情が入り交じった言葉を吐く。

 何かを言おうとする緑谷を退け、俺は口を開いた。

 

 「飯田。お前がなんと言おうと、俺達は行くぞ」

 

 「・・・っ!」

 

 感情の昂り。俺の発言を受けて心を抑えられなくなった飯田の拳が、俺の左頬を打ち抜いた。

 俺は少しよろけながらも、決して飯田から目を離すことはしなかった。

 

 「お前の気持ちはよくわかるよ。俺も、『大切なものを失ったことがある』からな。怖いんだろ、失うのが」

 

 「・・・そうだよ。俺は怖いんだ!病院で目を覚まさない緑谷君の姿を見て、床に臥せる兄の姿を重ねた!もし、君達がそうなってしまったら、俺は・・・!!」

 

 「だよな。でも、だからこそ俺は今ここにいる」

 

 飯田を真っ直ぐに見つめ、俺は自分の想いを告げる。

 

 「俺は、大切な人を目の前で失って、心が壊れかけた。今は立ち直ったけど、また同じことがあったら、俺はたぶんもう耐えられない」

 

 後ろの空気が変わったのを感じた。緑谷、飯田以外の3人は、俺のこの話を今はじめて聞いたのだから無理もない。

 

 「だからこそ、いざという時に救けられるように、俺はついていくことを決めた。今捕まってる爆豪だけじゃなく、全員が無事に帰ってこれるようにな」

 

 「・・・それでも俺は、君達が行くことに納得は出来ない・・・!」

 

 「それも分かってる。だから、あとは自分の心に従えばいい。お前は、どうしたいんだ?」

 

 「・・・俺は、出来ることなら君達を止めたい。だが、それが叶わぬのなら、君達と共に行こう」

 

 顔を上げた飯田の目は、決意に充ちていた。いざとなったら、殴ってでも止める、そんな意志が見てとれた。

 

 「分かった。もし後ろの男共が暴走しそうな時は、俺も手伝うから全力で止めてくれ」

 

 「暴走なんかしねぇよ!」

 

 「俺達は、やれることをやるだけだ」

 

 「うん。ヒーローの卵として、プロの邪魔をしないようにしつつ、自分達が出来ることを考えよう!」

 

 「そうですわね。出来る範囲で、出来る限りのことを行いましょう」

 

 それぞれが、自分の想いを告げる。飯田も、それをしっかり受け取ったようだった。

 こうして、6人になった俺達は新幹線で受信機の示す場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 受信機に従い神野区に着いた俺達は、まず激安の殿堂ドン・◯ホーテに入り買い物を終えた。

 どうやら雄英体育祭の宣伝効果は凄まじいらしく、道行くあらゆる人に声を掛けられる現状を打破するため、変装することにしたのだ。

 

 緑谷は893の下っ端のような風貌に、飯田は夜の店の呼び込み、八百万、轟はまんまキャバ嬢とホスト、切島はハードコアでロックな感じに仕上がった。

 

 「これならぱっと見じゃわかんねーだろ」

 

 「お前は変わりすぎて逆にやべーやつだぞ」

 

 切島に突っ込まれる。俺は全身を黒のスーツで統一しサングラスをかけている。鏡も見たがどこをどう見てもウィル・ス◯スが演じる某エージェントである。ぶっちゃけ職務質問をされてもおかしくない仕上がりだった。

 

 「さて、んじゃ改めて行きますか」

 

 変装を終え、人の目を盗むようにして、受信機の示す目的地へと向かった。

 

 

 

 

 

 途中酔っ払いに絡まれつつも、なんとか目的地に辿り着いた。そこは、一見何の変哲もないビルだった。

 

 「中の様子を知りてぇな」

 

 「あそこに窓がありますわ!」

 

 八百万に促されて見ると、2階に当たる部分に小窓があった。中は暗いが、切島が暗視スコープを用意していたため、覗くことが出来た。

 

 「・・・っ!!」

 

 飯田の肩に乗って中を見た切島が、驚き息を飲むのが聞こえた。

 

 「・・・緑谷、あれ見ろ!」

 

 そして、同じように俺の肩に乗っていた緑谷にスコープを手渡した。

 

 「・・・っ!あれは・・・脳無!?しかも、1体だけじゃない・・・!!」

 

 「保管庫、ってことか!?」

 

 「脳無って、脳ミソがむき出しの敵のことか!?」

 

 「えぇ、そうですわ!林間合宿で私を襲った敵・・・それが複数体だなんて・・・!!」

 

 切島、緑谷をおろし、現状を確認する。

 

 「見たところここには脳無しかいない・・・でも、あれが暴れだしたら僕らじゃ止められない・・・!!」

 

 「爆豪はいないか・・・どうする!?」

 

 「この受信機以外に手がかりはない。今は、敵の動きを見るべきだと思う!」

 

 「けど!その間に爆豪がやられちまったら!!」

 

 「待て、みんな隠れろ!!」

 

 ビルの前に巨大な人影が見える。それが踵を上げていることに気付き、俺はみんなに隠れるよう指示を出した。

 その踵は、俺達が見た脳無の保管庫であるビルに、真っ直ぐに振り下ろされた。

 けたたましい煙が周囲を包む。煙が晴れたそこには、今しがた踵落としを決めたマウントレディをはじめ、有名なヒーローが所狭しと集結していた。

 

 「ヒーローがここにいるってことは・・・!」

 

 「爆豪の方にも救出に行っているはずだ!」

 

 「オールマイトはここにはいない・・・ってことは、かっちゃんの方にいるんだ!」

 

 「オールマイトがいらっしゃるなら、安心ですわね!」

 

 「流石はプロだ!やはり俺達の出る幕などなかった!速やかに立ち去ろう!」

 

 他の5人がこの場を去ろうとする中、俺は溢れ出る不安を拭えずにいた。

 

 (おかしい・・・敵にとって、この脳無ってのは貴重な戦力のはず。その保管場所に、1人の監視もいないなんて)

 

 「畑中くん・・・?どうしたの?」

 

 「いや・・・気になることが、あってな・・・」

 

 俺が動き出さないことに緑谷が違和感を覚える。遅れて気付いた4人が立ち止まった時、俺が抱いていた不安が現実となった。

 

 まず聞こえてきたのは、底冷えするように低く、不気味な声と足音。そして次に聞こえたのは、辺りを吹き飛ばすほどの衝撃と、ヒーロー達の悲鳴だった。

 

 (・・・・・・!!)

 

 俺は、今にも飛び出そうな声を必死に抑えていた。

 

 (っ!ダメだ!今声を出したら、みんなが・・・っ!耐えろ、耐えろ!!)

 

 その男の声、口調、行動の全てから、途方もない悪意が、根元的な恐怖が感じられる。それは、俺の心に刻み込まれた絶望を、嫌が応にも思い出させた。

 

 (みんなだって、必死で、耐えてんだ!耐えろ、耐えるんだ俺!!)

 

 他の5人も、声を出さないことに全力を尽くしている。もし居場所がばれれば成す術なく殺される。そう思わせるだけの狂気を、殺気を、男は放っていた。

 事実、先程から戦闘音は聞こえない。あれだけいたヒーローが、最初の一撃で全員やられてしまったということだろう。

 

 「君のは、いらないな」

 

 無慈悲な声と共に、更なる衝撃音が聞こえた。生き残っていた人に、とどめを刺したのだろうか。

 俺の脳内は、さっきからずっとトラウマをループ再生している。

 

 (っああ!ダメだ!耐えろ、耐えろ!耐えろ!!)

 

 俺の心は限界が近かった。あと数秒もしたら耐えきれずに発狂してしまうだろう。

 そんな状態の俺の耳が捉えたのは、聞き覚えのある、人を馬鹿にしたような挑発的な声だった。

 

 「クセェ!んだこりゃぁ!?」

 

 (これは!爆豪の声か!)

 

 爆豪が生きていた。いや、生かされていたというべきかもしれないが、その事実が俺の発狂寸前の心を落ち着けてくれた。

 

 (まだ、生きてる!まだ、救けられる!!)

 

 俺がそう思ったように、緑谷達もそう思ったのだろう。今にも飛び出しそうになる3人を、飯田と八百万が必死に抑えていた。

 

 (くそっ!!『いざとなったら救ける』なんて、どの口がほざいてんだバカヤロウが!!)

 

 この状況で飛び出せば、待っているのは確実な死だ。飯田と八百万は、自分達も恐怖と戦うのでいっぱいいっぱいなはずなのに、緑谷達の飛び出しを止めることで、間接的に彼らを救けていた。

 

 その後どれ程の時間が経ったのか。何かがぶつかる音と衝撃波と共に、人々を心から安心させる、平和の象徴の声が聞こえた。

 

 「全てを返してもらうぞ!オールフォーワン!!」

 

 「また僕を殺すか?オールマイト!!」

 

 オールフォーワンと呼ばれた男とオールマイトの戦いが始まる。爆豪の救出に来たはずのオールマイトは、敵と実力が拮抗しているらしく応戦で手一杯のようだ。

 俺達は、ばれないようにその現場を覗き込み、状況を確認した。

 

 (オールマイトはあっちで手一杯、敵はあれ抜きで6人!爆豪はなんとか捌いてるけど、体力が切れたら捕まる!考えろ!!)

 

 爆豪も含めれば7人。俺達が全員無事に帰る方法などないかもしれない。それでも、万にひとつの可能性も逃さないために、頭をフル回転させる。

 

 「みんな!聞いてほしいことがあるんだ!」

 

 「緑谷君!?ダメだ!!この状況は危険すぎる!」

 

 「待て飯田!まずは聞いてからだ。緑谷、続けてくれ!」

 

 「うん。この方法なら、かっちゃんを救けつつ、僕らも戦線を離脱できる!」

 

 緑谷からの説明を受けて、飯田を除く全員が頷く。

 

 「飯田。賭けではあるけど勝算は高いと思う。どうする?」

 

 「確かに、成功すればすべてが好転する。・・・やろう!!」

 

 そして俺達は、緑谷の立てた作戦を決行した。

 飯田と緑谷が切島を抱え、2人の機動力と切島の硬化でまず壁をぶち抜く。そして、轟の大氷壁をジャンプ台のように使い、戦場の上空を横断する。

 オールフォーワンの妨害は、緑谷の予想通りオールマイトが止めてくれた。

 ここからが賭けだった。爆豪なら気付かないことは絶対にないが、素直に救助に応じるかどうか。

 

 「来い!!!!」

 

 切島の魂からの叫びに、爆豪が爆発による空中機動で応えた。敵は、せっかく拐った人質を取り返されたことに憤り、こちらを見向きもしなかった。

 こちらも緑谷の予想通りだ。その場に残った俺、轟、八百万の3人は、敵に気付かれないうちに戦線を離脱した。いや、するはずだった。

 俺は、見てしまった。崩れたビルの中に、逃げ遅れた女性がいることを。気付いたときには方向を変え、俺は女性がいるビルの方へ走っていた。

 

 なるべく敵に見つからないようにビルへ近付く。ふと戦場に目をやると、爆豪を付け狙っていた敵達はいなくなり、いつの間にかオールフォーワンとオールマイトだけになっていた。

 もう少しで女性の元に辿り着ける。そう思った直後、敵が女性に向けて衝撃波を放った。

 

 (まずい!!)

 

 個性による攻撃なら吸収できる。そう考えた俺は、形振り構わず女性の前に出て庇う。だが、その衝撃波が届くことはなかった。

 

 

 

 オールマイトが、その身を以て衝撃波を受け止めていた。

 

 

 

 巻き上げられた砂埃で遮られる視界。それが晴れた時に見たその光景は、にわかには信じられないものだった。

 

 

 

 オールマイトがいたはずのその場所に、長身痩躯の骸骨のような人間が立っていた。

 

 

 

 「・・・オール、マイト・・・?」

 

 コスチュームは同じ。つまり、あれは紛れもなくオールマイト本人。だがその見た目は、普段の筋骨隆々な姿とはかけ離れていた。

 

 「それがトゥルーフォーム、本当の君なんだろう!?」

 

 (あれが、本来の、姿・・・?)

 

 「例えどのような姿になろうとも、私は依然平和の象徴!その信念は一欠片とて奪えるものではない!!」

 

 力強く拳を握り、自ら平和の象徴を名乗る瘦躯の骸骨。やはりあれは、オールマイトの本来の姿のようだった。

 

 (そんな状態で、今にも倒れそうな姿で、どうして動けいていられるんだ・・・?緑谷もそうだった。例え自分がどうなろうと、人を救けることを躊躇わない。一体とうして・・・?)

 

 自分の命を優先してしまう俺には絶対に出来ないことを、緑谷は、オールマイトは平然とやってのける。なぜ。どうして。

 そして、さっきオールマイトが言っていた言葉が、ふと頭を過る。

 

 『例えどのような姿になろうとも、私は依然平和の象徴!!』

 

 (信念・・・そうか、そういうことなのか)

 

 「さあて、その姿で、後ろの2人を守りきれるかな?」

 

 「2人?・・・っ!畑中少年!?」

 

 オールマイトがこっちを振り返ると同時に、敵から禍々しい何かが伸びてくる。俺はとっさに女性を包むようにバリアを張った。

 

 「ほほう、これは珍しい個性だ!無効化、あるいは吸収のようだね!」

 

 「畑中少年!なぜここにいる!?」

 

 「緑谷達と一緒に来ました。それで、この女性が見えたので救けに来ました!」

 

 「緑谷少年といい、君達は無茶をするね!」

 

 無茶。そう言われても無理はない。一瞬でも判断を間違えれば、目の前の敵の手によって俺は屍に変わる。

 今までの俺なら、自分の命可愛さにただ立ち尽くしていたであろう場面。そのはずなのに、俺の体はさもそれが当たり前かのように動いた。

 

 「オールマイトに言われたくありません。その姿、大分前から無茶してたんじゃないんですか?」

 

 「僕を前にして談笑とは、いい度胸をしているなあ!!」

 

 オールフォーワンがさっきの衝撃波をまた放ってきたが、盾状にエネルギーを展開することで防いだ。

 

 「お返しだ!」

 

 出力30のエネルギーを投げる。個性を使って防御するような素振りを見せたが、まともに食らって後方へ吹っ飛んだ。

 

 「少年!許可のない個性の使用は違反だぞ!」

 

 「正当防衛です。とりあえず、この女性を安全な所まで避難させて戻ってきます!」

 

 「そのまま君も避難しなさい!後は、私に任せるんだ!!」

 

 「お断りします!!」

 

 呆気にとられるオールマイト。女性も、有り得ないものを見たかのように目を見開いている。

 

 (No.1ヒーロー、オールマイト。『平和の象徴』という信念に従い、ボロボロの姿で今なお人を救うために戦おうとする真のヒーロー!あなたがその信念を貫くというのなら、俺も自分の信念を貫く!!)

 

 「俺の信念は、「困っている人を全力で救ける」ことです!俺には、今のあなたが困っているように見える!だから、誰が何と言おうと、絶対に救けに来ます!!」

 

 言うが早いか、俺は女性を抱えて戦線を離脱した。避難所に着いて戦場に戻ろうとした時、他ならぬ救けた女性に声をかけられた。

 

 「救けてくれて、ありがとう」

 

 今まで、幾度となく俺の心を救い上げてくれた感謝の言葉。体の内側から、力がみなぎっていくような気がした。

 

 「こちらこそ、ありがとうございます!」

 

 それだけ言って、俺は戦場へと戻った。

 

 

 

 戦況は、好転しているように見えて膠着状態だった。様々なヒーローが集結しオールフォーワンを攻撃しているが、受け流しているのか防御しているのか、ダメージはほとんどないように見えた。

 

 「さて、少々鬱陶しくなってきたな。君らにはおとなしくしていてもらおう!」

 

 言うや否や、地面に向かって衝撃波を放つ。ぶつかって波紋状に広がった衝撃波によって、一部を除いてほぼ全員が吹き飛ばされた。

 

 残っているのは、オールマイトにエンデヴァー、ちっちゃいおじいちゃんと俺の4人だった。

 

 「おいそこの坊主。貴様雄英の生徒だな?」

 

 「おいおい、なんで卵がここにいんだ?」

 

 「平和の象徴が骸骨になったんで救けに来ました」

 

 「少年!私は避難しろと言ったはずだぞ!!」

 

 「君達はおしゃべりが好きだねえ!!」

 

 何度目かの衝撃波。どんな個性かは分からないが、個性でさえあれば俺は無力化できる。

 

 「おい小僧!ここは危ねぇから早く逃げろ!!」

 

 「こんな姿の平和の象徴を置いていけるわけないでしょう!?」

 

 「ふん、ガキの癖に口だけは一丁前だな!」

 

 「いかん、また来るぞ!」

 

 今度は衝撃波ではなく、拳から放たれた風圧が飛んできた。個性ではないため吸収できず、おじいちゃんとエンデヴァーが吹き飛んでいく。俺はオールマイトを庇うように前に立ち、エネルギーでバリアを張って耐えた。

 

 「ふう。なかなか厄介な子供だね。しかし平和の象徴も落ちたものだ!子供に守られているとは!!」

 

 「俺が守りたいから守ってるだけだ。それで落ちたってのは違うんじゃないのか?」

 

 「ハハハハハ!!随分と活きのいい子供だ!僕を前にして臆さず動ける事も称賛に値する!!」

 

 オールフォーワンは、手を叩きながら上機嫌で喋っている。

 

 「守ってくれたことは感謝する。だが少年!手遅れになる前に早く避難したまえ!!」

 

 「なら手遅れになる前にあいつをぶっ飛ばしてくださいよ!もしそれすら出来ないんなら、あなたが避難してください!!」

 

 「ハハハハハ!!平和の象徴に対してそこまで言えるとは!!君とは、仲良くなれそうだ!」

 

 「慎んでお断り申し上げます!」

 

 災害撒き散らすような奴と仲良くなんて出来るか!命がいくつあっても足らんわ!!

 

 「畑中少年!ふざけている場合ではないぞ!?」

 

 「今の隙に殴れたでしょ!?好きでふざけてる訳じゃないですよ!?」

 

 「おやおや、騙し討ちをするつもりだったのかい?随分と卑怯な手を使うんだね?」

 

 「この短時間で俺の個性を見破ってくるような奴に正面から戦う程自惚れてねぇよ!!」

 

 「ハハハ!!観察眼と判断力も上々ときた!!僕に歯向かっていなければ、さぞいいヒーローになれただろうね!!」

 

 膨れ上がった右手を使って殴りかかってくる。俺は咄嗟にオールマイトを抱え、横っ飛びの高速移動で攻撃範囲から逃げ出した。

 

 「いい判断だ!知れば知るほど君が欲しくなってくるよ!!今からでも遅くはない!!僕の仲間にならないか!?」

 

 「さっき断っただろうが!それに、今から捕まる奴の仲間になんかならねぇよ!!」

 

 「捕まる?それは僕のことを言っているのかい!?」

 

 今度は拳による衝撃波だ。範囲が広すぎて避けられない為、エネルギーでガードする。

 

 「そう言ったつもりだよ!!」

 

 「少年!!それはあまりにも危険すぎるぞ!!」

 

 「誰も1人でやるなんて言ってないですよオールマイト!!」

 

 少しだけ語気を強め、俺はオールマイトに向かって叫んだ。

 

 「俺はあくまで、あなたを救けに来ただけだ!!あいつを倒しに来たわけじゃないですよ!!」

 

 (あいつを倒すのは俺じゃない!平和の象徴であるあなただ!!)

 

 言葉の裏に込めた想い。それが伝わったのか、さっきまで俺の心配ばかりしていた瞳に、強い光が宿った。

 

 「・・・そうだな。奴を倒すのは、平和の象徴である私の役目だ!!」

 

 「頬がこけ、痩せ細ったその体で、尚も心は折れず、か。僕も油断はしない!僕が扱える最大、最高の個性たちで、君を殴る!!」

 

 オールフォーワンの左腕が、さっきよりも激しく肥大化する。それに応えるように、オールマイトの右腕だけが筋骨粒々の姿に戻る。

 

 「いくぞ!!オールフォーワン!!」

 

 決意みなぎる掛け声と共に、オールマイトが目の前の敵に向かってまっすぐに飛び出す。それに合わせるように、オールフォーワンも突っ込んでくる。

 と見せかけて、オールフォーワンは空中で方向転換し、俺の方に突っ込んできた。

 

 「まずは、僕の手を煩わせてくれた君からだ!!」

 

 「貴様あぁぁぁぁ!!!!」

 

 オールマイトの魂からの叫びが聞こえた。

 

 (どこまでも敵。人の嫌がることを徹底して行うってか。けど)

 

 その動きを読んでいた俺は、あらかじめ右手に残り全てのエネルギーを集めていた。

 

 「やられて!たまるかぁぁぁぁ!!!!」

 

 反撃など微塵も考えていなかったのだろう。オールフォーワンは攻撃を止められず、俺の全霊のエネルギーによる攻撃を左手で受け体勢を崩した。

 そして、その隙をオールマイトは逃さない。

 

 「UNITED!!」

 

 左足を強く、強く踏み出し。

 

 「STATES OF!!!!」

 

 腰を捻り、拳を加速させ。

 

 「SMAAAAAAAAASH!!!!!! 」

 

 全身全霊の拳を、オールフォーワンの顔面に叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 その圧倒的なパワーは、地面を割るだけに留まらず、周囲に暴風を撒き散らす。もはや自然災害と呼んでも過言はないレベルだった。

 エネルギーを全て使いきっていた俺は、その暴風に成す術なく吹き飛ばされた。

 

 (あっ、死ぬかも)

 

 宙を飛ぶ自分の体の勢いを肌で感じ、このままビル等にぶつかったらただの怪我では済まないなと思いつつ、既に自分ではどうにも出来ないため、せめて頭だけはガードして衝撃に備える。

 そうして俺に訪れた衝撃は、とてもビル等にぶつかったとは思えない、ひどく柔らかいものだった。

 

 「まったく。なんで俺の周りにゃ、こうも後先考えずに動くやつが多いんだ?」

 

 聞こえたのはしゃがれた老人の声。

 

 「すみません。死にたくなかったんで全部出し切りました」

 

 「見てたから知っとる。あれに関してだけ言えばお前さんは悪くない。むしろよく反応できたな?」

 

 「ちょっとだけ敵と会話しまして。あいつならああいうことするだろうなって思ってました」

 

 「読んでたってのか。だが、そもそも無茶せずに逃げてりゃああはならなかったぞ小僧!」

 

 「No.1ヒーローが無茶してたんで、なら俺もいいかなって思いました」

 

 あんな痩せ細った背中見たらそりゃ無茶もしますよ。見た目完全に要救助者だったし。

 

 「ったく、緑谷といいお前さんといい、真似しなくていいとこばかり真似しおって」

 

 緑谷を知ってる?ここにいるってことはヒーローだよな?でも俺は見たことない。ってなると・・・。

 

 「グラントリノですか?」

 

 「なんだ小僧、俺のこと知っとるのか」

 

 「雄英生徒と外部のヒーローとの接点って職場体験位しかなさそうだったので。推論です」

 

 「最後のカウンターといい読みが鋭いな小僧。っと、長話してる場合じゃねえ。お前さんはここで待ってろ」

 

 そう言うと、グラントリノは周囲の状況の確認に行った。

 待ってろと言ったのは、ほぼ間違いなく警察の事情聴取があるからだろう。

 

 (怒られるだろうな。でも、後悔はしてない)

 

 あの女性に攻撃が来たとき、俺は自分のトラウマの事を忘れて動いていた。完全に乗り越えたのかはまだ分からないけど、今回の戦いとオールマイトのあり方を見て覚悟が決まった。

 

 「持てる全ての力で、困っている人を救ける!」

 

 今回みたいに、一か八かにならないように、もっと力をつけないといけない。時間は有限。より多くの人を救けられるように、有意義に時間を使っていこう!

 

 (・・・除籍されなければ、だけど・・・)

 

 『ヒーロー科編入は無かったことにする』。そんな無慈悲な台詞を事も無げに放つ相澤先生が頭を過った。

 

 

 





 大河は進化した!
 ・・・進化しました、はい ドウシテコウナッタノ?
 大河が女性に気づいたのは、日頃から人を救ける為によく周りを見てるから、ということにしましょう(懇願)
 あと、最初トラウマにやられそうになってた大河が持ち直したのは、単純に平和の象徴が来たことによる安心感からです ゲンキンナヤツダ
 次回は怒られ回になります 予定では()

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。